第22話 母の思いと母への思い

畑を荒らす魔物の討伐依頼の為に真っ暗な村の片隅で野宿をしている。


農具置き場横にある馬小屋の様な場所なので夜露の心配もなく快適であるが、少々肥料等の香りが快適さを帳消しにしてくれている。


「ガタっ」と音がすると、ドットの町で自分用に購入した魔石ランプを片手に罠を確認すると、コッペパンぐらいのモグラが入っている箱罠ごとシェイクして、箱罠の内壁にペチペチ当たり弱ったモグラを取り出してトドメを刺しては、また罠を仕掛け直して臭い定位置に戻る事を繰り返す。


結論からいうと、この畑は爪モグラという大食漢のモグラの一家に狙われていたらしく、鋭い爪が猫の様に出し入れ出来るモグラで、毛皮は汚れや水に強くブーツ等に重宝されていると、魔物図鑑に書いて有った。


爪で植物の硬い根っこでも切り裂き食べるらしく、依頼主のオレンジの木も枯らされたという証言とも一致する。


朝までに、コッペパンサイズの若い個体9匹と、枕サイズの親が4匹、同時に二ヶ所に枕サイズが入った時は箱罠が壊されそうになり、


「こりゃ、壊されない全部鉄製の罠を注文しようかな?」


と考えた程だった。


朝日が差し込む様になり、並べたモグラを眺めながら、


「これで全部とは限らないな…でも今回はこれで依頼主の爺さんには報告して、モグラ避けでも後日プレゼントするかな?」


と呟いていると、


「シショー!」


と呼ばれて振り返るとトトリさん親子が様子を見に来てくれていた。


結局心配で朝一番に母に誘われて見にきてくれたそうで、並べたモグラを見せて、


「コイツらでしたので問題有りませんでした。」


というと、やっとトトリさんは安心してくれたみたいだった。


シータちゃんは枕サイズをひっくり返して、


「つるつるスベスベだぁ」


と背中とお腹の手触りの差を楽しんでいるし、上の兄二人は、


「旨そう」


と、脳内で既に解体して、丸焼きにでもしている様だった。


「よし、この後依頼主に報告したら何匹かもらって焼き肉にするか?

今日は皆も休みの日だから解体の練習も兼ねて食べちゃうか!」


今日はトトリさんも休日なので一緒に食べれると、


「お母さん、お肉だよ!一緒に食べようよ。」


と、喜ぶ子供達に、


「これ、はしたない…」


と困った顔だが、はしゃぐ子供達に少し嬉しそうなトトリさんだった。


「では、依頼主に見せて仕事を終わりにしますね。」


と皆に告げて、僕が少し離れた依頼主の家に行くと、


「ワシのオレンジや人参の仇は取れたか?」


と楽しそうにしている爺さんが家の中から現れ、畑に案内すると、並んだ爪モグラを見た爺さんが、


「これで苗木を植え直せる。」


と安心していた。


俺は、


「全部倒せたかは解りませんが、少なくとも二家族のモグラは倒せたと思います。

もし良ければ気休め程度かも知れませんが、後日モグラ避けをお持ちします。」


と提案すると、爺さんは、


「それは、助かる。」


と言って、お金を懐から出そうとするので、


「お代はモグラ避けを持って来た時でいいです。

その代わりにこのモグラを数匹分けて貰えますか?」


爺さんは、


「お前さんが倒した獲物だ、ワシは仇討ちの為に狩り場を貸しただけだ。」


と言って小銀貨を一枚を取り出し、


「ありがとよ、婆さんとの思い出のオレンジの仇を取ってくれて。」


と言って僕に差し出した。


そして、その後大銅貨を一枚取り出して、


「少ないと思うが、1匹分けてくれ、皮をひん剥いて丸焼きにして婆さんに供えてやるんじゃ。」


と言ってコッペパンサイズを持って行こうとするので、枕サイズを渡して、


「悪の元凶は多分コイツでしょう、群れを倒すならばリーダーからですよ。

それに、デカイ方が油がのって柔らかいって図鑑に書いてありましたから、

奥さんと一緒に食べて仇を討って下さい。」


と僕がいうと、爺さんは、


「カッカッカ、面白い小僧だな。

確か、何でも屋のケンと言ったな、死んだ婆さんと二人で存分に仇を討たせて貰うよ。」


と言って、枕サイズのモグラを小脇に抱え、


「モグラ避けを持ってきたら絶対に声をかけろよ、金を払うから。」


と言いながら去ろうとするので、


「お代はサービスですよ。」


と言ったのだが、


「駄目じゃ、払うと決めたんじゃ!材料費もかかるだろう?」


という爺さんに、


「自宅近くの竹や木に、鍛治屋さんで針金を少し購入する程度ですから、」


と僕が言うと、爺さんは、


「鍛冶屋か…少し待っとれ!」


と急ぎ足で帰って行き、片付けを三兄妹達が手伝ってくれて荷車に全てを乗せたころに、


「これを鍛治屋のベントに渡せ、」


と言って手紙を渡してきた。


「なんですか?」


と俺が聞いても、


「渡せば分かる!」


としか教えてくれなかったが、近日中にモグラ避けを持って来ることを誓い、箱罠とモグラが満載の荷車を引いて、三兄妹の家へと向かった。


家に到着し、早速解体に取りかかるが、今回はトールがメインで解体を覚えてもらう。


初めての解体に、


「失敗したらどうしよう。」


と焦るトールに、


「心配するな、予備は沢山ある!」


と言ってゴロゴロとモグラを並べる。


「少々失敗しても、肉は食べれるし問題ないから気楽に覚えて腹一杯肉を食べよう。

残りは干し肉にすれば良い。」


と僕が言うと、


「はい、頑張ります。」


と答えて、トールの手により井戸端で親モグラの皮が剥がれはじめた。


シータちゃんが、


「あのスベスベどうするの?」


と聞くので、


「う~ん、冬のブーツとか良いらしいんだけど、靴を作れる職人さんって村に居るのかな?

革鎧職人さんが鞄は作れるのは知っているんだけど…」


というと、トトリさんが、


「靴を作れる職人に心当たりがあります。」


というので、焼き肉パーティーの後でモグラの毛皮を持って行く事にして、全てのモグラを解体して肉を切り出し、魔石もとりだした。


コッペパンモグラの魔石は小型の魔石ランプに使えそうな大きさだったので家のランプに使うとして、枕サイズの三匹は少し大きくて入らなそうだ。


「じゃあ、この魔石は革細工職人さんにブーツの手間賃として渡して、家族皆のブーツを作ってもらうのに使いましょう。」


と僕が提案すると、トトリさんが、


「えっ、悪いです。」


というが、


「日頃お手伝いと勉強を頑張ってる可愛い弟子と、頑張ってその弟子を守ってくれているトトリさんへのプレゼントです。」


と言ってから、


「さぁ、トールが上手に解体してくれたから、先ずは香草焼きからかな?

ギースは火起こしで、シータちゃんは一緒に塩とハーブをモミモミするよ。

マチ婆ちゃんからお肉焼くときのハーブは習ったね。」


というと、ギースは火打ち石で釜戸に火を起こして、シータちゃんはマチ婆ちゃんから教えてもらった臭み消しのハーブを庭に摘みに行った。


トールはトトリさんと、絶対に食べきれない分に塩を揉み込み保存のための下ごしらえに入った。



そして、皆でチョイチョイ『味見』と言っては摘まみ食いをしつつ、朝ごはんとも昼ご飯とも言えないほぼモグラ肉オンリーの焼き肉パーティーが終わった。


タレなど無いので、塩か、ハーブ塩、またはレモン塩という塩ベースの焼き肉だったが、モグラ肉は臭みもなく、枕サイズは柔らかくジューシーで、コッペパンは歯ごたえが気になったがサッパリとして美味しかった。


満腹になり眠ってしまったギースとシータちゃんを長男に任せて、


モグラの毛皮と、爺さんからの手紙を持って箱罠を積んだ荷車を引きながら、トトリさんと、村の中心を目指した。


まずは、トトリさんの針仕事の元締めの工房を訪ねたのだが、そこは、魔物素材も使い衣類を作る工房で、ここの女将さんは、革製の衣類が得意で、手袋や靴も作れるらしい。


女将さんにモグラの毛皮を託し、三兄妹とトトリさんの冬用のブーツをお願いすると、


「子供のは少し大きめに作るよ。」


と言って、快く引き受けてくれた。


手間賃は工房の大きな魔石ランプ用の魔石3つと余ったモグラの毛皮で頼むと、


「貰いすぎだよ。」


と女将さんに言われたが、


「余ったらトトリさんに手袋でも作ってあげて頂けると嬉しいです。」


提案するが、それでも貰いすぎだというので、また良い毛皮が手に入った時に加工をしてくれる約束をして、その時に値引きして貰う事にした。


続いて、鍛治屋さんに向かう途中でトトリさんが、


「色々すみません」


というので、


「気にしないで下さい。それよりもトトリさんが頑張りすぎて倒れないか心配です。」


と、トトリさんを気遣うと、


「あの子達も頑張ってくれて、薬草の稼ぎもそうですが、休みなく家事も手伝ってくれて助かっています。

卵鳥農家のヒョードルさんも少し動ける様になりましたが、片腕ではなかなか前の様には働けずに、奥さんがほぼ全ての仕事をしているので、出来る限り手伝いたくて…」


と言っているが、今がハードスケジュール過ぎる。


僕は、


「トトリさんが、倒れてしまっては意味が無いですよ。

先ほどの工房の女将さんも、トトリさんならば針仕事だけでもギリギリ食べて行ける程だと…

子供達も薬草集めが上手になり、暮らしを支えてくれますから、少し勤めに出る回数を減らしたらいかがですか?」


と、提案すると、


「そうですが、ヒョードルさんが片腕を…」


と困った顔をする。


こんな顔を良く知っている。


前世の私の母もこんな感じだった…親父の残した借金返済の為に朝も昼もなく働いて、命をすり減らして私が中学の時に他界した。


私は両親も家も失った上に、借金が有った時点で親類などとっくの昔から居らず、頼れる人間が一人として居ない中で、唯一助けてくれたのが母がパートに行っていた弁当屋さんの常連の何でも屋の大将だけだった。


大将は中学のうちは自宅に住まわせてくれ、


「高校も出してやる!」


と言ってくれたのだが、


「働いて定時制に通う」


と言った私に、


「よし解った、しかし、勤め先は俺の会社だ!」


と言ってワガママを聞いてくれたりしたのだが、昼は何でも屋で夜は高校に通う私に、


「お前の母ちゃんは頑張り屋だったが、借金を理由に頑張り過ぎて命をお金に変えてしまった。

そんな母ちゃんの事は誇りに思っても良いが、母ちゃんみたいに頑張り過ぎてる人を見たら救わなくてもいいから、いっぺんで良いから止めてやれ。

それは、お前にも当てはまる…キツかったら俺に言え。

大丈夫だ、お前の勤め先の社長は俺だ!

休みぐらいならトラック一杯くれてやる。」


と笑って話してくれた。


僕は今、正に前世の恩人の教えを守る為に、社長ではない僕が用意出来る休みは段ボール一杯かもしれないが、三人の兄妹達と頑張って、トトリさんが休める余地を作ってみたのだ…


「片腕を失ったヒョードルさんとやらは気の毒ですが、その分をトトリさんだけが被らなくて良いんじゃないですか?

職員を他に雇えば良い、」


というと、


「そうですね…」


と、トトリさんは言っていたが、ここから先は僕がズカズカ入れる場所では無いかもしれないので、


「鍛治屋さんの場所は解りますから、三人が待ってますから帰ってあげて下さい。」


と言ってトトリさんと別れた。













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