第100話 二人の愛を神々に誓う

弟が帰って来た2日後に、正式にアルの就任式が開かれ、アル・ファード騎士爵の管理する『セント村』が正式に辺境伯領の村として動き始めた。


因みに、ウチの集落は爺さんの名前をもらい、『アボット地区』と呼ばれ、旧隣村は村長の爺さんの名前で、『コステロ地区』と呼ばれる事になった。


メインの中心地はセント村と呼び、アルはこの三ヶ所の居住区のある村をまとめる代官になったのだ。


しかし、少し困った事になっている…それは、ファーメル騎士団に丸投げしておいた、子売りのマーカスの一件でアジトの特定と、変態貴族の逮捕の結果報告だったのだが、


マーカスに資金を渡していた男爵を押さえると、芋づる式に数名の中央貴族に繋がり、大騒ぎになっていたらしく、違法奴隷売買組織と、マーカスの一味と一部の関わった貴族が捕まった事で、国王陛下からお手紙と、かなりのお金が届いてしまったのだ。


手紙の内容としては、聖人殿へ我が国の膿を出す助力に感謝する。

爵位を提案する者もいたが、ポルト辺境伯より聖人ケン殿は名誉など欲していないと報告を受けたので、少ないが金貨送る。


みたいな内容だったのだが、問題はここからで、ポルト辺境伯様とニック様に加えて、アルまで、ニヤリと笑った後で、辺境伯様が、


「保護した子供達、約20名の行き場所が無いのだ…」


とわざとらしく困り、ニック様が、


「ドットの町の孤児院ではその数は…」


と、安い芝居で答えて、最後にアルが、


「ではケン兄ぃ、ウチで面倒見よう。

国王陛下からお金ももらったし、住む場所だって…」


というと、ケビン文官長まで、


「はい、入植者が使っていた長屋を孤児院として改築済みでございます。」


と言いやがった。


『最初から決まっていたのか!!』


と思う僕だったが、色々と丸投げしてきた物がブーメランとなっただけか…と諦め、


「あぁ、もう!解ったよ。20でも30でもドンと来いだ!!

その代わり、勉強を頑張ったり、強くなった子はアルが責任持って雇ってよ。」


と約束をして、まんまとこの日僕は、孤児院の院長…というよりは超大家族の責任者として後日到着する子供達の面倒を見る事になったのだった。


アルの就任式の後は、シェリーさんと結婚式を挙げて、イチャイチャと冒険者ランクを上げてクランを作るつもりだったが、


『あぁもう怒った、やってやんよ!』


保護した子供をクランに入れて、セント村のお使いクエストを全て対応して、強くなったら薬草集めや角ウサギ討伐をさせて、何でも屋クランとして何でも出来る集団を作ってやる!


そのうち辺境伯領の主要なポジションは全員ウチの家の関係者になっても知らねぇからな!!


と半ばヤケクソ気味に騙した弟達に軽い復習を誓った。



そんな事が有った翌日、遂に僕とシェリーさんの結婚の儀がセント村の教会で行われたのだが、なんと王都から大司教様という何だか偉い方に、聖歌隊の方々が待ち構える教会に、この世界で初めてかも知れない真っ白いウェディングドレスのシェリーさんと白いタキシードの僕が進む…この衣裳は、シェリーさんが前世の地球の結婚式の話を聞いて、冬の間にトトリさんに依頼して作ってもらった物であり、村の女性陣がドレスの刺繍を手伝ってくれた手間隙と愛が詰まった衣裳である。


広場に集まる村人の皆の声援や拍手に見送られ、教会に入ると、聖歌隊の歌が響く中で、貴族の方々や家族が並ぶ礼拝堂を進み、大司教様の前に到着すると、この教会の神官であるノートンさんが、


「これより結婚の儀を執り行います。」


との宣言と共に、聖歌隊の曲調が変わり大司教様の有難い言葉が始まる…


『サクッと終わりそうにないな…』


と諦めながら、チラリとシェリーさんを見ると、何だかキラキラした目でこちらを見ていたシェリーさんと目が合いドキっとしてしまい。


少し照れていると、なんだか両手を天に掲げている大司教様と、僕達に向かい小声で


「ケン殿、神々に祈りをお願いします。」


というノートンさんの言葉にハッとして、シェリーさんと祈りを捧げる体制になると、フワリという感覚の後、久しぶりの真っ白い部屋に移動していた。


目の前には神々が並ぶテーブルと沢山の料理が並び、祈りを捧げる姿の僕とシェリーさんがいるだけの白くて広い部屋で、昼と太陽の神バーニス様が、お腹を抱えながら、


「ケン君、大司教君の話をそっちのけで見つめ合ってるから、可哀想に彼、あのポーズのまま一分近く固まってたよ…プククッ…」


と笑っていた。


僕とシェリーさんは神々に挨拶をした後に結婚の報告をすると、神々から祝福の言葉を頂き、そこからは時の止まった部屋で神々と様々な話をした。


まぁ、殆どが、新たに作り出した食べ物の話題だったのだが、その中に一つ気になる話題が有ったのだ…

それは、ドットの町に撒かれた毒の話で、


「あれは、細菌兵器だな…」


という話だったのだが、問題は細菌兵器は魔法文明時代には存在したが、現在は存在する筈の無い技術の為に何処から出てきたか解らず、


知識の女神ラミアンヌ様に、


「ケン君がすぐに浄化してくれて助かったわ、もしかしたら世界に蔓延する可能性も有ったから…」


と、言って誉めてくれた。


神々は、「やはり、賢者かのぅ…」と困った様に話しておられる…何でも、滅ぼした魔法文明の知恵者を一人神界に迎えて、技術の神へとなる為の修行中に、あまりに原始的な暮らしをする魔法文明の事すら忘れ去った子孫達に、暮らしを良くする為の知恵を授けたいと懇願し、薬と簡単な魔導回路の知識だけを人々に授ける為に転生した筈の賢者が、未だに天に召されていないらしい。


「どんな手を使っているのか解らんが、魔法文明は、スキルを解明し、魂とスキルの繋がりにすら影響を与えるという、そなた達の腕輪も作り出した民族でその中でも一番の知恵者だったので、何か地上に留まる方法を見つけたのかも知れん…」


と夜と月の神ノックス様は、ため息をついていた。


ノックス様は死者の魂をまとめる担当で、何度か賢者さんを探してみたのだが、完全に見失い千年以上経つらしく、ほぼ千年振りの賢者の手掛かりを追っているらしいが、あまり良い結果を得られてないらしい。


千年以上逃亡犯を追っているとはお気の毒な…と人間の僕では解らないが大変な事は理解できる苦労話を聞いていると、運と商売の女神エミリーゼ様が、白く長い尻尾でテーブルの端をペチンペチンと叩きながら、


「今日は目出度い日だよ、辛気臭い話は今度にしなよ。」


と言いながら、パチンと指を鳴らして酒をテーブルに作り出して飲みはじめる。


そして、武の神ジルベスター様が


「実は結婚のお祝いと世界を疫病から救ってくれたお礼を考えていたのだけど…アマノ君、頼めるかな?」


というと、アマノ様が僕たちの前に色違いの手袋を差し出した。


これは神々がアマノ様の転移したミスティルの神々の技術を借りて作ってもらった手袋で、刃物を通さず壊れないという基本性能と、

右手用の白い手袋には魔石を大量に収納出来る魔石限定のアイテムボックスみたいな機能と、取り込んだ魔石から魔力を取り出して自分の魔力として使える機能がある。


そして、黒い左手用の手袋は魔力を使えない魔物等から気力を吸出して蓄えられ、自分の気力として使えるという機能があるらしい。


この手袋の白色をシェリーさんが使えば自分の魔力が無くて使えない水魔法と、腕輪で共有している僕のクリーンが使える様になり、黒色を僕が使えば、シェリーさんから腕輪をとおして借りていた身体強化を使用出来る様になるとの事だった。


「こんな凄い物をもらって良いのですか?」


と心配になる僕とシェリーさんに、神々は、少しすまなさそうに、


「実は、魔力で発動する身体強化の実験の手伝いをお願いしたいのだよ。

ケン君の魂に繋がったシェリーちゃんの身体強化はまだ発動した事が無いが、外部から気力を取り込み発動する事で魔力と気力を同時流れ、いずれどちらかの力でも発動するスキルになる可能性がある。

他のスキルでは何とかなったので唯一失敗した身体強化が魔力で発動出来る様になれば、魔力持ちの獣人族が身体強化が使える様になり、身体強化持ちの気力の使えない人族も身体強化スキルを使える様になり、後は気力しか使えない魂には魔法スキルの変わりに別のスキルを与える様に世界を調整すれば良いだけになる…」


と教えてくれた。


様々なスキルを人族や獣人族、それに魔物にも授けて、魔力でも気力でも発動する物を選んで来たらしいのだが、人族固有の魔法スキルと、獣人族固有の身体強化スキルだけ、魔力と気力を同時に使える者が居なかった為にスキルを発動させて、スキルの中に魔力と気力を流して馴染ませる事が出来なかった為にスキルの解析や実験が遅れていたらしく、僕とシェリーさんは、神様からのスキルの実験の手伝いに選ばれたのだった。


アマノ様が、


「私の持つ魔力のみで発動する身体強化では、こちらの身体強化スキルの参考にならなかったんだよ…このスキルの調整が完了すれば、この世界での私の役目も終わりに近づきますので、協力をお願いします。」


と、頭を下げられてしまい、僕とシェリーさんは慌てて、


「ご協力させて頂きます。」


と答えたのだった…といってもやることは簡単で、僕は、魔物から気力を吸収して身体強化を使い、シェリーさんは魔石を手袋に取り込み身体強化を使っていると、勝手に身体強化スキルが魔力に馴染むかも知れないし、微妙な変化でも有れば、神々が知恵を絞って何とかしてくれるらしから、失敗しても、僕らは身体強化と魔法が使える様になり良いことしかないから安心したのだが、その後はまた、神々からのあれが食べたい、これがこの世界で作れないか?との注文が果てしなく続いた…

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