第101話 嫁とお出かけ

無事に結婚の儀が終了したのだが、いつもの如く神々からの贈り物は大聖堂で祈る僕達の前に光る神々の像から届き、大司教様が大興奮するというイベントが有ったが、村人的には神々の像が光るなど、『よくある話』になりつつあり、ノートンさんも、


「ありがたや、ありがたや…」


ぐらいの落ち着いた反応だった。


しかし、辺境伯様をはじめ、貴族の方々、そしてアルも腰を抜かす勢いで、ウチの村人達が、教会の外に漏れ出る程の光りを軽く拝んで、


「いやぁー、いい結婚の儀でしたなぁ。」


と仕事に戻っていくのを見た村の外から来た方々が


「いや、祝福ですよ!」


と、見たこともない勢いの祝福と、村人の淡白な反応に二回驚くという状態だった。


その夜は昨夜のアルの就任式後のお祭り騒ぎの再放送かの様に食事や酒が振る舞われ、楽しい夜を過ごし、本当ならば結婚式の夜は新郎と新婦は燃え上がるところだが、僕もシェリーさんも神々の世界で1日近く過ごした後にこちらに戻り、パーティーに参加したので、二人ともクタクタ状態で泥の様に眠った。


翌日、目覚めたら昼前で、何故かトトリさんや、エリーさん達ご近所さんが我が家に集まり子供達と昼ご飯の準備をしながら、寝起きの僕達をニヤニヤとして、


「もっとユックリしてていいのよ。」


とか、


「寝てないんでしょ?」


などと、気をつかているようだが完全に、『昨晩は凄かったんでしょ。』みたいなイヤらしい視線で僕とシェリーさんを見ていた。


パーティーの後、グッスリ寝たから大丈夫だと伝えても信じてくれないので、もう愛想笑いだけしてシェリーさんと朝昼兼用の食事をしてから、セント村のアルの代官屋敷に二人で向かい、ウチの家族組に入る20名程の子供の話を聞く事にした。


ニック様とファーメル騎士団長からの話では、辺境伯爵の領地三ヶ所に見張りの手下と、十代前半から幼子まで複数名で暮らしていたらしい。


ナナちゃんが住んでいたのはマーカス本人が使っていた本拠地のアジトで、ドットの町に比較的近い場所だったそうで、マーカスは口減らしが起こりそうな、不作の年に村をまわったり、後は娼館の女将などと繋がり娼婦の子供を引き取ったりしていたらしく、その中で男の子は中央貴族の指示で、普通ならば子供は労働力や子供のいない家庭に行く為に奴隷商人に預けられる筈だが、 奴隷紋を施して違法奴隷として特定の貴族に売られてしまい、女の子はマーカスが仲介料をケチる為に買い付けがてら娼館に直接本人が売り飛ばしに行っていたみたいである。


なので、本拠地に近いドットの町に子供達が集められて、健康チェックなどをすませて、


「はて?この子達をどうするか…」


と悩んでいた時に、辺境伯様とニック様とアルの三人の秘密の会議が開かれて、


アルの様に勉強が出来たら子供達が幸せになるかも…


「では、ケン兄ぃに任せて下さい。」


食べ物が安定した所で…


「それも、ケン兄ぃが居るから大丈夫です。」


それではケン殿が困らんか?


「困らせてやれば良いんです。

それに、ケン兄ぃならば困りながらでも何とかします。」


という、色々やられたお返しとばかりに、ゴリ押しでアルが引き取ったのだとか…何してくれとる弟よ…と、涙目になりながらもアルに、


「よし、お兄ちゃんは子供の面倒を見るが、交換条件だ!

アルが学校を建て、その子供達と村の子供の学力アップをさせる。

あと、もう一つは、アルの植物魔法をフルで使い、この村で作る作物の品種改良をする。

この二点を約束してくれないと、家族を連れて他に引っ越すからな!!」


とゴネてやった。


後は子供達の面倒を見てくれる孤児院のスタッフだけなのだが、それには、久しぶりの再会となる生まれたての小鹿の様な足腰のココの町のバランチヌス神官長が、孤児を引き取る話を聞き付けて、追加でセント村の教会に孤児院のスタッフとして四名の男女を派遣してくれたのだ。


彼らは聖歌隊として村に来ていたのだが、村の料理や、昨日の祝福に感動しながら、セント村の神官であるノートンさんと話したら、


「あの料理も、あの祝福もこの村では当たり前ですよ。」


と言われて、この村への派遣を狙う事にしたのだが、同時に孤児院が出来る噂を聞き付けて、


「聖人様のお手伝いを!」


と、バランチヌス神官長に申し出たメンバーらしい。


いやぁ~有難い…何と言っても人件費が教会持ちで、住居だけ用意すれば良いのだから、儲けものである。


聖歌隊メンバーだから歌も上手だし、幼子をあやすのもうまそうだ。


あとは、20人の子供に対して四人では労働環境がヤバそうだから、追加の職員と給食担当者の雇用は…


『よし、アルに国王陛下からの報奨金を渡して丸投げしてやろう…家臣の誰かが担当して募集してくれるだろう。』


と、決めた。


僕の今の目標はBランク冒険者となりクランを立ち上げ、村のお手伝いクエストを冒険者ギルド経由で受けれる様にするのだ!


無理ならば、新入りのウチの子供達20名は普通にGランク冒険者として草引きや溝掃除をしてもいいが、それは僕のポリシーに反する。


お客様に寄り添う何でも屋をやりたいのであって、依頼者に寄り添う冒険者ギルドでは嫌なのだ!


『誰でも良いから手伝って!』


ではなくて、


『あの人だからやって貰おう!』


でないと…小さなこだわりかも知れないが、僕的にはそこが重要なのだ。


誰かが必要としてくれるという幸せや安心感を保護した子供達にも味わってほしい。


という訳で、シェリーさんとセント村の冒険者ギルドでポイント稼ぎが出来そうなお仕事を求めて来たのだが、村はかなり平和な様で、外の町に出向く討伐依頼しか無い…


「まぁ、森狼の撃退なんて、クロスボウが使える村人数人でも出来るから、手頃な依頼なんて無いよね…」


と、クエストボードを眺めながらボヤく僕に、シェリーさんは、


「大きな仕事を2~3回達成したらBランクにはなれるけど、大きな仕事を取るには複数名のパーティーが必要だからね。

クランはBランクが2名以上が条件だし、ケンちゃんがBになる為にポイント狙いの旅に出る?」


と提案してくれたが、僕は、


「近々保護した子供達が村に引っ越してくるから村を離れずに、手袋の効果を確かめにサーラス達のボア狩りにでも一緒に行ってみる?」


と、旅の提案をあきらめて、暫くは森の魔物で魔石と気力とやらを集める作業に入る事にした。


ベーコンチームの二人はサーラスの索敵と、カトルのリントさん譲りの狩人の知識で、サクサクと獲物を見つけ出し、いつもならばリントさんやミロおじさんやレオおじさんの見守る中で、サーラスが前衛でカトルが後衛というチームワークで、ボアを仕留めるのだが、今回は僕達に譲ってもらい、僕がステータス補正だよりで真っ向からタックルボアの突進を受け止めながら手袋をはめた左手で魔物を触ると、手袋の甲にある透明な鱗の様な素材がウッスラ色づく。


アマノ様の話では、この鱗が透明に近い程、気力が貯まって無い状態で、水色から青、そして紺色を過ぎて黒色の状態が満タンの状態らしい。


しかし、タックルボア一匹では水色までも行かないので、身体強化を使ってみるのはまだ先の話の様だな…と考えながらも、魔物のスキルは気力を使って放たれる様で、タックルボアの突進のパワーがガタリと落ち、力比べをするまでも無く余裕で取り押さえれる様になると、シェリーさんが戦場へと舞い降り、ボアの眉間を打ち抜く、するとボアは、


「プギっ!」


と短く鳴いて息絶え、倒したボアはマジックバッグにしまい、お肉はカトルが解体してからベーコンに変わり、魔石はシェリーさんの右手の白い手袋に吸い込まれ、シェリーさんの魔力として使われる。


ちなみにだが、魔物は気力を使えるが魔力は使えない…しかし魔素を取り込み結晶化する事により必要以上に周辺の魔素が濃くなり過ぎて天変地異が起こる事を避けるという役目を持っているらしい。


神々が教えてくれたのだが、魔素が濃い場所に魔物が集まったり、大発生するのはこの星の防衛本能らしく、その魔物の許容量を越えて魔素を取り込む事は出来ないので、育った魔物を間引くのが人の役目なのだとか…僕達も星の一部なんだね…などと思っていたのだが、ここで僕は、この手袋の許せない点に気付いてしまった。


それは、シェリーさんの手袋は解体で出た魔石をほぼ無尽蔵に取り込める…つまり、魔力底なしになるが、僕は、補給に魔物を触る必要があり、しかもゲージに天井があるという事だ。


神様、僕のヤツちょっと使い難くありませんか?

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