第18話 挫折からの出発
現在、衛兵さんにお小言を頂いております。
前世ならば、正当防衛のはずと思ったのだが、こちらではそれは通用しないらしく、この世界の警察である衛兵さんにご厄介になってしまった僕は、1泊の簡易的な罰を受けて牢屋に入る事になり、現在、衛兵さんのお小言も上の空で、凹みに凹み倒しながら自分の愚かさを責めている。
喧嘩だけならば厳重注意程度だが、問題は町中で刃物を抜くような喧嘩をしたからで、騎士ならば決闘とかも有るらしいが、平民が刃物を抜くような喧嘩をすれば、抜いたアホも抜かせたヤツも連帯責任で衛兵さんに連れて行かれるらしい。
僕は、1泊の罰則で明日の朝には解放されるが、あっちの三人は、カツアゲとリンチで糸目と小太りは少し重い罰を受け、刃物を出したリーダーに至ってはそれなりの罰が与えられるみたいだ。
衛兵のおっちゃんが、
「坊主、冒険者が舐められたら駄目なのは解るが、相手に刃物を抜かせるまで追い込んだら駄目だよ。
見てた人が、見事な体術で三人と渡り合ってたって… 体術スキルは便利だろうけど、カツアゲしてきた1人なんて鼻が曲がってたから、衛兵仲間が創薬ギルドでポーションを買いに行ったぐらいだよ。
彼がポーションをギリギリ飲める年齢で良かったよ。」
と言っていたので、
「体術スキルなんて有りません。」
と元気無く答える僕に、
「いやいや、皆言ってたし、俺も最後のあれを見てから…」
と衛兵さんは信じてくれない。そして、衛兵さんは資料をまとめながら、
「まぁ、相手は評判の悪いガキ共で、何度も問題を起こしているし、今回は仲間の二人もリーダーのヤツに嫌気がさしたのか、悪事を正直に白状してるから、君が悪くないのは理解している。
でもまぁ、運が無かったと思って1泊して頭を冷やしてよ。」
と言って、有難いお小言が終了した。
それから、牢屋に移動すると既に三人が牢屋にまとめて入れられており、三人で喧嘩をしている最中だった。
僕を連れてきた衛兵さんに、
「おい!ここでの生活が長引くぞ!」
と言われ、一度は静かになるが、結局しばらくすると、また騒ぎだす。
僕は、衛兵さんの計らいで違う牢屋にして頂いたので、無視をしていると、
「おい!ゴキブリ野郎、お前のせいで…」
とリーダーが吠える。
牢屋に入れられて、早速自分のポリシーである警察のご厄介に成らない人生を踏み外し、やさぐれている僕は、
「うっせーなー、その見下したヤツに鼻を折られたのは誰だよ。
二人とも何でそんな弱っちいヤツの言うこと聞いてるの?」
と、焚き付けてやった。
あとは放っておけば、三人で仲良く喧嘩を始め、良いように転がされ鼻を折られたリーダーは自信を失くしている様だが、糸目と小太りは、その相手に一撃を入れたという自信から、リーダーの攻撃に萎縮すること無く立ち向かう。
確かにリーダーは二人と比べると個人レベルでは強いだろうが、2対1の構図では二人の力に勝てない様で、暫くすると、リーダーと子分の立場は入れ替っており殴り合いの末に仲良く床でノックアウト気味に眠っていた。
まぁ、糸目の二番手は変わらない様で、朝には小太りの腰巾着風な立ち位置に納まっていたので、小太りの下克上と言ったところである。
朝を迎え、衛兵さんが牢屋を訪れて、僕に、
「よし、出ろ。
もう町中で決闘なんてするなよ。」
と、言っていたが『決闘なんてしていない!』と反論するのも面倒臭くなり、
「お世話になりました。」
とだけ伝えて衛兵さんの詰所である建物をあとにし、トボトボと宿に戻るとファーメル家の菜園担当の二人が待っていてくれて、
「師匠聞きました。賊に絡まれ騒ぎになって、衛兵に連れて行かれたと…」
と、朝イチで聞きつけて様子を見に来てくれたらしい二人に、
「いっぱい薬草を採集したら、同年代の冒険者に目を付けられて…大変な目に合いました。」
というと、
「だから御館様に、師匠には護衛をと言っていたのに…」
などと、騒いでくれているのだが、この分ではファーメル家は勿論、方々に僕の逮捕の話が広がっているらしいから、挨拶に回るしかないと諦めて、
その足でアルの勤め先のファーメル家から、
「ご心配をおかけしました。」
と、頭を下げて、4代目カッツ会長とアンジェルお姉さんの夫婦に、ダント兄さん夫婦と、最後に冒険者ギルドにも、玄関前で騒ぎを起こした事を謝って、昼過ぎには精神的にもすりへった僕は、その日は宿屋に籠り休む事にした。
翌朝、落ち込んでいる弟を心配してくれたダント兄さんが店をリリー姉さんに任せて様子を見にきてくれた。
宿屋の僕の部屋を見回しながら、
「勿体ないからウチの家に泊まれば良いのに…」
と、言ってくれたが、新婚家庭に半月も寝泊りするなど何の罰ゲームだよと思いつつ、
「ファーメル家が用意してくれてるし、朝早くや夜遅くなる事もあるからね。」
と、やんわりと断って、僕は、話を変える為に、
「ダント兄さんこそ商会はどう?」
と聞いてみる。
ダント兄さんは、
「アンジェル商会がポテチ工房を広げるらしくて、ピーラーとスライサーの注文が有る程度だよ。」
と言っていた。
おかしい、スライサーとピーラーならば、一般家庭でも使うだろうに? と疑問に思いダント兄さんに、
「なんで一般向けに売らないの?」
と聞くと、ダント兄さんは、
「一般家庭で、ポテチを作るのかい?
アンジェル商会のが売れなくなるよ。」
と言い出した。
僕は、
「何を言ってるの?
ピーラーもスライサーもポテチ専用ではないよ。」
と兄に告げるが、兄はポカンとしている。
『マジか!』と驚きながらもダント兄さんに、
「現在、ピーラーと、スライサーの在庫は何個有るの?」
と聞くと、ダント兄さんは
「受注生産だから一個も無いよ。」
と平気な顔でいう。
一体兄は何を商っているのやら…と心配になってしまった僕は、兄に、
「とりあえず、ピーラーとスライサーを50ずつ来月迄に作れる?」
と聞くと、ダント兄さんは、
「お金が有れば出来るかな?」
とか言い出す。
マヂで何を扱ってリリーちゃんを食べさせて行くつもりか心配になり、凹んでいた事も忘れて、
「ダント兄さん、荷馬車出せるかい?」
と聞くと、ダント兄さんは、
「大丈夫だけど何するの?」
と、首を傾げているが、
「ダント兄さん、ナタさばきの腕は落ちてない?」
と聞く僕に、ようやくピンときたのか、
「まかせろ、行商中にハグレの森狼を単独で倒した事もあるし、木材を売りに来たおじさん達の手伝いでデスマッチカウも狩りに行った事がある。」
と言っていたので、
「なら話が速い、デスマッチカウとやらを倒しに行くよ、おじさん達が言うには、群れで一番弱いヤツから一頭ずつ挑戦してくるので、危なくなったら群れを追いかけるのを止めれば良いだけだし、退却する冒険者は追って来ない安心設定だから、倒せるだけ倒して、スライサーとピーラーの在庫を用意するよ。」
と、言って兄を連れ出し、例の湖へと向った。
キンカ号の引く荷馬車に揺られて移動すること二時間、前回とは違い、牛の群れがすぐに発見出来た。
「ダント兄さん、アイテムボックスに石って入る?」
と聞くと、
「おう、鞄一杯ぐらいなら入るぞ。」
とダント兄さんが答えたので、
「じゃあ、まず石を集めて、基本は兄さんは馬車から石を投げて牛の気を引いて、その隙に僕がダッシュで飛び込むから、
何頭イケるか解らないけど、少なくとも1~2頭は持って帰って買い取り金額を知りたい。
良いかい兄さん。」
と聞くと、ダント兄さんも、
「大丈夫だ、いざとなったら俺のハイパーナタチョップで牛を真っ二つにしてやるさ。」
と言っているので、
「真っ二つは無理だろうけど、僕を拾って逃げれる様には準備しておいてね。」
とお願いしておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます