第58話 教えてあげてよトールちゃん

ギンカの引く幌馬車が、今朝通った記憶がある道を逆に進み、ドットの町まで僕たちを運んでいる。


今馬車には、僕とトールとカトルの三人が乗って、いつもの中間のキャンプ地を目指している最中である。


カトルも旅のお供になってくれたが、サーラスは、


「ベーコンと、枝払いが忙しいから今回は行かない。」


と答えた。


ギースとシータちゃんは薬草集めの為に今回は留守番で、ナナちゃんは、


「石鹸の香りエキスが足りないから…」


と、石鹸工房に入りびたっていた。


と、いうことで、今回はチーム何でも屋師弟でのお出かけである。


幌馬車の荷台からトールが、


「師匠、町なんてあんまり行った事無いから緊張します。」


と、町の壁すらまだ見えてないのに緊張しているらしい。


トールのとなりでカトルが、


「大丈夫だよトール兄ちゃん、ドットの町なら裏道から下水道の中だって案内出来るぜ!」


と自慢しているが、


『下水道は別に案内しなくて大丈夫だから…』


と、心の中ツッコミながら幌馬車を走らせていると、カトルが、


「トール兄ちゃんは装備を揃えるんだよね?」


と聞くと、トールは、


「うん、師匠が買ってくれるって…」


と楽しげに話す。


するとカトルが、


「オイラは『集中』っていうスキルで弓とか罠作りと相性が良いらしいけど、トール兄ちゃんは?」


と無邪気に聞く。


『そういえば聞いたこと無いな。

えっ、知りたい、知りたい!

さぁ、教えてあげてよトールちゃんっ!!』


と思いながら耳をダンボにして、荷台での2人の会話を聞いていると、トールは、


「俺、お父さんと同じでスキル2つなんだ。」


と少し恥ずかしそうだが、誇らしげに語る。


『おっ!凄いな、』


と、運転台で僕が驚いていると、カトルは、


「何と何?」


と、ナイスなアシストを決める。


するとトールは、


「実は使った事無いけど『槍術』ってスキルがあるのと…」


と話しはじめる。


『そうか、ならば装備は槍で決定だな…』


と思っていると、なんとトールの口から、


「もう一個は土魔法だよ。」


という言葉が飛び出し、僕は思わず手綱を引いてギンカの足を止めた。


驚く荷台の二人に、僕は、


「トール、何でも早く言わないの!」


というと、トールは焦りながら、


「えっ、ダメでしたか?」


と聞いてくる。


少し自分を落ち着けてから、ギンカを走らせつつトールと話したのだが、彼は、


「魔法学校には行くお金が無いし、兄妹も居るから無理は言えない…」


と言っていた。


僕は、


「金の心配はするな、どうしてもならば、弟のアルの様に満点とは言わないが、最高得点で入学試験を通れば入学金が免除になるし、一緒に魔物を倒して売れば金にもなる、勉強と狩りを頑張って魔法学校に行った方が良い!

じつは、今回割りの良い仕事だったからトールを学校に行かせるぐらいの蓄えだってあるから。」


と言ったのだが、トールは、


「一度お母さんに相談してみます。」


と言っていた。


もう、ついでだからと、ギースと、五歳になったはずのシータちゃんのスキルを聞くと、


ギース君は、なんと身体強化持ちでスキルは『頑強』というミロおじさんとまったく同じスキルであった。


ご先祖に獣人がいたのだろうな…ギースはもう、ミロおじさんに鍛えてもらった方が良さそうだ。


などと思いつつ、シータちゃんのスキルを聞くと、実はドットの教会にまだ行って無いので、祝福の儀を受けていないそうだ。


スキルは既に有るかも知れないが、鑑定して貰わないと何を授かったか良く解らない状態だそうだ。


僕は、


「次はシータちゃんを連れて来ないとな、何なら来年はナナちゃんも五歳だしな…」


と呟きながらキャンプ地に到着した。


幌馬車なので、ギンカを木に繋ぎ、車止めを噛ますと、ちょっと通気性が良すぎるテントの出来上がりである。


焚き火を用意していると、以前には気が付かなかった甘い香りに気が付いた。


あれ?この香り…と香りの出所を探すと金木犀みたいな花をつけた大木を見つけた。


良く考えてみれば、食べ物には必死になっていたが、花など気にするような暮らしをして無かったな…

生活に余裕が出てきたからだろうか?花の香りを感じるなんて…と、ボーッと花を見ていると、カトルが、


「ケン兄ぃ、こんなに凄く強い匂いの花って、ナナが喜ばないかな?石鹸の新しい匂いを探してたから…」


と言っていたので、僕は、


「よし、花を回収するか!」


と提案したのだが、トールは、


「師匠、つぼみも沢山有りますので、咲くまでもう少し待って町からの帰りに摘みませんか?

あそこの背丈ぐらいの花の木はドットの町で麻袋か何かを買ってきて、土ごと持って帰って集落に植えても良いと思います。」


と、提案してくれた。


やっぱりトールは頭の回転が早い…絶対魔法学校を出て何処かの貴族に召し抱えられるか、騎士団に入って稼いで欲しい。


最悪スキルが有能だから、何でも屋より冒険者の方が稼げると思う。


何でも屋は良い仕事だが、続けるには人を選ぶ職種であるから心配なのだ…

僕は、トールの将来を気にかけながら、帰りにあの花を回収すると決めて、夕食の準備をはじめた。



そんな事がありながら、来年の春の試験に間に合う様にトールをしごかなければならないので、朝も明けきらないうちに出発して、錬金ギルドやアルも連れて行った武器屋で装備品と、道具屋で花を回収する道具などを購入し、もう、暫くは来ないつもりで冬の手仕事に使えそうな大工道具など手当たり次第購入してマジックバッグに詰め込んで帰路についた。


ギンカを購入した時にオマケに付けてもらった魔石ランプの光を頼りに中間のキャンプ場に到着し一晩過ごし、翌朝一番に名前もよく知らない金木犀っぽい若い木を引っこ抜き、幌馬車に積み込み、大きな金木犀っぽい木の花を僕のジャンプ力を使い枝に飛び乗り摘み取っていると、ライバルが現れたのだ。


それはあの時の旨い香草焼き、『軍隊鳩』達である。


なぜか鳩達はこの花を摘み取っては何処かに飛んで行く…20程の群れで花を咥えては消えてまた群れで現れて花を咥えては飛んで行くのを繰り返しているのだが、鳩のリーダーは僕の手にしている袋いっぱいのこの花を見つけて、


『俺らのだ!』とばかりに襲いかかってきたのだ。


カトルが、


「ケン兄ぃ!」


と叫び弓を構えるので僕は、


「リーダーは最後だ、下っぱから倒せ!」


と指示して、トールも槍を構えて、


「加勢します。」


という。


槍では届かないので、どうするかと思えばトールは片手で石ころを拾い上げ、魔力を込めて投げつけると、石ころに魂が宿ったように鳩を追尾している。


僕は二人の為にわざと鳩達の的になりペチペチと攻撃を食らいながら木の上で我慢していると、弟子の攻撃で一匹、また一匹と数を減らす鳩に、


「やっぱり遠距離攻撃は便利そうだな…」


と、二人の攻撃を眺めながら鳩体当たりにもいい加減うんざりしていた僕は、思わず先頭のリーダーを叩き落としてしまう。


すると軍隊鳩は散り散りに逃げ出してしまったので、


「すまん、イラッとしてリーダーをシバいちゃった。」


と言いながら木から降りて、回収した鳩をマジックバッグにしまいながら、二人に、


「群れを倒すには先ずはリーダーからってリントさんの教えだよ。

軍隊鳩はリーダーを倒すまで群れでターゲットを攻撃するから下っぱから倒すと数が倒せる。

美味しいんだよねコイツ。」


と、師匠から聞いた教えを次の代に繋げるという名目で、


「やったぁ!帰って香草焼きにしよう!!」


と、欲望のままに鳩を狩ったのだった。


トールが、


「師匠、あの鳥ってこの花を巣に持ち帰ってましたが、集落の中に植えたら集落にも花を集めに入って来ませんかね?」


と心配していた。


僕は、


「可能性が有るから集落から少し離れた見晴らしの良い所に植えようか。

レオおじさんって鳥が好物だから、倒しやすそうな場所を探して植えたら、鳩の狩場になるかもしれないからね。」


と決めて、ギンカを飛ばして集落を目指した。


早く帰って香草焼きを食べて休むぞ!

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