第41話 狩りの定義とは…
騎士団のテントの設営が終了し、少し早い昼食を終えた後に狩りという名前の軍事演習が始まった。
村から北に広がる森の入り口には、ウサギやネズミは勿論、鹿や猪等の中型の魔物まで集まって過ごしている。
「ふれあい動物園みたいだな…」
と呟く僕に、アルが、
「何それ?」
と聞くので、
「キケンが少ないウサギみたいなのを集めて、触れたりする施設だよ。」
とざっくり説明すると、アルよりも隣のミリアローゼお嬢様が、
「まぁ、それは楽しそうね。
私は飛びリスを触ってみたいです。」
とポヤポヤの意見を述べている最中も、
「一班へ向かって三班が追い込め!」
と軍事作戦が進んでいる。
正直、僕の出番などない…『狩りとは?』と哲学的な問の答えを探しながら、騎馬などで追い込まれ、騎士団員に包囲され数を減らす魔物を眺めていた。
その間も僕の隣では、ミリアローゼお嬢様は護衛騎士の方々と、
「では、テイマースキルの方が居れば魔物園が作れますね。」
などと楽しそうに話しており、益々この場が何の集まりなのか解らなくなりそうだった。
すると、ピーターさんに何やら報告が入ったようで、
「お嬢様、アル先生、準備が出来ましたので参りましょう。」
というのでついて行くと、土魔法師が作ったらしい1メートルちょっと有りそうな縦穴に森ネズミという殆どカピバラの様な魔物か数匹、穴の中で右往左往していて、騎士団員が、「どうぞ、」と穴の中のネズミをアルとお嬢様に討伐するように促している。
いや、マジで狩りとはなんだったっけ?
と悩む僕を他所に、アルとお嬢様が相談して、先ずはアルからネズミ退治を開始した。
穴の上部から射ち下ろすように弓を放ち、三発目でようやく急所をとらえて一匹倒したアルは、満足気に、
「やりました!」
と、喜んでいるのでヨシとしよう…
問題はミリアローゼお嬢様である。
魔法の杖を装備して、威力を高めた魔女っ娘だが、いかんせんお水を叩きつけるのでは、ネズミが「冷たい!」と嫌な顔をするのが関の山だ。
「上手く倒せませんわ。」
と嘆くお嬢様に、僕は歩み寄り
「お嬢様、あのネズミも息をしております。鼻の奥深くに水の塊を押し込んでそこで水を留める事が出来れば倒せるかと…」
とアドバイスすると、お嬢様は「では!」と気合いを入れて杖を振り上げる。
我ながら何とも残酷な殺害方法を提案したのは理解している…ネズミさんゴメンよ…滅茶苦茶苦しいと思う。
そんな事を思いながらも、お嬢様の魔法のお水はネズミさんの顔に張り付いたかと思うと、触手の様にネズミさんの空気を吸う為の大事な穴を蹂躙していき、
「ウジュ、ウジュ!」
と切ない声をあげさせている。
しかし、コントロールが難しいらしく、水風船が弾けるみたいに「ビジャ」っと水の玉は弾け、ネズミは水を吐き出し、ゼェゼェと喘ぎながらふらついて、倒れこんだ。
お嬢様は、
「ヤりましたか?」
と、隣の護衛騎士に聞くが、その台詞を言って倒された敵はそう居ない…勿論、騎士さんが、
「お嬢様まだです。」
と報告するが、お嬢様に次の手が無い…
もう一度鼻から水の触手をブチこむしか無いのだが、お嬢様はそれもでも仕留められるか不安な様子なので、僕は、とっておきの方法を彼女に伝授したのだ。
これはお嬢様の魔法の説明を聞いた時から色々考えた結果思い付いた方法である。
暖かい秋の昼下がり、ポカポカと心地よい日差しが降り注ぐ中で、僕が指示した形にミリアローゼお嬢様が少し変形させた水を穴の上にフヨフヨと浮かせながら、
「お嬢様、もう少し前に倒して下さい。
はい、そのままもう少し離して…はいそこです!」
と微調整をお願いすると、
ポカポカの日差しを水のレンズが集めて、溺れかけてクタクタのネズミに照射する。
光の点から少し焦げ臭い香りがすると、
「うじゅぅぅぅぅ!」
とネズミが暴れまわるが、
「はい、お嬢様あの光の点がネズミに当たる様にこの水の角度を変えてみて下さい。」
と僕が言うと、お嬢様は、
「ケン様…難しいですわ…」
と四苦八苦していたが、お嬢様は本は嫌いだが基本的には、やはり飲み込みは早いようで、暫くすると、
「あっ、わかって来ましたわ!」
と言ってネズミに光を当て続けて、ついにネズミを焼き殺したのだった。
毛皮もお肉もボロボロの焦げ焦げだが、今回は経験値狙いなので、まぁ、良い事にしてもらおう。
その後も手前の小型や中型の草食系魔物の討伐は進み、アルとお嬢様用の狩り穴にも猪などの魔物が追い込まれて突き落とされて餌食になった。
夕暮れ前には太陽が弱くなりお嬢様の最大攻撃魔法が使えなくなり、狩り自体も、
「奥の手の森狼の群れの討伐も完了しました。」
と報告を受けて、初日の討伐は完了した。
結局お嬢様とアルのアドバイザーとして半日過ぎてしまい、僕自身は魔物を1匹も倒してない状態だった。
しかし、お嬢様に教えた理科の実験の様な魔法は騎士団の魔法師の方の目にとまり、夕方近くに、せめて解体だけでもお手伝いしようと解体担当の騎士団の方々に混じり猪魔物を解体していると、
「聖人様、是非われら水魔法師にもあの特殊な魔法をお教え願えませんか?」
と三名の魔法師の方に言われ、
「理屈は教えられるけど太陽がないと使えないよ。」
と言うと、水魔法師の方々は、
「なんと、昼と太陽の神バーニス様のお力を行使する御技でしたか!」
と驚くが、そんな大層なモノではないので、
「今夜、講義しますから。」
と、三人にも教える約束をした。
そんな会話をしていると解体をしている騎士団員から、
「ヤバい、獲物を隠せ!ニチャニチャだ!」
とか、
「炎魔法師を呼べ」
と、声がした。
解体した魔物の血の匂いをたどり、溜池などからニチャニチャが集まったようだ。
しかし、僕は活躍のチャンスとばかりに、
「ニチャニチャならばお任せあれ!」
と、飛び出して、マジックバッグから空の樽をニュっと出した後にスカーフで口元を隠し、背中のニチャニチャコートの棍棒を構えると、そこには、ニチャニチャを倒す為に生まれたヒーロー、ニチャニチャスレイヤーのケンが現れたのだ。
騎士団長は、『聖人』なんて弱いガキと思っていたのだろう。
「聖人様、毒持ちもおります。
危ないのでお下がりを! 炎魔法師が焼き払います。」
と言うので、僕は、
「ニチャニチャ粘液が勿体ないでしょうかぁぁぁぁ!」
と叫びながら、手際よくニチャニチャを狩り始めた。
殴って、潰して、核を抜き取り空き樽に放り込んでいると、魔法師が駆けつけ、
「助太刀します。」
と炎を放つ、しかし、僕は、
「まだ、ニチャニチャを回収している途中でしょうがぁぁぁぁぁ!
僕ごと固まったらどうすんの!!」
と怒鳴り、魔法師の方々に一旦ストップをかけ、空樽をニチャニチャ粘液でパンパンにすると、
「クリーン」
と、自分にクリーンのスキルを発動してニチャニチャの粘液を綺麗にし、樽に木蓋で栓をしながら、
「では、あとのニチャニチャは宜しく!」
と、残党狩りを炎魔法師の方々に任せた。
そんな僕の動きを見た騎士団長さんが、
「聖人様…あの身のこなし、見たこともない魔法で身を清め…あなた様は…」
と聞くので、
「今はしがないニチャニチャスレイヤーですが、真の姿は何でもこなす何でも屋のケンちゃんです。」
と格好良くキメたがニチャニチャの溶解粘液でズボンがパンツごと溶かされていて何とも間抜けな事になっていた。
騎士団長さんの視線をたどり現状を把握した僕は、
「畜生! お気に入りだったのに!」
とニチャニチャに怒りを覚えながら、マジックバッグから着替えを取り出し前を隠しながら、
「団長さん、あのテント借りていい?」
と許可をとりテントに向かって走りだし、騎士団長は、
「ニチャニチャスレイヤー…何でも屋…一つも分かる単語が出て来なかったな…」
と呆れて僕を見送っていた。
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