第124話 弟の策略
神々は滅茶苦茶怒っておられた。
あのファクティスと名乗る幼女は、間違いなく錬金術師達の祖と言われる賢者だそうだ。
今まで千年以上神々に見つからなかったのは、賢者が幻術や精神魔法か何かの認識阻害効果のある魔道具で身を隠して居たからで、今回、僕とシェリーさんという身体異常無効という激レアスキル持ちの目を通して相手を見て初めて正確な判定が出来たかららしい。
因みに賢者の魂には転生する時の約束でスキルは与えられていないので、何かしらの魔道具なのは解るのだが、どんな魔道具を作ったのかは、作られた魔道具を身につけた状態で教会に来たり、作った本人が神に感謝して祈りを捧げない限り、神々が魔道具を調査する事も、指パッチンで複製する事も出来ないらしく、どうも神様の事が嫌いっぽいあの幼女モドキは祈りを捧げる事は絶対無いと言いきれるので、神々の推測であるが、あの幼女の体は賢者が奪った物で、周りの人間に見せている幻術が、多分以前に使っていた体の姿を見せている可能性があるらしい。
「魂を入れ換える魔道具まで作ったのか!」
と、夜と月の神ノックス様が更に怒りに震えてしまっていた。
確かに、十数年前から次男坊の傍らに居るらしいから、あの幼女では計算が合わない…のだが、元の賢者は男だったのに、女の体ばかり奪い、今回は幼女…
『賢者の性癖終わってんな…』
としか言い様がない。
もとはと言えば、賢者がまだ魔法文明の国の住民だった頃、神様を殺して自分達が神様になろうと喧嘩を売って滅ぼされ、改心するならとその技術力を買われて神界に就職したのに、神様に『民があまりに原始的な生活をしてるのが、うんたらかんたら』と理由をつけて地上に転生したのに逃亡生活って…賢者さんの頑張りで転生者に寛大な世界なのは有難いが、それ以外はクソだな…人として…
と、まぁ、残念なオッサンが幼女になったまでの流れを神々から聞いたのだが、なぜ次男坊に味方してるのかも謎のまま、神々との謁見を終了した。
というか、ノックス様が、
「身体異常無効スキル持ちで防御力も高い小型のゴキブリでも神力を使い産み出して、奴の動きを調べてやる!」
と言い出し、他の神々が、
「殺虫剤も、打撃も効かない害虫を産み出さないで!!」
と騒ぎだしたので、アマノ様が、
「後は任せて、賢者が何かしてくるかも知れないから守りは固めてね。」
と言って送り返してくれたからだ。
教会に戻った僕とシェリーさんは、神官長に、
「なんだか、神々に喧嘩を売る輩がいるらしいから皆気を付けろだって、」
と、やんわり注意を促してからアル達と一旦村に帰ってきたのだが、帰る道中の馬車で、今回の事をアルに相談すると、
「ケン兄ぃ、僕もボーラス準男爵には頭に来てるんだよ。
あっちが何かしてくるんならば、ケチョンケチョンに返り討ちにしてやろうよ…僕もミリアローゼをアイツに散々馬鹿にされて頭に来ていたんだよ…」
と、弟は笑顔だったのだが、僕は知っている…これはガチギレしている時のや~つだ…僕の知らないパーティー会場で何か次男坊に言われたのだろうが、可哀想に次男坊よ一番踏んではいけない虎の尾をスパイク靴で踏んだと見える…先に言っておくが、アルはウチの兄弟で一番陰湿な方法を思い付く策士なのだ…と、怒りにも燃える弟に少し恐怖しながら村へと帰還したのだった。
それからアルは引き続きパーティー三昧の日々に戻り、僕とシェリーさんはニック様からのお詫びの品であるワイバーンメタルの使い道をいいもの製作所のメンバーと考えながら、クランハウスの建設を楽しむ毎日へと入り、王都旅行の時に購入したインゴットと魔物素材の配合図鑑とにらめっこしながら、貴重なワイバーンメタルの活用方法を決めていると、ベントさん達、いいもの製作所メンバーは珍しいオモチャを貰った子供みたいに楽しそうにに作業をしている。
10個のインゴットというが、大変貴重で高価な為に、販売し易い様に一つの塊は小さく、剣一つで2つ分程使ってしまう。
だが、魔力が伝わり安く長年使用する事で使用者の魔力が馴染み、魔法の杖の様に魔法の威力を高めてくれるみたいで、その性質とは別に、混ぜる魔物の素材によりアントメタルよりも強い能力を付与する事も可能となるお値段以上の効果が期待できる魔物メタルなのだ。
アルに以前ワイバーンメタルの武器の話をした事があったが、お値段の事もあり諦めていた事をアルは気にしていたらしく、ニック様に僕への謝罪の品にオススメしてくれたらしい…本当に良く出来た弟である。
しかも、今回の武器製作の予算も、アルが出世して王国から賜ったお金の殆どをいいもの製作所に、
「バリスタのおかげだから」
と、くれたので少し贅沢に武器の開発が出来たのだ…といっても毎度の事ながら、僕の武器よりも他の武器の製作に力が入っている気がする。
僕の新たな相棒は片手剣の器用貧乏を参考にした日本刀の様な片刃の両手剣で、ワイバーンメタルに地竜の牙を練り込み、魔力を纏わせた刀身から斬撃を飛ばせる『飛斬』という能力付きなのだ。
しかも水魔法自体も纏わせる事も可能で水属性の魔法剣の様にも使えるという逸品であり、大変満足しているのだが、トールの為に作ったという槍は、ワイバーンメタル三個分を使い、ブレスを吐くアースドラゴンという飛ぶことをやめて地中に潜り希少金属を集める事が趣味な比較的小型のドラゴンの鱗を練り込み、土魔法の威力をブーストさせる『土魔法上昇』の効果の付いた槍である。
勿論、アースドラゴンの鱗は金にものを言わせて購入したレア素材であるし、出来あがった『大地の槍』という名前のついた槍そのものも工芸品の様に美しい。
この際、僕の刀があまり特徴が無いのは許そう…なぜ鞘がニチャニチャコーティングしてあるの?僕の装備はニチャニチャ作りでないと駄目な王国法とかあるの?と思いながらニチャニチャの鞘に収まる『聖水』という何ともアレな名前の刀を腰に差すのだが、悔しいぐらいにしっくりきてしまった。
因みに、シェリーさんの魔力は魔石から出されるから、ワイバーンメタルに魔力が馴染んで成長する事が無いので、代わりに希少金属であるアイアンアントの希少種のゴールドアントの素材から作ったアントゴールドを購入して、首飾りをつくるらしい。
アントメタルより強い効果の能力が付与出来る上に、威力は落ちるが二種類の素材を混ぜて、二種類の能力を付与する事も可能となるのだが、シェリーさんの希望で、防御力上昇のみを付与する事にしたらしく益々シェリーさんが無敵に近づいている。
しかし、この装備は個人的なパワーアップだけでは無くて、アル・ファード男爵になったアルの領地を守る為に使われるのだ。
僕とシェリーさんで必要な魔物素材を集め、町は都市計画に基づいてトールが、国王陛下からプレゼントされる予定の魔石とシェリーさんの手袋、それに新たに手に入れた大地の槍でバンバン整備していき、仕上げにいいもの製作所のメンバーが集めた素材を使いバリスタなどを配備して行く計画である。
そして、今年もナナちゃんが作った雪ウサギが角に見立てた薪を残して溶けた頃、アル達が帰った来たのだが、弟は帰ってくるなり僕や、ダント兄さんも屋敷に呼んで、
悪い笑顔でこう言ったのだ、
「魔石をケン兄ぃが陛下に頼んでくれて良かった。
今回のパーティーでの各地訪問で、向こう二年、魔石を他の町に移動させるのに、税金をかける事をお願い出来たよ。」
と…それが何を意味するか、それは冒険者の少ない町では魔石が不足し、輸入する為に必要以上に金がかかるのだ。
小さな村では、角ウサギや森ネズミで十分ランプ等の明かりは足りるし、大きな村では冒険者が沢山いるので問題無い、一番困るのは鉱山の町であり、年がら年中坑道の明かりに魔石を使う上に、鉱山の町には冒険者は少なく、大概は魔石は輸入してまかなわれる。
そこに目を着けたアルの嫌がらせで、銀鉱山のみが町の命綱の次男坊の町のシルバを、現在でも村八分だが、更に干上がらせるつもりのようだ。
更にアルの凄い所は、申請をすれぱ『支援物資』として魔石を送れるという事にしたらしい。
これで、鉱山の町ロッカなどはココの町等から余剰分の魔石を融通してもらえ、次男坊の町はご近所からは現在村八分でもしも手助けする貴族家があれば、悪さに手を貸すヤバい貴族があぶり出せるというオマケつきなのだ…アルがいかに次男坊にミリアローゼお嬢様を馬鹿にされたのに怒っているのかが解る…弟は、次男坊に手を貸すヤツごと制裁を加えるつもりなのだ。
アルは続いて、
「ダント兄ぃには巷の噂を商いのついでに集めて欲しい。
ケン兄ぃには国王陛下と辺境伯様に正式に賜ったこのファード男爵領の町の要塞化を手伝って欲しい。」
とお願いしてきた。
元よりそのつもりだったのだが、僕はアルに、
「どのくらいの守りにするんだ?」
と聞くと、アルは、
「色々とポルト辺境伯様の諜報部隊の集めた情報を僕なりにまとめた結果と、ケン兄ぃから聞いた神様達が探していた古の賢者の話を聞いて、ナビス伯爵騎士団を襲ったという様々な魔物を寄せ集めた様な未知の魔物は、古の賢者が操っていたと考える方が納得できるんだ…だから、未知の空飛ぶ魔物に負けない様にしたいんだけど…できる?」
と聞くので、大地の槍の話と合わせて、
「僕の一番弟子が町ごと作ってくれるさ。」
と、トールに丸投げしておいた。
頑張れトール!出世して早くミラちゃんと結婚しろ!そう、その為の愛の試練として寝ずに働くのだ!!
と、心の中でトールにエールを送っておいた。
にしても、アルは容赦ないな…
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