第39話 弟の変化とお買い物
やる気になったニック様は、騎士団長に召集をかけて会議を始めるようだった。
『よし、この隙に夕御飯を食べてしまおう!』と、料理を頬張る僕に、
「ケン兄ぃ、魔物狩りって僕もついていっちゃダメ?」
と弟のアルが聞いてくる。
「なんだ、アルもお給料足りなくなったのかい?」
と、聞く僕にアルは、
「違うよ、実は勉強は大丈夫なんだけど、魔法のレベルが不安で…植物魔法を畑で使ってたけど、何だか強くなったりした感覚がないんだよ。
じゃあ、あとはレベルが上がれば何か変わるかな? と思って…駄目かなぁ」
と、おねだりしてきた。
僕は、お兄ちゃんとしてのスイッチが入り、
「良いに決まってる!
よし、アル明日お兄ちゃんとお買い物に行こう!
装備を揃えてあげるよ。」
というと、アルは、
「毎月のお給料もらってるから自分で出すよぉ」
というのを、
「駄目だ!アルのお金は学校生活で必要になる事が絶対来るから貯めておきなさい。
どうすんの?可愛い彼女が出来たら、お洒落なプレゼントでも一発かまさなきゃ!」
と、僕が説得している最中に、
廊下からキャッキャと女性陣の声がして、扉が開くなり、ミリアローゼお嬢様が、
「アル先生、見てくださいまし全身スベスベで良い香りですの。」
とアルに触れとばかりに腕を差し出して、アルは真っ赤な顔をしてツンツンと手の甲をつついているのを部屋中の人間が全員あちらでもこちらでも、作業の手を止めて大人達が、「ほほう…」とか「あらあら…」と微笑ましく見ていた。
おやおや、知らないうちにウチの弟はヤリおったか?
そりゃあ強くなりたいと思うわな… だって強さは愛だもの!!
そんな、微笑ましいふれあいなのに、アルは緊張に耐えられずに、
「ケン兄ぃ!それでは明日装備を整えたら、連れて行ってくれますね。」
と、いきなり話を変えるのだが、ミリアローゼお嬢様は、
「アル先生は何処かに行かれてしまうのですか?」
と心配そうにしている。
『おう、おう、色男はつらいねぇアルぅ~。』と思いながら、ミリアローゼお嬢様に、
「アルは、誰かを守れる男になろうと、レベル上げの狩りに行きたいと申しておりまして…」
と、僕が言うと、エリステラ奥様もアンジェルお姉さんも、
「まぁ!」
と、楽しそうにミリアローゼお嬢様とアルをキョロキョロと見てワクワクしておられる。
しかし、ミリアローゼお嬢様は、
「アル先生だけズルいですわ!
お父様、私もレベル上げに参りたいです。
四属性魔法の中でも最弱と言われる水属性… 必死に勉強して魔法学校に入れても、弱い魔法しか使えないのでは、お兄様に誉めて貰えませんもの。」
と、お兄ちゃん好き好き節がその後も続き、大人達は急に興味が薄れた上に、弟に何とも言えない視線を送っていた。
アル…お兄ちゃんも焚き付けてゴメンよ…
と、心の中で謝りつつ少し気まずい空気を気にしたニック様が、
「では、騎士団も連れて明後日レベル上げの為の狩りに向かおう、もうすぐ騎士団長がここに参るので相談すると良い。」
というが、魔法での戦いなんてこの前のデスマッチカウでの土魔法と風魔法っぽいのを見たけど、水魔法ってミリアローゼお嬢様が花壇をビシャビシャにしてたのしか知らないので、思わず僕は、
「ミリアローゼお嬢様は、どのような魔法が使えますでしょうか?」
と聞くと、ミリアローゼ様は
グラスの水に魔法を流した後その水を、フヨフヨと浮かせながら、
「魔力で水を作り出す事も出来ますが、対象の物体の水を支配して動かせますの。
お花をドライフラワーにも出来ますわよ。
元が水ならば魔力もほとんど必要とせず、支配下の水はある程度なら形を変化出来てお部屋の角から角までぐらい飛ばせます。
確か、基本の水魔法の水生成とドライの魔法の2つと、私の得意な水操作の3つでした…
合ってますわよね? アル先生。」
とアルに聞き、
「はい、お屋敷に有りました水魔法について書かれた書物で確認しましたので、間違えないかと… 」
とアルが答えていた。
あぁ、今もお嬢様は本を読まないんだ…と思っているとお嬢様は、
「レベルが上がると大量の水を操れて相手を溺れさせたり、高レベルの水魔法使いは生きているモノからも触れた場所から水が抜き取れるらしいですので、早く高レベルに成ってお兄様に誉めて頂きたいのですわ。」
という…
多分エリックお兄様はそんな魔法を使えばドン引きするか恐れおののくのでは? と思いながら、僕は、
「四属性最弱って、水魔法も十分強いですよね…」
と伝えると、お嬢様はフヨフヨ浮かぶ水を魚の様に変化させなが、
「こんな事をして、水差しまで飛ばすぐらいしか使い道がありませんの…」
と寂しそうに答えていたので、僕は
「お嬢様、息をしている敵であるかぎり大量の水でなくても溺れさせる事は可能ですし、別の方法もございます。
魔物を倒してレベルが上がれば更に色々と出来るかもしれませんので、まずは、狩りの時にでも一緒に試してみましょう。」
と言って、アルに
「なっ!」と、同意を求めると、
「僕も頑張ります!」
と、良い返事で答えていた。
あれ?これはウチの弟がブラコンお嬢様に叶わぬ一方通行なヤツかな?!
と、思いつつ、食事会終了した。
返りの玄関口で、アンジェルお姉さんに、
「狩りが片付いたら私に1日付き合って下さいますよねっ。」
と、凄い圧力でお願いされ、震えながら
「はい!」
と答えるしかなかった。
ピーターさんが、
「何か、お疲れ様でした。」
と労ってくれて、グッタリしながら宿に戻り眠りに着き、そして翌日、僕は普段あまりしない散財を心に誓い弟との買い物に向かった。
ピーターさんに案内された武器や防具を扱う店にアルと入り、アル意見を聞きつつ装備を揃えるのだが、少し気になる点が有ったのだ…
それは、
『あれ?案外ニチャニチャコートの装備ってレアで高いんだ…』
と、気がついたのだ。
店の親父さん曰く、
「ニチャニチャを狩ってくる冒険者も少ないし、コーティング職人も少ねぇからな、少し高いが軽くて良いぞ、あの坊っちゃんに鉄鎧は軽鎧でも重そうだ。」
との事なので、アルに、
「お兄ちゃんと同じニチャニチャコートの革鎧にするか?」
と聞くと、弟は少し嫌な顔をしやがった…
『何故だアル!お兄ちゃんとオソロだぞ!』
と思う僕に、アルは、
「ケン兄ぃがヤられたニチャニチャでしょ…騎士団の人からケン兄ぃの2つ名も聞いてるから…嫌…かな…」
と、結構キッパリ言いやがった。
そして、ピーターさんまで『仕方ない』みたいな顔をする。
僕は、少し寂しく思いながらも、
「じゃあ、防具は後回しで先に武器から選ぼう、アルはリントさんから兄弟の中で唯一『弓』の才能が有ると言われてたけと弓にするか?」
と提案すると、アルは、
「そうだね、ダント兄ぃみたいに腕力が無いからナタも素早く扱えないし、
ケン兄ぃみたいに足も早くないから弓が良いかな。」
というので、
「親父さん!可愛い弟に弓をみつくろってくんなぁ」
言うと、親父さんは小声で、
「ご予算は?」
と聞いてくるので僕もコッソリと、
「昨日数えたら大銀貨五枚は有りました。」
と答えると親父さんは、
「なら大丈夫だ!任せとけ!!」
と言ってかなり良さそうな弓を持って来て、
「坊っちゃん、こいつが引けるかい?」
と言ってアルに弓を渡すのだが、アルはピクリとも引けない…
それを見て親父さんはガックリしながら次の弓を持ってくる。
そんな事をくりかえして親父さんが四回目に出してきた少し小さい木製の弓をアル渡すと、ようやくアルは弓を引く事が出来た。
親父さんは、
「よしこの弓に矢筒と矢も付けて大銀貨…と言いたいが、小銀貨八枚だ。」
と言ったあと、僕に、
「鎧は奮発して良いかい?」
と、小声で聞いてくるので、
「おう!ヤっちゃってくんな。」
と僕も小声で返すと、親父さんは、
「よっしゃ!」
と店の奥に消えてゆく。
あまりに意気込む親父さんの姿に、ピーターさんが少し心配しながら、
「ケン殿、大丈夫ですか?」
と聞いてくるが、僕は弟に今出来る最高の装備を買うと決めたのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます