第49話 文字カルタ、できるかな?

息が白くなり冬の訪れを感じる季節…アルも居ないし、ダント兄さんも居ないから寂しく冬ごもりかな?なんて秋口頃は思っていたが、思った以上に賑やかな毎日を過ごしている。


カトル達が家に来て約1ヶ月ちょっと、集落の皆に受け入れられ、カトルはリントさんに罠や弓を習い、サーラスはミロおじさんとレオおじさんと一緒に行動して、枝打ちのお手伝いをはじめて、ナナちゃんはすっかり回復して、エリー師匠から洗濯や、お掃除を習っている。


春先まで、何でも屋はお休みで、薬草担当の三人の家庭教師もお休みで宿題をだしているので、我が家の新入りたちのお勉強に集中出来るのだが、


なんと、ナナちゃんが文字を少し読めるだけで、カトルは文字が全く読めず、サーラスに至っては言葉すら怪しい…

冬ごもりの肉集めや、隣村の公衆浴場の為のニチャニチャ狩りと、そのあとのお風呂の工事にかまけて中々勉強ができなかったが、やる気になって別人の様にリーダーシップの塊になった村長の号令で集会場はお風呂付きの憩いの場に生まれ変わってから、我が家に貰い風呂をしにくる村人も居なくなったので、勉強を教える絶好のタイミングである。


僕は現在、お風呂工事で余った板材を、庭先で同じサイズに揃えて、表に文字を書いて、裏面にその文字が頭文字の絵を書いて、知育玩具の様なカードを作っている。


「ベントさん程で無くても、もっと色々な工具が欲しいな…」


と、ボヤきながらほとんどナタなどで削りだしているが、アルにも昔作ったし、シータちゃんにも最近作ったのでお手のものではある。


まぁ、いかんせん3セット必要なのが大変であるけど…しかも今回は今までの文字カルタの最新版で、ウサミミ錬金術師のタクトさんが、カトル用にニチャニチャコートの箱罠を作ってくれているので、ダッシュでこの文字カルタを届けると、軽くコーティングをかけてくれて、お水に強く、文字が消えない、しかもお口に入っても安心な天然材料で出来た最強の文字カルタに仕上げてくれるらしい。


まぁ、ニチャニチャコートの材料を僕が森の中でパンツを溶かされるのが勘弁ならず、素肌にニチャニチャコートの鎧を着て集めた粘液だからサービスしてくたみたいだが…タクトさんは「そんなに染み込ませなくてもいいからすぐに仕上がる。」と言っていたので頑張れば今晩のお勉強から使えるはずなのでダッシュで仕上げて持っていくつもりだ。


文字カルタの絵が書き終わり、片付けをしていると、ナナちゃんが、


「とーちゃん、何作ってるの?」


と、ホウキを持って来て僕に聞くのだが、『何を作っているか?』より、『早く掃き掃除して綺麗にしろ!』との圧を感じるのは僕だけだろうか…


「皆のお勉強道具だよ。」


と言いながら、僕はナナちゃんからホウキを受け取り掃き掃除を始めると、ナナちゃんはエリーさんと先程作ったクッキー…と言っても、材料を捏ねただけだが、彼女が初めて作ったクッキーを僕に渡してきたのだ。


『娘が初めてのクッキーを…』と、感動して泣きそうになっていると、ナナちゃんは、


「それは師匠の分だよ。とーちゃんは隣村に今から行くんでしょ?」


と言ってくる。


そう、ここに出てきた「師匠」とは僕ではなくて、マチ婆ちゃんの事であり、ナナちゃんは隣村に皆で出かけると、体力が心配で途中からマチ婆ちゃんにお願いしていたのだが、そこで、ハーブのあれこれを教わったらしく、ナナちゃんはマチ婆ちゃんに弟子入りしたという流れである。


因みに家事全般を教えてくれるエリーさんは『先生』と呼び分けがされている。


『そうか、僕のじゃないのか…』


と思いつつ、マジックバッグにしまって、涙をグッと堪えつつ、


「よし、了解だ…じゃ、行ってくるね。」


と、隣村に向けて走り出すと、後ろでナナちゃんが、


「とーちゃんは、帰って来てから皆で食べるから早く帰って来てねぇ~。」


と手を振ってくれた。


『僕の分も有った!』と内心喜びながら僕も手を振り返しスピードを上げた。


宿りバチをはじめ、最近のニチャニチャや肉集めの魔物狩りのおかげでレベルも上がったせいか、ナナちゃんのクッキーが僕の分も用意されていたからか解らないが、何時もより足取りが軽くスピードも出ている気がする。


乾いた冬の風を切り裂きながら駆け抜け、隣村に到着してマチ婆ちゃんにクッキーを渡すと、それはそれは大事そうに戸棚に閉まって、紙に飴玉を包み、


「可愛いナナちゃんに渡しとくれ。」


と言ってくる。


マチ婆ちゃんがナナちゃんのを話聞きたがったので、


「冬なのにアルの畑の端っこにお姉ちゃんのサーラスちゃんとスコップ片手に集落周りのハーブを土ごと移植して小さなハーブ農園を作ってますよ。

春には師匠にもらった種を蒔くんだって張り切ってますよ。」


というと、マチ婆ちゃんは、


「ナナちゃんは年の割に頭が良いし、飲み込みも早いから香りの抽出も覚えそうさね。

ワタシゃ、本業の薬屋に戻れるから、あの子に石鹸の香りを抽出させて代金を払っておやり、あぁ、早くナナちゃんが抽出を覚えないかね…」


とわざとらしく言っているが、通訳すると、


『賢い自慢の弟子に、小遣い稼ぎをさせたいので、頑張って連れてこい!

あぁ、ナナちゃんに会いたいよぉ。』


の意味である。


僕が、婆ちゃんの意をくんで、


「ナナちゃんもマチ婆ちゃんに会いたがってるし、家事の先生のエリーさんの石鹸作りも手伝いたがってたから丁度良いので、明日は連れて来ますよ。」


と答えると、もうニコニコが止まらないマチ婆ちゃんは、


「明日は何を教えてやろうかのぅ…」


と、早速明日の準備をはじめてしまったので、僕は、「では、次が有るから行くね。」と言って、いいもの製作所のメンバーのたむろしているベントさんの鍛治屋に向かった。


鍛治釜戸の熱で暖かいので、たむろするには持ってこいなのだが、最近は村長まで一緒にお茶をしている変な集会場に変わっている。


公衆浴場の件以来仲良くなったらしいのだが、下手に知識のある大人が集まり、あと2~3年でいかに稼ぎ、いかに村を広げるかを集会場の工事の合間に話あっていた時に、


「開墾がもっと効率的に出来れば、耕して柵で囲んだだけで、耕作地や牧場として登記が出来るんだが…」


と言っているのを聞いた僕が、ついポロっと、トトリさんの衣類店の構想の途中で思い付いた土地を獲得するプランの一つを


「牛や馬に引っ張らせる大型の農具で荒れ地をひっくり返して耕したらどうですか?」


と言ってしまったのがきっかけで、このメンバーがたむろする事になったので、原因を作ったのは僕ではある。


現在は、村の職人達がいいもの製作所傘下に入りり、村全体で物を作れる体制を組み、村長さんがスポンサーで、村の開墾に必要な馬用の大型農具をベントさんが中心となり作りだし、プギーさん達木工職人さんや家具職人さんが作った木柵をタクトさんがニチャニチャコートして、強くて腐らない柵を村の力持ちを雇い打ち込むサービスを始め、土地が欲しい村人は農具のレンタルと柵の購入代金とあとは自分の体力だけ柵を打ち込むか、力が無ければ村の力持ちを雇えば土地手に入り、集まったそのお金でさらに村の整備を進めるという循環が始まっている。


現在は引退したベントさんの親父さんもカムバックして、新しく建つ家用の釘などを生産してくれているので、村は今までに無く活気がある。


ちなみにだが、念のためドットの町に馬車を飛ばして様々な探りをいれた村長さんは、それ以来僕の事を「聖人様」と呼ぶのが少し面倒臭いので早く止めさせたい…


僕が鍛治屋に入るなり、


「聖人様、本日は何を?」


と、村長さんが飛んで来て僕にお伺いを立てるので、


「タクトさんにニチャニチャコートをお願いしたくて来ました。」


と答えると、村長さんは、


「タクトさん、ご指名ですよぉ」


と、何の店だよとツッコミたくなる様な動きを見せる。


皆が座っているテーブルに行って、タクトさんの前にドンと文字カルタをマジックバッグからとりだして、


「言ってたニチャニチャコートをお願いします。」


と頼むと、タクトさんは


「ほう、上手いもんだな。」


と、僕の絵を誉めてくれたのだが、同時にタクトさんは、


「これはどうやって使うもんなんだ?」


と聞いて来たので、


「文字や物の名前を覚える勉強道具です。」


と伝えると、木工職人のプギーさんが、


「余った木材で大量に作れそうですが、オイラ絵が下手だからな…」


と残念そうに話すので、僕が


「絵の上手な方と共同で作ればどうです?」


等と言っている横で、村長さんがハァハァしている。


『何を興奮してるんだ? 』


と、若干気持ち悪く見ている僕に村長さんは、


「聖人様、なぜこのように素晴らしい発明をもっとはやく…プギーさん取り急ぎ私の塾にも5セット作って頂きたい!!」


と騒いで、プギーさんは、


「作るのは簡単だが、ケンさん特許はどうやってる?」


と聞いてくる。


僕は、


「えっ、こんなの何処でも有るでしょ?

昔弟に作ったし、村のシータちゃんの勉強道具としても作りましたが、ビックリされませんでしたよ。」


と首を傾げるが、村長さんは、


「少なくとも私は知りませんし、勉強を教える者としてこのような素晴らしい品物を心待ちにしていました。」


と騒ぐので、鬱陶しいのも少しあり、


「では、登録してある物かもしれませんが、いいもの製作所で登録して、村の特産にして下さい。絵や文字は大量生産するならば、ベントさんに焼き印でも作ってもらえば良いですし…」


と言うと村長さんとプギーさんはベントさん親子と作戦会議に入って、タクトさんはコーティング作業に帰って行ったので、僕は一人で暖かい鍛治屋の端でお茶を楽しみつつ、文字カルタのコーティングが仕上がるのを待つ事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る