第102話 知りたく無かった

サーラス達とボアを狩っていたが、


「お肉いっぱいだからベーコンつくるわ。」


と、1日でボア狩りが終了してしまい、翌日からは、シェリーさんと、朝はボアの魔石を複数取り込んだ手袋を使い、果樹園などの水やりをしながら水魔法の水操作の練習をして、その後は角ウサギから森ネズミまで手当たり次第にダッシュで捕まえ、気力を吸い取りってからキュッとシメて冒険者ギルドに持ち込み、解体を依頼して、肉と魔石は売らずに戻してもらうと、毛皮と角等の買取り額は解体料と相殺して殆どお金にはならないが、常時依頼の角ウサギは少ないが依頼達成ポイントが入るので、それなりに旨味がある。


魔石はシェリーさんの手袋に吸収され、お肉はつい先日村にやってきた子供達と、文官職チームと村長がアルの代官屋敷の一室を使い開いている仮設学校の給食用に寄付する。


先日、保護した子供が村に到着し、アジトの子供の面倒を見る為に残された十歳前後の少女が10名と、幼稚園ぐらいから赤子の男女が13名に、売れ残りと呼ばれていた雑用係の少年が三名の計26名の子供は、大司教様に『祝福の家』と命名された孤児院で、教会の聖歌隊だった2名の神官さんと2名のシスターさんと暮らしている。


祝福の家の給食室の職員さんなどアルバイト職員さんと協力して楽しく過ごしてくれているみたいで、保護された経緯の理解できる子供達には、感謝され、キキやナナちゃんの事を知っている幼子には二人が僕を父親と呼ぶので、祝福の家では僕の呼び方が「聖人様」、「ケン様」、「ケン兄ちゃん」、「とーちゃん」などと定まっていないが、好きに呼んでもらっている。


勿論シェリーさんも「聖女様」と教会関係者の方々に呼ばれたり、年上組の子供達から「シェリー様」と呼ばれるのがまだ馴れない様子だが、新たな家族として子供達を迎えてくれて、ここでも体作りの為に南都流拳法の手ほどきを週に二回程行う事にしたみたいだ。


シェリーさんが留守の場合はセクシー・マンドラゴラ姉さんにお願いしたので、いきなりだと子供達が泣き出すと困るから『蝶』のメンバーは、お店が始まる前にちょこっと祝福の家を訪問して、オヤツを一緒に子供達と楽しみお昼寝をさせるのをお手伝いしてもらう事にしたのだが、ここ二日程で子供達が三人が来るとオヤツと理解したのか、怖くない生物と学習したのか、見かけると駆け寄りダッコをせがむ様になったので、三人ともに、


「今なら母乳が出せる!」


と、喜んでいる。


チュチュさんは特にメイクの技術に興味を持った年上組の女の子達に人気で、「チュチュ姉さんみたいになりたい。」と慕われているらしく、僕に、


「少女達から美のカリスマとして認められましたので、第二夫人とかにどうです?…アタシ。」


と言っていたので、


「貴族でもないので奥様は一人で満足です。

…それに、まだ死にたくないでしょ?僕もチュチュさんも…」


と伝えてお断りしておいた。


シンディーさんは、乳飲み子を抱っこしている時に胸板に顔を擦り付け母乳を求める乳飲み子の姿に涙を流しながら、


「出ないけど飲む?」


と聞いていたのだ。


出る、出ないの前の問題な気もするが、我が子の様に愛してくれているので、ヨシとした。


売れ残りと呼ばれていた三人の男の子はカトルやギースと同年代なので、ギースとカトルも一緒に冒険者登録をさせて、Gランク冒険者として訓練と草引き等のお手伝いクエストでポイントを貯めてもらう予定である。


そのうち、マチ婆ちゃんの薬草仕事もバトンタッチしてもらいたいし、三人の少年には祝福の家のまだ幼い数名の男の子のリーダーに成って欲しい…既に貴族に売りさばかれ、モノの様に扱われ殺されたと聞く兄弟達の分まで強く自由に生きれる手伝いが出来れば良いのだが…と、この三人が貴族の好みに合わない容姿をしていた事を神に感謝し、助けれなかった兄弟達の冥福を祈り、姉妹達も娼館に売られたのは知っているが、キキさんの時にお金が沢山かかる事を経験したので、買い戻すという事を断念してしまった懺悔も合わせて行った。


命が軽い世界とは言え、心が痛い…せめてこの子達だけは生きている事に幸せを感じる未来を歩ける様にしてあげたい…それにはやはりクラン設立で、祝福の家に丸ごと何でも屋としての機能を組込み、お小遣い稼ぎをしながら村に馴染み、独り立ちする手助けが出来る様にしなければ!という事で、シェリーさんと相談して夏までの2ヶ月程の間、ドットの町を拠点に冒険者として本腰を入れる事にしたのだ。


家の事はキキが中心に皆で手分けしてくれるし、夏の草引きシーズンまであまり何でも屋の仕事も無い上に、大概の依頼ならカトルとサーラスが対応してくれるし、ギースも助っ人に入れば森狼の群れでも殲滅出来るので安心して留守に出来るし、祝福の家はアルも気にかけてくれているから大丈夫だし、酒等の商品関係はダント兄さんが見てくれているので安心してシェリーさんと新婚旅行気分でギンカの引く幌馬車でドットの町にやってきた。


もう、ギンカを連れ出してもナナちゃんが何も言わないのは、ベーコンの納品にドットに行く必要も無くなったのと、村の中の移動はアルの部下の方が操る乗り合い馬車が往復してくれる様になったからである。


町に到着すると、既に入り口近くにパンの甘い香りが漂い、『名物クリームパン』という看板の店には長い列が出来ていた。


新しい物好きの住民にまじり、お菓子巡り地図を持った貴族の令嬢や奥様方の姿もちらほら見え、これからもっと外部の旅行客が増えそうな感じがしているのを住民も理解した様で、露店がいつもより沢山並んでいる様に思う。


シェリーさんが、


「人が多いね…」


と言いながら幌馬車の運転席に並んでメインの通りを進んでいると、


「あれ?聖人様…ということは、となりの獣人族のお嬢さんが、噂の聖女様かい?!

ありがたや、ありがたや…」


と拝まれ、


「恥ずかしいから止めて下さいよ。」


と小声でお願いするが、人や馬車が多く渋滞気味な事が裏目に出て、ワラワラと馬車を取り囲まれてしまった。


中には、パンツ一丁でロープで吊り下げられた僕っぽい姿が判子のような物でプリントされたようなハンカチを両手で掲げている人も複数見える。


「毒を消し去ってくれてありがとうございます。」


と言っているが、僕的にはパンツ一丁でぶら下げられた過去を消し去って欲しい…

感謝されているのは大変に有難いのだが、何故にこんな事に成っているのかと、


「その、恥ずかしい柄のハンカチは…?」


と所有者に伺うと、


「辺境伯領最高の旅劇団、『渡り鳥』の最新の演目、実話を元にした感動の物語、『浄化の聖人』のグッズです。」


と教えてくれたのだが…マジで勘弁して欲しい…


『一言文句を言ってやらねば!』


と、冒険者ギルドの前に、その旅一座を並べて正座させてお説教でもしてやろうと、芝居小屋の大きなテントに向かったのだが、思わぬご本人登場に観劇後の住民が盛り上がり騒動になり、更に怒りが込み上げ、


『小一時間説教してやる!!』


と乗り込んだ劇団は、ポルト辺境伯の諜報部隊の方々の世を忍ぶ仮の姿らしく、怒るに怒れず、演目もグッズも上からの指示だとの話だった。


黒幕は辺境伯がメインだが、ネタの提供はニック様で、下痢や嘔吐のお守りとしてパンツ聖人のグッズと共に毒を撒かれた事実を広めるアイデアはアルらしい…


『三人とも嫌い…拗ねてやる!』


と半泣きのままシェリーさんと冒険者ギルドに向かい、他の町周辺の討伐依頼を選び、足早にドットの町から離れる事にした。


勿論、冒険者ギルドでも一通り顔を指したのだが、『音速のG』や『戦う聖人』の2つ名より、『パンツ聖人』という最低な通り名で呼ばれたのが地味にダメージだった。


早く、僕の事を知らない町に行きたい…

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