第94話 笑顔はプライスレス

特にお咎めも無い様子の僕達は、喧嘩の観戦をしていた酔っぱらいの中で、あの男を知っている人に、


「あの男が娘を売り飛ばした娼館を知らないか?」


と聞くと、3つも違う娼館の名前が出てきた。


子売りのマーカスと通り名が付く程に子供を売ったのか?…と考えながらも、名前の出た三軒を回る事にした。


本当は娼館なんぞに家族を連れて行きたくは無いが、ナナちゃんがどうしても一緒に行くと聞かないので、全員で、アダルティーなお店を巡ると、一軒目と二軒目は空振りだった…いや、正確にはナナちゃんの知らないお姉ちゃんが売られてお店に出ていた。


どうもそのお姉ちゃんの話しでは、マーカスは数ヶ所にアジトがあり、娼館で生まれた子供などを手に入れては、先に買った子供に新たに買い付けた子供を面倒を見させる手口で、男の子は一番の金づるである少年好きの貴族に売り払い、女の子は下の子供の世話の後、十五で娼館に売られる。


中には娼婦としての仕事を嫌がったり反抗的な場合は、仲の良い年下の子供を下働きとして同じ娼館に売り払い、


「お前が頑張って稼いで妹を買い戻さないと、妹も娼婦になるぜ!」


と、脅すというマーカスの手口まで教えてくれた。


最低な気分だ…しかし、肝心のキキお姉ちゃんが、まだ見つかっていない…心苦しいがお姉さんに、


「本当でしたらお力に成りたいのですが…」


と僕が頭を下げると、お姉さんは笑いながら、


「アタシ、売れっ子だから妹分も買い戻したし、来月には衛兵の彼も頑張って、私を身請けしてくれて結婚するんだ。」


と言っていた…今までが辛かった分、少しでも幸せに成って欲しいと神々に心の中で祈りつつ最後の娼館に向かうと、以前アリ殺し退治に来た時に僕らに話しかけてきたアダルティーを超越したシルバーな女将のお店だった。


キセルの様な独特なタバコを燻らせながら、女将は、


「あの時の冒険者の坊や…なんだいまた来たのかい?」


と聞く…


『いや、その言い方なら僕が一回娼館に来たみたいに聞こえるから!』


と慌てながらそっとシェリーさんを見ると完璧にコメカミに血管が浮いていたが、今は一旦置いといて頂き、僕が、


「キキという十五歳ぐらいの女の子をマーカスって奴から買わなかったか?」


と聞くと、女将は、


「ウチは娼館だよ、女しか買わないよ。」


と言っていた。


少し雰囲気の違う客が玄関先で女将と話しているのを心配した店の女性達が集まって来て、


「客じゃないのなら商売の邪魔だよ!」


と威嚇してきたのだが、こちらが事情を話すと、女性達は納得してくれ、更に女将さんの活動の話しも聞かせてくれた。


ここの女将さんは、自分も理不尽に連れてこられ娼婦として働いた事もあり、積極的に女の子が親などに連れて来られた場合は買取り、その子が生きて行ける様に教育と仕事の斡旋をしているらしい。


無論自分を買い戻す為に、借金は背負ってしまうが、それでもそんな親から引き離して、自分の人生を歩ませる為には仕方ない事だ。


娼館で働く女性の半数は、借金奴隷として買われた方々で、額が額なだけに自分が納得して娼婦として働いているし、中には覚悟を決めて働く親に売られた娘さんもいるみたいだ。


女将さんは、僕に、


「どうするんだい、あの娘を引き取るのかい?」


と聞くので、


「はい、ウチの家族のお姉ちゃんならば、ウチの家族です!」


と答えた僕の前に紙が差し出され、その紙には買い取った女の子に使った金額が細かく記載されていた。


女将は、


「ウチも商売だからこんだけは貰うよ、いいね。」


というのだが、金額の半数近くを占める『手数料』の文字が凄く気になる…ボラれてるかもしれないが、仕方ない!

最近調子に乗って金を使って色々作っていた自分にアイアンクローをかけながら小一時間説教をしてやりたいよ…本当…


そして現在、キキお姉ちゃんと抱き合い、無事を喜び合うナナちゃんを横目にシェリーさんに問い詰められています。


ちなみに僕の全財産でもキキさんを買い戻すのに少し足りなかったのだが、なんとナナちゃんが、


「足りなかったらこれも使って。」


と、エリーさんからもらったお給料を貸してくれたのだ…少し情けなかったがキキさんを助ける為に、一旦借りておいた。


そんなこんなが有り、町の宿屋に泊まる余裕も無く、町の壁の外で野宿をしている。


娼館がキキさんの引渡しの準備をしている間に衛兵隊の詰所で虎獣人の隊長さんに詳しい話をもう一度聞かれて、正式にお咎めが無いことが決定したのだが、問題はマーカスという男で、今回の事は事件として片付けれるが、コイツのやっている子供の売り買いはグレーな範囲で、罪に問えるかも知れないが、バックに常連の少年趣味の貴族がいる事を悩んでいた。


僕は、隊長さんに


「この町の管轄はポルト辺境伯様でしょ?」


と聞くと、隊長さんは、


「そうだが、それがどうした?」


と、言っていたので、


「今日の出来事と、マーカスって奴のやった事、それに少年趣味の貴族の話しもそえて、『何でも屋ケンちゃんが大変迷惑をかけられましたのでお力をお貸し下さい。』と言っていたと報告してみて下さい。」


て伝えておいた。


あとは辺境伯様のお手並み拝見となるのだが…大丈夫だよね…多分…ほんと頼みますよ辺境伯様!

という事があり現在に至るのだが、シェリーさんが、娼館に通った疑惑で僕を問いただしているので、こんな話をカトル達に聞かせたくない僕は、半泣きでシェリーさんを幌馬車から連れ出して、「童貞です…」と告白するという死ぬ程恥ずかしい罰を受けた。


シェリーさんは笑ってる様な少しイヤラシイ表情で、「本当?」と聞いてくる。


「本当に本当。」などというラリーを繰り返して、何とか信じて貰えたのだが、僕は何を報告させられたのかと、少し悔しくてその夜は眠れずに、焚き火の番をしていると、キキさんが幌馬車から焚き火の側に来て、僕に、


「助けて頂きありがとうございます。」


と、深々と頭を下げる。


それから様々な話をしたのだが、キキさんは、


「この御恩はどうやって返せば…」


というので、


「ナナちゃんのお姉ちゃんならウチの家族だよ。

恩なんて返さなくて良いから、ナナちゃんの側で幸せな姿を見せてあげてよ。

それを一番に願うし、それ以上は望まないよ。」


と答える僕に、キキさんは


「いえ、それでは…」


と食い下がるので、


「でも、幸せにならなかったら怒っちゃうかも知れないよ、だから、一生懸命幸せになって下さい。」


と僕がいうと、キキさんは


「幸せに成っても良いのですか?」


と聞いてくるので、


「ならなきゃ駄目です。」


とだけ答えておいた。


安心したのかキキさんは、暫く焚き火を眺めていたが、いつの間にか、うつらうつらと眠っていた。


明け方、僕の膝枕で眠るキキさんは、一筋の涙を流していたが、その姿をシェリーさんに見られた僕は、両目から涙を流すほど詰められたのはまた別の話である。


結局、アントメタルを生産地で安く買おうとしたのだが、購入資金もスッカラカンになり、ヤケクソ気味に魔物を狩りながらドットの町を目指した。


何が有ろうと、ナナちゃんから借りた金はこの旅で返さねば…と頑張った結果、皆で均等に分配した上で、ナナちゃんにお金が返済できた。


まぁ、僕の文無しは変わらずだが仕方ない。


キキさんの身の回りの物を購入してから集落に戻る事にしたのだが、この旅で僕は、お金を全部と婚約者からの信頼をちょびっと失い、代わりに家族を1人増やして帰って来た…何だか損した気もするし、凄く得した気もする。


まぁ、ナナちゃんの笑顔がプライスレスなので、結果としては満足な旅ではあった。


集落に帰り、お土産も無く1人の増えた家族を紹介して、経緯を説明すると、嬉しい事に皆、涙を流してキキさんを快く迎えてくれた。


集落のご近所ということで報告会に来ていたファーメル家の別荘の駐在員さんが、ボロボロ泣きながら、


「自分、少しぃぃ、ほ、報告事項がぁ出来ましたので…」


と返って言ってしまったのだが、暫くして、


「ファーメル騎士団長よりの伝言であります。

絶対に全てのアジトを探しだし、子供達を保護する俺に任せろ!変態貴族もまとめてポルト騎士団と天罰を下してやる!! との事であります。」


と報告してくれたから任せておいて大丈夫だろう。

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