第78話 賑わい始める夏

まだまだ建設ラッシュの続く夏の暑い日、村は一段と賑やかになっている。


辺境伯様の次男坊が無茶苦茶するので町を捨てて人里離れた場所でひっそりと暮らしていた元貴族のシルビアちゃんパパのブラウンさんが、元使用人や元騎士の方々数名と、片道4日程のかけて遊びに来てくれたのだ。


村を回り、色々話した結果、


「是非とも働かせてくれないか!」


と頭を下げられだので、


「貴族の事を何もしらない弟の教育係と、騎士団としてのアドバイスをしてくれるならば大歓迎致しますよ。

なんと今なら荒れ地を耕せば無料で土地が手に入りますし、商業ギルドの会員でしたら登録料なしで店を構えれますし、工房でも始めたい放題ですよ。

今年の冬に弟の婚約発表が終わり、弟が騎士爵を賜れば、ここは開拓村から正式な村に成りますので、今のうちに土地だけでも耕して、冬前に収穫出来る種でも蒔いてから帰りませんか?」


とアドバイスしておくと、シルビアパパは、


「全員少し年を食っておりますが、きっとお役に立てる自信があります。

それでは、大工と働き手を追加で呼びに帰るので、残して行く者達の寝床を頼みます。」


と言って帰って行ってしまい、残された方々は村長が、隣村で中心地に引っ越したために空いた家を一団に貸し出し、彼らは翌日から馬用農具をレンタルして、乗って来た馬に引かせて荒れ地の開墾や、井戸堀りセットもレンタルして井戸を堀り始めた。


ココの町のスラムからの移住組の方々も徐々に土地や仮住まいが用意出来て、家族を呼び寄せる為に板バネ式の幌馬車数台でココの町へ迎えに出発した。


そんな訳で、村は急に人が増えたのだが、村人達ががまず手掛けるのが開墾と作物づくりなので、現在、夏野菜等の農作物も豊富で、食肉問題も最近は試作を重ねた威力を落とした練習用のクロスボウを女性や子供でも少しの講習で扱えるようになり、森ネズミや角ウサギなどを誰でも狩れるようになったので毎日のお肉も心配ない。


つまり、安定して角ウサギが狩れるということは、クロスボウがあれば、ほとんどの村人がEランク程度の冒険者ぐらいの実力が有る計算になる。


しかも、五人ほど組めば、森狼の群れの撃退も可能で、クロスボウを軍事用の強いモノにすれば群れの殲滅も容易である。


『Eランク…』忘れていたが、僕は、まだEランク冒険者のままだった…『トールはDなのに…』と思いだして、近日中にドットの町に行って冒険者ランク上げと、神様からのお願いの1つであるお酒部門を本格的に始める事にした。


なぜこの時期までお酒を本格的に作らなかったかというと、ポイズンアントの巣の殲滅が確認出来たので、クロスボウ用の毒矢の矢じりに使うための毒針素材を求めて、巣を潰すついでに掘り返したのだが、これがなかなか大きな巣だったので、この場所を開墾していた二人にお願いをして土地を譲ってもらい、掘った穴をそのまま地下貯蔵庫として使い、その隣に蒸留施設の建設をいいもの製作所メンバーに頼んでいたからだ。


いいもの製作所メンバーが多岐にわたり、各種専門家をメンバーにしている為に、家だろうが機材だろうが、すぐにイメージ通りに作ってくれる。


因みに蒸留酒は門外不出の技術として登録して、いいもの製作所の資金とする予定で、貴族に売りさばく為に、酒で財を成したドットの大商会のカッツ会長と手を組んだ。


あの威張り散らしていた髭おっちゃんも、今ではファーメル家と教会と手を組み、孤児院の為に仕事を回して、孤児達の身の回りの物や食事が充実する様に頑張っているから仲間に入れてあげる事にした。


カッツ会長は、試作の蒸留酒を試飲して、


「これは、売れる!」


と嬉しさに震えていた盧だが、それよりもアンジェルお姉さんが、


「フフフっ、これを使えば貴族の酒好きも意のままに出来ますわ…」


と悪い笑みを浮かべていたのが恐ろしかった…しかし、僕的には、ハイボールや果実漬けの酒を作ってお供え出来れば良いので、好きに王族でも抱き込んで稼ぎに稼いで頂きたい。


本当はダント商会にお願いしたかったが、いいもの製作所と業務提携をしているので、文字カルタなどの販売と、キッチン便利グッズで既に忙しいらしい。


いずれは板バネ幌馬車などの販売を頼もうとお願いしたら、


「こんな裏路地の狭い場所で馬車が扱えるか!」


と言われたので、新しい村の一等地を用意だけしておいた。


借家のダント商会から村に引っ越してくればいい…どちらかと言うと劇団を作り実演販売で各地を回った方が儲かりそうだから、当面は店が無くても問題はないだろう。


村のダント商会本店は兄さんが大工さんを雇って建てれば良いし、まぁ、本店建設が遅れて、正式な村となり商店の登録料金を払ったとしても、結局アルに払う様なものだからご祝儀と思えば痛くないはずだ。


しかし、村もだが、自分自身、こんな大騒動になっている事をアルは未だ知らないのだ…

この秋にニック様とエリステラ奥様がココの町に行って娘のミリアローゼお嬢様と、うちの弟のアルに辺境伯様の城でネタバラシと、正式な婚約の儀式を行い、家庭教師や満点合格などを理由に騎士爵を押しつけ…いや、賜る手筈になっている。


そしてアル騎士爵の家臣団は既にあちらこちらから集まっている事も知らないアルが事実を知った時の反応を見られない事だけがお兄ちゃんは残念であるが…スマン、アルよ…お兄ちゃんにはやらねば成らない事があるのだ…厄介な貴族付き合いは任せたぞ! と、そっとココの町の方向に向かい目を閉じて、弟の幸せを祈った。


さて、何でも屋の仕事もカトルとサーラスがベーコンの合間に草引きの依頼もこなしてくれるし、ギースは薬草集めと、身体強化で皆の助っ人として大人顔負けの働きを見せている。


シータちゃんとナナちゃんは、朝は卵鳥の世話をレオおじさんと頑張り、午後は石鹸工房の香り担当としてアルバイトに励み、空いた時にはマチ婆ちゃんの話し相手をしながら錬金術を習うというなかなかにハードな毎日を過ごしている。


勿論休みの日も有るのだが、二人の少女は結局卵鳥の餌やりをして、小屋を綺麗にした際の鳥の糞を使い、新たな荒れ地を耕して花の種を蒔くというのがシータちゃんとナナちゃんのブームになっているので毎日が趣味の延長である。


既に集落の周りの各所が花畑化しており、石鹸の香りの抽出を待つばかりである。


正直、僕まで何でも屋の仕事があまり回って来ないのが少しの寂しいが、空いた時間で色々出来るので助かっている。


現在は少し未知のチャレンジを試みているのだ…それはミロおじさんとコッソリ始めた蜂蜜作りである。


集落周辺が花畑になったので、前世の知識を使い養蜂箱を作り、森の中にいる『玉蜜蜂』という五百円玉サイズの熊蜂風の魔物に養蜂箱への引っ越しをお願いして、あとはお花畑で楽しく過ごして頂き、時折蜜を分けてもらう計画である。


玉蜜蜂は巣を破壊したり、女王を虐めない限りは、刺したり噛んだりしない大人しい虫魔物だが、木や花に害を加える虫魔物は取り囲んでボコボコにしてくれる頼もしいヤツである。


しかし、僕は引っ越して頂く為に巣を壊して飛べない女王を養蜂箱に入れたので、それはそれはちゃんと刺された。


状態異常無効スキルが有るから出来る無茶であるが、引っ越しを完了した養蜂箱の近くに空の養蜂箱を置いておけばそのうち増えてくれるので、蜂蜜を貰う時以外は刺される事も無いだろう…いいもの製作所に密取り用の防護服かチェーンメイルを作って貰うとして、巣箱の管理はミロおじさんがしてくれるらしい。


「その代わりちょっと味見したりするぞ。」


と、ミロおじさんが言っていたが、レオおじさんもちょいちょいオスの卵鳥を味見しているので問題ない、むしろ味見程度でしっかり管理してくれる熊獣人のおじさん兄弟に感謝だ。


さぁ、集落での仕事も順調だし、ベーコンの納品ついでにドットの町に行って、マジックバッグの中の獲物を冒険者ギルドに売り払い、ランクを上げますか!それで儲かったお金で安酒を買い込んたりして来よう!!

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