第99話 弟の帰還
最近、アルの代官屋敷への人の出入りが激しく成っていて、中心地のギルド通りにも知らない荷馬車や知らない方々が見られる様になった。
アルは既に魔法学校を主席で卒業したらしいのだが、何やら手続きなどがあるらしく、こちらへ到着が5月の頭頃になるらしく、アルが代官に正式に就任して、初めて正式な村として動き始める。
既にアルの家名や村の名前は決まっているらしいが、それもまだ秘密に成っており、アルの就任式の時に発表となり、そこから各ギルドの職員がアルに挨拶をして、村でのギルドの活動を許可されるための手続きをして初めて村で様々な登録等が出来る様に成るのだが、既にギルドの建物は完成していて、引っ越し作業と、スムーズに業務が開始出来る様にギルドの職員さん達は、アルの家臣代表のケビンさんと弟子のコビーさんの文官職コンビと準備を進めてくれている。
徐々に完成に近づく村を、毎日村長が楽しそうにパトロールしている姿を見て、
『僕よりも村長さんはこの景色を夢見て何十年も頑張って耐えて来たのだろう…』
と思うと、こちらまで嬉しい気持ちになる。
色々な店や、工房、酒場など新しい建物が並び、入植用の仮設住宅の様な長屋は取り壊されるのかと思っていると、何かの施設に改築されている…完成に近づきながらもまだ変化を続ける村の中心地を眺めながら、蒸留酒工房行くと、いいもの製作所の酒チームをまとめる錬金術師のタクトさんから、
「地下の熟成蔵がパンパンに成っていて、代官就任パーティーでかなりの数を出しても、毎年熟成する樽が増えるので、熟成蔵を新設して構いませんか?」
と相談された。
僕は、
「蒸留酒の販売利益も有るし、馬車の利益だって、いいもの製作所名義のお金が有るだろから、蔵なんて僕に相談しなくて良いからタクトさんと、メンバーで決めたら良いんじゃない?」
と言ったのだが、タクトさんは笑いながら、
「いやいや、大きな決定は所長のケンさんの許可が…」
と言い出したので、
「ちょ、ちょ、ちょっ!いつから僕が所長なの?」
と驚くと、タクトさんはキョトンとしながら、
「へっ?初めからですけど…」
と、言い出したので、一瞬慌てた僕だったが深呼吸で自分を落ち着けて、
「所長ってなにするの?」
と質問すると、いいもの製作所名義のギルド銀行の資金を動かす時の許可と、今まで通りのアイデアの提供だと教えてくれたので、
『なら、良いか…』
と諦める事にした。
蒸留酒工房に顔を出したら、隣村の田んぼの手伝いで、田植えといった何でも屋ケンちゃんとしての仕事に移る…昨年配った少量の種籾を各農家さんが見事に育て上げて、今年の収穫からようやく村で米が食べれる様になりそうである。
何でも屋ケンちゃんの見習い職員であるカトルとサーラスとギースの三人がベーコンや薬草集めの合間に手伝ってくれて、仕事がはかどるので大変助かっている。
勿論、シータちゃんとナナちゃんコンビは、鳥小屋の掃除の手伝いと、花畑の世話…これは僕もたまに水撒きに参加しているが、シェリーさんとのデートコースに花畑を使わせて頂いているので文句は無い…そして、少女二人はエリー商会の専属調香師として頑張っている。
あと、キキはシェリーさんと家の手伝いと、石鹸工房の職員としてパートに出ているので、我が家は、なんだかんだで全員が仕事をしているのだが…
『あれ、僕の本業だけ不定期だし、シェリーさんを食べさせて行くのには不安かも…』
と感じてしまった。
前世でも不安定な仕事で有ったが、何でも屋同士の横の繋がりで助っ人仕事や、でっかいイベントでの屋台などのスタッフとしてのアルバイトの斡旋も有ったので何とかなったが…と考えていると、不意に、
『斡旋?、仕事の斡旋といえばもうすぐ冒険者ギルドが村に来てしまうと何でも屋は廃業になるかもしれない!?』
と気がついてしまい、これはシェリーさんと相談しなければ…と、将来について悩みながら、何でも屋の仕事に汗をながした。
村が発展すれば何でも屋の仕事が冒険者ギルドのお手伝いクエストにまわるので、モグリのアルバイトの様になっしまう事など考えて無かった僕は、今になり何でも屋の仕事が出来なくなる恐怖をその日の夜、居間でシェリーさんに相談してみると、
「別に良いんじゃない?」
とアッサリあしらわれ、悲しさに瞳を潤ましていたのだが、シェリーさんは続けて、
「Bランク冒険者になったら冒険者ギルドに申請したらクランが作れて、クランに所属した冒険者は普通はCランクからしか受けれない指名依頼をクランを窓口にして、低ランクでもそのランクに応じた指名依頼が受けれるから、『何でも屋』ってクランを作って常連さんからの依頼を引き続き受ければ?」
と言ってくれて、初めて僕の胸のモヤモヤはスッキリ晴れて、
「よし、Bランク冒険者を目指すよ!」
と宣言し、シェリーさんを抱き締めながら「ありがとう」と感謝を伝えて頬にキスをしていると、トイレに起きたナナちゃんに見られた。
少し気まずい時間の後、
「トトリおばちゃんが言ってたよ、弟か妹が欲しかったら、とーちゃんとかーちゃんのチューしてるのを見ても邪魔したら駄目だって…どうぞごゆっくり。」
と、半分寝ぼけたナナちゃんがお部屋に帰って行く。
トトリさん…なんて教育を…と、思いつつお言葉に甘えてごゆっくりしてみた。
そんな日々を過ごし、遂にアルが戻って来る日がやって来たのだが、問題は物凄い数の馬車が列を作り現れた事だ。
荷馬車で到着したポルト辺境伯騎士団が村の空き地にテントを並べ、テント村の様な場所が完成すると、ようやく客室付きの豪華な馬車が到着し始め、遂に我が弟が三年ぶりに戻ってきた。
この三年で背も伸びて、貴族服を着ている弟が、同じく美しいレディーに成長したミリアローゼお嬢様をエスコートして馬車から降りてきたのだが、
『弟よ、あまりキョロキョロするでない…』
と、思わず心の中でツッコミたくなる程に、落ち着きの無い鶏みたいに、少し歩く度にキョロキョロとしながら代官屋敷に入っていった。
その後に辺境伯様や奥様方を先頭に貴族の方々が数名が代官屋敷に入って行くと、続いて、教会関係の方々が教会へと入って行くだが、あの時の膝がすぐガクガクする小鹿神官長様が凄く立派な法衣を着た人の後ろを歩いていたので、
『教会の滅茶苦茶偉い人をノートンさんが呼んだのだろうか?』
と、神官さんやシスターの行列を眺めていた。
村人達と一緒にアルの勇姿を見れたので、満足しながら、
「アルも今日はやることいっぱだろうから、挨拶は明日にして帰るか!」
と家族皆に告げて集落にもどり、家族団欒しながらお茶を飲んで、
「凄い数の馬車だったねー。」
と、しゃべっていると、
我が家の扉がバタンと開き、焦っているアルの
「酷いよケン兄ぃ!」
との第一声に対して、
「どの事についてだろう…」
と、僕は首を傾げるしか無かった。
それからアルが、ファーメル家の別荘と代官屋敷に別れて貴族の方に寝泊まりして貰うので、この後一緒に挨拶回りに参加して欲しいと頼まれたのだが、
「えー、面倒臭いよぉ~」
とゴネる僕に、アルは、
「元はといえば、ケン兄ぃも関わりがあるんだから!」
と、かなりご立腹のご様子だったが、すぐに何かを思い出した様に、
「あと、ケン兄ぃが傷物にして婚約者にしたというお嬢さんは?トールから詳しく聞いたけど、トールもよく解らないけどとりあえず殴ったとしか…」
と慌てるアルに、シェリーさんが恐る恐る、
「はい、婚約者は私ですが…」
と手を上げると、アルは貴族服のままシェリーさんにヘッドスライディングをかまし、このままの勢いで土下座の体制にはいり、
「誠に申し訳御座いませんでした。
兄は普通では無い所があり、まさか女性を力任せに…父親代わりのアボットに代わりまして、弟で有ります私の謝罪を…」
とやっている弟の両脇を掴んで、ヒョイと立たせた僕は、
「もう、その下りは二年前に済んでるから…先に自己紹介を頼むわ、アルの知らない家族が増えてるから…」
と言うとアルは、ハッと気が付き、先ほどスライディング土下座をしていた同じ人物とは思えない程に、貴族らしい身のこなしで、
「これは失礼致しました。
アル・ファードと申します。
騎士爵を賜りましたが、皆さんは私の家族ですので是非、アルお兄ちゃんやアル君と呼んでくれたら嬉しく思います。」
と、笑顔で自己紹介をしていた。
ファーメル家の傘下の貴族家と解る様にと似たような家名を授かったようだが、おかげで弟は、高そうな車みたいな名前に成ってしまったらしい…なんか、ゴメンね…
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