第21話 薬草集めとお勉強

やっぱり田舎は静かで良い…

少しずつ暑さが和らいできたとはいえまだまだ日中は汗ばむこの頃、薬草担当の三兄妹は元気に村近くの草むらや林で薬草集めをしている。


長男のトールを先頭に突き進みながら薬草を探し、次男のギースが回収という流れで、青々と伸びる背の高い草のジャングルの中でも、効率良く採集出来ているようだ。


そして、末っ子のシータちゃんはお土産の帽子をかぶり、水筒とポシェットを肩から下げて、兄達が草むらから帰って来るのを僕が働いている村はずれの畑の側で待っているのだ。


この畑の持ち主の爺さんから、小型魔物の被害があり困っていたらしく、常連さんからの口添えで、


「ニチャニチャの群れを倒したのなら角ウサギとかでもでも大丈夫だろう。」


ということでご依頼が有った、何でも屋ケンちゃん初の討伐系依頼なのである。


シータちゃんが、兄を待ちながら僕の作業を興味深く見ながら、


「シショー、その箱なぁに?」


と質問してくるので、僕は、


「これかい?

後でお兄ちゃん達が帰ってきてから詳しく説明するけど、この畑で悪さしている魔物を捕まえる道具だよ。

今は巣穴まで続いてるかも知れない穴が有ったから、出口近くにこの木の箱を置いて、中のピンに刺さった美味しそうな餌を食べてたら、ほら」


と、実際に手動でストンと鉄製の扉を落として見せると、シータちゃんは、


「わぁ!」


と驚いていた。


そんなこんなしていると、草むら探険隊が帰還して、シータちゃんは汗だくの兄二人に、ポシェットからお菓子を取り出して一つずつ配り、


「お水もドーゾ」


と水筒を差し出して、女子マネージャーのような働きをしている。


一休みした二人は、


「師匠にもらった装備のおかげで採集がはかどります。」


と言ってナタやハサミを手にしてニカッと笑い、シータちゃんも水筒とポシェットを持ち上げニカッっと笑ってみせた。


僕は、


「喜んでくれてるみたいで嬉しいよ。

マチ婆ちゃんのお手伝いを頑張っているご褒美だ。」


というと、兄二人は、


「もう一回りしてきます。」


と再び薬草採集の旅に向かい、草むらを掻き分けて行った。


シータちゃんも、畑の柵周りで、薬草を探しているので、作業の合間に少し気にかけながらも、自分の仕事を続ける。


穴が畑の中に有ったので、ウサギ、ネズミ、モグラの可能性が高いが、問題は狩人のリントさんから教えてもらった箱罠が、扉以外木製の為にボス的な大物の場合、破壊される事があるのだ。


罠自体には警戒心も薄くアホみたいにかかってくれるのだが、一番倒したいパパ、ママ魔物は取り逃がす事があり、自宅の近くならば、夜の見回り等で、罠を壊される前に川にチャプンとしたり、ナタで尖らせた竹槍で「エイヤッ」とするが、ここは他人様の畑であるので、仕方ないが今晩はこの畑で野宿をして、罠を見張るしかないのだ。


お昼頃に薬草採集を終わらせた二人が戻ってきて、僕の作業を眺めながら休憩をしていた。


僕は、作業を終わらせ、


「よし、準備も済んだし、依頼主に報告して家に戻るぞ、勉強が待ってる。」


と三兄妹に言ってから、少し離れた依頼主の家に寄り、夕方また来る事を告げ、帰りに少し遅い昼飯として村のパン屋さんや市場で食材を買って三人の家にむかう。


三人と一緒に昼食を済ませるのだが、これは日頃忙しい三兄妹の母親トトリさんの家事を一つでも減らせればと、でしゃばらせてもらっているのだ。


トトリさんは昨年旦那さんを亡くされ、現在は女手一つで三人を育てている。


朝早くに兄妹の朝食と、昼のサンドイッチの様なお弁当を作り、養鶏農家へと勤めに向かい、3時頃迄働くと、買い物をして帰宅して、晩御飯を作りながら家事をこなし、しばしの家族団欒の後に仮眠を取り、夜更けに起きては、内職の針仕事を小さな魔石ランプの光で行い、明け方にはまた料理をして勤めに行く生活をしている。


なので、週三回の薬草採集からの家庭教師の日には昼食は僕が担当しているのだが、勿論三兄妹にも手伝ってもらい野菜炒めや簡単なスープを作る事も有るが、本当ならば、母の味を教えてあげたいが、トトリさんでは忙し過ぎて仲良くお料理する時間も無いから、男の料理で悪いが特に長男のトールに教え込んでいる。


次男のギースは包丁などはまだ危ないので、トールの助手的なポジションで、末っ子のシータちゃんは洗い物や配膳のお手伝いをしてくれて、その他、掃除、洗濯なども家庭教師の一環で教えているので、トトリさんからは大変感謝され、お手伝いをして誉められた三人は益々やる気になってくれている。


良い家族だ。


今日の薬草の乾燥準備も終わり、井戸でさっぱりとした三人は、協力して洗濯をこなし、いよいよ勉強を開始する頃にようやくトトリさんが帰宅する。


「お母さんお帰りなさい。」


と、やっとお勉強の為に座った三人は、勉強もほったらかして出迎えに出てしまうが、大好きなお母さんの帰宅であるので仕方ない。


「ケンさん、何時もありがとうございます。」


と言ってくれて、


「いえ、いえ…」


としか返せない自分の語彙力の無さを恥ながらも、多分クタクタなのにニコニコと夕飯の支度に入る母親の強さに少し感動を覚えてしまう。


僕は、


「よし、さっと勉強してからお母さんとお話の時間にしようか。」


と言って三人を居間へと誘導して、二時間程度の勉強を見てあげるのだ。


トールはお兄ちゃんだけあり、文字もすらすら読めるので、筆算を重点的に教えており現在は指を折らなくても足し算や引き算が出来る様になっている。


弟のギースは、文字を書くのは苦手だが、読むのは問題なくなったので、本を沢山読む様になった。


妹のシータちゃんは、僕の作った文字カルタで、文字を覚えているので、近に絵本でも書いてプレゼントしようかと考えている。


寺小屋の日や、僕がドットの町に居る間は、上の兄妹が、下の者の勉強を見ているので、寺小屋でも急に学力が伸びた事に驚かれているらしいが、三兄妹は僕からの家庭教師を秘密にしているらしい。


「やり方を教えて」とか言われたら大事な仕事の時間や母親の為に家事を手伝う時間が削られるからと、長男の発案だそうだ。


そんな感じで勉強も終わると僕は、「では失礼します」と、家族団欒を邪魔しない様にお暇する。


トトリさんは、毎回の様に


「ケンさんも夕食を…」


と、誘ってくれるが、毎回「集落に着くのが夜になりますので…」と言って帰っている。


しかし、今日も「暗くなりますので、」と言って団欒を邪魔しないように帰ろうとすると、シータちゃんが、


「かーさん、シショーはノズクだよ」


と報告するが、トトリさんは、「ノズク?」と、首を傾げる。


すると、ギースが、


「違うよノジクだよ」


と訂正するが、トトリさんは「ノジク…」と益々混乱している。


見兼ねた長男が、


「師匠は、依頼で畑を荒らす魔物の討伐の為に野宿するんだよ。」


と説明すると、とたんにトトリさんの顔が青ざめ、


「大丈夫なのですか?危なくないのですか?!」


と、取り乱す。


トールが、


「大丈夫だよ、熊の魔物では無いから、ウサギやネズミだからっ!」


と母親をなだめながら、ポツリポツリと事情をはなしてくれた。


昨年の冬前に、知り合いの養鶏農家の卵鳥という魔物が被害に合う事が続き、農家の主人から昔冒険者でコンビを組んでいた三兄妹の父親さんに相談が有ったそうだ。


農家の主人と、親父さんは「森狼だろう」と予想していたのだが、現れた熊魔物に返り討ちにあい、農家の主人を守る形で父親さんは命に関わる深手を負い、農家の主人は片腕を失い、親父さんは最後の力を振り絞り熊の片目をくり抜き撃退したのだそうだ。


「ケンさんは危ない事しないで下さいね。」


と言ってトトリさん達に送り出されたが、

そんな嫌な記憶を僕が不用意に思い出させてしまったようで、申し訳け無い気持ちのまま依頼主の畑へと向かった。

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