第72話 発表の結果
弟のアルを辺境伯様に差し出した翌朝、
四人の受験生を連れて合格発表がされている学校前の広場へと向かった。
四人は並んで手続きしたので続き番号らしく、全員で似たような番号を口ずさみながら、張り出された番号との照合作業に取りかかろうとしている。
成績優秀者の番号から順に張り出されているのだが、惜しくもトールはトップ通過ではなくて、二番手で合格となった。
トールの番号を見つけて喜ぶ他の三人に、
「凄いね。おめでとう!」
と言われても少し元気のないトールが、
「師匠、申し訳ありません…トップでは…」
と言っていたので、僕は、
「何言ってるんだトール、たった3ヶ月であの成績だから、十分な結果だよ。
ほら、他の三人も見てきてあげなよ。」
と言ってトールを三人の元に送り返した。
そのまま四人で、呪文の様に数字を唱え、シルビアちゃんが、
「ありましたわ!」
と言ったすぐあとにミラちゃんも、
「シルビアちゃんの3つ後ろに私もあった!
お父さんに報告できる…」
と、二人して抱き合い様々な感情の詰まった涙をながしていたのだが、しかし、そうなると焦る者が約一名…ディアス君だ。
「えっ…あれ?」
と青い顔になりながら、十名分ずつ書かれた受験番号の列を指でさし、首を上下しながら向こうへ進み、ガックリ肩を落として帰ってきてしまった。
『えっ、嘘…なんて声を掛けてあげよう…』
と僕が考えていると、トールは首を傾げながら、
「数日しかディアス君の勉強を見てませんが、落ちるとは思えません。」
と語っていた。
ミラちゃんも、
「見落としたかもしれませんからもう一度!」
と掲示板の端からチェックしていると、
シルビアちゃんが掲示板の横に追加で立っていた看板を見て、
「ディアス君…あなた受験番号を答案用紙に書いてないんじゃない?」
と言い出し、皆で看板を確認すると、
『受験番号を記入していない者がおり、答案用紙を確認したところ241番の者と思われます。
再度審査をする為に近くの学生に声をかけて、職員室まで来て下さい。』
と書いてあった。
それを見たディアス君が、
「241番があった…」
と膝から崩れ落ちたのだが、すぐに、
「職員室!」
と叫びキョロキョロしはじめた。
するとそこに、
「ケン兄ぃ。」
と、本日はミリアローゼお嬢様と一緒の班なのか、お嬢様を含めた数名の男女と共に、昨日あの後、辺境伯様からされた話を全く知らない弟がニコニコしながらやってきた。
僕は片手をあげて「よう!」と軽く挨拶をしながら、
『もうすぐ貴族の仲間入りだ…頑張れ…』
と、心の中でエールを送るが、弟達は、もう、それどころではない状態のディアス君が看板を指さしながら、
「スミマセン、職員室に行きたいのですが!」
と、すがりついてきて、挨拶もそこそこにディアス君を連れて行く任務についた。
しばらくするとアルが戻ってきて、
「彼は今、先生達から本当にあの答案の回答者か、問題を出されて答えていますので、もう少し待ってあげて下さい。」
と報告してくれて、トール達が近くのベンチで休む中、アルと二人っきりで、今後の事…というかミリアローゼお嬢様との事をやんわりと聞いてみた。
僕が、
「ミリアローゼお嬢様は順調かな?」
と聞くとアルは真っ赤な顔で、
「えっ、うん、最近はデートを…」
と、しどろもどろで答える弟に、僕は
「勉強の事だぞ?」
と、少しイジワルをしてやった。
アルは更に耳まで真っ赤になり湯気が出そうになりながらも、
「あぁ、勉強ね勉強、うん順調だよ。」
と必死で取り繕う弟に、
「嘘、付き合ってるんだろ?」
と言ってやると、アルは、
「はい、お兄様のエリック様にも大変仲良くさせて頂いております。」
と答えた。
しかし、アルはすぐに悲しそうな顔をして、
「しかし、僕達の仲を知る友人達からは、男爵令嬢と平民では…と…」
と口ごもる。
そんな弟に、僕は、
「大丈夫だよ、アルがミリアローゼお嬢様を守る騎士になれば良い。
いいかい?これはアルがファーメル家の騎士団に入れと言ってるんじゃないよ。
でもアルは騎士になる覚悟をしなければならない。
ミリアローゼお嬢様の為に…」
とだけ伝えると、弟はキョトンとしていたが、今の言葉の意味が解るのは少し後になるだろう。
そうこうしていると、遠くから
「合格しましたぁぁぁぁ!!」
と叫びましたながら走ってくるディアス君だが、足がもつれたのか盛大に転び、顔面から血を流しながらも満面の笑みで帰ってきた。
こっそりクリーンを掛けてあげて、ポーションをディアス君に渡すと、余程喉が乾いていたのか「ゴキュ、ゴキュ」と喉を鳴らして飲み干した後に、
「やりました!合格です。」
と改めて報告してくれた。
僕はトールに、
「ディアス君は少しそそっかしいみたいだから、トールは余裕があればフォローしてあげなよ。」
というと、トールはニヤニヤしながら、
「師匠、その役目は…ほら。」
と言って目で合図をするので目線の先を見ると、
シルビアちゃんがお姉ちゃんの様に、ディアス君の傷をチェックしており、
「はい、もう大丈夫、ケンさんに御礼を言いなさい!」
と叱っていた。
『おうおう、青春だなぁ』
と思っていると、弟のアルが
「では、事務室に案内しますね。
そこで入学金を収めると入学が認められ、あとは、制服の採寸と入寮手続きが終了すれば、来週から入寮が出来て、4月からは皆さんココ魔法学校の生徒ですよ。」
と言って四人に「ようこそ!」と、握手をしていた。
トールには自分で支払える様に、預かっていたブラッドベアなどの買い取り金を袋ごと返した。
するとトールは、
「師匠、俺この革袋、一生大切にします。」
と言ってくる。
僕が首を傾げていると、トールは、
「これのおかげで、皆に逢えたし、師匠の婚約者のシェリーさんにも…きっと幸運の革袋なんですよ。」
と、言って冒険者ギルドの支払い用の安い革製の巾着袋を大事そうに受け取るのだが、それを聞いて黙っていない男がいた。
アルだ…弟は僕の腕を掴み、
「ちょっとケン兄ぃ、婚約者って、僕、知らないんだけど?」
と詰め寄る。
僕も、
「いやね、急に決まって…いや間接をキメられて…」
と説明しようとしたが上手くはまとめられず、見かねたトールが助け船を出そうとしてくれたが、
「えっと、力任せに傷物にして婚約が成立しました。」
と報告した為に、助け船ごと沈没する羽目に…
シルビアちゃんにはなぜか汚物をみる様な視線までもらい、弟には、
「天国のアボットじいちゃんに謝って!」
と、叱られ、詳しい説明をするのに小一時間かかってしまった。
ディアス君が、
「なんでその流れで婚約に?」
と素朴な疑問を投げ掛けたのだが、そんなの簡単に説明できないよ…僕自身まだアヤフヤな部分と戦ってる最中なのだから…
シェリーさんの事は嫌いではない…しかし、知り合って数日の出来事…まだ、実感が薄いのだ。
しかし、僕は絞り出すように、
「運命なんてそんなもんさ。」
と言ってみたのだが、ミラちゃんには深く突き刺さったようで、ブンブンと風切り音がしそうな程に首を縦に振っていた。
少しバタバタしたが、入学手続きも終了して、あとは、人質経験者の三人のご家族が、ココ町に到着して三人を引き渡せば領都での用事が終了する。
三人も、あと数日で到着するであろうご家族に合格の報告が出来ると喜びを分かち合いながら、皆でお祝いを兼ねた入学試験お疲れ様会をレストランでしている。
トールと、ディアス君がモリモリと肉料理を食べるのを見たシルビアちゃんが、
「ふふふっ、入学前に採寸した制服がきつくなりますわよ。」
と楽しそうに笑い、それを聞いたミラちゃんも、美味しそうに食べていた手をピタリと止めたりと、なんとも楽しげな夕食のあと、宿屋でスヤスヤと隣で寝ているトールを見て、
『魔法学校の入学を薦めて良かった…トールは一生物の仲間を得たのかもしれないな…』
と、少し嬉しい様な、安心した様な、何とも言えない気持ちを味わっていた。
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