第122話 パーティーへのお誘い

冬は社交のシーズンなので、アルが忙しいのは解る…しかし、何故か今年は僕とシェリーさんまで馬車に詰め込まれ、目の前のアルに、


「なんで、僕までココの町に行かないとダメなの?」


と不満をぶつけていた。


チャコを撫でているシェリーさんも、


「アル君、いきなり辺境伯家のパーティーに出て下さいって言われても、お貴族様ではないからドレスとか無いわよ。」


と、少しお怒りのご様子…


『やーい、もっと怒られろぉ~。』


と思いながらアルを見ていると、アルはシュンとしながらも、


「ケン兄ぃもシェリー姉ぇもそんなに怒らないでよ…ケン兄ぃのお話が王都でも人気で、フルポーションの事や、夏場に配った地竜の肉も沢山有ったからニック様が辺境伯様の指示で王家にも配ったらしくて、王家からケン兄ぃとシェリー姉ぇにも贈り物があるみたいだから二人にも来てくれって…王家からの使者の方から贈り物を受けとれば、すぐに終わるみたいだし、いつもの冒険者の姿で大丈夫だから…」


と説明されて、今度はシェリーさんが少し残念そうにして、


「ドレス…着なくていいんだ…」


と呟いていた。


あぁ、さっき怒っていたのは、面倒臭いパーティー呼ばれた事にでは無くて、パーティーで着るドレスを持って無い事に怒って…ん?、という事はあの怒りはアルでは無くて僕に向かっていたのか?! と気がつき変な汗をかきながら、


『帰ったらシェリーさんに、ちょっとしたパーティーにも参加出来るドレスをトトリさんにお願いしなくては…』


と、決心して、馬車で走る事数日、到着したココの町のお城では、辺境伯派閥の貴族の方々から揉みくちゃにされながら、お菓子巡りの報告や、地竜の肉の御礼やらをされて悪い気はしなかったが、やはり貴族様とのお付き合いは正直面倒臭いのでしたくないのだが、パーティーに参加する為にココの町に来ているという国王陛下のお使いの方に会うまでは帰れないので、僕は半ば諦めてパーティー前に城に集まっている派閥の方々に挨拶回りをしている。


しかし、いつの間にやら僕のマネージャー的な人物があらわれ、挨拶回りがスムーズに行える様になった…それは、アサゲロさん…いや、アーサー・ミゲロ伯爵だった。


「聖人様、こちら辺境伯領から見て北西部に領地を持つドーバー子爵でございます。

主に隣国からの貿易の窓口として機能している町と、広大な小麦畑を有する土地で…」


とアナウンスしてくれるので、『この方…何されてる方?』みたいな探りをかけなくて良い分サクサクと挨拶が済ませれるので大変助かった。


僕が、


「ありがとうね、ミゲロ伯爵様が間に入ってくれて助かるよ。」


というと、


「このミゲロ、お仕えする聖人様のお役に立てて光栄にございます。」


と、頭をさげられた…

配下にした覚えは無いのだが、ウチの村で偉そうに暴れた事を許しただけでここまでの忠誠を見せてくれるとは…何か今度美味しい物のレシピでもプレゼントしようかな?…などと思いながら、夕方近くまで挨拶責めに受けていた。


ちなみにシェリーさんは、女性陣に囲まれ、僕との馴れ初めなどを、ポルト辺境伯の二人の奥方に挟まれながら面白おかしく話したり、貴族の娘さん達からは、「ナビス騎士団の方々から聖女と崇められていると吟遊詩人が歌っている。」と、シェリーさんには秘密だった事実をバラされて驚いていた。


ついでに言うと、チャコは地竜の革の首輪でバッチリ決めて、アルの護衛チームとして来ている仲間の狼と、キリリとした顔で玄関口で番犬がわりに中庭を警備している。


働いたら少し豪華な晩御飯にありつけると、新しくファード騎士団に入った、テイマースキル持ちの騎士団員さんがチャコをスカウトしたらしく、雰囲気だけ凛々しくしているが、晩御飯を想像して尻尾をブンブン振っているのが、何とも我が家の一員っぽいと思いながら城に入り、挨拶を一通り済ませて様子を見に来た時には、貴族家の子供達に、ユルユルな性格がばれたらしく撫でられ倒して、本人もアルバイトを忘れ喜んでしまっていた。


馬と狼達の世話係として騎士団に入った新人騎士さんに、


「うちのチャコが仕事そっちのけで楽しんですみません…でも、悪いんですが、お駄賃は出してあげてくれませんか?」


と頭を下げると、


「聖人様、止めて下さい、チャコちゃんなりに、おもてなしをしてくれているので、あれも立派な仕事です。

お駄賃に、少しオマケをつけてもいいぐらいです。」


と言ってくれた。


彼はドットの町で、乗り合い馬車や運送業を生業とする商会の三男で、ミラちゃんが襲われた馬車の御者さんが彼の伯父さんだったらしく、仇討ちをしたという事で、僕とシェリーさんは勿論、トールにまで恩義を感じているらしく、聖人様呼びを止めてくれないので、少し困っているのだが、基本的には、ラックスを呼びに行かなくても、牧場の牛などの話を聞いてくれるので大変有難い人物である。


そんなほのぼのタイムはあっという間に終了して、いよいよ、パーティー前に、プレゼントのやり取りをする式典が始まった。


パーティー会場となる大広間で、国王陛下からの手紙が読み上げられる。


その内容とは、地竜の肉の御礼から始まり、法務大臣派閥のポルト伯爵家への援助の件についての褒美を与えるとの内容だった。


ポルト辺境伯様と、念話会議で国王陛下との話は出来ている様で、読み上げられる手紙の内容を聞きながら、ニヤニヤしている辺境伯様が怖い…


「まず、地竜狩りに助力したファーメル男爵家にはポルト辺境伯領の一部、ドットの町から西の地域を領地として与える。」


と宣言されると会場がどよめく、つまり魔境から逃げてくる地竜を狩る権利をファーメル男爵家が握った事になる。


続けて、手紙が読み上げられると、更に会場が盛り上がった。


なぜなら、ファーメル家が、大量の地竜の肉をあちこちに配った事で、大臣の中に、若いファード騎士爵家を導いて、壊滅したポルト騎士団の数名と地竜をこれだけの数を狩れるとは…との意見と、ポルト伯爵様からの行き過ぎた報告や、盛り過ぎた巷の噂などと合わせて、バリスタ等の事を秘密にしていたので、


『男爵家メインで軍を出して壊滅して五人だけになった騎士団と共に地竜を山の様に倒した。』


という事になった為に、ニック様は勲章と共に子爵様へと出世されてしまい、もう芋男爵と心の中で悪口を言えなくなってしまった。


ニック様は領地持ちの子爵様となり、それに助力したアルは、村から南の地域を領地として賜り、爵位もニック様のお下がり的な意味で男爵を賜った。


これは、ただでさえ格下の爵位の家に嫁ぐミリアローゼ様が更に格差が出ない様にとの国王陛下からの粋な計らいらしいが、あとから聞いた話では、僕に与えようとしていた爵位をポルト辺境伯様が中心となりそんな事をしたら聖人様は他国へと出て行きかねないと止めてくれたかららしく、


『弟を可愛がるから、出て行かないで。』


の意味が含まれているらしい。


まぁ、国王陛下のお墨付きで領地を貰ったアルのおかげで、これからの動きがやり易くなったのは有難い、そして僕達は、特に劇団や吟遊詩人のせいで、頑張った聖人様と聖女様の夫婦に褒美を与えないと王家が民に責められるという理由で、今回、王家から使わされた宰相様の配下の方と相談して欲しい物を貰える事になった。


僕は、シェリーさんと相談して、別に大きく無くて良いので、山ほどの魔石をお願いしておいたのだが、宰相様の配下の方は、


「そんな物で良いのですか?」


と心配そうにしているので、僕は、


「そんな物が良いんです。」


と伝えると、


「は…はぁ…」


と、絶対納得していない様な返事をしていた。


そして、今回のこの茶番劇を既に知っていたニック様が、パーティー終わりに僕たちを呼び出して、


「ケン殿…悪いね、何か代わりに出世しちゃって。」


と悪びれながら、僕に貢ぎ物をわたしてきたのだ。


それは、長男のエリック様の所に嫁に来た令嬢の派閥から取り寄せたメタルワイバーンのインゴット10本だった。


エリック様の結婚式の時にかなりアルが、


「ケン兄ぃが怒っていて、村から出て行きそうだ!」


とキチンと怒ってくれたらしく、感謝の品というよりは、八割ほど謝罪の品であるが…仕方がない…今回だけだぞ!と思いつつ、有り難く貰う事にしたのだった。

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