第20話 初めての出稼ぎの終わり
はぁ~、農業指導でドットの町の農家を巡り、弟の家庭教師としての悩みを聞いて、不良冒険者に絡まれて衛兵さんの厄介に1泊牢屋に宿泊する事になり、兄夫婦の危機的状態を知るという盛りだくさんな二週もやっと終了し、明日には集落に向けて出発するので、今日のうちにお土産を買ってくる事にした。
それは、今朝早くに宿屋までファーメル家の使用人という男性が来たのだが、たぶんお嬢様に勉強を教えて自信を失った爺やさん、その人だと思われるその男性が、
「ケン様、この度は初回の農業指導、誠にありがとうございました。
ニック様よりお預かりました今回の依頼料をお持ち致しましたので、どうかお納め下さい。」
と、小袋を渡してきた。
小さな巾着には数枚のコインが入っているらしく、
『そういえば、アルのお給料や成功報酬の話に必死になり、自分の講師料は決めて無かったかも…』
と考えていると、男性から、
「ケン様、どうぞ中をお確かめ下さい。」
と言ってくれたので、遠慮なく小さい巾着を開けると、中には二枚の銀貨が入っていた。
前回の森狼と今回の薬草でお小遣いが小銀貨三枚程有るし、小銀貨五枚でお土産を…
と思いながら巾着から一枚の銀貨を取り出すと、
「なんじゃこりゃ!」
と、思わず声を上げてしまった。
なぜならソレは、僕の思っている小銀貨より分厚く大きいのだ。
一瞬固まりながらその銀貨を再度確かめて、
「大銀貨じゃないですか!?」
と、静かに驚く僕に、爺やさんは、
「すみません、ファーメル家の財政では、ケン様に十分な金銭を…」
と頭を下げるので、僕は慌てて、
「違う違う!貰い過ぎです!!
旅費も宿泊費もそちらもちで、力仕事も無くて自由時間も頂いて町での観光すら出来て、小銀貨二枚でも納得どころか少し儲けた気分です。」
と言って小袋を返そうとすると、爺やさんは、
「であれば、その金額は正当な対価でございます。
ケン様のあの知恵が近隣の村で役立てば、それどころではない価値の情報…中央に先駆けて広めて頂くにはむしろ足りない程でございます。
主からは、今回を含め技術指導での記録と、実際の成果をまとめて中央へ報告すれば、ケン様の功績が認められ、多額の報酬をお渡しできるかと申しておりました。」
と、頭を下げるのだが、前世の知識で自分だけが儲かるのは心苦しく、ましてや功績など認めて貰う訳にはいかない。
そこで、僕は、
「あの~、それなんですが、
功績は要りませんし、講師料以外の金銭も必要ありません。
ファーメル家の功績として役立て下さい。
どうしても、お金が余って仕方がないという事態になって僕に払いたいのならば、変わりに孤児を助けてあげてください。
僕達兄弟も捨て子の孤児でしたので…
ただ、お金やご飯を与えるのでは無くて、知識や生活出来る仕事を与えて貰えたら嬉しいです。」
と伝えておいた。
爺やさんは、
「その様に主には伝えておきます。」
とだけ答えて帰ってしまったのだが、大銀貨二枚は貰いすぎであり、懐に入れて歩くにはドキドキしてしまう。
どうしよう、村で待つ薬草担当の三兄妹に、新しい採集カゴやら採集用のハサミに、長男には草むらをかき分ける用のナタをプレゼントする予定だったが、それだけでは、余りすぎてしまうが、かといってダント兄さんの為にこれ以上使うとリリーさんが恐縮してしまいそうだ。
育ち盛りの三兄妹の母親は針仕事が上手らしいから、布を買って帰って、子供達の服を作れる様にプレゼントするかな?
育ち盛りで服もきつくなるし、なんと言ってもマチ婆ちゃんの薬草を集めるのに、服を破いたりしてるからな…
などと考えて、少し丈夫な生地を買って帰る事に決めて町にくりだした。
町に出て、楽しくショッピングを開始して、始めに購入した丈夫そうな採集用のカゴにお土産で購入したものを次々に放り込み、大通りを大荷物を背負って歩いていると、あまり会いたくないヤツに出会ってしまった。
あの時の糸目と小太りだの冒険者だ。
糸目が、
「あれぇ、兄貴じゃないっすか?
あれから見ないから心配してたんすよ。」
と、フレンドリーに俺に近づいてきた。
少し身構えながら僕が、
「なんだ、またカツアゲか?」
と不機嫌そうにあからさまな嫌味をいうと、小太りが、
「その節はスンマセンでした。
俺らはアイツと手を切って、今は二人でコンビを組んでるんです。」
と頭を下げる。
「二人でって、あのメスガキ…じゃ無くて女性冒険者達は?チームじゃ無かったの??」
と聞くと、糸目が、
「あぁ、あれはアイツの女達でしたが、アイツが捕まった翌日には他の冒険者に乗り換えたらしいすよ。」
と教えてくれた。
リーダーは一度に二人を…十代半ばなのに、さ、さ、3ぴ…いや、変な想像は止めておこう。
そして、小太りは、
「俺達、剣術スキルのあるアイツが怖くて一緒に悪い事もしていたけど、兄貴と喧嘩した時にアイツも負けると解って勇気が湧いたんだ。」
と鼻をすすり、
「悪い事をしたことは消えないけど、悪い事を止める事は出来る…アイツの言いなりは止めるって…」
と反省している様子だった。
「まぁ、解ってくれたなら良いよ、もうカツアゲなんて止めなよ。
あの時みたいにゴキブリ呼ばわりされたら、こっちも気分が悪し。」
という僕の何気ない言葉で、二人はサッと青い顔になり、『へっ?』と驚きながら2人の変化に理由を聞くと、すでに僕は、3人相手にしぶとく生き残った武勇伝と共に駆け出し冒険者を中心に『ゴキブリ』の2つ名がついているらしい。
不本意な2つ名だ!!
糸目が、
「兄貴は2つ名って嫌っすか?」
と聞いてくるので、
「2つ名は別に良いよ、ゴキブリと呼ばれるのが嫌なのっ!」
と怒ると、小太りは、
「任せてくれ、兄貴にふさわしい2つ名を俺らが広める。
ゴキブリなんていうヤツは俺らが…」
と物騒な事を言いそうなので、僕は、
「もう、別に良いよ…
こっちは、冒険者が本業じゃ無いし、ドットの町にいる間に影でゴキブリと呼ばれても…自宅は別に有るから明日にはドットの町からも居なくなる。」
というと、糸目が、
「えっ、兄貴出て行っちゃうの?」
と寂しそうに言うが、
「出て行くんじゃ無くて、今、出て来てる状態なのよ。」
と答える僕に小太りが、
「じゃあ、兄貴とはもう会えないのですか?」
と聞いてくるので、
「来月にはまた来るよ。」
というと、小太りはニカッと笑い、
「なら、兄貴、楽しみにしていて下さい。」
と言って晴れ晴れとした顔で冒険者ギルドの方に二人で消えて行った。
「変なヤツに懐かれたな…」
と呟きながら買い物の続きを楽しみ、大荷物を背負って宿屋に戻り、集落に帰る準備に取りかかった。
長男トールには、カゴとナタ、
次男ギースには、リュックとハサミ、
長女のシータちゃんには、肩掛けポシェットと水筒と帽子のお出かけセットで、三人の母親には生地を5本、
ミロおじさんとレオおじさんには蜂蜜に、
リントさん夫婦には、現在のリリーお姉ちゃんの状況説明と、ドットの町で流行ってるお茶菓子セットで、
最後はマチ婆ちゃんの為に薬の調合の時に使う可愛らしいエプロンを購入してある。
トール達だけお土産が有ったらマチ婆ちゃんが可哀想だからね。
帰ってまた半月は三兄妹を鍛えて薬草で食べて行ける様にしなければ…
来月には、アルの家庭教師も何か反応があると思うし、ダント兄さんの方も在庫が出来て、ピーラーとスライサーを町の皆様に広めるチャンスだ。
もしもの時用に、第二、第三の作戦も立てなければ、ダント兄さんが、リリー姉さんに捨てられて、前世の僕の様に、酒に逃げる寂しい人生になってしまう…
さぁ、忙しくなるぞぉ~!
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