第40話 皆でお出かけ

…結果から言って、弟はお買い物上手だった。


高い装備には目もくれずにお値打ち商品をチョイスし一番高い買い物は少し魔法耐性の有るキングトードというカエルの素材のフード付きマントで大銀貨一枚で有るがそれも値切り、アーマーリザード皮の胸当てや飛びリスのしなやかな翼膜の手袋、それにアタックボアのすね当てと木製の弓セット、全部合わせて大銀貨三枚で少しお釣が出る計算である。


しかも、アルは親父さんと交渉して、解体用ナイフもコミで大銀貨三枚にした。


その解体ナイフは小銀貨三枚の解体用にしては高級な品であるが、なんと弟はナイフを半額以下で買うことに成功したのだ。


アルにどんな手を使ったのか?と聞けば、


「親父さん計算が苦手みたいだったから、交渉してるうちに面倒臭くなったみたい。

儲かったね。」


とニコっと微笑む弟に


『アル、恐ろしい子…』と白目になりそうな僕だった。


アルの装備を購入した後でピーターさんが、折角ですし前回行けなかった錬金ギルドに行きますか? と言ってくれてアルと三人で歩いて錬金ギルドに向かう。


錬金ギルドにはじめて来たのだが、色々な店でも売っている魔石ランプなど良く見る商品から、何ともよく分からない品物が並んだ魔道具ギルドの店舗の奥に、ポーション類を扱う創薬ギルドの店舗も入っていて、入り口の前にはジューススタンドの様なブースがあり、果物や蜂蜜やハーブエキスを選び其を冷えた炭酸水で割るという自家製のエナジードリンクの様な物が売っていた。


アルが崎ほどから少し後ろめたそうに、僕を見ていたのは


『兄さんは松の葉っぱの汁しか知らないんだろうな…』


なんて思っているのだろうが…気にするな弟よ、兄はアルも知らないコーラだって知っている…などという僕の心など気づかずに、


「わぁ、なんだろう、ケン兄ぃ、飲んでみようよ。」


と、棒読みの台詞で僕に、あくまで『自分も初めてだから一緒に炭酸水を飲んでみよう!』みたいなスタンスでオススメしてくる弟に全乗っかりしてやる事にして、ピーターさんと三人で炭酸飲料を飲んでみる事にした。


久々の炭酸は、ハーブが悪い仕事をして、ちょっと青臭い後味だが、レモンと蜂蜜のサイダーで、喉を刺す刺激とは関係無く、『これだよ、これ…』と、涙が流れた。


僕は、弟に気をつかい、


「シュワシュワよりも甘いしパチパチするな…」


と知らないフリをして、弟も、


「わぁ、凄いや」


と、棒読みで驚き、こんな美味しい物を自分だけ飲んでいた事を隠そうと必死に頑張っていた。


それからは錬金ギルドの魔道具のお店の錬金素材コーナーにあるニチャニチャ粘液を粘土状にする砂や、耐火性のある魔物素材を練り込んだ耐火レンガ購入してマジックバッグに放り込んだ。


これらはもしかして頼まれる可能性がある隣村の公衆浴場の材料であるのだが、こんな荷馬車で運ばないと駄目な量の荷物でも、マジックバッグは本当に便利で重さも感じずに持ち運べる。


鞄をくれたというクロネコの飼い主の異世界の商業の神様とやらには感謝しかない。


そして、村長からの正式な依頼があれば、集落に帰ったら冬までに風呂を完成する予定でいる。しかし農業指導も終わったので、もうドットの町にもなかなか来れないから財布の許す限り村では買えない材料は無理してでも買って帰るのだ。


決して散財すると決めたのに弟が買い物上手で余ったからヤケを起こした訳では無い!

しかし、かなりの散財をして錬金素材を大量にかいつけて満足した僕は、大分落ち着いた金額になった財布を覗き込み、


『これは明日の狩りをアルにも頑張って稼いでもらわないと…』


と、アルにプレッシャーをかけて慌てるところでも見てやろうとイタズラ心が芽生えるが、アルは先に、


「どれだけ倒せるか分からないけど僕頑張るよ。」


と決意表明する姿に思わず抱き締めて撫で回してやりたい衝動にかられ、『皆さーん、これがウチの弟でぇ~す。』と、御輿にアルを乗せて練り歩きたい気持ちを街中なのでグッと堪えた。


僕の心の中のオカン遺伝子が、真っ直ぐ育った弟を見て涙を流していた。


それから、背ものびた自慢の弟が楽しそうに露店が並ぶ大通りをキョロキョロしながら進むのを眺めてニヤニヤしながら後ろを歩き、


「よっ、兄さん方買ってってぇ」と元気に店主が行き交う人を呼び込んでいるその中で、木工職人が作った木製のブローチ等が並ぶ露店で足を止めたアルに、


「ミリアローゼお嬢様に何か送るのか?」


と僕が言うと、


「どわっ、ち、ち、ちが、違うよ!」


と答えた弟に、『あぁ、やっぱり弟は嘘が苦手と見える…』と、生暖かい眼差しで弟を見ていたのだが、僕と同じ眼差しで弟を見つめる人間がもう一人…ピーターさんだ。


まさかアルは騎士団の方にも淡い恋心を気付かれているとは思っていないだろう…頑張れ弟よ。



さて、そんな弟との買い物を楽しんだ翌日、お屋敷の中庭に50名程の騎士団の方々が並び、その前にダンディーな団長さんが立ち、


「これより馬車にて東に三時間、湖の奥に位置するペル村へと向かう、お嬢様のレベル上げの目的も有るが、来年より本格的に始まる近隣の村の整備計画の練習も兼ねての出陣である…」


などと、有難いご挨拶の後に出発となった。

騎士団の夜営訓練も兼ねての1泊2日の狩り遠征である。


ドットの町の近くのペル村は来年春より僕が農業指導をした農家の方が、僕の様に月に何度か出向いて指導を行い作物の生産量を上げる為の実験を行う村である。


成功すれば、徐々に遠くの村へと範囲を伸ばし、その村の周辺の小さな集落まで2~3年がかりで、安定した生活が送れる様にすることを目指すのだそうだ。


そうなれば、村で兵士が雇え、人が集まりギルド等も置けて町になる所も出てくるはずである。


田舎が便利になるチャンスだな…

しかし、そんな事はニック様が頑張ってくれるから心配はしていない!

今回の問題は、いかに弟に経験値を獲得させるかである。


正直、弟の魔法は攻撃力ゼロで、僕も遠距離攻撃の知識などないし、はてさてどうしたものか? と頭を捻りながら騎士団の荷馬車に揺られてペルの村へと向かった。


途中で何時もの湖の横を通り、『あっデスマッチカウの群れがいる…』などと、こんな時にかぎりあっさり街道から見える群れに、呆れつつ午前中に50人前後の小さな村に到着した。


ここは湖の奥に位置して、森と山の有る魔物の豊富な地域で、狩人と革職人がメインの村であり、既にファーメル家の傘下の村で、騎士団が5名ほど常駐しているのだが、今回のその騎士団から本部に、村の近くで魔物が増えていると、討伐協力の要請が来ていたのもあり、お嬢様のレベリングもかねてやってきたのだ。


普通ならば騎士団がそれなりに間引いて帰っていくが、今回の彼らはやる気が違うらしく、ピーターさんが、


「今回は、倒した魔物の肉の七割は団員に分配されるので、皆の目の色が違う…」


と言っていた。


騎士団の方々が、


「一班は周囲の警戒、二班と三班はテントの設営だ!早くしないと魔物が逃げるぞ!」


などとやっている中で、僕とアルとピーターさんとは、騎士団長とお嬢様が村長さんへ軽いご挨拶するのに同行すると、


「まさかファーメル家のお嬢様が村のピンチに駆けつけてくださるとは…」


と村長さんは涙を流して喜んでおられた。


村長さんの話では、最近、森で活動する魔物が森の入り口や、一部は湖近くの草原に集まり、村の狩人だけでは対処出来ない数らしく、獲物が近場でたむろしてくれて、肉や魔物素材には困らないので有難い反面、スタンピードと呼ばれる魔物の大行進の予兆ではないかと村長さんは心配されていた。


この世界で魔物が起こす災害が幾つかあるが、王様バッタの大量発生で作物が全てを喰われるなどのレベルから、腹ペコのドラゴンが町を滅ぼすレベルまで様々で、その中でも一番数が多いのはこのスタンピードであるらしい。


様々な理由で魔物が住みかを追われ、一ヶ所に集まり、何かの拍子に圧力のかかったマグマが噴火するかの如く走りだし町や村までも押し流す濁流となる…なんとも恐ろしい…


しかし、騎士団長さんは、


「ご安心ください、森の入り口の魔物を偵察させましたが、スタンピードが起こるにしても極小規模で、我らが倒せば問題はございません。

ただ間引き過ぎて狩人の皆様の獲物が減るのでは無いかと心配しております。」


と笑っていたので大丈夫なのだろう。


村長さんも、


「既に肉は来年末まで持つ程狩れたので、存分にお願い致します。」


とお願いしていた。

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