第123話 出会ってしまった

パーティー前の式典とパーティー後の会議も終わった翌日、ポルト辺境伯様達にご挨拶をしてから帰ろうとしていたのだが、廊下でやたらと僕とシェリーさんを睨む目付きの鋭いオッサンとその隣にはオッサンの娘?なのか、こちらを品定めする様に上から下まで舐め回す様に見る幼女がいた。


あまりに睨んでくるので、


「あの…」


と、僕が話しかけると、オッサンが、


「平民が!お前のせいで!!」


と怒鳴るのを幼女は、


「止めるのじゃボーラス!」


と一喝する。


すると目つきの悪いオッサンは、幼女の言葉でピタリと止まって、「チッ」と僕達を睨み付けながら舌打ちをする。


ボーラス…ということは、件の次男坊であるのだが、隣の幼女は誰なのだろうか?…などと考える僕に幼女は、


「小僧、ワシの質問に答えよ。」


と偉そうに言ってくるが、この幼女からは違和感しか受けない。


「えぇ、…まぁ、解る範囲であれば…」


という僕に、幼女は、


「うむ…効きづらい奴か、厄介な…」


と呟いてから、ギロリとこちらを見ながら、


「どの神を信仰しておる?」


と、宗教の勧誘みたいなセリフを投げ掛ける。


僕は、シェリーさんと一瞬顔を見合せてから、


「特に、誰とは…ねぇ…」


と答えると、幼女は、


「神から命を受けておらんのか?」


と不思議そうに問いかけてくるので、


「まぁ、エミリーゼ様に酒を作れとは言われましたが、特にお役目は有りませんね。」


と返すと、幼女はクスクス笑い、


「心配をして損をしたわい!帰るぞボーラス。」


と言って歩きだすと、次男坊は、


「しかし、賢者様…」


と、言いかけた途端、次男坊は頭を掻きむしりながら苦しむ…そんな異様な風景にも幼女は動揺一つせずに、


「その名を人前で口にするなと言ったであろう…お主の頭の悪さにはホトホト呆れる…」


と、次男坊を道端のゴミを見るような目で見てから、こちらに、


「クソ神の娯楽に付き合わされた哀れな魂の持ち主よ、今回は挨拶だけで帰るが、もしも我々の邪魔をするならば、容赦はしないぞ…まぁ、クソ神から我々に乗り換えるならば手厚く歓迎してやるがの。」


と、言って去って行ってしまった。


よく解らないが、多分、今回のドットの町の襲撃の黒幕の次男坊と、あの幼女が裏ボスなのだろうが、幼女の話す口調や内容に、神々を知っている感じと、とても普通の幼女では無い雰囲気を感じ、少し気になり、帰りの挨拶をしに向かったポルト辺境伯様達に先ほどの話をすると、


辺境伯様は、


「ボーラスに出会ったか…弟ニックの出世が面白くないと荒れておったのを叱りつけた後だったので、さぞ嫌な思いをさせられただろう…すまん。」


と頭をさげ、実の母のカトリーヌ様は目を真っ赤にして泣いておられた。


四十絡みのオッサンが母ちゃん泣かすなや…と思いながらも、一緒にいた幼女の話を切り出すと、辺境伯様は、


「あぁ、ファクティス嬢か…彼女が来てくれてからボーラスを諌めてくれて、シルバの町の税金も常識の範囲にもどり、何とかなっておると報告が入っておる…もう、兄のライアスの嫁や娘に固執せずに、ファクティス嬢に嫁に来て貰い落ち着けば良いのだが…」


と、タメ息をつくが、あんな幼女を嫁に…いや、確かにこの世界は15で成人だからあと6~7年で可能だろうが、ロリは駄目だろ!と、感じて思わず、


「その、次男殿とあの令嬢では…その…年齢が…」


と僕が言うと、辺境伯様は、


「確かに10…いや、20程違うが、世間では無い話ではないし、ボーラスを制御出来るのは彼女しかおらんと思っておるのだが…」


との言葉を聞いたシェリーさんが、


「いや、30は違うでしょ?」


と驚く…僕もそれに同意するが、辺境伯様は、笑いながら、


「シェリー殿、確かにボーラスは何時も誰かを睨んで渋い顔をしながら眉間にシワを寄せているが、あれでも、四十二歳だ。

詳しい年は知らぬが二十過ぎのファクティス嬢と30もは違わん。」


と言っているのをシェリーさんと顔を見合せながら首を傾げるしか無かった。


その後、騎士団の何人かにも次男坊と一緒にいたファクティス嬢の話を聞いて回るが、


「美しい」だの「知的な女性」だのと、どいつもこいつもロリコン野郎ではないか?と思える程に、あの幼女を守備範囲の女として評価しているキモい奴ばかりだった。


心の中でお巡りさんを呼びたい気持ちをグッと堪えて情報を整理すると、僕とシェリーさん以外は幼女を二十歳代の女性と認識している事が判明した。


何故かは解らないが、アルまでも幼女ではなく年上女性として認識していたので、キツネに摘ままれた気分だったのだが、もしや、僕とシェリーさんが共有している身体異常無効のスキルで、何かしらの幻惑をレジストしたのでは…との結論に至ったのだが、


『だから何?』


というところから先に進めずに、疑問が解決する事は無かった。


結局、次男坊はニック様の出世が気にくわない様でパパとママの前で暴れていたらしいから、また嫌がらせで毒を撒かれたりする可能性があるのと、アルも僕もターゲットにされている可能性がある事は解ったのだが、何をどう気を付ければいいか解らないので困ってしまう…ただ、次男坊が一瞬呼んだ『賢者様』というフレーズに少しだけ心当たりがあり、シェリーさんも、それに気がついた様で、二人で教会へと散歩がてらチクりに向かった。


ココの町の教会に到着すると、セント村で稲作を勉強していた四人が研修を終えて教会に戻っており、サクッと神様に密告して帰るつもりが、すぐに僕達が礼拝堂に並んでいるのがバレてしまい、数年ぶりとなるバランチヌス神官長の生まれたての小鹿歩きを見せられ、本殿へと連行されてしまい、ちょっとした騒ぎになってしまった。


神官長様から米の件で感謝され、春先には王都の教会でも、聖なる穀物として育てる予定だとの報告を受け、僕からも、祝福の家のスタッフとして教会にお世話に成っている事を感謝すると、バランチヌス神官長は、


「存じております…下水道で暮らしていた病気の子供を神から授かった癒しの御業で治療して家族として迎える所から始まる世直し旅…10日前より中央公園にてやっている舞台、私は、あの芝居小屋に既に三回足を運びました…」


と、感動の涙を流しながら、その救いだした子供のお世話を教会と力を合わせて行っている事を劇団の公演を通して人々に宣伝したからか、急に寄付金が増えた事を感謝された。


『神官長も、例の劇団の公演を見に行ったんだ…10日間で三回も…』


と思うのと同時に、


『これは益々、辺境伯領のほとんどの町で聖人として顔を指した時点で、面倒臭い事になるな…』


と、パンツ聖人シリーズの演目の影響を考えて憂鬱な気分になってしまった。


その後、実際に今年教会の敷地で収穫された米の出来の話等をしている内に、準備が整い、バランチヌス神官長の合図と共に、本殿の中に集まった聖歌隊が透き通った歌声を響かせ、神々への報告の祈りが開始された。


と、言っても何時もの様に、シェリーさんと並び祈りを神々の像に捧げると、フワリとした感覚と同時に別世界の様な空間でご本人が登場する流れである。


しかし、いつもと違ったのは神々がいつになくピリピリされていた事だろうか…夜と月の神ノックス様に至っては、殺気の様なオーラが視認出来そうな程に怒っておられ、


「ケンちゃんにシェリーちゃん、よくぞ賢者を見つけてくれた…二人を通して神界で見てたよ。

あやつ…ヤっては成らない禁忌に手を染めよったか…」


と、何とも言えない表情で静かに語っておられ、知識の女神ラミアンヌ様も、


「魂についての学問が盛んだった魔法文明の知恵者だったとは言え、まさか他者の体に己の魂を移す事をしていたなんて…」


と苦々しい顔で呟いておられた。

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