第71話 強制お茶会

弟に売られ辺境伯様のお城へとご招待され、ポルト辺境伯様と二人の奥様から、お茶菓子代わりに盗賊団討伐から先日の教会での一件を色々と聞かれ、その後は、サフィア奥様とカトリーヌ奥様から、少し前に有った辺境伯家主宰のパーティーでの美容を武器にした貴族の女性社会で覇権を握る為の作戦の進み具合の報告を受けた。


お二人の奥様は楽しそうに、


「今まで散々私たちを馬鹿にしていた中央の貴族の女性達が、私どもの髪や肌を見て悔しがること、悔しがること…」


などと話してくださったのだが、カトリーヌ様が、


「やはり、メイドに金を握らせて秘密を探ろうとした下品な令嬢が居りましたので、吊し上げてやりましたわ。」


と悪い笑みを浮かべ、


「あの令嬢の家の領地には何故か数が足りずにマダム・マチルダシリーズの石鹸が届かなくなるそうですわよ可哀想に…」


とサフィアさまがわざとらしく困り顔をしている。


『怖えぇぇぇぇ、お貴族怖えぇぇぇぇぇ!!』


とビビっている僕に、カトリーヌ様は、


「しかし、我が家のメイドは勿論、派閥の貴族から使用人に至るまでお金を掴ませて秘密を聞こうとしても無駄ですわ。

我々は既に一つの部隊で一つの家族です。

あの石鹸とあの髪の艶で団結した一枚岩…

今回の一件で他家の方々は横からちょっかいを出すとどうなるか理解したでしょう。」


というと、部屋の隅に控えている艶々ヘアーのメイドさん達が訓練された兵士の様にコクリと頷く。


どこの派閥にも属さない貴族の女性陣が、「辺境伯派閥に入りたい」と旦那や父親を説得して、いくつかの貴族がポルト辺境伯派閥に合流し、現在、鉄の掟と艶々の髪で繋がった女性チームが勢力を拡大しているらしい。


しかし、順調な事ばかりでもなく、今年の辺境伯家主宰のパーティーはニック・ファーメル男爵様の御披露目も兼ねていたらしいのだが、辺境伯家の次男坊のボーラス君が、体調不良を理由にパーティーに来なかったらしく対話を申し込んでも同じく体調を理由に断られているのだとか…弟が出世して拗ねまくっているのかな? 三十路は越えているだろうに…カッコ悪い。


あと、辺境伯様も奥様達みたいにガツンとヤらなきゃイジケ虫は目を覚まさないよ…などと思いつつ、僕の気持ちも知らないアルとミリアローゼお嬢様が、


「アル君、このお菓子美味し!」


とか


「ミリアお嬢様、こちらも美味しいですよ。」


などとイチャイチャと… ん?アルの奴この一年で頑張った様だな…アル先生からアル君になってるし、ミリアローゼお嬢様を愛称のミリアお嬢様と…


『アル、お兄ちゃん嬉しいよ。』


と思っていると、ミリアローゼお嬢様が、アルに


「最近、アル君ったらお休みの日は、エリックお兄様とばかり狩りに出掛けてしまわれて…」


と、ヤキモチを焼き始め、


僕は勿論、辺境伯様達もお茶を飲む手を止めて、二人のイチャイチャを楽しんでいた。


ポルト辺境伯様は、コホンと咳払いをしたのちに、


「折角の休みの日を潰してしまうのも悪いから、今日は二人で町を巡って来ると良い」


とデートを薦めて、使用人を呼び二人の為に馬車の手配をされていた。


アルは少し恥ずかしそうに、


「では、ケン兄ぃ、明日の合格発表会場で、僕達もまた会場案内で近くに居ると思うから。」


と言い、僕が、


「了解、では二人とも気を付けて楽しんできなよ。」


と、見送りの声をかけると、ミリアローゼお嬢様も、


「では、ケンお兄様もごきげんよう。」


と去って行った。


二人が出ていった後で、


ポルト辺境伯様が、


「お兄様か…これは確定かな?」


と呟くと、サフィア様も、


「ミリアローゼが兄のエリック以外にあれほど懐くなんてね。」


とお茶を一口飲んで、「ふぅ~」と何か考えているような声を出している。


カトリーヌ様まで、


「良いじゃないですか、どこかのカスみたいな貴族の子供より私は賛成ですわよ。」


と言っている。


いくら鈍感な僕でも解る、これは貴族の娘のミリアローゼ様をアルとくっ付けるかどうかの会議であると…しかし、僕には何の決定権も無いのだ。


すると辺境伯様は、


「相談なのだが、ケン様…

実は我が辺境伯領には、つい先日まで息子のニックが使っていた騎士爵の任命権が残っているのだが、アル先生を貴族にする気はないか?」


と相談された。


それならばアルもギリギリ貴族だし、ミリアローゼ様と婚約してもおかしくは無い…

何だかファーメル家の長男のエリックお兄様は、ニック様に恩義を感じている北部の大貴族のお嬢様との縁談がでていて、序でにミリアローゼお嬢様にも縁談が来ているらしく、アルお兄ちゃんとしても、弟の意中のお嬢様が誰かにかっ拐われる前に是非お願いしたい案件である。


しかし、なぜ僕に相談したのか解らずに、


「弟に相談して頂ければ良いと思いますが…なぜ私にその相談を?」


と聞くと、辺境伯様は、


「功績から見ても、聖人ケン様に爵位を与えるのが筋…それを差し置き、孫娘可愛さに弟のアル先生に爵位を与えるなど有ってはならぬ事…」


と言い出した。


『良かったぁぁぁぁぁ!アルお手柄だ!!

正直貴族なんて真っ平ごめんだよ。』


と安堵しながら、僕は朝の仕返しも兼ねて、弟を全力で辺境伯様に、


「ウチの集落にファーメル家の別荘が有りますので、あそこをミリアローゼお嬢様とアルの家にしてもらって、将来的に隣村とウチ集落の代官として頑張って頂く方向で、一つお願いします。

なかなかやり手の村長と団結力のある村人達も居ますので、将来安心かと…」


と、売り込んでおいた。


サフィア様が、


「それではケン様が何一つ…」


と僕の心配をするので、


「弟の出世が嬉しくない兄はおりません。

アルが憧れのお嬢様と結ばれるならば、私は何も望みません。」


と言っておいたのだが、辺境伯さまが、


「耳が痛いのう…」


と言って息子達の事を考えているみたいだったので、あえてスルーした。


貴族も、目立つ功績も特には要らないから、全部のややこしいお付き合いはアルに丸投げでミリアローゼお嬢様と仲良く乗り越えて欲しい。


カトリーヌ様が、


「では、ケン様にはどこかの令嬢との縁組みをして貴族に…」


と、恐ろしい提案をしてきたので、僕は慌てて、


「残念ながら私、既に婚約者がおりまして。」


と報告すると、辺境伯様が、


「なんと!?」


と驚き、部下の方に、


「ニックの奴に早急に報告を!

北部の貴族に呼ばれ、エリックの縁談ついでにケン様の縁談を探しておるやもしれん!!」


と怖い事を言っていた。


『あぁ、本当にシェリーさんとの出会いは運命だったのかもしれない…』


と、瞼の裏に映るシェリーさんに感謝していると、


サフィア様が、


「その女性とは?」


とやんわり聞いてくるので、僕は、


「その、男として恥ずかしいのですが、その女性を傷物に殴ってしまいましたので…」


と答えると、サフィア様もカトリーヌ様も、


「あら、まぁ!!」


と言ってニヤニヤしている。


何を想像されたかは知らないが、殴り飛ばして傷をつけたのだから傷物で間違えない…その後に質問責めにあったが、


「冒険者で死と隣り合わせで…色々ありまして…」


と含みを持たせて答えると、奥様方は、


「あらあら、まぁまぁ…」


と、嬉しそうにしていた。


辺境伯様は、


「して、今後はケン様はどのように?」


と聞かれたので、


「神々に美味しい食事を生み出す様にお願いされましたので、当面は授かった『米』という作物の栽培と、あとはお酒ですね…お酒好きの女神様が居られますので…」


と告げると、辺境伯様は、


「栽培と料理と酒… 」


とだけ呟いてなにやら考え込んでおられた。


そして、


「ケン様、まだこの町に居られる予定で?」


と言われたので、弟子を含めた四名の受験生の合格発表を見て、せめて入寮までは居ようと思っています。


と答えると、辺境伯様は、


「ならば、少し時間をくれぬか?」


とだけ言って、強制お茶会は終了した。

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