第24話 二回目の農業指導
朝晩涼しく過ごせるようになり始めた秋の口に、再びドットの街に行く日を迎えた。
薬草担当の三兄妹は益々手際も良くなり、安定して薬草を集めて来れる様になった。
それに、トトリさんが、卵鳥農家の手伝いを今までの半分に減らし、子供達が寺小屋の日は休みにして、午後からは家族団欒の時間にしてくれたので、体調も良く、手が付けられなかった子供達の服をやっと作れる時間が確保出来そうだと語っていた。
片腕を失くしたご主人も、何とか片腕で餌やりや卵集めなど出来る事を出来る様にやり始めたらしく、
「アイツにもらった命の限り頑張ります。トトリさんも、大変だったのに、本当に有り難う。
と泣いて感謝してくれて、きっと旦那も喜んでいると思います」
と言っていた。
そして隣村の発明コンビはモグラ避けの制作も手伝ってくれたのだが、ついでに懲り始めた竹トンボで楽しそうに遊ぶ姿が子供達に見つかり、玩具として人気が出てしまい、広場近くの家の屋根に止まりまくる事態になり、
生産性を上げる為に、ついには木工細工職人さんまで巻き込み、結局、先日ドットの町に馬車を飛ばし、錬金術師ギルドで魔石回路を仕入れに行くついでに木工ギルドで竹トンボを登録して、隣村発祥の玩具竹トンボが町の雑貨屋に並び現在密かなブームらしい。
追加で参加させられた木工職人のプギーさんという手先の器用な太ったおっちゃんも一緒に、錬金ギルドで購入にた魔石回路を使い、風を出す装置の制作をはじめ、もうすぐ出張で居なくなるというと、三人があまりにも色々な意見を求めてくるので、ヤケクソで簡単な説明を書いた扇風機のイメージ図を渡しておいた。
「求めていた物はコレだ!」
と騒いだ三人は、次に帰ってくる頃には扇風機を産み出しているかもしれない。
そして、マチ婆ちゃんにも留守にすることを告げると、ドットの町でのお使いを頼まれた。
なんて事は無い物で、飴を瓶ごと何種類か買って来て欲しいという願いだった。
いつもはココの町の息子さんが色々な物のついでに送ってくれた飴だが、何か大きな仕事が入って肝心なマチ婆ちゃんに送る資料が遅れてしまうらしく、つまり飴も遅れてしまうのだ。
今までは、マチ婆ちゃんの飴を楽しみにしていたのはアルぐらいだったが、現在あげたい盛りの幼子が三人に増えて消費量も勿論増えてしまい在庫切れ間近なのだそうだ。
「半月は帰って来ないけど?」
と聞くと、マチ婆ちゃんは、
「先日最後の一瓶を開けたところじゃから何とかなる。」
と言っていたが、あの子ら1ヶ月で一瓶食べるのか?歯磨きは推奨しとかないとな… と少し心配になったが村での大きな心配事は特になく、町での仕事に集中出来る状態になった。
お昼前にドットの町からファーメル家の馬車が到着し、馬車に乗り込もうとすると、狩人のリントさんとエリーさん夫婦が、
「リリーちゃんの事お願いね。
帰ったらまた報告聞かせて!」
と不安顔で送り出してくれた。
それもその筈、前回ダント兄さんが燃え尽き気味でリリー姉さんが不安がっている話をして、
今回、少し僕に案が有る事を告げているので期待してくれているようだ。
「任せて下さい、出来る限り頑張って来ます。」
と伝えてドット町へと出発した。
前回同様に丸一日かかり、翌日の昼過ぎにはドットの町に入り、いつもの宿屋に拠点を構えた。
そして、翌日の朝一番にファーメル家の菜園担当の二人が、
「師匠、お迎えにあがりました。」
とやって来て、ファーメル家の方々に挨拶をした後に、ファーメル家の一室を借りて、連作障害についての抗議を始めるのだが、
前回と明らかに違うのが、何ヵ所か回った農家の方々が、僕が入室するなり
「ガタっ!」
と立ち上がり、
「師匠、お待ちしておりました。」
と、深々と頭を下げたのだ。
驚くのを通り越して引いている僕とは正反対に菜園担当の自称弟子のマットのおっさんは、「そうだろう、そうだろう。」と満足そうに頷いていた。
講義が始まっても、皆さん静かで、
「…ですので、土の中での特定の栄養だけが使われて…」
と説明していると、前回であれば、
「ガキが知った様な…」
と言っていた厳ついおっさんが、
「師匠、私は余り頭が良く無いもので、もう少し分かりやすくなりませんか?」
と頭を下げるほどで、僕は驚きながらも少し嬉しくなり、
「では、え~っとお名前は?」
と聞くと、厳ついおっさんは、
「バンドと申します師匠!」
と元気よく答える。
僕が、
「では、バンドさん何か好きな食べ物はありますか?」
と聞くと、バンドさんは恥ずかしそうに、
「エールが好物です…」
というのを聞いて、僕は、「コホン」と咳払いして、
「では皆さんの畑がドットの町になったと考えます。
土の中…つまり町の中には肉や野菜、それに魚など食べ物が沢山あります。
そこでバンドさんに暮らしてもらうと、パンや肉も食べますが、エールは好物なので一番飲まれます。」
というと参加した農家の方々は「ほうほう…」と聞き入っている。
僕は続けて、
「では、町いっぱいにバンドさんばかりが何人も住めばどうなるでしょう?」
というと、バンドさんの知り合いらしい農家さんが、
「町中バンドならエールが町から消らぁ!」
と言って笑うので、僕は、
「はい、そうです畑を耕して栄養を混ぜ込む…
そう、つまり町に食材が馬車で届いても、次の月もバンドさんばかりの町は慢性的にエールが足りなくなります。
エールが不足した町で数ヶ月、バンドさんはどうなりますか?
はい、バンドさん!」
と、指名してあげると、
「何ヵ月もエールが満足に飲めないと、やる気が無くなってしまいます…」
と答える。
「はい、それが連作障害の簡単な説明です。」
と僕が説明を終えると、「おー」と声が上がり、バンドさんは、
「有り難うございます。
では、どうしたら私という作物はエールをずっと飲める様になりますか?」
と、バンドさんなりに理解した様で、上手い例えで質問してきた。
僕は、ニコリと笑いながら、
「実に良い質問です。」
と、池上っぽくバンドさんを誉めてから、
「対策方々は幾つかあります。
まずはエールが無くなった町からドットさんを数ヶ月侵入禁止にして、その間に、魚好きの人だけ、次は肉だけと変えていくと、飲まれないエールが酒場の倉や商店の倉庫に貯まっていきますね。
そこでまたバンドさんの登場となれば、バンドさんはやる気を失くさずに済みます。
つぎは、町を4つに分けて、今月は北の区画はバンドさんで西は魚好きで、東は肉好き、南は野菜好きにして一月毎…つまり作付けシーズン毎や年毎にローテーションして満遍なく食糧が減る様にする。
そして、最後は植物魔法で植物活性…つまり、元気になる物を魔力で作り出して直接流し込んで貰うという3つが分かりやすい対策ですね。」
というと、皆理解してくれた様で頷いていた。
そして、講義の時間が終わり、
「はい、長くなりましたが、今回の講義はここまでです。
明日からは各自の畑を見に回りますので、質問はその時にお願いします。」
と言って部屋をあとにした。
背中に、
「師匠、有り難うございました。」
の声を聞いて、何かくすぐったい気分になった。
そして僕の後ろでは、菜園担当のマットさんが勝ち誇ったように、
「好き放題言っておったのに、やっと師匠の偉大さを理解できた様ですな。」
と言ってついてくるが、その横から『お前が言うか?』と若い菜園担当のリードさんの目が言っていおり、僕もそう思うが、あえて放置した。
そして、翌日からは各農家を回りジャガイモの生育を確認しながら、様々な質問に答えた。
「どの作物が何好きかわからないので、もしかしたらエール好きの4人をローテーションしないか心配です。」
みたいな質問には、
「次回に教えますが、大体はトマトやナスみたいに実がなる野菜やキャベツみたいに葉っぱの野菜などと分けるのだけど、注意しないと駄目なのが、ジャガイモとトマトなどは親戚だからね、ガラッとちがうのを植えないと、似たような栄養を使うから注意だね」
と言ったら、大概の農家の人が、
「バンドの弟も妹もエールが好きだからな…」
と、言っていた。
講義の例えに使わせてもらったバンドさんの兄妹まで流れ弾で酒飲みイメージが定着しないか心配になりながら、そっと心の中で『ごめんね』と言っておいた。
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