第43話 蜂の巣駆除作戦

焦っても仕方ない…

宿りバチの毒はキツいが、死に至る事は少ない…なぜなら奴らだって獲物に春先まではギリギリ生きて欲しいから、雪が降るまでは、時折水を口移しで飲ませて苗床となる生物を飼育しているらしいので、時間は有る筈だが、敵の数が多過ぎる…


数をなんとか減らしたい僕は、巣から少し離れた大岩にマジックバッグから取り出した樽のニチャニチャ粘液を近くの枝を使いベットリと塗りたくった。


そして、警戒がゆるんだ蜂の隙をついて数匹の蜂の死体を回収して、大岩にピチャリと休んでる様にひっ着けた。


漸く待つと偵察担当の蜂が、


『おっ?お前どうしたよ?』みたいな雰囲気で蜂の死体の隣に着地すると、粘液に絡み付かれて、もがけばもがく程に足も羽根もニチャニチャになり、岩にへばりつき警戒音を発てると、巣から仲間が次から次へと…やがて大岩が黒いモゾモゾで埋め尽くされ、


『うわぁ…キモ…』


と、心の声がもれるが、今がチャンスと、岩に夢中の蜂の群れの反対側、他の位置で上がった救難信号の場所を目指す。


ほぼ同じ所から二発…多分巣の近くに10人は騎士団員がいたから、それよりは東で救難信号が上がったはず…あの木の近くか?と、音速のGの2つ名がしっくりくるのが癪だが、低い姿勢で木々の間を駆け抜ける。


そして、案の定10人の収容もまだな状態だったので、離れた位置の五人は手付かずで麻痺したまま地面に転がってピクピクしていた。


僕は、彼らに駆け寄り傷口から全身にクリーンのスキルを使う。


「毒も、病原菌も取り除けるならば卵もついでにイケるよね!」


と、多分聞いてないとは思うが、顔も見たことない地球出身の異世界の愛の神様に問いかけながら五人から蜂の毒を抜き去る。


「聖人様…」


と回復して答える五人に、


「話はあとで、一旦離脱するよ!」


と言って巣から距離を取り、


「この中でピーターさんと連絡が出来る人は?」


と、僕が聞くと、斧を担いだ騎士団員さんが、


「自分が出来ます。」


と言ったので、


「敵は宿りバチで数は200以上、50程は無力化したが、巣の側の10人と、既に巣に運ばれたと思われる数名は救出できなかったと伝えて。」


とお願いした。


暫くすると、報告をしている斧使いの騎士団員さんは、耳を押さえながら、


「通信長、落ち着いて下さい、脳に直接だから、怒鳴られると厳しいですよ…」


と、顔をしかめながら、


「だから、聖人様も無傷で我々も毒を取り除いて頂きました。

はい、はい、了解しました。」


と独りごとのような念話の後で、斧使いさんは、


「えー、ピーター通信長より、騎士団長からの伝言だそうで、

お前ら五人は本陣で鑑定して卵のチェックしてやるから、信号弾をどれでもいいから上げろ。頭が冷えたからムカつく蜂に一泡吹かせてやるから交代だとの事です。

あと、ケンちゃんにありがとうと…」


と言っていた。


まぁ、落ち着いたみたいだし、玉砕覚悟の突撃はしないだろうから大丈夫かな…と思いながら待っていると、


何やらカゴを背負った騎士団長を先頭に十人程の騎士団員が近づいて来た。


「森の入り口の馬車に鑑定士を連れてきた。鑑定と手当てをして戦えそうならば合流して負傷者の運搬を手伝え。

だが、無理はするな。」


と騎士団長さんは斧使いの騎士団員さん達に告げた後に、僕に、


「村の狩人や村人から有りったけの虫除け草や魔物避けの香など、蜂が嫌がりそうな物を集めて来た。

殺虫草は無かったが、風魔法師を連れて来たから巣穴に煙を流し込んで、留守の間に仲間を引きずって来る。」


と言ってから、巣が見える位置に移動し、


「よし、配置につけ!」


と指示を出す。


すると、重装騎士が盾を構え、弓使いが警戒する中で、土魔法師が地面に窪地を作り、虫除け草に炎魔法師が火をつけ狼煙の様な煙を登らせると、待ってましたとばかりに風魔法師が煙を目的地へと風の魔法で運ぶ、すると巣穴からワラワラと蜂が飛び出してカチカチと警戒音を発てている。


しかし、大量に流れて来る煙を嫌がりジワジワ後退していく蜂に、騎士団長は


「よし、今だ!手前から順に引きずってこい!」


と指示を出すと一人、また一人と騎士団員が回収されて行く。


僕は、助けられた順にクリーンを掛けてまわるが、


「騎士団長、偵察班長が見当たりません。」


という騎士団員の声と同時に、


「団長、もう、草が燃え尽きます。」


との報告が魔法師から入る。


騎士団長は、悔しそうに、


「一旦引き上げろ!」


と言ったのだが、敵の方が一足早く、少なくなった煙を我慢して帰って来たヤツがいたらしく、巣穴で作業していた騎士さんが、


「ぎゃあぁぁぁ!」


と巣穴の出入り口付近で声を上げた後に倒れた。


「馬鹿野郎!」


と飛び出しそうになる騎士団長の肩を掴み、


「はい、冷静に。

あとは、何でも屋に任せな…ただ、回復担当者は後で貸してね。

毒が効かないだけで、針だらけで帰ってくるかも知れないから…」


と言って、僕は蜂の群れに飛び込んで行った。


全速力で駆け寄り、さっき、倒れた騎士さんを、


「受け取って!」


と、団長さんの方に投げ飛ばし、追いかけてきた蜂を片手剣で相手する。


敵の数が多く、武器を振り回せばどれかに当たるのだが、敵も何匹も僕に取り付きニチャニチャコートの鎧の隙間から針を差し込む。


「痛ってぇぇぇぇぇ!!」


と叫びながら、再び剣を振り回し、何匹か斬り落としては、また刺されながら一旦走って距離をおく。


蜂は完全に僕をロックオンして群れで僕を追いかけ回しているので、マジックバッグに手を突っ込み、錬金ギルドで買った耐火レンガを勿体ないけど取り出して、蜂の群れに向けて力一杯投げつけて牽制しながら巣から引き剥がして暫く戦っていると、騎士団長からの


「全員回収出来たぞ!」


との声に、僕は、


「巣穴を燃やしてください!!」


と叫び、巣穴から離れた場所で群れを引き受け、

片手剣とナタの二刀流で、一匹倒せば他の奴に二ヶ所ほど刺さるのを繰り返している。


巣の有る大木のウロでは魔法師の協力で作戦が開始され、炎魔法師は勿論、水魔法師がドライの魔法で乾かした大木に昨夜習った水レンズで火をつけて、最後は風魔法師が風を送り火柱が立ち上る。


熱風と焦げた香りが辺りを包み、ニチャニチャ粘液を塗った大岩が一部分硬化する程の熱に、かなり数を減らした蜂達は我が家を諦めた様に逃げ出して行った。


体のあちらこちらに蜂の針が刺さったまま、


「終わった…」


と呟きながらトボトボと離脱して、まだ麻痺している2人の騎士団員にクリーンをかけた瞬間に目の前が真っ暗になり意識を飛ばしてしまった。



そして目覚めるとテントの中でテーブルの様な硬い簡易ベッドに素っ裸で布が一枚掛けられた状態で寝かされていた。


色んな意味を込めて、


「なんで?」


と呟く僕に、


「おぉ、目が覚めたか、魔力切れで気絶してたから色々処置をさしてもらったぞ。」


と騎士団長さんが、教えてくれた。


魔力切れの回復には、強制的に数時間の気絶状態での睡眠を必要とするから、その隙に体の中の宿りバチの卵を回復班の騎士団員さんが摘出して回復魔法で傷を直してくれたらしいが、取り残しの卵が怖いので、魔力が回復したてホヤホヤだが一度自分にクリーンをかけておいた。


因みに宿りバチの卵は創薬ギルドに売れば、息子さんがもうバッキンバッキンになる男親なら涙モノのお薬が完成し、貴族や金持ちの商人などが飛び付くらしいので、百近い卵は大事に保管してあるらしい…


くっ…取り出してもらったから、稼ぎは皆で分けっこか…

などとつまらない事を考えていると、テントの外が騒がしく、


「おっ、英雄がお目覚めだ!」


と、ゾロゾロと騎士団員が雪崩れ込んできて、口々に感謝を述べてくれたのだが、せめてパンツを履いてからにして欲しい…

しかし、軽い辱しめを受けたが、涙を流し感謝されると、卵を産み付けられた価値があるというものである。


だが、次から蜂の巣駆除をする場合は防護服を作ってからにしようと心に決めて、ドタバタの狩りが終了した。

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