第76話 集落での新たな日常
集落に戻り約2ヶ月経った春の終わり頃、集落は人が増え、隣村と集落の中間の草原地帯には小規模ながら壁で囲まれたエリアが整備されつつあり、その壁の中には代官屋敷や、教会、それに各ギルドが入る予定で工事が始まっているのだ。
村長はますますやる気になっていて、近々発足するアルの家臣団への採用が決定しているので、もう半分以上夢が叶っている状態であり、村を開拓してゆくゆくは貴族家の家臣となり切り開いた村を管理する役職に就くという爺様の代からの夢があと一歩のところまできている上に、ここに来て追加の住民と公的資金の注入で村から町に昇格しそうな程に整備が進んでいる。
既に村の中に自分の土地がある者も、中心地付近にレンタルした馬に農具を取り付けて、新な所有地を切り開き、中心地への引っ越しを狙う猛者まで現れ、現在、ケビンさんの文官職としての知識と村長としてのカリスマ性で引っ越し先の区画整理と、引っ越し後の隣村の土地は移住者の畑等として格安で貸出したり、販売をする段取りをしている。
もう、村人全員、確実にゴールが見えた開拓の為に大地主にでもなる勢いで荒れ地を耕し、僕が教えた転作の知識を使い様々な作物を畑を区切り作っているので、収穫時期がくる度にかなりの作物をてにして、一定の利益も出してる上に、まだ年貢は開始されていない。
領都からの引っ越し組もテントから長屋のような集合住宅になり、土地を切り開き家族を迎える為の畑や家を建てはじめているので、徐々に家族を呼び寄せ、更に村人が増えるのも時間の問題である。
あとは、アルの婚約発表やら様々なイベントがあるらしいが、僕には貴族のことはあまり関係ない…はず…まぁ、開拓村の件も皆さんにお願いしておいて、僕は静かな日常を過ごすのだ。
リーダーを失った薬草組のギースとシータのサポートとして、薬草詰みを少してつだい、カトルとサーラスと何でも屋の合間に魔物狩りをしてレベル上げをし、
集落に神官のノートンさんと奥さんのシスター、ニーアさんが来てくれたので、祝福の儀を町に行かなくても出来る様になったから、早速、もうすぐ7歳のシータちゃんと、5歳になったばかりのナナちゃんをファーメル家の別荘内にある仮教会に連れていき、祝福の儀という鑑定作業をしてもらう。
すると、シータちゃんは『記録』という五感で記憶した情報を鮮明に思い出せるという文官や諜報員が欲しがる能力らしく、現在マダム・マチルダシリーズの香りの調合に絶大な効果を発揮している。
そして、ナナちゃんは『隠密』という気配を消して索敵にすら簡単には引っ掛からなくなる冒険者や暗殺者が欲しがるスキルと、『短剣術』というナイフの扱いや投げナイフの制度が上がるスキルを授かっていた。
神々はナナちゃんに暗殺者になれというのか?と考えている僕に、ナナちゃんは、
「神様からスキル貰って、使い方が解ってからは、花畑の悪い虫さんも気付かれずにやっつけれるし、サーラスお姉ちゃんみたいにナイフ使ったら、畑で悪さする鳥さんも倒せてレオおじちゃんからお駄賃もらえるの。」
と、本人が喜んでいたからからヨシとしよう。
そして、本日の僕のお仕事は、試しに集落の隅に作った小さな田んぼで、ココの町から帰って直ぐに種を蒔いて発芽させた苗を手植えで植えているのだ。
このまま畑で稲が育てる事が出来れば楽なのだが、やはり、『米は田んぼだろう!』とい事で、この世界で見たことが無い田んぼを1から作っている。
失敗の可能性を考えて、神様が作ってくださった種籾は半分以上マジックバッグにしまってある。
大事な『米』であるので食べたいのをぐっと我慢しながら、一部試しに畑で育てる分と、田んぼでの試験栽培をしてみてから、本格的に栽培するのは来年以降になるだろう。
田植えが終わり、変な事を始めた僕を不思議そうに眺めながらベーコンを燻しているサーラスと、田んぼの用水路の下流で獲物を解体しているカトルに、
「そろそろ3時の休憩にするか?」
と声をかけて、マイクさんとアイナさん親子にレシピを渡して作って貰ったパンをマジックバッグから出して三人で味見をする。
因みにエリーさんの石鹸工房のおやつとして同じ物が届いているので、今頃はナナちゃんとシータちゃんも工房の奥様方と食べているだろうし、石鹸の出荷の力仕事を手伝っているギースもおやつとして食べている筈である。
本日は卵鳥の新鮮卵を使ったクリームパンである。
これも僕が前世でピザ釜に凝った時の副産物的なレシピであり、塩っぱい食い物続きで飽きてしまって手を出した菓子パンであるが、僕のレパートリーは、アンパンと、クリームパンと、チョコクロワッサンしかない…アンコはこちらで小豆を見ていないので無理で、クロワッサンは市販の生地シートを使ったから再現不能となり、唯一、中のクリームからこだわったクリームパンだけなんとかレシピを覚えていたのと、アイナさんが弱いながらも水魔法の中でもレアな氷魔法がつかえるから思いきってお願いしたのだ。
クリームを冷やす為、自分で作る場合は冬場のみかな?と、諦めていたからアイナさんのスキルは大変有難い。
バニラビーンズなどは見当たらないので、バニラの香りはしないが、新鮮なミルクと卵と蜂蜜の優しく複雑な香りで十分である。
「ケン兄ぃ、美味しいね。」
と喜ぶ兄妹を見ながら、
『あっ、ジャムを包んでジャムパンってのもあるな…でもとりあえずクリームパンは完成として、仮教会で神々にお供えしておこう。
当面はパン屋のケンちゃんで将来的にはケーキ屋ケンちゃんとして頑張りつつ蒸留酒かな?』
などと考えながら、風にそよぐ植えたばかりの稲の苗を眺めていた。
それから翌日から、目覚めると畑と田んぼの稲の成長を確認するのだが、毎朝僕はシェリーさんを身近に感じる瞬間が有る。
それはバケツに汲んだ水をシェリーさんから借りた水魔法の水操作で畑にまく時だ。
水魔法を使う様になり、クリーンの魔法がいかにぶっ壊れた効果の分、魔力を消費するかが解った。
シェリーさんは、水魔法スキルを使えないだけで、一度も使われない水魔法スキルもシェリーさんがレベルアップすれば、普通に魔法を使っている人程では無いが、水魔法のレベルが上がっているらしく、水生成と水操作にドライの基本魔法に合わせてウォーターバレットという水風船ぐらいの水の玉をぶつける微妙な魔法も使えていた。
魔力から水を生み出して水操作で飛ばす作業を一連の流れで行う初歩の魔法だが、神々の話では、僕が使ってもシェリーさんの魔法スキルが成長するらしいので、目指すは老師のゼロ距離生体脱水魔法の『スーパードライ』というアサヒが開発してそうな名前の魔法の習得を目指して畑作業で出来るだけ魔法を使う様にしている。
畑の水撒きも終わり、『さて、依頼も来てないし、今日は何をするかな?』などと考えていると、村長達が荷馬車を飛ばして集落にやってきた。
村長は、
「ニーア殿、急患をお願いしたい!」
と叫んでいるので、急いで村長の荷馬車に駆け寄ると二名の男性が体のあちこちを腫れ上がらせて、
「う~、う~…」
と唸っている。
村長は、焦りながら、
「ポイズンアントの巣を耕したらしく、馬は残念ながら助からない状態だったが、二人は毒を食らいながらも巣から離れてギリギリな状態で救出されました…」
と言っているので、『毒ならば』と二人にクリーンをかけると体の腫れは良くなるが、体のあちこちにアリの毒針がまだ刺さっている。
ニーアさんが、ファーメル家の別荘内にある仮治癒院から出て来て二人を見ると、
「毒針を抜かないと、毒が体に回ります!」
と言いながら革の手袋をして毒針を引き抜き、
「最初に刺されたのは何分前ですか?」
と作業をしながら聞いてくるので、村長が、
「かれこれ一時間程になるでしょうか?」
と答える。
ニーアさんは、
「ふざけてないで、正確な時間を!」
と怒るので、
『あぁ、とりあえずお手伝いして実際に見て貰おう』
と決めて僕も毒針を引き抜くと、ニーアさんに、
「ケン様、手袋もなしでは毒を受けます!」
と焦るし、村長さんまでオロオロし始めるので、本当は嫌だが、
「神々より、毒の効かない体と、毒を打ち消すスキルを賜りましたのでご心配なく。
先ほど二人の体内の毒は取り除きましたが、針から絶えず毒が出ているとは知らず…知っていれば毒針も含めて毒を消し去りましたが、スミマセン治療の知識には疎いもので…ニーアさん指示をお願いします。」
と毒針を抜きながら指示を仰ぐと、ニーアさんは、
「ケン様がポイズンキュアがつかえるのであれば毒針さえ抜けばポーションで大丈夫と思いますが、念のためにヒールもかけます。」
と言ってくれたので、必死に毒針を抜いた。
一人につき30箇所ほど刺されたあとがあり、潰した巣がかなり大きな事が解る。
クリーンとヒールで回復した村人から話を聞くと、あっという間に足元から拳2つ分程の蟻が黒い絨毯に広がり馬魔物が襲われたらしい。
これは何でも屋の出番かな?
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