第83話 秋の訪れと旅立ち

季節は秋、僕はミロおじさんとレオおじさんと三人で果樹園と卵鳥の遊び場を兼ねる土地を整備している。


おじさん達と近くの岩場に行き、マジックバッグを岩に当ててニュっと回収していき、集落に戻り、岩をマジックバッグを逆さに構えて取り出して、石垣を作って行く。


身体強化の使えるミロおじさんとレオおじさんが微調整をしてくれて、僕が森奥で、おニューの服を溶かされるのが嫌だからと、素っ裸にニチャ棍のみの姿で集めたニチャニチャ粘液と錬金ギルドで購入したニチャニチャ粘液を粘土化させる砂を混ぜたニチャニチャ粘土と石等で石垣の補強をして、胸の高さ程度の壁が完成した頃には、ダント兄さんが果樹園第一号となる葡萄の苗木を持って帰ってきてくれて、まだスカスカであるが、果樹園がスタートした。


ダント兄さんは、店に買い物に来てくれた行商人さん達にお願いして、果物の苗木や香りの強い花の苗木を買い付けてくれている様で、来年の春先には、柑橘類やブルーベリー等も届く予定である。


ただ、今回ダント兄さんが買ってきてくれたバラの苗木は、到着したその場で、


「とーちゃん、ありがとう。」


とだけ言ってナナちゃんが集落の中の自分達の花畑にズルズルと運んで行って、シータちゃんと仲良く植えていたのだ。


まぁ、そのつもりで有ったのではあるが、「とーちゃん、これくれる?」とかの会話のラリーも無く、いきなりお礼を言って持って行くかね? 『とーちゃん悲しい…』などと逞しく成長しているナナちゃんの背中を見つめていた。


そんな秋の昼下がり、ウチの名も無き村からアル本人も知らないアル家臣団が数台の板バネ式馬車で旅立って行った。


アル家の文官長のケビンさんを筆頭に、財務担当でケビンさんの弟子のコビーさん、

騎士団長には、元騎士爵家の長男でトールの魔法学校の同級生シルビアちゃんのパパことブラウンさんと、騎士団メンバーはブラウンさんの部下の方が八人が馬車を護衛し、ドットの町でファーメル家の方々と合流して、アルにネタバラシの為にココの町に向かうのである。


ポルト辺境伯様には手土産代わりにウチの村の新名物になる予定の蒸留酒『幸せの女神』という白猫ラベルのボトルが荷馬車に積み込まれている。


寝かせていないので、ただアルコール分の強いだけのモノだが、いいもの製作所の酒好きスタッフによる秘密のカクテルレシピなどを添えて、


『ウチの弟をどうぞヨロシク、お酒、気に入ったら買って下さい。

辺境伯様にならば、ちょっぴりサービスしますよ。』


との手紙と共に婚約披露パーティーで、『アルの村は凄いんだぜ!』と先制パンチをかます為の贈り物を預けてある。


家臣団は、アルと顔合わせを済ませれば、一旦アルのことは辺境伯家の方に任せて、皆は冬前に引き上げてくるらしいので、その時にアルのリアクションが聞けるのだけが今から楽しみでならない。



そして僕達は、毎年の冬籠りの準備をはじめるのだが、しかし、例年と違う所として、村人が練習用のクロスボウで狩りをして、肉の備蓄が沢山あり、しかも今までよりも種類が豊富なのだ。


ウチの集落の子供チームも、リントさんと僕を引率者にして、隣村近くの池に飛んでくる大型の鴨の魔物の討伐に来ているのだが、


「とーちゃんとリントおっちゃんは見てるだけだよ。」


とナナちゃんに言われて、辺りを警戒しながら子供達を見ていると、


サーラスが索敵して、ギースが防御にあたり、カトルが遊撃に、ナナちゃんが暗殺、そして、魔物図鑑を読破したシータちゃんが狩った獲物を脳内の図鑑と照らし合わせて鑑定するというチームワークを見せて、クロスボウも巧みに操り、『噛みつき鴨』という鋭い牙で魚魔物を餌にする鴨や、「ハイドロガン」という飲んだ水を高速で発射して虫魔物を打ち落とす雁の魔物をいとも簡単に狩ってきて、


自宅に戻ると、ホワホワの羽をむしりとり、子供達は協力して、服を仕立ててくれたトトリさんに羽布団を作りプレゼントしていた。


良い子に育っている様で嬉しいのだが、解体した水鳥の肉を加工してレオおじさんに、


「レオおじさん、卵鳥では味わえない大自然の味わいの噛みつき鴨の燻製だよ!」


などと、カトルがセールスマンとして売り込み、稼いだお駄賃を山分けしていた。


子供達の逞しさを見て、とても安心した反面、子供らしさとは…と考えさせられた。


そして、最近の僕には一つ大きな悩みが有る…

それは、ニチャニチャコートの革鎧が流石に少し小さく感じてしまっているのである。


作者である錬金術師のタクトさんも、


「そろそろ新しいのにしないとなぁ」


と、もう微調整では何ともならないと言っていた。


という事で今年の肉集めはリントさんにお願いすると、リントさんは、


「エリーも、アンジェル様と一緒にアル君の婚約披露パーティーで御披露目する新作の石鹸を持って行ったから暇で仕方なかったから大歓迎さ。」


と、快く引き受けてくれた。


運搬はサーラスとギースの身体強化組がミロおじさんとレオおじさんの指導のもとお手伝いをしてくれるし、

代官屋敷の厨房担当になった元ポルト辺境伯家の料理長、マイクさんと娘のアイナさんが、カトルと一緒に解体をしてくれる上に、かなりの量を代官屋敷の備蓄として買い上げてくれるので、この冬の肉も家計も一安心である。


なので、何でも屋としての収穫のお手伝いという、年の終わりのお客様への挨拶回りと、来年春先の畑作りの依頼の予約を頂くという毎年の恒例行事が終了すれば、今年いっぱいは冒険者仕事をして新しい鎧の素材を集めつつ冒険者ランクを上げるつもりでいる。


なんと言っても、僕の婚約者であるシェリーさんはBランク冒険者で、ラッキーで昇格出来たとはいえ、僕はまだCランク冒険者でしかない…

見栄を張りたい訳では無いが、一年間頑張って修行の旅をしているシェリーさんと来年の春先には再会出来る予定なので、その時にせめて少しでもBランクに近づいていたいのだ。


という事で、アルのネタバラシ班が帰ってくる迄の1ヶ月足らず、ドットの町で冒険者として過ごす事にしたのだが、やはり、ナナちゃんに、


「とーちゃん、いってらっしゃい。

ギンカは置いといてね。」


と言われたので、今回もマラソンでの遠征である。


しかし、前回で既に馴れている僕は、顔色一つ変えずに、


「いってきまあーす!」


と言ってドットの町へと走り出した。


朝に出発すれば夕方には到着できるという馬魔物もビックリの身体能力を生かして、夕方の買い取りや精算で込み合う冒険者ギルドに突入して、クエストボードを確認していると、


「兄貴!やっぱり兄貴だ!!」


と後ろから声がするので振り向くと、前回よりあからさまに装備が充実している小太りと糸目が立っていた。


動き易そうな金属製の軽鎧のラックスが、


「兄貴にもらったあの時の金で揃えたッス!」


とニコニコして答え、ガチャガチャと音をならしながら全身鎧にハンマーを担いだガーランドが、


「俺は、この装備と母親の店を改装できました。」


と言いながら頭を下げられた。


Cランク冒険者にしては二人の装備が少し上等な気もするが、少し窮屈そうな装備の僕より遥かに立派な姿の冒険者から、「兄貴」と呼ばれるのは、少し恥ずかしかったのだが、三人でおしゃべりしていた流れで、小太りのお母さんが営む酒場で夕御飯を食べて、酔いつぶれた客を泊める為の客室で泊めてもらえる事になった。


三人で移動した先は、夜の狩場の店の近くで、夕方からやっている酒場というよりは、酒も飲める食堂みたいな場所であり、見渡すと仕事終わりの職人達で賑わっていたのだが、何よりも、僕は小太りのママの顔もだが、多分名前まで知ってる事に、世間の狭さを感じていた。


ガーランドママは、


「ガー君おかえり、あらラックス君も来てくれたの?

それと、アラ!ダント商会のベーコン売りの…」


と言った、女性のエプロンには『マリーの酒場』と書かれていた。

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