第114話 新卒採用と新兵器

春の畑の作付けも無事に終わり、これから田植えのシーズンに入るのだが、実はココ町の教会から農業実習生が四名来ている。


彼らは神官長バランチヌス様に昨年秋に収穫した米を約束通り一袋届けたのだが、神官長は一粒も食べようとせずに、


「神々から賜った穀物です。

先ずは我が教会で栽培出来る様にしてから本部の方へも…」


という事で、四人の実習生が春先から稲作を習いに来ているのだが、植物魔法使いと念話スキル持ちに身体強化持ち、それに記録スキル持ちという完璧な布陣で、村の教会が持っている田んぼと畑の両方で、村人の指導の元、稲を育てている。


そして、同時にココ町の教会の中の畑と、急遽作った田んぼでも、念話を使い遠隔指導という形で稲作をはじめているらしく、実習生の一名は記録スキルで農家の方々から集めた知識を書き起こし、稲作の手引きを作る役目だという…神々から賜った作物を世界に広めようとする神官長様の本気が伺える。


僕は四人に、


「バランチヌス様に、折角精米の為の道具と炊き方を記した手紙も送ったのに食べて無いなんて…」


と追加で村から米を送りますから食べてみるようにと伝言を頼み、先日トール達を迎えに出た馬車に食べる用の米を一袋乗せてココの町に向かってもらったところである。


村でも昨年の収穫分が出回り、畑仕事の合間に塩むすび弁当で腹ごしらえする村人がいるぐらいに村では一般的な穀物になりつつある。


だから、種籾を授かった時から楽しみにしてくれていたバランチヌス様には、実際に食べてみて欲しいのだ。


そして、作付も田植えも、ギンカの種付けも無事に済んだ春の終わりに、トール達が帰って来た。


三年間見なかったトール達はビックリする程に成長しており、立派な魔法使いになっていたのだが、それよりも、助けてくれたトールに惚れたミラちゃんの猛アタックで二人はお付き合いしていたらしく、帰還するとすぐにトトリさんに二人で会いに行っていた。


それと、少し抜けてるディアス君の世話を焼いているうちに、シルビアちゃんも『仕方ないわね。』みたいな感じで2人も付き合っていたらしく、騎士団長のブラウンさんに挨拶に行っていたのだが、いきなり娘の彼氏を紹介されたブラウンさんは、


「うむ、そうか…」


とだけ、二人に返したらしいが、その夜、ブラウンさんは夜の花園で深酒をして、セクシー・マンドラゴラ姉さんにしがみついてオイオイと泣いていたと部下の騎士団員さんから聞いてしまい、


『可哀想に…何の心の準備も無くだもんな…』


と、前世で早々に出て行かれたが、一応娘の父親だった記憶をたどり、『自分だったら…』と考えると、ブラウンさんに同情するしかなかった。



それから数日後、試作バリスタの性能実験も兼ねて、アル率いる騎士団と、いいもの製作所のメンバーで村の近くにいた岩亀の群れを討伐に向かった時の事、前のみに馬車の様な車輪がついた大型バリスタと、木製の土台とセットの小型バリスタの二種類に、地竜の骨を削り出した矢じりの矢を使い、大食漢の厄介な陸亀に打ち込むと、大型の矢は一撃で亀を粉砕し、小型でも甲羅を貫通する威力である事に、いいもの製作所のメンバーは歓喜し、アルはかなり引いていたのだが、ブラウン騎士団長は、


「次の装填急げ!」


と指示を出して、騎士団員達はバリスタの巻き上げ機構の十字ハンドルを回して、次の矢をセットする。


「放て!」


とのブラウンさんの号令で岩亀に次々と矢が打ち込まれ、一時間と経たずに十数匹の群れは見るも無惨な姿に変わっていた…ドン引きな僕達を他所に、なぜかスッキリした顔のブラウンさんに、騎士団員だけでなく恐怖を覚えたのは言う迄もない…娘の件で溜まっていた何かが発散できたブラウンさんは、


「よ~し、亀を回収して帰るぞ!

あと、いいもの製作所の方々、この兵器の先端にこの岩亀の甲羅を使って盾をつけれませんか?魔法や弓兵にバリスタ兵が狙い撃ちされない様に…」


と言って回収に向かったブラウンさんの背中に、ベントさん達は、


「盾をつけるのは名案だが、肝心の甲羅を殆ど粉砕してるんだよな…」


と呆れながら小さくボヤいていた。


ブラウン騎士団長の憂さ晴らしと、バリスタの試し撃ちも無事に終了し、本格的にバリスタの製作に動き出すのだが、この武器は当面、ファード家の秘密兵器として扱う事にした。


だって、身体強化してニチャ棍Gを振り回したシェリーさんよりも強い破壊力の兵器など危なっかしくて広められない…と思いながら、回収される亀を眺める僕とアルは、


「ケン兄ぃ、あの亀食べれるかな?」


「解らないけど、あの量は食べるにしても大変だぞ…」


と、少し現実から目を背ける事にした。


帰り道で、


『アルの騎士団は、クロスボウにバリスタと遠距離武器ばかり戦力がアップしてゆくので、いっそのこと三人一組でクロスボウの連射が出来る様に三段撃ちの練習でも提案するか?』


等と考えながら村に戻り、アルの指示で解体された亀肉を使い、焼き肉は勿論、唐揚げや亀カレーなどが村人に振る舞われ、作付の終わった村人達が、祭りの様に盛りがっている。


ちなみに岩亀のお肉は鳥っぽいが、どことなく豚肉の様な脂身があり、中々のお味であったのだが、内蔵ごと大型バリスタの餌食になったヤツは軽い臭みが有り、料理長が試行錯誤しながら料理して、最終的にケンちゃんの健康ミルクで煮こぼして、臭みを消した亀肉を、カレーへと変化させる事になり、おかげで僕のマジックバッグからもスパイスのストックを全て放出する事に成ってしまったが、炊き出し用の大量のカレーの残りを鍋に移し、残ったご飯もマジックバッグにしまってコッソリお出かけの時のキャンプ飯にちょろまかしたので、文句はない。


既にカレーを知っている村人達は良いのだが、教会の農業実習生やトール達は、カレーと初対面で、


何やら神々に祈りを捧げたり、半泣きで僕や周囲の村人を見回して、『本当にこれは食べれるの?』みたいな顔をしている。


村人も既に経験しているので、余裕の悪ふざけで、


「料理長さんが、(臭み消しの方法を) 絞り出してくれたんだから、食べてみなよ。」


と、物体の出所をミスリードさせようとしている。


先に言っておく…カレーで遊ばないで欲しい!と思う反面、僕もトールがスプーンを口の前でウロウロさせながら、食べようか?…どうしようか?と葛藤している様を楽しんでいる。


そして意を決したトールが食べはじめた時に、村人から、「あちゃー、トトリさん所のが一番か…」とか、「よし、良くやった!」などと声が聞こえてきた。


どうやら村人はカレー初体験者の誰が一番に口をつけるかで賭けをしていたらしい…

娯楽が少ない村だから仕方がないのだが…そんな楽しそうな事は一声かけて欲しかったと少しイジケる僕を他所に、村人達は夜遅くまで盛り上がっていた。



そして数日後にアル・ファード騎士爵家に四人の若者がやって来た。


彼らはトール達の同級生で、地元の騎士団に採用されなかった四名であり、新しく出来た貴族家で、しかも知り合いが採用されたのを聞いてダメ元で来てくれたらしい。


聞けば四人ともに魔法学校では成績が真ん中ぐらいだった水魔法使いなのだが、ウォーターカッターがまだ使えない為に騎士団の入団審査に弾かれたという気の毒な連中だった。


「雑用でも何でもしますので、どうか、騎士団に!!」


と懇願する彼らをアルは快く採用し、そして、カレートトカルチョを騎士団員達と楽しんだのだった。


『なんだ、アルもやってみたかったんだ…』


と思いながらカレーチキンレースを眺めていると、四人の中でもリーダー気質の奴が、


「家族に仕送りをする為だ!」


と呟き、


「ザイッチ出身、サムロいきまぁ~す!」


と、どこぞのパイロットみたいなセリフを言ってカレーを頬張った。


因みに正解者には、非番の日に食堂でお酒が提供されるという褒美らしく、かなり会場は白熱していた…何とも平和な村だ…

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