第69話 呼び出された先で…
軽い気持ちでお祈りに来た教会で、順番待ちの列に並ぶ僕を目指して、白い法衣を着た教会の偉い方が、足をガクガクさせながら一歩、また一歩とお付きのシスターさんや神官さんを従えて、近寄ってきた。
生まれたての小鹿のような足元ガクガクじいさんは、
「あ、あぁ、ああぁ!」
とゾンビみたいな鳴き声をあげながら、やっとの思いで僕の前に到着し、そのまま祈りの体制に入り、
「あぁ、天の御使いからのお告げは本当だった…
ああぁ、聖人様…この度は我らが教会によくぞお越しくださりました。」
と言って、そのまま神々への祈りを神官達と始めだした。
『止めろ!』とも言えない雰囲気と、周りの一般参拝の方々からも拝み始められ、僕が必死に薄めた聖人イメージを濃く塗り替えられた三人の受験生まで僕に祈りを捧げ始めてしまう。
あと、トールだけは、祈ろうとしたのをユックリと首を振りながら悲しそうな顔をしている僕を見て止めてくれた。
よく分からない祈りの歌が終わりに近付いたのか、やっと小さくなりホッとしていると、再び歌が盛り上がり、『いつ終わるんだよ!』とイライラしながら待つこと数分…体感では数十分の苦行を乗り切り、小鹿爺さんが立ち上がり、
「さぁ、聖人さま本殿の方に是非。」
と言って、あと数分並べばお祈りして帰れるはずの列から受験生四人共々連れ出されて、何だかゾロゾロと教会関係者に誘導されながら、礼拝堂の奥にある本殿と呼ばれる特別な儀式などをする建物へと連れてこられてしまった。
本殿の薄暗い建物の壁には、この世界の神々の石像が並び、先程の礼拝堂とは違う、なんだか有難い雰囲気が漂う空間だった。
そこで、白い法衣の爺さんが、
「改めまして、私、このココの町の教会を預かっております神官長のバランチヌスともうします。
じつは、数日前に私の夢枕に、大天使のアマノ様が現れまして…」
と話だした。
『あぁ、アマノ様は神様の見習いというか、教会では大天使様として認知されてるんだ。』
と思いながら神官長の話を聞いていると、ドットの町からケンと言う聖人が旅してきて、多分、魔法学校の受験前に神頼みに来ると思うから、来たら絶対本殿でしっかりと拝む様に伝えて欲しいという内容だったそうだ。
神官長は、
「大天使アマノ様のお言葉通り、数日前から鑑定が使える神官を配置して、ステータスがあからさまにおかしなケンと言う15歳の男性を探しておりましたが…まさか本当にお見えになって頂けるとは…」
と言いながらずっと僕の手をサスサスしている。
僕は、
「いやね、明日の試験の合格祈願に来たのですけど…」
と、先ずは受験生達の合格祈願を終わらせたいと伝えると、
神官長さんは、
「では、早速、合格祈願の祈りを、知識の女神ラミアンヌ様に捧げましょう。」
と言って、受験生の四人が神官さん達にエスコートされ、知識の女神様の石像の前に移動すると、スタンバイしていたシスターさんや、神官さんがアカペラで歌い始め、神官長が四人の受験生に何やら有難い水を頭からピシャッと木葉っぱで振りかけている。
すると、知識の女神像がウッスラ光り、その光が小さな粒となり受験生の四人に降り注ぐ。
神官長さんは、
「素晴らしい、ラミアンヌ様からの祝福ですぞ!」
と興奮している。
受験生四人はとても喜び、ミラちゃんにいたっては、泣きながら、
「私の名前はラミアンヌ様から頂いたんだけど、神様を呼び捨てにするみたいで悪いからってミラってなったんです。
そのラミアンヌ様に祝福して頂けるなんて幸せ過ぎます。」
とシルビアちゃんと抱きあっていた。
続いて、神官長さんがワクワクした笑顔で、
「では、続きまして聖人様は本殿中央でお祈りくださいまし。」
と言うと、先程とは違うハーモニーでシスターさんや神官さんが歌い始めた。
言われるままに祈りを捧げると、知っているフワッとした感覚の後に、真っ白い部屋の中にいた。
しかし、前回と違うのは石像の神様の配置のまま、ご本人さんがテーブルでお茶をしていたのだ。
正面には白い衣に小麦色の肌のサーファーみたいなイケてるおじ様と、黒い衣で色白の髭がチャームポイントのおじ様が座っている。
白い衣が太陽な神バーニス様で、黒い衣が月の神ノックス様だろう。
向かって右の手には、夫婦神である武の神ジルベスター様と知識の神ラミアンヌ様が、ラブラブでクッキーを「あ~ん。」ってやっていて、石像では凛々し狼獣人であるジルベスター様が蕩けそうな顔で、パクっとクッキーを食べて、ラミアンヌ様に、
「やだ、私の指までパクってしちゃダメだよぉ~」
って楽しんでいるのを、左手の白い猫獣人の運と商業の女神エミリーゼ様が、鬱陶しそうに、
「おい、折角、異世界からの貴重な人材がワザワザ神界にきてくれたのに惚気を見せつけて返すのかい?」
と注意をしている。
そして、アマノ様がエミリーゼ様に、
「まぁ、まぁ、仲良い事は良い事ですので…」
と宥めながら、エミリーゼ様にジョッキのビールっぽい物を出していた。
僕は誰に声をかけるか迷いながらも、
「あの~、お呼びと聞きまして参上いたしましたが…」
と言うと、
皆が一斉に喋り出して収集がつかない…すると、アマノ様が、
「皆さま方、ケン殿は一般人ですので一度に話しかけても理解が出来ないかと…」
と進言してくれてからは順番に話をして頂き、内容をまとめると、
この世界は比較的新しい世界で、文明も前回滅んだ魔法文明よりもまだまだ未熟なのだそうだ。
他の異世界と合併したりして、現在、文明のテコ入れの真っ最中なのだとか…
今の文明の前に進んだ魔法文明が有ったと言う事実にもびっくりだが、
神様を倒して自分たちが神様になろうとした魔法文明を神罰で滅ぼした話は更に驚きであった。
その後、獣人の世界と合併してジルベスター様とエミリーゼ様がこの世界の神様に参加して人族と獣人族が住むこの世界が出来たのだそうだ。
「そんなに世界って簡単に合併できるんですか?」
と僕が聞くとアマノ様が解りやすく説明してくれた。
日本で言うと、昔は鬼や妖怪が居る世界と繋がった時期があったりしたこともある様に、世界の周りには様々な世界があり、その世界同士を融合させると、お互い未開の土地に踏み込んだら知らない国が有ったみたいにナチュラルな遭遇をして人種や文明が混ざり発展していくのだそうだ。
日本は、結局妖怪との世界との繋がり斬り、他国の人間と言う名目で色々な世界と融合して今の地球になったそうだ。
外国にも、魔法やモンスター等の伝承があるのは、その世界の神様がファンタジー世界に舵をきるか試行錯誤をした結果らしい。
合併して成熟した世界では神様は神域から出なくなり人に世界を任せる様になるので、大概の世界の神話では神様は天に帰ってしまうと言う話である。
そして、この世界はまだまだ、どちらに向かうか悩んでいる最中で、しかも、融合で不具合が発生していて、気力を使う獣人族と魔力を使う人族のスキルの調整が難航しているそうだ。
ちなみにアマノ様は元の地球の知識と、この世界より進んだミスティルと言う世界の知識と、その世界の神様から授かった魔力ベースのスキルを様々持っている元勇者様なので、ゆくゆくはこの世界でも何とか身体強化と魔法が同時に使える様にする為の『見本』と『研究助手』として派遣されたらしい。
技術を司る神様が居ない為に時間はかかるが魔力で身体強化が出来る様にしたいのだとか…気力の操作は別のスキルとして確立して、全ての人は魔力を持つ様になる事を目指しているそうだ。
そして、僕はこの世界の神々に呼び出され、どんな大役を与えられるのかと内心ハラハラしながら、神々の座るテーブルで大好きなはずのコーヒーの味も感じないぐらいに緊張していた。
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