第17話 薬草集めとお約束

アルを応援した翌日、僕はニチャニチャスレイヤー装備を身に纏い、ドットの町の外に来ている。


そう、冒険者としてのランクを上げる為であり、勿論、前回の時に職員さんから色々聞いているので、手順は理解している。


Fランクのお仕事はお掃除か薬草採集で、ちょっと頑張って角ウサギ等の小型魔物の討伐である。


お掃除は得意だが、○○さん家と言われても地元で無いために解らないのでパスして、薬草採集をしつつ、ウサギやネズミを狩ることにした。


これらの依頼であれば、わざわざ依頼の手続きをギルドでしなくても、後で精算カウンターで依頼の処理してくれる常時依頼ばかりだ。


現に前回の森狼の買取ポイントが22匹分を三人で割って7ポイントだったのに、ついでに倒した一匹の角ウサギだけはおじさん達が、僕の単独の成果だと報告してくれて、3ポイント入っている。


薬草採集なんて数年前からやっているのでお手のものだし、角ウサギだって倒せるから、来年の春までのドットの町での農業指導依頼の合間に頑張って、せめてEランクを目指して、


「Eランク冒険者なんで、ネズミ駆除なんかもできますよ。」


みたいに、何でも屋の仕事の幅を増やしたい。


同い年くらいの冒険者らしい影が点在する町の外で、一番やる気のある装備の僕は、腰に片手剣をぶら下げ、背中に棍棒を担ぎ、ナタ手に持つ革鎧という駆け出し冒険者らしからぬ格好で現れると、先輩方が、


「けっ、お貴族様のボンボンか?立派な装備で…」


とヤジってくる。


しかし、「ド平民の拾われっ子ですよぉ」などと、いちいち説明するのも面倒なので、ニコッと笑顔で、『聞こえてるぞ』ってアピールした後は、仕事モードに切り替えて、今日だけでマチ婆ちゃんからの一週間の納品分を集める程の勢いで、草原を走り回る。


初めての採集エリアの為に土地勘は無く、薬草の生息場所も解らない不利な状況だが、ライバル達に負けない移動スピードと、薬草を見分ける能力には自信があるので、体制を低くして何時ものように走り始め、薬草を見つけ次第に葉っぱをナタで刈り取る。


勿論、上の新芽は残し薬草の株自体の復活が出来る様にするマナーも守っているが、他の駆け出し冒険者には、あまりの手際の早さに、草むらを走りまわっているだけの馬鹿に見えるかも知れない…しかし、やってる年数が違うのだよ、やってる年数が!

などと考えつつ、ものの三時間で、収穫用に用意した麻袋が良い感じに膨らみ、


「どうしようかな?もう1つ袋は有るけど、二袋担いで作業するのはしんどいなぁ、荷車が有れば楽なのに…よし、いっぺん町に帰って買いとってもらってから時間と相談でもう一度採集に来るかな。」


などと、ブツブツ言いながら考えていると、近くの同い年ぐらいの冒険者達が、


「まるでゴキだ、ゴキブリみたいだ…」


と、僕の事をヒソヒソと話している。


『心外だ!確かにニチャニチャコーティングのせいで、革鎧に少し光沢が有るし、低い姿勢でカサカサと、かなりのスピードで走りまわっていたが、それは、探す為に低い姿勢だったのと、足が速いのは生まれつきだし、そのスピードで薬草を探せるのは日頃の積み重ねである…それをGと呼ばれるとは…』


と、心の中で抗議をしたが、口に出せば喧嘩になるかも知れないので、グッとこらえ、冒険者ギルドへと戻った。


しかし、戻ってきた冒険者ギルドの中でも、同年代の冒険者が、


「見てみろゴキブリが帰って来てるぜ」


とかと言っている。


中には、「気持ち悪い」などとダイレクトな言葉で女子冒険者に蔑まれ、怒りを通り越して悲しみが僕を包み込んでいた。


すると、窓口のギルド職員のお姉さんが、


「気にしなくて良いよ、アイツらは君が短時間で沢山の薬草を採集したから、やっかんでいるんだよ。

本当に恥ずかしいガキなんだから!

さっきも、変なのが来たから何時もより取れなかったって仲間同士で騒いでいたのよ…」


と怒りながら僕の事を気にかけてくれた。


「ありがとうございます。」


と頭を下げる僕に、


「あんなのは一発ぶん殴ってギャフンと言わせて黙らせなさい!」


と、言ってくるが、

喧嘩を売られない限りは、出来るだけ争わないのがマイルールであるので、


「暴力はちょっと…先ほどは気にするなと仰っていたような…?」


と、返すと職員のお姉さんは、


「最初は、無視していれば良いと思ったけど、君と話してるうちに、こんな礼儀正しい少年をアイツらは、無茶苦茶言いやがって…」


と、僕の為に怒ってくれている様であった。


薬草の買取も終了し、かなりの量だったので、大銅貨九枚と、もう少しで小銀貨に手が届きそうな金額になった。


しかし、同時にマチ婆ちゃんの一週間分の薬草とほぼ同じだったので、大銅貨十枚以上になると思っていた僕は、マチ婆ちゃんが町で買うよりも高値で買取ってくれていた事を理解して、ガッカリするよりも、マチ婆ちゃんへの感謝が溢れていた。


だが、本日の目標である小銀貨一枚の稼ぎにはまだ足りないが、再び草原に行き薬草を採集する気分にはなれなかったので、受け取ったお金を懐にしまい気分転換に買い物に向かう事にした。


集落への帰りもファーメル家が馬車を出してくれるので、お土産を買い込んでも送料を気にしなくて良いのだ。


薬草チームの三兄妹にお土産でも買ってやろうと冒険者ギルドから出たのだが、待ち伏せをされていたらしく、同年代っぽい先ほどの冒険者のグループが、


「おい新人、俺等のシマを荒らして荒稼ぎしやがって、痛い目見たくなきゃ金を出しな」


と、絡んで来たのだ。


おいおい、いくら田舎の町とは言え、冒険者ギルドを出てすぐの往来でカツアゲですか? と呆れてしまうが、所詮は子供が年下っぽい僕を脅せば、ビビって金を出すと思っているのだろう。


子供にしてはガタイの良いガキ…もしかするとしれっとグループの中で年上なのかも知れないヤツがリーダーで、糸目の少し身なりの良さそうなヤツが、腰巾着で、小太りのヤツが三番手って感じかな?

それと、建物の影からクスクス笑いながら僕がボコられるか、金を出しながら泣く姿を楽しみにしているらしい性格が御臨終している女が二人、リーダーの女なのだろうか?

まぁ、計五人の冒険者に絡まれた僕は、困っていた。


お金をくれてやる気はサラサラ無いし、かといって数的に有利なアホは許してくれそうに無い… などと考えていると、


「おい、聞いてるのか?」


とリーダーに怒鳴られ、糸目には、


「頭が悪すぎて話してる意味が解らないんじゃないの、ケケケッ」


と、言われ「かもな!」と言って二人は馬鹿笑いしている中で、三番手が、


「痛いの嫌だろ、お金を全部じゃなくて良いから出して逃げな、あとはオイラが上手く言っておくから」


と、コソッと提案してきた。


しかし、悪い事はしないが、悪にも屈したくないというワガママな性格である。

その為に不貞を働いた妻を心から許す事が出来なかった為に妻は娘を連れて私の元から去ってしまった事も理解している…

新しい人生ではあるが、凝り固まったこの性格は、ちょっとやそっとでは変わらない。


三番手の小太りに、


「ありがとう、でも馬鹿に一回屈すると、調子に乗って何度も集りにくるのは理解してるから。」


と小声で返していると、話が進まないリーダーがしびれを切らして、


「何をペチャクチャやってんだよ!」


と、僕を殴りかかってきて、周りから「おう喧嘩だ!」との声があがり、人垣が出来だす。


『止める大人は居ないのかよ…』


と呆れながらも、リーダーの鈍いパンチを避ける。


正直なところ、角ウサギより遅いリーダーから一撃貰う想像が出来ない…


建物の影から「いけぇ!」とメスガキんちょの黄色い声援で、ますますカッコ悪い所が見せられなくなったリーダーが焦って腕を振り回してくる。


「止めませんか?」


と提案する僕に、真っ赤な顔で、


「うるさい!黙って殴られろ!!」


と、みっともないお願いを始めた。


仕方がない、本当に嫌だが仕方がないので、反撃を開始する事にしたのだが、小太りはこのリーダーが怖くて仲間になっている様に見えたので、少しイタズラも兼ねて、仕返しする事にした。


やることは簡単、群れを倒すにはリーダーからという教えに従い、リーダーからは一撃も貰わず、腕を捻りあげてやるだけだ。


何でも屋を舐めてはいけない、護身術なんて朝飯前なのだよ…足で翻弄して鎮圧するなど簡単お仕事である。


マイルールで、武器を持たないヤツに打撃は加えないが、自分より体格の劣る僕に良いようにコロコロと転がされる様を見たメスガキんちょから、


「だっさぁ~」との声がでて、焦ったリーダーが、仲間に一斉攻撃を指示する。


そこで、イタズラを発動するのだ。


糸目のパンチをわざとカスリ、小太りのタックルをうしろ飛びながらわざと食らった様に見せかけ、ヨロヨロと立ち上がると、メスガキんちょから「いいぞぉ~」と声援が上がる。


リーダーが勝機とばかりに掴みかかると、投げ飛ばして、再びコロコロと転がして間接を決めてやる。


助けに入った糸目はカスリヒットと、小太りはクリティカルヒットの演出をしていると、


メスガキんちょは勿論、観客からもリーダーを罵る声が飛び始める。


三対一でリーダーのみ一撃も入れられないどころか、1人だけ良いようにあしらわれているので仕方ない。


子分の二人には、メスガキんちょの声援が飛び、小太りに至っては何か自信に満ちた顔になっている。


その事にも怒りを覚えたリーダーが、遂にやってはならない事をした…そう、刃物を抜いたのだ。


流石に刃物が出てくると子供喧嘩では済まなくなる。


糸目も、小太りも「止めよう」と止めるが、リーダーは構わず斬りかかってきている。


近くの衛兵が駆けつけてきたが、リーダーは止まりそうに無いので、心を鬼というか、ハートをキックの鬼にして、リーダーの攻撃に合わせて自慢の脚力を生かした真空飛び膝蹴りをお見舞いして沈めてやった。

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