第77話 アリ退治と村人強化計画
さて、村長さんから正式に蟻の巣退治の依頼が入った訳だが、蜂の巣であれば毒を我慢して惹き付けて留守の巣を破壊する手が使えたが、地中にある巣の破壊は難しい…重曹と砂糖が有れば、混ぜて置いておけば巣穴駆除も出来るかも知れないが、重曹なんてモノがあればベーキングパウダーとして沢山のお菓子を作り出して神々にお供えしている。
そんな訳で、現在、狩人のリントさんの毒草園から殺虫草を分けてもらい、鍋でグツグツ煮ている最中である。
煮出した殺虫汁を使い小麦粉、蜂蜜、砂糖と、そして凄く嫌だけど、畑や草むらに居る虫魔物をサーラスの索敵で探してもらい倒した新鮮なヤツを、石と石を擦り会わせて作った新鮮虫ミンチを使い、全ての材料を桶でネリネリして団子を作り、仕上げに水魔法のドライをかければ殺虫成分入りの虫肉激甘団子の完成である。
ただ普通では無いのは一匹がデカい蟻魔物なので、団子一つを一匹でペロリと食べてしまいそうだ…なので、数百は居るであろうポイズンアント達の女王様に団子が届く様にかなりの数を2日がかりで作った。
おかげで爪の間に詰まった虫汁や服に染み付いた殺虫汁の香りを打ち消す程の何とも言えない虫臭を消すためにクリーンを連発する羽目になってしまった。
そして決戦の朝、立ち入り禁止になっていた開拓途中の荒れ地に来たのだが、遠くに骨だけにされた村長のレンタル馬魔物の亡骸が見える。
「たった2日程で骨だけにされて…ウチのギンカが餌食になっていた可能性もあるな…」
と呟いた瞬間に、
『地球の知識で蟻は虫を食べるモノ』というイメージだったが、蟻魔物はガッツリ肉食だと気がつき、吐きそうになりながら虫をゴリゴリしなくても、鹿や猪魔物を倒してミンサーでひき肉にして毒肉団子でも良かったのでは…と気がつき泣きそうになりながらも、先ずは安全圏からサーラスに索敵をかけてもらう。
サーラスは、
「良く解んないけど、いっぱいいるわよ」
と索敵結果を報告してくれた。
僕は試しに、
「どれぐらい強そうだ?」
と聞くと、サーラスは「う~ん」と唸った後で、
「セクシー姉ぇ、三人…分?」
と呟いた。
『そりゃあ強そうだ…』と思いながら、サーラスに、
「僕が襲われても近付いちゃ駄目だよ。」
と指示を出してから、巣の入り口が見える位置まで移動すると、本来なら蟻の唾液でカチカチだった筈の丸い出入り口が、馬鋤という馬に引かせる農具で粉砕されたのを応急処置したと見える歪な出入り口の窪みが確認できる。
僕は、マジックバッグから窪みの辺りに『特製、アリの巣の殺りん』を何粒が投げてみると、入り口付近のヤツが窪みの奥の巣穴へと持ちかえった。
「おっ、お持ち帰りしてくれるみたいだな。」
と、一安心した僕は、残りの団子もマジックバッグから次から次へと取り出して巣穴周りに投げて、あとは勤勉な蟻さんが持ち帰り終えるまで1日ほど待つだけである。
そして翌朝、我が家の可愛い犬娘のサーラスちゃんが再び安全圏から索敵してくれる。
地中の為に制度が落ちるが、生きてるヤツが沢山かちょびっとかは解る様で、
「あんまり居ないよ。セクシー姉ぇの方が強い。」
という、サーラスの判断を聞いて、
『少なくとも1/3程度にはなったな』
と理解して、僕は巣穴に近づき、マジックバッグからニチャニチャ粘液の樽を取り出して蓋を開け、巣穴のある窪みにひっくり返して流し込んでやる。
その間に、見張りの蟻に数ヶ所刺されてしまったが、蟻自体はそんなに強くないのでいいのだ。
しかし、毒針が実に厄介で、毒液を注入するとかではなく、ポイズンアントが体で生成した毒の結晶という感じの針で、血液と反応して毒が溶けだすという厄介な代物な為に抜かない限りフレッシュな毒が出続ける。
蟻を倒して足鎧の隙間に差し込まれた毒針を、
「痛ってぇぇぇぇぇ…」
と文句を言いながら抜いてマジックバッグの中にしまいこむ。
ポーションを飲みつつ暫く待って、樽の中身が穴に入ったところで樽を外して続いてマジックバッグから水が詰まった樽を幾つか取り出して、水魔法の水操作で巣穴へと流し込む。
ただ流し込めばニチャニチャ粘液に押し返されるのでニチャニチャ粘液を押し込み、栓をする様に奥へ奥へと魔力を纏わせた水の塊を突っ込んで行くと、逃げ出そうとする奴らがニチャニチャ粘液に絡まり完璧に奥で蓋になれば、あとは水が土に染み込むのを待ってる間に他の出口が無いを探しながら、巣の周りで働いている毒団子すら貰えなかった下っぱの偵察ポイズンアントを片手剣で倒して行く。
もうご飯としての値打ちの無くなった馬の骨の辺りに数匹いただけで、他の出口や、他のポイズンアントのご一家は居なかったらしく、あとは、あの巣穴の女王蟻が倒れれば問題ない筈である。
念のためにマジックバッグから熱湯を入れた樽を出して巣穴に流し込むと、ニチャニチャが固まり完璧な蓋になる。
出入り口が塞がれ、兵隊は激減し食べ物はかなりの確率で毒団子か、または死んだ仲間を食べようものならば毒で死んだ仲間も毒餌と同じ…遅かれ早かれ女王陛下は夜空のお星さまになる運命である。
しかし、村の敷地に外から新たな蟻さんが入らない様にしないとイタチゴッコになってしまうな…と思いつつとりあえず村長に
「まだ数日間は立ち入り禁止でお願いします。」
と伝えアリ退治は一旦終了となった。
巣の中ではまだ卵やサナギが時間差で生まれる場合も有るし、女王が健在で、全員で団結してカチカチの巣の壁を自分達で壊して、新たな脱出口を開けて出てくる可能性もゼロでは無いので一週間程度放置してサーラスの索敵に引っ掛からなければ駆除完了という事にした。
村長さんから、
「これからは、こんな事が無い様に、村人皆に魔避けの香を焚いて開拓する事を徹底したり、弓などの訓練をする方が良いですかね?」
と相談された。
僕は、
「僕も小さい頃にリントさんから弓の手解きを受けましたが結局弓の扱いは難しくてナタなどの近接武器にしましたよ。」
と、弓の難しさを伝えると、村長さんは、
「近付いて倒せる様に訓練しても剣や槍では危ないし、魔法が使える村人なんて数名だからなぁ…」
と悩んでいるので、
「虫魔物や畑を荒らす小型の鳥魔物を倒せるぐらいの威力の簡単に扱えるクロスボウっていう弓をいいもの製作所のメンバーで試作してみますか?」
と提案する僕に、村長さんは、
「いや、ケン殿、先ほど弓は難しいと…」
というので、僕は、
「弓を引きながら狙うのが大変だからですよ。
でもソレは先に弓を引き絞っておけば、あとは留め金で弓を引き続けてくれて狙いに集中できる構造で…って、口で言うのは難しいから、明日までに絵に描いておきますから、明日ベントさん達を連れて集落までお願いします。」
と村長に伝えて、お手伝いに来てくれたサーラスと一緒にギンカ号の引く幌馬車で集落に戻った。
翌朝、板バネ式の荷馬車以来、久しぶりの新商品の開発会議とあり、いいもの製作所のメンバーが集まったのだが、
「あれ?なんか前よりかなり多くないですか?」
と、集落に集まった二十人以上の各分野の職人の方々を眺める僕に、ベントさんが、
「あの馬車に関わったメンバーと、新たに移り住んだ職人達も、あの馬車を実際に使って、いいもの製作所に入りたいと言ってくれて、今では村の職人は漏れなく参加してくれている組合みたいになってるよ。」
と言っていた。
板バネ式の馬車は当面は村の中だけで生産と改良を重ねて、ゆくゆくはアルが代官に就任したら、ポルト辺境伯様とファーメル男爵様に板バネ式のラグジュアリーな馬車を今回の特別対応に対しての御礼としてプレゼントする予定なのだとか、
そして、いよいよ始める事になったクロスボウの説明会には、なぜかケビンさんとコビーさんの切れ者の文官職師弟まで参加している。
とても昨夜テーブルで書いた紙の説明書きでは間に合わないので、板を持ってきて、炭を使い黒板代わりに説明を始めた。
しかし、そこは職人集団であり少しのヒントと昨夜書いた設計図を回し見て、「あーでもない、」「こーでもない」と議論が飛び交い、
『これは放ったらかしでも完成しそうだな。』
と思って見ていると、ポルト辺境伯家の切れ者じいちゃんことケビンさんから、
「ケン殿、弓とその、クロスボウなる弓の違いを今一度確認したいのですが…」
と聞いてきたので、
装填に少し力が要るが一度装填すると何時でも射てる状態で移動出来るのと、草むらから狙撃する場合は弓は上半身を出して射つので見つかりやすく、伏せたまま射つと弓を引き絞り切れないので威力が落ちるのだが、クロスボウは寝たままフルパワーで矢を放てる事と、あとは精密射撃の場合も弓を引き続ける必要が無いのでプルプルしない事をアピールしておいた。
すると弟子のコビーさんが、
「では、矢を放つのに訓練が必要無いのですか?!」
と驚いたように聞いてくるので僕は、
「いや、的に当てるには訓練が必要でしょう。
でも、威力を落としたクロスボウを作り、角ウザキ狩りや虫や鳥魔物の撃退に使っていれば、そのうちに使い方や狙いの定め方を覚えると思いますし、普通の弓と同じかそれ以上の威力が出るクロスボウを作れば、猪魔物だって村人誰でも倒せる様になると思いますよ。」
と答えると文官の二人は、
「これは町の防衛から何から考え直さねば…」
と険しい顔をしていた。
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