第48話 村長の決断

はぁ~、会議というか、村長さんと面会したのだが、村長さんは決められないタイプの三代目のボンボンでした。


初代の爺さんと二代目の親父さんが、50年前に、都会で一発当てたお金と人脈で、広大なの農園を開くべく開拓にチャレンジしたのがこの隣村らしく、

開拓村としては成功した部類で、所有地も沢山切り開き、ここを開拓し始めてから十年少し…本来で有ればもう辺境伯領の正式な村になっていてもおかしくはないのだが、

その年ぐらいにドットの町がようやく整備されたみたいで、村長さんのお爺さん的には、次かその次には、辺境伯様に正式な村長に任命され、権力者として左団扇で暮らせると思っていた頃に、辺境伯様の代替わりで若い辺境伯様が当主になり、開拓事業が一旦ストップしてしまい、辺境伯領は足場固めに政策をシフトし、開拓村が宙ぶらりん状態の間に、村長の爺さんが他界し、親父さんが倒れ、村長さんがあとを継いだのが約20年前だったのだとか、


辺境伯様のご長男が15歳の成人となり、これで三人いる息子が各地の代官に任命されれば、領地を増やす為に開拓事業が復活するかも知れないと期待した村長さんだったが、運悪く辺境伯家の次男の乱で、流れてくる人間は増えたが、開拓事業が復活する気配は無く、その後も移民や飢饉等に耐えて現在に至るのだが、もう、地方の権力者への道を諦めた村長さんの息子は都会に出てしまい、それについて行く様に奥さんも出ていったらしい。


それからは、1人で切り盛りの出来ない農園だった場所の土地を移住者に貸し出して、毎月の家賃を回収するだけの仕事をしているだけで、何かを始めたり、何かを変えたりもせずに、ただその日を過ごすだけの地主業…村長とは呼ばれているが、特に税金を集めたり、そのお金でインフラを整備する訳でもなく、

困り事があれば、たまに口やお金を出して感謝される名誉職の村長業務を行って、今は週に三回の塾の先生だけが生き甲斐の枯れかけたおっさんである。


今回は沢山の村人にせっつかれて風呂の話を聞きには行ったが、村の皆で何かをするなどやったことが無く恐ろしいとの事であった。


「もう、私は怖いのだ…期待して裏切られ、努力しても報われないのは…

私は、物心ついた時にはこの村の村長になるんだと親父に言われて育ったが、こんなに年月がたったが、辺境伯様の領地の正式な管理者としての村長にはなって居ない…ただの空白地の村の長の扱いでは…」


と、泣き言を聞かされただけだった。


かなり面倒臭いが、嫁さんに出ていかれた気持ちの理解出来る僕は、もう一度だけ村長さんを計画に誘う事にしたのだ。


「村長さん、今から僕が言う事を聞いて下さい。

それを聞いた後で、どうするかは村長さん次第です。」


と前置きして、

ファーメル家に農業指導に行っていた事、その農業技術を使いドット周辺の村や集落の生産性を安定させて、正規の村として整備を始める計画がある…つまり開拓事業を徐々に開始する動きがある事と、

その農業技術は僕が広めたものなので、村人を巻き込めば来年の春の作付けから始める事が出来る事に加えて、石鹸は、もう隣のエリーさんが、ドットのカッツ商会の奥様と、ファーメル家の奥様に根回ししてこの冬には登録を完了してエリー商会として生産を開始する事が決まった事を伝えた。


すると、村長さんはプルプルと震え始める、僕に、


「ケン君が何故その様な重要な情報を…」


と、怒っているように問いただしてくる。


僕は、あまり自分からは言いたくないし、信じて貰えないかも知れないが、理由が無いよりはマシだと、腹をくくり、


「村長さん、僕は、神々から祝福を受けてマジックバッグと、とある知恵を託されたのです。」


と、僕がいうと、


「はは、そんな事…」


と村長さんは信じていない。


しかし、僕が、


「風呂や石鹸の知恵…その他にも様々な知恵を認められ、ドットの町の代官である辺境伯様の三男であらせられるニック・ファーメル様からの依頼で知恵を授けにドットの町に召集されておりましたので、集落を整備する事もニック様より直々に教えて頂いております。

お疑いならば、ドットの教会にお問い合わせ下さい。

ケンという者は如何なる者かと…」


と、言いきると、村長さんは、真っ赤な顔で震えながら爆発寸前気味に、


「な、な、な、な、」


と壊れた様に声を出し、『あちゃー、怒らせてしまった…』と、諦めかけた僕を他所に、遂に村長は感情を爆発させた…しかし、それは僕の想像とは違い、


「なんと言う幸運!見てるか爺様、聞いたか親父。

あの世じゃ手出だしは出来なくて残念だったな!

俺はヤるぜ!このチャンスを待ってたんだぁ!!」


と叫びだした。


そして、村長さんは僕に開拓村と王国に属する村の違いを説明しだした。


まず開拓村であれば荒れ地を切り開いて、作物が植わったり、柵で囲んだり、家が有れば切り開いた者の所有地として、王国の村になった時に所得が認められた上に、所得する為の税金が免除される。


他には、一般的な町等では工房や店を出す場合、多額の登録費用が必要になるが、開拓村で工房を開く場合は正式な村になる前に開業すれば登録費用は無料であるらしい。


ちなみにダント兄さんの様に町で商人して一人立ちするには商業ギルドのランクをある一定のお金を納めて取得し、登録料を納めてからだが、

開拓村でならギルド登録しなくても開業が出来るが、正式な村になってから商業ギルドに入って居ないと商売が出来ないので、ギルド登録はしておいた方がいいのだとか…なぜこんな話を村長さんがしたかと言うと、村長さんは、


「俺はこのために生まれてきたんだ!

こんな最果ての村まで来てくれた全員に広大な農地や、やりたい仕事の準備をして、正式な村になったと同時に、孫の代まで安心した暮らしが出来る、他所の村なんぞ足元にも及ばない村にしてやる。

そのために、その為だけに、王国の開拓法を勉強したのだ。

見てろよ、出ていったおふくろも、嫁さんも見返してやるぞ!!」


と…武者震いをしている。


『良かった…怒ってたわけではなかった…』


と安堵したのだが、村長さんはそれから根掘り葉掘り僕から現状を聞き出すと、


「多分三年程かな?

馬車で1日の周辺の町の整備をしてからだからな…」


と呟いた後に、


「ケン君すまないが、色々とやることが増えたが、先ずは村人のやる気を高めないと、塾に使っている集会場の奥を風呂に改造できるかな?

村人が集まり意見交換出来る場所にしたい。」


とお風呂作りの依頼をうけた後に、やっと村長さんから解放されて、三兄弟の家庭教師に向かった。


3時頃に行く予定にしていたが、行けたのは4時頃で、


「師匠、今日はもうお見えにならないのかと…」


と、トールが出迎えてくれた。


ここ数ヶ月でしっかりした長男が、弟と妹の勉強を見てくれていた。


トトリさんも夕飯の準備を初めており、急いで三人の勉強を見てあげてから、軽くドットの町での話と、僕の家族が増えた話をすると、三兄妹は興味津々でカトル達の話を聞いていた。


妹のシータちゃんが、


「ワタシにはお母さんがいるから嬉しいけど、シショーと一緒に住むのは羨ましい…」


と、少女の複雑な胸の内を聞かされた。


そして、僕は、


「村長さんからお話があると思いますが、この村が数年後に王国の正式な村に格上げされそうですので、土地を開墾すれば自分の土地になるし、お店屋さんも登録料無しで始められるらしいですよ。」


と、トトリさんに言うと、トトリさんは、


「お金さえ有れば、お店を建てて服屋さんがしたいわね。」


と夢を語ると、子供達は、


「母さんやろうよ、僕たち稼ぐよ!」


と提案していた。


いざとなったらミロおじさん達とまたデスマッチカウの群れを今度は数日がかりでも倒しお金を作れば良いかな?今回はマジックバッグで回収して荒稼ぎして帰ってきて、大工さんにおしゃれな服屋を建ててもらったら、この一家も幸せだし、町まで服を買いに行かなくても我が家の育ち盛りの服の買い換えも楽になるし、

あとは、いっぺんに土地が開墾できたら効率良く土地を所有出来るな…と、知恵をしぼりながら日が短くなり既に薄暗い秋の夕暮れを集落に向かい走るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る