第98話 厳しい冬の出来事

集落では初めてでは無いだろうか…昨夜から今朝にかけて、一晩で1メートル近く雪が積もり、目と鼻の先のお隣に行くことすら躊躇われる程の年明けのある日、


『こんなに雪が降ってるのはこの辺りだけだろうか?

王都でのパーティーにアイテムボックス持ちと側近の方々を引き連れて行ったポルト辺境伯様の御一行は無事だろうか?』


と思いながら、雪も水だから水操作で動かせないかとチャレンジしながら、集落の中の各家を繋ぐ為の道と、我が家周辺の雪かきを家族総出でしている。


年末に各地のお菓子の準備もおわり、春にはそれぞれの町でお菓子屋さんがオープンする段取りに成っており、辺境伯様は各地のお菓子のサンプルを持って、国王陛下主宰のパーティーに余興も兼ねて、お菓子を試食してもらったついでに、お菓子巡りの旅の企画を案内する為に国王陛下の新年のパーティーに向かったのだが、念話師さんからの情報では、既に奥様達の連絡網で、お妃様や王女殿下をはじめ、中央の貴族の女性陣にうわさが回り、皆様が辺境伯御一行の到着を首を長くして待っているらしいと辺境伯夫人のお二人からの伝言を報告してくれた。


あとはお貴族様が盛り上がってくれたら言うことなしだな…と思いつつ、目の前の銀世界に向かい魔力を流すと、


「コイツ、う、動くぞ!!」


と思わず連邦の白いヤツのパイロットみたいなセリフが出てしまう程にいとも容易く雪の塊を動かせた。


軽く圧縮させて段ボールぐらいの四角い塊にして道の端に置くのを繰り返していると、ヘトヘト状態のカトルに、


「ケン兄ぃ、こっちも手伝って、サーラスは身体強化でサクサク雪かき出来るけど…」


と応援を頼まれたので、僕は、


「任せろ、前方の白いヤツは僕が一番上手に動かせるんだ!」


と、レイさん家の息子さんみたいな気分で返すと、カトルに冷静なトーンで、


「ケン兄ぃ、あれは雪っていうんだよ。」


と、前方の白いヤツの名前を教えてくれた。


『知ってるよ…気分的に無理やり機動戦士ゴッコでもしていないと、雪かきなんて大変じゃないか…』


と、思いつつも、「そうだね…」とだけ返しておいた。


家の周辺を雪かきしてくれているシェリーさんが、


「横に積み上げてもこの量は邪魔ね…」


と、雪山を軽く蹴っ飛ばしながら困っているので試しに魔力を流してシェリーさんが家の横に積み上げた雪を雪ウサギの雪像に変えてみた。


すると家の裏手を姉妹で雪かきしてくれていたナナちゃんとキキが一仕事終えて玄関口に現れて、雪ウサギを見てシェリーさんと、


「可愛いね。コレ!」


と喜んでくれたので、僕も少し誇らしく、


「いい感じだろう。」


とドヤっていると、ナナちゃんが、


「とーちゃん、コレ、とーちゃんのカバンに入らない?溶けちゃうの可哀想だよ。」


と言ったのを聞いて、ウチのナナちゃんは可愛いなぁ…と思った後すぐに、『ナイス、その手が有った!』と、先ほどの前方の白いヤツゴッコで作った雪ブロックをマジックバッグに放り込む事にした。


ナナちゃんには、


「これは雪ウサギさんと言って、早く暖かい春が来ないかな?ってここで見張りをしてくれるんだ。

だから溶けて無くなったらお仕事が終わって自由になるだけだから溶けても可哀想じゃないよ。」


と言っておいた。


流石にカバンにしまっても、シェリーさんが力任せに掘り返した雪は土を多く含んでおり使い道が、雪ウサギしか無いからだ…

でも、ナナちゃんはそれで納得してくれた様で、


「では、見張りは任せた、ブチぴょん!」


と言いながら、雪と土のブチ模様のウサギの頭を撫でていた。


それからは、魔力切れにならない様に注意しながら、雪ブロックを作りマジックバッグに回収してまわる。


『これで、夏場に部屋に金だらいでも置いて雪ブロックを出せば少しは涼しく過ごせるかも?

魔石扇風機と一緒に使えば殆どクーラーじゃないか。』


などと思いつつ、集落の中の道を全て開通させた僕は、マジックポーションのせいで水腹となりトイレへと向かう為に自宅に戻ると、我が家の見張り番のブチぴょんが、サーラスの手により立派な角が生やされ、角ウサギへと改造されていた。


サーラスはその作業終わりに、


「足りないから付けといたわよ。」


とドヤ顔をしていたので、「おう。」とだけ返事をしておいた。


その後、体が冷えたので、家族皆でスープを飲みながら、薪のストーブで暖を取っていると、トトリさん一家が、


「スミマセン、ウチの家の前まで雪かきしてもらって…」


と、焼きたてのパンを持って来てくれた。


最近村では天然酵母パンをパン職人のアイナさんが奥様方に広めて、村の中だけで楽しむルールで、ロールパン等をはじめ、ベントさんの作った金型を使い自宅で食パンまで作っている奥様まで現れている。


パンの特許はアイナさんに渡してあり、パンの研究と拡散の為の資金にしてもらっているので、パン文化はアイナさんにお任せしてある。


アイナさんは今回の菓子作りがきっかけで、弟子が各地に出来たらしく、夢はパンレシピを沢山覚えて、弟子達と各地にパン屋さん開く事らしい。


『頑張ればアイナさん!』


と、心の中でエールを送りつつ、食べたいパンのイメージと、必要な素材の知識を伝えると、数日経てば完成してくる現在の体制に凄く満足している。


トトリさんからの頂き物のパンと、我が家特製のベーコンと玉ねぎのスープでお腹が満たされると、雪かきで疲れた家族はウツラウツラして寝てしまていた様で、目覚めた時は風が吹き込まない様に雨戸も閉めた家は薪ストーブの炎の明かりだけで薄暗かったので、


「今、昼かな?夜かな…」


と呟きながら魔石ランプを灯して、部屋を明るくするが、時計等無いので今が何時かが解らない…仕方なく、寒さを堪えて玄関を開けて外にでて、僕は膝から崩れ落ちた。


なんと新たに30センチ程雪が積もっていたのだ。


雪雲の向こうに太陽らしき光が漏れているのでまだ昼らしいが、静かに降り積もる雪にウンザリしながら再び雪かきを始める…こんなに雪の多い冬は前世以来だ…隣村の爺さん婆さん大丈夫かな…



大雪から一週間ほど雪に隔離されていたが、晴れが続いて、なんとか自分だけの幅ならば小路を作り村まで行ける様になった。


中心地も通りすぎ、心配で一番に来たのがマチ婆ちゃんの薬屋だが、扉に鍵がかかり、窓も開いていない…

僕は、一瞬頭に過ったイヤなイメージを消そうと、


「マチ婆ちゃ~ん!」


と、声をだして扉を叩くが、返事が無い…僕は半ばパニックになりながら扉を叩いて、名前を呼び、中を確かめようと、窓の隙間をさがしてウロウロしていると、ご近所さんが、


「マチルダ婆さんならば、ダント商会で寝起きしてるから春まで戻らないって…あれ?ケンちゃんに言って無かったったんだ。」


と教えてくれた。


恥ずかしいやら、悲しいやら、安心したやらと、なんとも言えない気持ちのまま、代官屋敷近くのダント兄さんの商会に行くと、店の中の一角のマダムマチルダの石鹸の棚の前に薬屋の出張所の様なコーナーがあり、マチ婆ちゃんがダント兄さんの娘のリンちゃんをあやしながら店番をしていた。


隣村に行く途中に顔を出していれば…と悔やみながら、ダント商会に顔を出してから集落にもどり、魔力を使い過ぎた事を理由にしてふて寝した…心配して行ったのは僕だし、ダント兄さんだって善意でマチ婆ちゃんを避難させてくれたのは解る。


でも、あの店の感じは、大分前から計画された避難だっただろうに僕には教えてくれなかったのか…と少し悲しかった。


ただ、少し元気の無い僕を心配してくれたシェリーさんが、僕を慰めてくれて、色々と元気百倍に成った僕が、その日どうなったかは秘密にしておきます。



そして、かなり溶けたブチぴょんが、厳しい冬もようやく終わり、春が遠くに来た事を告げている様な昼下がり、念話師さんから、


「辺境伯様より、無事にお菓子巡り宣伝作戦成功との一報が入りました。

なお、ミリアローゼお嬢様とアル騎士爵様をこちらに送り届ける時に一緒に村を訪問するから、我々も結婚の儀に参加するので宜しく頼むと、申されておりました。」


との報告を受け、色々な事が近づいてきたのだな…と、気合いを入れる僕だった。

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