第70話 魔法学校入学試験へ

はぁ~、緊張して損した…


神々からお願いされたのは、「地上で色々作って欲しい。」というよく分からないモノであった。


こちらの神々は地上で一度でも作られた物であれば、神界で気軽に作れるらしく、アマノ様の指パッチンで出てきたコーヒーみたいに気軽に楽しめる様にする係りに任命されたのだ。


現在、アマノ様は地球とミスティルに関わりのある神様なので気軽に、コーヒーやビールに様々な美味しい料理も出して神々に提供しているそうで、簡単に言うと、


アマノ様を地上に下ろす訳には行かないから、この前のパスタみたいな物をもっと作ってくれ!という、激務に追われた神々のリフレッシュの為の商品の開発をメインにお願いされたのだ。


エミリーゼ様が、


「レモンハイボールは是非作ってくれ。

毎回アマノ君に作ってもらうのは気が引けるから…」


と言っていたので、酒作りに手を出さなければならないのは決定したが、有難いのは一回作れば良いみたいなので、工場は作らなくて大丈夫だろう。


昼と太陽の神様であるバーニス様からは、水魔法使いの一部から新たなる技に対しての感謝の祈りが届いたと喜んで頂き、夜と月の神様のノックス様からは、


「兄貴だけズルいが、ジャガイモを作る農夫達から兄と一緒に『農業神』へとして私にもの感謝の祈りが届いてるから我慢するよ。」


と、言われた。


知識の神様のラミアンヌ様からは、


「文字カルタで学校関係者から感謝の祈りが来てるから、この調子で、この世界の学力アップをお願いね。」


と言われ、


武の神様、ジルベスター様からは、


「見てたよ。

アマノ君に薦められて、ここ数日君の行動を見てたけど、最高に楽しかった…婚約おめでとう。」


と楽しそうに言われ、どこからどこまで見られていたのやら不安になった。


そして神々から、


「この世界には技能の神が居ないので、そなたの鞄やクリーンのスキルの様な手の込んだ物は無理だが、現存するスキルなどなら、成人と婚約のお祝いにプレゼントするよ。」


と言われたので、僕は


「米をお願いします。」


と、ダメ元で即答した。


神々はアマノ様に、「米って?」と聞くとアマノ様が指を鳴らすとテーブルにおむすびの乗った皿が現れ、


「これの原料の作物です。

こちらの世界に近い物は有りますが、まだ存在して居ない作物です。」


と答えると、ノックス様が、


「兄貴、近い種類が有るならば神力をあまり使わずに済むから生み出そうよ。」


と言って、バーニス様も、


「このおむすびって美味しいよね。

沢山神力使って生み出しても、生産出来る農家が居ないし諦めてたんだよ!」


と言いながら二人で種籾を作り出してくださった。


エミリーゼ様が、


「じゃあ、清酒も作れるか?」


と興奮していたが、アマノ様に、


「麹とか無いですからね口噛み酒ならば…」


と言われて、エミリーゼ様は何とも複雑な顔をしていた。


『幸運の女神が酒好きって…』


と僕が思っていると、エミリーゼ様に、


「失礼だな、神様にだって趣味嗜好があるよ!」


と、心を読まれ叱られてしまった。


結局『米』を頂いて大満足した僕に、神々は、


「これだけではアレだから正式なプレゼントはアマノ君と相談して考えておくから、とりあえずこっちの世界を楽しみつつ、色々作ってみてよ。」


と言って頂き、僕は本殿の真ん中へ戻ってきたのだった。


そして、やっぱりというかドットの町の教会の時の様に、全ての石像が眩く光り、その光が集まりドサリと種籾の入った袋が僕の前に現れた。


『やっぱり神界からの宅配方法はこれしか無いのかな?』


と思いながら、神官さん達が、「奇跡だ…」「祝福だ…」などと口にする中で、神官長さんは、再び小鹿の様にカタカタと膝を震わせて、


「生きてる間に神々全てからの祝福を受ける者を見ることが出来るとは…しかも神々からの贈り物を…有難や、有難や。」


と、種籾の袋まで拝みだした。


神官長さんに、


「神様達とアマノ様に面会してきました。

詳しい話はアレですが、この作物を作り、美味しい物を作るお役目を頂きましたので、数年掛かるかも知れませんが、いっぱい収穫出来たら神官長様にも送りますね。」


と言ってから教会を後にした。


ただ、神官長からは、「いつ頃までこちらに?」「どこの宿屋で?」などと散々聞かれて怖かったが、現在、受験生四人と宿屋に無事に帰って来れた。


四人は、知識の女神様に祝福された事が余程嬉しかったようで興奮しながら、最後のおさらいとばかりに勉強を始め、明日の為に早めに就寝し、そして迎えた運命の試験当日。


町の学研エリアで、受付の列に並ぶ四人を見送っていると、


「ケン兄ぃ!?」


と、懐かしい声に呼ばれた。


声の方を見ると、アルが、『魔法学校入学試験会場こちら』と書いた看板の下で数名の学生と案内役をしていた。


僕はアルに、


「おっ、学校のお手伝いかい?」


と聞くと、アルは、


「案内役は新二年生の恒例行事で全員参加ですよ。

…それよりケン兄ぃは?」


と聞かれ、マチ婆ちゃんの薬草担当の二代目チームの長男が土魔法が使えるから受験にきた事を告げて、ダント兄さんからの手紙を渡した。


アルは、


「兄さん、明日、時間取れる?」


と聞いてきたので、宿屋の場所を伝えて案内に戻らせた。


同級生達がアルに、「あれが噂の?」とか僕をチラチラ見て聞いていたが、どんな噂が流れ出いるのか少し気にはなる。


そして、四人の受験生は受付を済ませて学校の中に入って行った。


ここからは彼らの戦いで僕に出来る事は無いので、宿屋に戻り、前世で農家の爺さん達から聞いたり、実際に手伝った時の記憶を引っ張り出して、稲作の手順を紙に書き起こし始めた。


「トール達も今頃答案用紙に向かってペンを走らせているんだろうな…」


と窓の外に目をやり、見える筈もない四人の健闘を祈った。


そして、夕方頃に全てを終わらせた四人が帰還したが、皆それなりに手ごたえが有ったらしく満面の笑顔だったので大丈夫だろう。


受験の結果は明後日の昼に張り出されるらしく、後は信じて待つだけの時間となるので、四人に少し多めのお小遣いを渡して、明日は町を楽しむ様に伝えると、四人は試験の疲れからか、夕飯もそこそこに各自のベッドに向かい眠りについていた。


翌朝、四人は仲良く町に繰り出す為に準備をしていると、アルが宿屋を訪れて、


「ケン兄ぃ、じゃあ行くよ。」


と言って、何処に行くかも言わずに連れ出され、トールに、


「晩御飯までには帰るつもりだけど、悪いけど皆で先にたべておいて。」


と言って、小銀貨二枚をテーブルに置いて弟に連行されて行った。


凄く嫌な気配がするのは宿屋の玄関先に立派な馬車が止まり、ミリアローゼお嬢様が既に乗っており、僕たちが馬車に乗ると、お嬢様は、


「では、お祖父様のところまで宜しく。」


と御者さんに声をかけたのだ。


「あぁ、辺境伯様のお城に強制連行ですね…」


と呟きながら、僕は


『弟に売られた!お兄ちゃんショック!!』


と、哀しみの表情のまま、アルを恨めしそうに見つめると、アルは、


「ごめんよケン兄ぃ、前からココの町でケン兄ぃを見かけたら連れて来るように言われていたんだ。」


と、嫌な種明かしをされた。


ミリアローゼお嬢様からも、


「お祖父様がプリプリ怒ってました。

お父様はケン様のお力で男爵になれたのに、何故挨拶まわりにケン様を連れて来ないのか!って…」


との情報を聞いて、


『良かった…ニック様に怒ってるだけで僕に怒ってる訳じゃないみたいだ。』


と、ホッとしながら町の中心の貴族街にある城を目指して馬車は進んだ。

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