第3話 芋を植えましょう

翌朝、8月の日差しの中で、アルと二人でジャガイモを植える為に畑に来ている。


「ケン兄ぃ、どうやって種芋を倍にするか教えてよ。

気になって昨日あまり眠れなかったんだよぉ~」


と、アルが不満気に訴えるので、


「はいはい、では種芋倍化方法を教えてあげよう。」


と言って、腰のナタを引き抜きジャガイモを半分にして、


「はい、倍になったよ。」


と、アルに見せてあげると、


「ケン兄ぃ、真面目にしてよ!切り口から腐っちゃうよ。」


とアルはご機嫌斜めの様子…

しかし、僕は至って真面目である。


「アルぅ、兄ちゃんはいつでも真面目だよ。

芽を出す為にお日さまや土の力を蓄えたのがアルも知ってるこのジャガイモ君だ。」


と言ってジャガイモを手に持ち、弟にジャガイモの発芽についての説明をはじめると、アルは膨らませたほっぺたを元に戻して、僕の言葉を興味深く聞き始めた。


「ジャガイモ君はすぐに次の芽を出せる環境で無い場合は、蓄えた力を小出しに使い我慢しなければならないので、ジャガイモ君は芽を出す為以上の力を蓄えているのです!」


というとアルは、キラキラした目で、


「じゃぁ、半分にしても芽が出るの?

でも、切った所から腐らない?」


と、質問してくる。


「そこで活躍するのが釜戸の灰だよ。

ジャガイモの切り口を日に当てて乾かしても良いらしいが、釜戸の灰を着けたらすぐだし、灰は毎日の様に出てくるから、こっちの方が楽だからね。」


と僕が説明すると、


「ケン兄ぃ、それならもう半分にしたら種芋が四倍にならないかな?」


と欲張る弟に、


「いや、出来なくはないが、半分くらいで許してやろう。

ジャガイモ君も根を張り、葉っぱを繁らすまでは蓄えた力だけで育つから、ガリガリの腹ペコジャガイモ君になったら可哀想だよ。」


と諭すと、理解力のある弟はこの説明だけでジャガイモの種芋の倍化方法を自分のモノにしたらしく、

自分の畑に半分に切り、灰をまぶしたジャガイモを植えていく。


このジャガイモが収穫出来れば、ダント兄さんに行商で販売してもらったり、なんならポテチにでもして酒場のオツマミとして兄さんに売り歩いてもらったら、芋のままより高値で売れるかも知れない…

アルの学費の為に少しでも我が家の収入を増やさなければ!


ダント兄さんも個人で店を持つ為の資金を貯めているし、自分も何でも屋の仕事を頑張らないといけないな…

しかし、何でも屋の仕事と言っても、都会で駆け出し冒険者のやるお手伝いクエストの様な仕事内容がほとんどである。


水路の掃除や、草引き、収穫時期の助っ人等々…

僕が強ければ魔物の駆除依頼も来るかも知れないが、所詮は村の子供Aの僕にはそんな依頼は来ないだろう。


都会であれば冒険者ギルドが斡旋してくれて、様々な難易度の依頼から仕事を選べるが、ここはド田舎であり、無論冒険者ギルドなど建っていないので、個人で営業や交渉をしなければならないのだ。


現在は、早朝出掛けて夕方に戻る隣村での仕事は週に2~3日程で、残りは家の事をしながらアルの勉強を見たり、頼まれた素材を集めて過ごしている。


営業というか、大概はマチ婆ちゃんの庭の草引きを見ていた近所の奥さんが、仕事ぶりと値段を聞いて、


「それなら次はウチもお願い。」


みたいな感じで顧客が増えてきているので、あとはお客様をガッカリさせない様に仕事で答えるだけである。


掃除がほとんどだが、希に近くの別の村に荷車で荷物を届けたりして、近隣の村からもお呼びが掛かる事があるが、その場合は泊まりがけになるので、そんなには多くは行けない。


よって、何でも屋のメインの収入は、薬屋のマチ婆ちゃんからの依頼で、マチ婆ちゃんは自身で貴重な薬草は庭で育てたりしているが、一般的な薬草類は、かなりの割合を数年前から我が家に任せてくれているから、兄弟三人共に空き時間を見つけて集落の周りで薬草を集めマチ婆ちゃんに卸す事で爺さんが死んだ後も、なんとか子供達だけで生きて来れている。


本当にマチ婆ちゃんに感謝だ。


今はダント兄さんが行商に専念しているので、アルと二人であるが、

なんと今ではアルが畑エリアの端で薬草類を栽培しているので、一定量を安定して供給できるのだ。


薬草を根っこ周りの土ごと掘り起こし、畑の端に植えて、葉っぱを収穫してはアルが魔力を流して活性化させて育てると、再び若葉を生やすといった具合である。


畑の完成以前から追加の肥料も無く一年近く、ずっと葉っぱを採集出来ているので、アルの植物活性には、必要な栄養を魔力で作れるのかも知れない…

となると、連作障害無く好きな作物を連続で作り続けられるのかもしれないが、それもジャガイモで確認すれば良い。


しかし、栽培している薬草だけでは足りないので畑仕事の後で一緒に薬草集めに向かったり、

ミロおじさんとレオおじさんの仕事の手伝いの合間に、いつもは行けない森の中でも薬草集めをしている。


森では、斬り倒した木の枝払いをしながら、木に住んでいたらしい虫魔物を倒して、おじさん達が丸太の運搬準備をしている間が薬草集めのチャンスである。


先日ミロおじさんが、


「ケン、この倒した虫魔物の素材で装備でも整えられたら、リント君と一緒に俺達と冬支度の為の狩りに行けるんだけどな。

猪や鹿の魔物素材は金になるし、肉は保存に便利だぞ。」


と残念そうに60センチ近いカナブンの体から豆粒程の魔石を取り出して巾着袋に入れていた。


その隣でレオおじさんが、斬り倒した木にロープを巻き付けながら、


「町まで行かなきゃ虫魔物素材で防具を作れる防具職人は居ないし、買取ってくれる冒険者ギルドもここら辺には無いからな、それに岩カナブンの素材では、あまり高値には成らないし、オーダーメイドで防具にするにも弱いから、せめて鎧カブトムシぐらいの素材ならば町まで行く値打ちがあるけどね。」


と言っていた。


確かに、隣村では角ウサギの皮などを買取りしてくれる革細職人さんはいるが、虫魔物の素材を買取ってくれるのは、武器屋の親父さんが、王様バッタの薄羽根を弓矢の素材に買取っていたのを見た事がある程度だ。


なので、勿体ないが魔石を取り出したカナブンは土に埋めて森の栄養になってもらうだけである。


そのうち町まで売りに行こう!

などと虫の死骸を溜め込もうものならば、たちまちこの世界で出会ったモノの中でも最悪な奴らが集まって来てしまう。


そう…メーター超えのGである。


奴らが倉庫に潜り込めば、何もかもがお釈迦にされてしまう…

食い荒らされ、噛み壊され、精神的ダメージまで与える悪魔である。


前世の奴は、隙間から忍び込むが、こちらの奴らは体のデカさから、そっと隙間から潜り込む事などしない…というか、出来ない。


隙間を破壊して、広がった穴からズカズカと乗り込んでくるので更に質が悪い。


前世でも、何でも屋の業務には害虫駆除もあったので、耐性は有るつもりだが、こちらの奴らは、あのデカさと、ウンザリするしぶとさから前世の奴らよりも遥かに嫌だと言い切れる。


そんな訳だから魔物を解体するならば、その日のうちに処理をして、綺麗に解体場所も掃除しないと痛い目に会ってしまう。


町には小型の魔物を避ける魔道具なるモノがあるらしいので、いつかは集落にも配備できる様に稼ぎたいものである。


しかし、装備を整えて魔物狩りが出来る様に成長すれば、何でも屋の依頼に畑を荒らす魔物の討伐等も増え、依頼の単価も上がるので夢ではあるが、今は装備を整えるよりも日々の暮らしを支えるので精一杯だから、ダント兄さんの行商が軌道に乗るまでは我慢かな?

ダント兄さんの商人ランクが上がれば、町や村の中央広場で個人の露店が出せる様になるし、お金さえ貯めるか借り入れが出来れば店舗も構えることができる。


そうなれば、一人前の商人としてリリーちゃんとの結婚も認められるし、今の様に大きな商会の傘下で手数料を取られる事も無くなり、扱う商品によっては、暮らし向きが一気に楽になるだろう。


それまでは我が家は薬草と掃除の二本柱で家計を支え、ジャガイモの収穫が安定したらダント兄さんに販売を委託してアルの授業料を貯める事を目指そう!


などとセッセと芋を植えるアルを手伝いながら考えを巡らせていた。

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