第38話 叱られてお食事会

エリーさんからのお手紙を読んだアンジェルお姉さん…いや、御姉様は大変ご立腹でした。


なぜなら、


「なんでこんな面白い事に私を誘わないのか!?」


と… なんでもエリーさんの手紙には、


『ケン君がまた凄い発明をしました。

それは石鹸です。

しかし、その石鹸は私が伯爵家にいた時にも見たことの無い程素晴らしいものです。

ケン君は村の皆の収入アップを考えていますが、村長も乗り気では無い様子で…

そこで、この石鹸の効果を知る女性達で工房を立ち上げたいのです。

アンジェルさんが使って、もしも気にいったならば、私達の工房に融資して欲しいのです。

アンジェルさんからの返事を聞いた後に、ケン君達に相談しますので、まだどうなるかはわかりませんが、私の作った石鹸もお届け物いたします。


追伸、私も毎日の様にお風呂で石鹸を使い、ツルツルしております。』


と… エリーさんって、伯爵令嬢なんだ! そりゃあ、駆け落ちするなら最果ての集落までリントさんは逃げたくなるよな…などと考えている僕に、


アンジェル御姉様が詰め寄り、


「私は三点怒っています!

まず一点、なんでもっと早く教えてくれなかったのか?

さらに二点目、ご自宅にお風呂が有ると書かれておりましたが、庶民に手の届くお風呂を作ったのでしょうか?!秘密にしてたなんて…

そして、最後に三点目、これが一番許せません!

商会に戻り早速一つ開封して手足を洗いましたが…なんですかあれは!? ツルツルスベスベですよ!!

あんなの10個で足りる訳がない…」


と、まくし立てられた。


あまりに見兼ねたゲットさんが、


「アンジェルちゃん、ちょっと食べて落ち着こう。今回の本題のミートボールとパスタも出来たからね。」


とペペロンチーノの横に焼いた肉団子が添えられた皿をアンジェル御姉様の前に並べる。


少し怒ったままアンジェル御姉様はフォークで食べずらそうにしているので、


「クルクル巻いてみて下さい。」


と僕は、お手本で自分皿のパスタを巻き取ってみせると、アンジェル御姉様は真似してクルリと巻き付けて一口頬張り、


「あら、美味しい…」と、御姉様という気迫から何時ものアンジェルお姉さんに戻っていた。


皆もそんな空気を感じてか、安心して食べはじめて、口々に感想を述べている。


その中でもゲットさんは、食レポでもしているかの用に少し興奮気味に、


「書いてある通りに作りましたが、これは何とも…小麦にこのような食べ方が…この歯触りと喉越し、素晴らしい…」


と語っていた。


そこで、叱られていて忘れていたが、生のフランクフルトも茹でていたのを思い出したので、アンジェルお姉さんの機嫌が良いうちにソッと席を離れ皿に一本ずつにカットして並べて、


「今回のは試作で作った皮が太くて固そうなのでナイフで切り裂いて中だけを召し上がって下さい。」


と言って僕は、お手本として縦に切れ込みを入れてプルンと剥いてから一口サイズに切って頬張る。


ぼんやりと覚えていた情報で作ってはみたが、前世で知り合いの社長さんに連れていってもらった世界のビールが飲める店で食べた白ウインナーを思い出して、


「う~ん、不味くはないが、もっと旨く出来たはずだな…」


とガッカリする僕を見て、ゲットさんは、


「急遽食材も揃ってない中で作られたのですから…」


と慰めてくれながら、自分の腸詰めを一口食べて、カッと目を見開き、


「なんだこれは、滅茶苦茶美味しいじゃないですか!!

ミートボールと同じ肉とは思えません!

これで不満というのならば完全な場合、私はどうなってしまうのやら…」


と、ある意味僕もどうなるか知りたい様な感想を語っていた。


ダント兄さんは、沁々と、


「肉好きの爺さんだったが、寝込んでからは肉もろくに食べられなかったが、これならば食べられたかもな…」


と言って、僕も、


『そうか、肉が噛めなくなったからパンすらスープに浸して食べてたのか…爺さん…気づかなくてゴメンよ…』


と理解してションボリしていたのだが、アンジェルお姉さんの追撃は止まず、


「ゲットちゃん、今回の試作品の実験は大成功ね。どれも素晴らしいわ。

ケン君に聞きたい事があると思うけど、今からファーメル家にアポイントを取って、エリステラに会わないと!

あぁ、ミリアローゼちゃんにも石鹸を分けてあげないと…

ほら、やっぱり10個じゃ足りないわよ!!」


と再びヒートアップしはじめた。


すると、隅でパスタを楽しんでいたピーターさんか、


「良ければ連絡入れますよ。」


と言って、部屋の隅でゴニョゴニョと念話で連絡を入れると、ピーターさんはクルリと振り向き、


「ニック様が、私達も味見がしたいと申されてますが?」


と言い出し、ゲットさんは、


「この後営業が…というので、」


僕は、


「では今有る腸詰めは僕が鞄に入れて運びますので、残り少ないパスタは新たにここで調理をお願いしても?」


というと、ゲットさんは、


「いや、鍋の料理は温め直しもできるが…パスタとやらは…」


と心配している。


ダント兄さんが、


「大丈夫、ケンはアイテムボックスのスキルが付いた鞄を神様に貰いましたし、

俺だってアイテムボックスのスキルがあります。

熱々が届けられるのでご心配無く。」


と説明していたが、ゲットさんが、


「えっ、神様から鞄って!

ケンさん…いやケン様は、最近噂の、あの聖人様?!」


とバニッくっていたが、僕は、どの聖人様かはもう聞かないことにして、パスタの出来上がりを静かに待った。


そして数時間後…

結局、あの恥ずかしい話暴露お茶会の後、夕食までニックさまと囲むはめになり、なんだか気まずい空気である。


しかし、アンジェルお姉さんから石鹸を渡されたエリステラ奥様とミリアローゼお嬢様はキャッキャとたのしそうだ。


遂には持参した料理もそこそこに、


「旦那様、アンジェルを連れてお風呂に参りますね。」


と女性陣は退室してしまった。


結局、今現在食堂に居るのは、ニック様と側近の方々に弟のアルと、そしてお屋敷の料理長さんである。


「けっ、素人が御館様に料理をだすだと?」


ってな具合で出て来たのだが、『残念、レストランのシェフが作ったパスタですよぉ~だ。』とは言わずに食べさせて、現在、何とか味を盗もうと料理長さんはミートボールを割って中身を確かめたりしながら「おっ!…うっ?…あっ!うん。」と唸りながら一人で百面相を見せてくれている。


ニック様は顔芸をしている料理長を放っておいて、


「聖人様はこの後のご予定は?」


と話題を変える様に話すので、


「その聖人様ってやめません?」と返した後、僕は、


「もう、暫くドットの町に来る用事が無くなりましたので、冒険者として魔物を倒して、集落にお土産でも買ってから帰ろうかと思っています。」


と、答えると、


ニック様が、


「ピーターのヤツが狩りで上手いことやったからと、非番の騎士団員があれから何組かチームを組んで自前の装備で狩りに出かけて、怪我をして帰ってくる馬鹿がおるのだ…」


と、うんざりして答えたので、


「何か騎士団の皆さん、秋に冬の蓄えの為に実家にお金を送って貧乏してるらしいですよ。

この際だからニック様が先頭に立って騎士団皆で街道の近くに居る魔物を倒して売り払って、稼いだ分を分配してはどうですか?

冬場の肉も蓄えられるし、冬の間に皮や魔物素材で色々つくれますよ。

騎士団員のレベルも上がって、いうこと無しじゃないですか?」


と提案すると、ニック様は、


「う~ん、冒険者の稼ぎ時でも有るからな…その上前をはねて騎士団が魔物狩りをするのはなぁ。」


と消極的だった。


すると、側近の中に居た爺やさんが、


「御館様、宜しいでしょうか?

近隣の村の中には魔物の被害などで作物を安定して育てられない場所もあります。

来年の春より徐々に農業支援など近隣の村の整備を始めるに当たり、騎士団を出して魔物を減らし、そして、倒した魔物の肉の一部は村の食糧支援に使い、その他の肉は町で販売し、騎士団の臨時報酬にし、皮や魔物素材は加工し、村で新たに雇う衛兵や村を守る有志の為の装備に加工するのはいかがでしょう?」


と提案してくれた。


お豆腐メンタルではあるが、やはり爺やさんは切れ者のようである。


ニック様は、


「そうだな、何回かに分けて町から近い集落から討伐に続いて身体強化が使える者や土魔法師を派遣して村を囲う壁を作り村と畑の整備を進めていくか!

いつまでも管轄内に管理していない村が点在しているのも宜しくないからな…」


と、やる気になってくれたみたいだ。


おっ、ウチの隣村もようやく正式に辺境伯領の村として名前が付いて衛兵やギルドが派遣してもらえるかな?

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