第121話 身動きが取れないから

ザイッチの町から帰って来て2ヶ月が経った秋の終わり。


7人のザイッチで保護した子供は、祝福の家にも馴れて、しっかりと栄養を取り普通の子供に戻りつつある。


リーダー格のアルス君のパパさんは、シルバの町で料理人をしていたらしいのだが、五年程前に町を追われる事になり、ザイッチに流れ着いて、馴れない冒険者仕事でアルス君を育てていたらしい、しかし、狩りに行っても元々戦う事に向いていないスキル持ちで、あまり稼ぎは無かったが、そこらの野草や採集した食材を上手に調理して、食べる物には困って無かったことから、見かけた子供を手当たり次第に連れて来て、飯を食わせていたらしい。


一般家庭でも7人も子供がいたら大変であり、馴れない冒険者稼業で普通にしていてはこの生活から抜け出せないからと、少し無茶をしたパパさんは大怪我をして、それが原因で帰らぬ人になったらしく、そこから一年近くアルス君が、冒険者登録をして、下水道掃除や草むしりのお手伝いクエストで仲間を食べさせ、ようやく最近になり12歳を越えたので、薬草採集クエストが出来る様になり、1日で稼げる金額も頑張り次第で増やせる様になったので、仲間が栄養が足りず痩せている事を気にしていたアルス君は、焦って危険なエリアにまで薬草を探しに入って虫魔物にボコボコにされたのだが、その事が幸か不幸かこの7人を見つける事に繋がったのだ。


ザイッチの町は人と物が集まる町である事もあり、孤児院は常に飽和状態で、この様な取りこぼされた子供がどうしても出て来てしまうのだと、オズワルド伯爵様も少し申し訳無さそうに話していた。


ウチの村に引っ越してきたアルス君は、チーム残留の三人とパーティーを組んで、四人パーティーとして薬草採集などの活動をしている。


アルス君をアニキと慕うメンバーの男の子四人も、何でも屋クランのメンバーとして冒険者登録をしてくれたのだが、年が十歳前後と小さいので、お手伝いクエストを中心にしてもらうチームとして頑張ってもらう予定であるが、今はしっかり食べて、お勉強をするのが優先である。


ザイッチから来た八歳と六歳の女の子も、沢山いる女の子の中にまじり仲良く過ごしてくれている様で安心して祝福の家にお任せしている。


そして僕はというと、いいもの製作所の大工チームに、居住スペースと訓練施設と、いいもの製作所のメンバーが自由に使える工房を完備したクランハウスの建設を依頼して、この冬から徐々に着工してもらう予定に成っている。


代金の目処も立ったので、クランハウスが完成すれば、孤児院を卒業した子供をエスカレーター式に何でも屋クランに入れて、冒険者や、騎士団などでも通用する様に鍛えたり、文官職や経営者も目指せる様に勉強を教えたり、いいもの製作所の職人の弟子についてもらい職人としての未来をひらける様にする施設を作るのが目標であるのだが、現在は、アルに渡した解体後の地竜の肉意外の素材の中から魔石を使い、少しズルい事を思いついたので、アルと悪巧みをしている真っ最中である。


これには、アルが持っている地竜の魔石と、ウチの奥さんの魔石手袋と、今回の地竜討伐でレベルが上がり、土操作の威力が上がったトールを使い、アボット地区と、コステロ地区、そしてセント村の外壁を整備し直して、シレっと村から町へと規模を拡張してしまおうと企んでいるのだ。


と言っても数年計画での事で、最初に着工するのは少し寂しく成った旧隣村のコステロ地区の壁を整備して、アルの家が中心となる大型牧場と農園など生産を中心とした場所に作り替え、将来的には中央は町として機能させ、コステロ地区で食糧等の生産、アボット地区は新たな事業や人材の育成の場所として行く計画の第一歩として、村長が中心となり、土地の保有者を集めて区画整理の話し合いから初めてもらった結果、村の中心部分はそのままで、新たに開墾して所有地にした部分と、少し中心から離れたエリアに水路を引いて水田と畑のエリアを整理し、馬、牛、羊、卵鳥のファームをファード家主導で経営する事になったのだが、やることは簡単である。


シェリーさんの魔力手袋に地竜の魔石を吸収させて、その手袋をトールが装備すれば、外部魔力タンク持ちの土魔法使いの出来上がりで、魔力切れを恐れずに、土操作で水路を整備し、僕が岩山から手当たり次第にマジックバッグに岩を拾って帰ってくれば、レベルアップしたトールがその岩と、土を変化させて硬化させる『アースウォール』の魔法で壁を生成してくれるのだ。


勿論トールの彼女のミラちゃんも土魔法使いなので、二人で交代で魔法を使えば、効率良く作業も出来るし、普通の土魔法使いは、こんな大がかりな魔法を連発すれば一時間程で魔力切れになるが、魔力手袋を使えば何時間でも魔法が使える上に、村人、騎士団、冒険者ギルドで魔石を集め続ければ、一人の魔法使いで十人以上の仕事を何日でも、ずっと続ける事だって可能である。


そして、これから先の計画では、頑丈な壁とその上からクロスボウやバリスタでの迎撃が可能な強い町を拠点に更に未開の地に向けて開拓を進めて、最悪いじめっ子のニック様や、その親父さんのポルト辺境伯様に、


「いい加減にしないと未開の地に引っ越す!」


と、拗ねる事にする…と、いうのは理由の一つで、何か有った時の避難場所や、少し動けば出会ってしまう孤児を手当たり次第に連れて帰るにはセント村だけでは将来的には難しいかも知れないからだ。


それに、孤児達には最高の教育と、様々な事にチャレンジ出来る環境を整えて、彼や彼女達が巣立って、自分達の人生を送る頃には、ファード家の家臣団は他の貴族家よりも優秀な人材で溢れ、町には、いいもの製作所系列の職人が様々な物を生み出し、他の貴族家には無い装備で戦う騎士団を抱える特別な貴族家になる筈で、だったらアルが開拓した村や町を新たに作り、アルの力をもっと強くしなければ、優秀な人材や有益な商品などは他の貴族家に力や権力でかっ拐われるかも知れないからである。


僕が未来永劫生きてどうにか出来る訳では無いので、ここは、アルに頑張ってもらい代官では無くて領地でも持ってもらって、要は僕が居なくても子供が将来何でも好きな仕事や未来を選べる為の場所を整備しておきたいのだ。


がんばれアル、負けるなアル!

大丈夫だお金の事はダント兄さんが何とかしてくれる!!


と丸投げする事も出来ずに、稲刈りや収穫の終わった土地や、ファード家で購入した土地を村長や、ケビン文官長と一緒になりせめて少しはやってるアピールをしながら、


「では、トール君、ここから東にこの縄に沿って、深さ一メートル、幅二メートルでいってみよう!」


と、トールに頼むと、


「師匠、シェリーさん、見ていて下さい!」


と、馬車馬のように働くトールをシェリーさんと二人でチャコをかまいながら眺め、


「がんばれぇ~」


と応援をしていると、


ズズッと土が移動し、水路が生き物の様に伸びていき、尽きない魔力に興奮しながらトールが村長とケビンさんの指示に従い水路を張り巡らせている。


現在、冬籠り用の肉集め兼、魔石集めにファード騎士団が出動して、近隣の魔物を倒して回っているので、魔石の追加もすぐに来るだろうから、トールの土木工事はまだまだ続きそうだ。


交代要員のミラちゃんと二人で、愛とコステロ地区を育て欲しい…のだが、困った事は、現在、アルがドットの町に赴き、ファーメル家の長男のエリック様と北部貴族の侯爵家のお嬢様との結婚にアルが参加しているらしいのだが、アルからの伝言をパーカーさんが伝えてくれたのだが、ニック様と、辺境伯様が、「旅劇団渡り鳥に、新たな演目をやらせておる。」と言っていたので詳しく聞いたところ、『パンツ聖人の世直し旅』という各地を巡り悪を成敗し、子供達を助けるという人情劇らしいと報告してくれたので、パーカーさんに、


「アルに、二人にいい加減にしないと怒るよ!って伝えておいて!!」


と伝言をお願いしてから、


「また、他の町に行けなくなるな…」


と呟き、僕はガックリ肩を落とすしか無かった…

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