第68話 受験生の為に
やっとココ町に到着した。
先に盗賊の所に繋がれていた馬でひとっ走りしてくれた槍使いのお兄さんが騎士さんを連れてきてくれて、盗賊の後始末をを引き継いでもらった。
問題なのは、奴らに奪われたお金である。
持ち主に戻すにも、一旦騎士さん達が預かり、様々な事が解ってからでないと返還されないらしい。
それでは、入学金の支払い期限に間に合わずに、頑張ってきた人質だった三人の努力が無駄になってしまうので、ニック様からもらったあの小金貨五枚の出番とばかりに、
「とりあえず、金の事は一旦僕に任せて全員5日後の試験に集中しろ!」
と励まし、大怪我をして入院した人質の女の子の父親の入院費用も合わせて、脚長おじさんを決め込む事にした。
銀の拳の皆さんは、領都の近くで依頼があり、僕たちの宿が決まると、そちらに向かい旅立ってしまった。
別れ際に、シェリーさんが、
「サクッと殺してくるからねぇ~。」
と手を振っていたが、領都の大通りで「殺す」みたいなパワーワードは控えて欲しかった…これから1ヶ月近くはこの辺で生活しなければならないのに、早速ご近所のマダムにひそひそ話をされてしまった。
そんなこんながあり、なんとか宿屋で勉強を開始する事になった子供達だが、
まず男の子は、昔は裕福だったが例の次男坊の暴れている東の果ての町から逃げ出して、現在は違う町で鍛治屋を営む家の次男のディアス君と、
次は少し身なりの良い、田舎の村に今は住んでいるというシルビアちゃんに、
なんと、最後の一人は、僕たちが乗る予定にしていた乗り合い馬車で受験に来たドットの町近くの村の大工の娘、ミラちゃんという小柄なお嬢さんで、入院中のパパ、トンカさんは数日安静にしていれば大丈夫らしい。
しかし、ミラちゃんは自分だけ身内が助かった事に少し罪悪感を覚えてしまっているようだったが、ディアス君もシルビアちゃんも、
「それはとても幸運なことたから喜ぶべきだよ。」
と、自分たちの親戚や長年世話をしてくれたお婆さんの死を悲しみつつ、ミラちゃんのお父さんが生きていた事を喜んであげていた。
『優しい子達だ…』
今頃は騎士の方々が生き残った盗賊に尋問でも拷問でもして、奴らの悪事を暴き、殺された方の弔いや遺留品の回収もしてくれているし、三人の家族への連絡も、騎士団間の念話ネットワークとやらで、あらかたの話は伝わっているらしく、家族が早ければ一週間ちょっとで来るかも知れないので、三人にはトールと一緒に入学出来るようにあと5日、この宿屋にて全てを忘れて勉強に打ち込んで、少しでも良い報告が出来るようにして欲しい。
そして、僕はというと、三人の入学金とトンカさんの入院費用を用意する為にギルド銀行に来たのだが、残高がおかしい…小金貨五枚をブチ込んだ記憶はあるが、なぜあと少しで大金貨に手が届きそうな額になっているのだ?
ギルド銀行の職員さんに、これ合ってます? と額面を指さすと職員さんは、
「はい、特許料金が主で特におかしな入金も出金も有りませんので…」
と、言っているので問題はないのだろう。
とりあえずニック様に頂いた小金貨五枚を引き出し、マジックバッグにしまい、何故かソソクサと銀行を後にした。
悪いことはしていないし、怪しいお金でもないが、知らないうちに増えた分は、なぜか後ろめたい気がする…『自分の預けた分を出しただけ!』と心の中で繰り返しながら、宿屋にもどり、ホッと一息つくと、銀の拳の方々のオススメの冒険者がパーティーで借りる宿屋の作戦会議でもするような居間のテーブルでは、四人の受験生が勉強を教え合っている。
というか、トールの教える計算術に三人が、食いついているが、あと数日で覚えるのは難しいかも知れないが、トールは集落で年下の子供達に教えていただけあり教え方も上手であったので、要点だけを伝えて、点が取れるアドバイスをしていた。
これならば、四人揃っての合格も有ると安心して、僕は宿屋の近くの露店で勉強しながら食べられる物を中心に購入して、四人のサポート役にまわった。
そして、3日間勉強漬けの四人に、4日目にはリフレッシュ休暇を与えて、頭と体を休ませる事にした。
ミラちゃんパパのトンカさんのお見舞いをしてから、町の散策がてら教会まで歩き、合格祈願の祈りでも捧げて明日の試験本番に望もうと、町に繰り出した。
治癒院に到着し、トンカさんのお見舞いに病室に入ると、トンカさんはベッドで体を起こせるようになっていた。
ポーションでの応急処置で何とか命に別状がない状態になったが、失った血はすぐには戻らずあの時すぐに意識を失い眠り続けていたが、もう起き上がれる様になった事に安堵した僕は、ミラちゃんに、
「ほら、お父さんと話してきな」
と、ミラちゃんを送り出すとトンカさんに抱きつき泣いていた。
それから暫くは親子の時間を過ごしてもらい、簡単な自己紹介をした後に、トンカさんに凄く感謝された。
僕だけでは無くて、主に銀の拳の老師達のおかげだと伝えるが、
「それでも、ケン様に救って頂いた事には代わり有りません。
我が村の農家に知恵を授けて頂いただけでは無く、我ら親子まで…感謝致します聖人様。」
と頭を下げられた。
『えっ?何で知ってるの!』
と焦りながら、ザワザワする事情を知らない子供達の反応をよそに、僕は、
「あの~、どこかでお会いしましたっけ?」
と質問すると、トンカさんは、
「村に農業指導にきたマットさんというファーメル家の関係者の方からは絵姿を見せて頂きましたので…」
と答えてくれた…『あの自称弟子は何を布教しているんだろうか?』と呆れながらも、簡単な聖人としての紹介もする羽目になり、僕は、
「はい、聖人と言われてる神様に鞄をもらった田舎の何でも屋さんで、トールの師匠です。」
と言って、これ以上ややこしくなるのを恐れて、
「はい、とりあえず、
あまり長居すると、治癒院にも患者さんにも悪いからね。」
と言って、あれ以上トンカさんから新情報が出ても面倒臭いので、イソイソと治癒院をあとにした。
受験生の気を僕から反らす為に、あらかじめ予習した教会までの道の途中の喫茶店に入り、皆に町の若者に人気というナッツがゴロゴロ入った『木の実畑』という少し柔らかいクッキーとオレンジシロップを炭酸水で割ったオレンジのパチパチという飲み物を四人の前に並べた。
トールは既に炭酸の洗礼を受けているが、残りの受験生はどうか解らない…『フッフッフ、炭酸の刺激で先程の聖人の話を薄めるのだ。』と思っていると、シルビアちゃんが、
「ミラさん、冷たくて飲みやすいですがユックリ飲み込んで下さいまし。」
と、ミラちゃんにだけアドバイスをしていた。
『あら、シルビアちゃんはご存知だったか…』
と、少し残念に思っていたが、そんな事を吹き飛ばすぐらいにディアス君が1人で全員分大騒ぎしてくれて、
「ヤバい鼻に入った!痛い、痛い!」
と良いリアクションでシルビアちゃんに、
「もう、ディアス君止めてよ恥ずかしい…」
と世話を焼いて貰っていた。
何やら良い雰囲気の二人に僕を含めた残りの三人で、ニヨニヨしながら眺めつつ楽しいお茶の時間を過ごし、最後に明日の受験本番の成功を祈りに教会に向かった。
流石は領都の教会で、ドットの町の三倍近い大きさがあり、礼拝堂にも多くの方々が並んでいた。
トールぐらいの歳の子供もチラホラ見受けられて、
『皆、明日の試験に向けての神頼みだな…考える事は異世界でも同じか…』
と思って順番待ちの列に並んでいると、教会関係者の方々が、
「本当にお見えになられたぞ!」
などとザワザワしながらこちらを見ている。
もう、何かヤバい感じしかしないけど、どうしよう…
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