第23話 鍛治屋のベントさん

村の鍛治屋さんで今朝爺さんから預かった手紙を渡すと、


鍛治屋の大将は、


「親父の頼みを聞いてくれたらしくてすまない。

お袋もあの世で喜んでいると思うぜ。」


と言って背中をバンバンされた。


爺さんの手紙には、


『憎っくきモグラを避ける道具を何でも屋のケンという少年が作れるらしいから、必要な素材が有れば譲ってやれ』


という内容だったらしく、モグラ避けの風車を作ろうと考えていたので針金だけを貰おうとしたのだが、鍛治屋の大将は、


「こんな田舎で武器も作らずに調理器具を作るか直すだけの鍛治屋生活で、刺激が足りないんだ。

俺にも作り方を教えて欲しい。」


と言い出したので、


「別に構わないけど荷車を玄関横に置いておいて構いませんか?」


と僕が聞くと、


「おう、何が積んであるんだ?」


と玄関から荷車を見た大将は「盗まれそうなら中にいれてくれ」と言って紙などを用意しはじめた。


僕が、


「あぁ、モグラを捕まえるのに使った罠ですが、耐久力に問題がありまして…多分盗られたりはしないと思います。」


と答えると、くるりとこちらを向き直った大将は、


「問題が解っているのに改良しないのか?」


と不思議そうに聞いてくる。


僕は、


「紙の上や頭では出来ても、実際に作る技術が伴いませんからね。」


と答えた。


溶接の機材がないので、鉄檻はつくれないから仕方ない…


しかし、鍛治屋の大将は、


「それのアイデアも俺に教えてくれないか?

俺はベントだ。」


と言って握手を求めて来た。


それからは、モグラ避けの風車というかもっと大型の翼の無いプロペラ機のようなものを紙に書いて、


「風を受けてここが回ると、小刻みに支柱にした杭が揺れて、地面の中ではモグラがゴソゴソと知らない者が蠢いていると勘違いして逃げて行きます。」


と説明すると、ベントさんは、


「理屈は解ったが実物が見てみたいな、」


というので、僕が、


「3日も有れば作れるますので見本は例の畑に刺しておきますよ。」


というと、


「おっ、それならば気兼ねなく見に行けるな。」


とベントさんは笑いながら、「デカイのも作れるかな?」と巨大化を企んでいる様だった。


それから、箱罠を一個荷車から下ろして、


「扉が落ちて出られなくなりますが、本体が木材なので壊され易くて…」


というと、ベントさんは、


「全部鉄の檻にしてしまえば?」


と、提案してくるが、


「全部鉄なんて正直重すぎて運べませんよ。」


というと、ベントさんは僕の装備を見て、少し考えた後、


「その鎧見たこと有るぞ、タクトの奴の作品だろ?」


と聞いてくるので、


「狩人のリントさんとミロおじさんとレオおじさんからの贈り物なので作者の方までは…」


と僕が答えると、


「ならば、タクトで間違えなしだ。

アイツのコーティング技術でこの箱をコーティングしたら鉄ほどではないが、壊れ難くなるんじゃねぇか?」


と提案してくれた。


僕は、思わず


「ベントさん天才!」


と誉めると、ニヨニヨしたベントさんが、


「ならば、ちょっと待ってろ。」


と言って外に出ていったかと思うと、ウサギの様な耳のヒョロッとした男性を担いで帰ってきた。


何故か馴れているようで、抵抗一つせずにウサミミ男性は、


「またですか…何の用事か話してくれたら自分で歩きますから…」


と呆れた様に抗議している。


それから、ベントさんの肩からストンと僕の前に立たされた男性は僕の鎧を見て、


「あぁ、酒飲み兄弟熊達の注文の品だね。」


と言って、


「手直しかい?どこかキツかったりしたかい?」


と各部のチェックを始めたのだが、ベントさんに


「ちがう、ちがうタクト!」


と止められて、箱罠の説明をベントさんから受けたタクトさんは、


「ニチャニチャコートは染み込んだ方が強くなるから、一枚板の表面のコーティングよりも、適度に格子状にしたり、丸ごと染み込み易い木材にしたり、それこそ革製にしても強度は出ると思うよ。

ただ四角く作ったこの箱を沈めるほどの粘液が無いから一面毎のコーティングになるから接着面が弱いので現行の耐久と変わらない仕上がりになるね。」


と即座に判断した。


ベントさんはその言葉を聞いて、


「おう、ならば枠を鉄でこしらえて、鋲で止めたら」


というとタクトさんが、


「駄目だな、コーティングしても木材は木材、熱した鉄の棒の頭を潰して固定する鋲では燃えてしまうし、釘状の鋲は刺さりにくくて抜け易い。」


と静かに答える。


だったらと僕が紙芝居の箱の様に横から硬化した板を差し込む四角い鉄の骨組みを紙に書いて、


「鉄枠の隙間に板を差し込んではめてしまえば、端っこの鉄と鉄をくっつけるだけならば出来るんじゃないかな?

なんならココとココに筋交い入れて…」


というと、タクトさんもベントさんもポカンとしている。


僕は、心の中で、


『やべっ…興奮しすぎた…』


反省したが、既に手遅れで、


ベントさんは、


「これならば強度は上がりそうだし、作れそうだ!」


と言い出し、タクトさんは、怪しむように、


「筋交いとは?」


と聞いてくる…

今さらすっとぼけても駄目なので、紙に四角を書いて、


「ほら、四角の角を押すと角度が変わって変形しちゃうけど、三角の角を押しても変形しないよ、だから四角より三角の方が強いんだよ。」


まぁ、ハニカム構造とか強いのは他にも有るけど今回は秘密にしておく…すでに怪しい空気だからね。


簡単な説明をすると、タクトさんは唸りながら


「なるほど…」


と顎を触り、既にテーブルに有ったモグラ避けを見つけて、「これは?」と聞いてくる。


ベントさんが、おもてなしのお茶を鍛治釜戸の熱で沸かしながら、説明しているが、


風を受けて回るという説明を受けた、タクトさんは「えっ!?」と声をあげてから、


「ならば、魔石回路で回せば風が起るのか?」


と騒ぎ出す。


ベントさんは、お茶を注ぎながら、


「おっ、それは良いな! 鍛治仕事中に風が起こせたら少し涼しくなるな。」


と、笑っている。


さも、夢の話をあしらうようなベントさんの反応に、タクトさんは少し不快そうに、


「君はどう思う?」


と、僕に意見を求めてくるので、


「回転数によりますが、風は出せると思います。」


と答えると、


「回転…数?」


とタクトさんは再び怪しむような視線を飛ばしてくる。


ヤバいまた変な事言ったっぽい! と焦った僕は、ベントさんに、


「ベントさん、竹の材料ってありますか?」


というと、お茶を並べながら、


「あぁ、材料ではないが、鍛治台の側で使っていた竹水筒を割っちまったからそれなら有るぞ、

ほれ茶だ、飲んでくれ。」


と言ってから壊れた水筒を持ってきてくれた。


乾いて硬い竹だったが、幼い頃に何度も作った竹トンボを手際よく作り始めたのだが、問題は棒を取り付ける為の穴が開けれない…ベントさんに、


「ここに穴を開けたいんだけど」


というと、


「キリなら工具棚にあるが?」


と言ってくる。


「あっ有るんだ…」


と驚く僕に、


「包丁の柄を付けるからな。」


と当たり前そうに答える。


見れば、工具棚にはヤスリやらなんやらと便利な工具が並んでいた。


ナタのみで頑張る必要無かったな… と思いながらも、竹トンボの羽を軽く鍛治釜戸の熱で炙り、羽を捻り角度をつけて、


「完成!」


と言いながら2人の元に戻り、


「これを簡単にしたのがコレね。」


と、モグラ避けの図面を指さしながら、僕が説明すると、二人とも、


「ほう、」


と、言いながら竹トンボを色々な角度から眺めている。


僕は、お茶を頂いた後で、竹トンボを手に取り、


「これをこう!」


と言って飛ばしてみると、竹トンボは勢い良く天井まで舞い上がり、「カン!」と天井の梁にぶち当たり落下してきた。


それからは、


「外で一度飛ばそう!」


と、おっさん二人がキャッキャと竹トンボを持って外へと出掛けて行って、数分後に、


「屋根に止まった…」


とションボリしながら帰ってきた。


僕が言うのも何だけど、子供かよ…

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