第125話 恐れていた事
季節は夏、昨年は地竜退治でほとんど集落に居なかったが、今年はのんびりと…というか、我が家だけが通常営業で楽しくやっている。
ギンカとカレーライスの子馬も無事に産まれ、雲羊まで子供が産まれて、今は家族揃って丸刈り状態で牧場で過ごしていて、ノーマッチカウも少し数が増えた。
数が増えた話でいうと、トールが半泣きで仕上げたセントの町の大壁と、アルの出世と、腹の立つ劇団の演目のおかげで、引っ越してくる人間と、路頭に迷った家族や、行く宛の無い子供などが集まってきていて人口が増えているのだが、
アルはここでも先手を打っていて、アンジェルお姉さんと同じ真偽鑑定スキル持ちの職員を他の貴族家から集めており、移住希望者の面接を行って、シルバからの移住希望者や次男坊が関わっている貴族家からの移住者の中で嘘をついて入り込もうとした者を捕らえて徹底的に情報を吸いあげた上で、ただ、シルバの町の住人というのが恥ずかしく嘘をついた者は受け入れ、探りを入れに入って来た者で奴隷紋などで指令を受けて来たものはクリーンで自由にしてから、ポルト辺境伯家に送り付け、いざという時に次男坊を追い詰める駒にしてもらっている。
詰めが甘かったのは、次男坊がドットの町やその傘下の村に何かしらのちょっかいを出した時点で正式にすり潰すと辺境伯様が次男坊に約束させたのだが、この春にアルが独り立ちし、ファード領となった村はドットの傘下から外れてしまったので次男坊の間者がちょいちょいやってくる。
しかし、これは嫌がらせが三年目に入り、毒が回ってきた証拠であり、次男坊が焦りはじめたという印だと思われ、王国の中央辺りの町でも、お菓子マスターのメダルを首から下げた金持ち達がお菓子巡りの土産話やら、噂好きの奥さま達が辺境伯領の噂話や、旅劇団の話になる度にドットの町に毒を撒いて村八分にされている次男坊の話題が飛び出し、シルバの町の信用は失墜して、住人も町を見捨てて他の町に流出しているらしいとダント兄さんの情報網と、セクシーマンドラゴラ姉さん達の仲間からの情報が入ってきている。
ざまぁみろではあるが、次男坊にとって一番の打撃は、シルバの銀鉱山の産出量がガタリと減った事らしい。
銀の後ろ楯で、借金奴隷や犯罪奴隷を使い潰す様に銀を採掘していたのだが、魔石の流通が滞り、鉱山の明かりを半分に抑え、新鮮な酸素を地下へと送る魔石ポンプの使用をケチッた結果、事故が多発し、鉱夫の数が減り、銀の産出もめっきり減って新たな奴隷鉱夫も購入出来ない状態らしい。
事故が多発する鉱山にアルバイトに行きたがる馬鹿もいないので、さぞ困っている事だろうし、魔石は僕がご褒美で、それこそ各地から国王陛下名義で山の様に頂いたので、他の町で買い占めや不当な値段の吊り上げが行われない様にするという名目で魔石の移動制限が国王陛下の名の元にかけられたのは次男坊としても痛かったはずである。
しかし、驚いたのは国王陛下の名の元に集められた山の様な魔石を異世界の神様が作ってくれた手袋がキレイサッパリ平らげてしまった事と、その手袋を使い連日土魔法を使ったトールとミラちゃんの魔法レベルが上がり、立派な石壁がバンバン作れる様になった事である。
王都から、『あれだけの魔石をどうするの?』と疑問に思った宰相様が配下にセントの町を見に来させたのだが、魔力に任せて連日ニョキニョキと育つ壁を見て、宰相様に報告したところ、魔法学校の関係者達が馬車を飛ばして見学に来て、トール達の仕事を見るなり弟子にしてくれと懇願した程に異質な土魔法だった様である。
魔法学校の教授と呼ばれる爺さんは、外部魔力タンクを使った土魔法での建設の論文をアルの屋敷で書き始め、壁が完成する頃にはトールとミラちゃんは『双璧』という2つ名が魔法使いの中で有名になった程だった…この教授と錬金術師の共同開発で、少々無骨であるが、魔石を使った外部魔力タンクが試作されており、数年後には実用化され魔法使いの活躍の場所が増えると期待されているので、是非頑張って欲しいものである。
そして、ファード家がバタバタと町を作り、いいもの製作所が防衛の為の兵器を製作し、アルの領地が落ち着き出した秋の日に、最悪な知らせが入って来た。
セクシー・マンドラゴラ姉さん達の元に足に手紙の入った筒を装着した鳥魔物が飛来したのだが、その手紙を見たセクシー・マンドラゴラ姉さん達が、アルの御屋敷に駆け込み、
「渡り鳥のメンバーから緊急報告で、この町に魔物が近づいているらしいわよぉ!どうしましょう?!」
と報告をしたのだ。
シルバの銀鉱山周辺の森から、名前の解らない違う種類の大型魔物が三匹、そのうち一匹はナビス騎士団から聞いた未確認の飛行する魔物と酷似、それに異形の中型魔物20余が真っ直ぐここを目指して移動しているらしく、周辺の魔物を巻き込みながら大きな波となり押し寄せている可能性が高いらしい。
シンディーさんの話では、伝書トラベルファルコンのスピードでもシルバからここまで3日はかかり、魔物の進行速度を考えると、あと一週間も残された時間が無いという。
アルは早速偵察兵を出撃させ、老人や子供を他の町へと避難させようとするが、住民達は
「アル・ファード男爵様、我らも戦えます!」
といい、子供達も、
「お手伝いする。」
と言って避難を拒否してしまったのだ。
さて、こうなると、何がなんでもこの町を守らなければならなくなったアルは決断を下す。
コステロ地区に兵力を集め、中心街は市民の避難所と、炊き出しや治療施設として、アボット地区には、家畜などの避難所として、東より襲来する魔物を迎え撃つ事にしたのだ。
猶予は一週間足らず、
先ずはトールが魔力の手袋と、大地の槍を装備して、魔物の進撃を邪魔する防波堤の様な分厚いだけの高さ二メートル程の壁を東の林に軽い迷路の様に生成して、そこで右往左往している魔物をプロトタイプから最新型まで全てのバリスタを壁の上に並べて騎士団は勿論、村人の力自慢も配置し大型魔物を狙い撃ちする。
中型魔物の異形種は、小型バリスタと、村のクロスボウ部隊にポイズンアントの毒矢や注射針状の流血矢に、地竜の骨を使った貫通力の高い矢等で迎撃し、
そして力の無い子供達は、日中であれば安全な位置から鏡を使い目潰し作戦という事になり可能な限り遠距離攻撃のみで迎撃出来る様に準備する事5日、予定よりも早く、偵察部隊からの念話が届き、町に緊張が走る。
敵は約200余りの中型魔物と大型が10前後と小型はもう数えるのが嫌になる量が完全にスタンピードの波となり一直線にセントの町を目指しているらしく、中でも異形の大型は、意志があり他の魔物を追いたてるように後ろからプレッシャーをかけて、道中の魔物も取り込み、数を増しながらあと1日程度でコステロ地区の東の林に到着する予定だと報告され、町は戦場へと変わる何とも言えないピりついた気配に包まれる。
因みにだが、もしもの場合も有るので、ファーメル騎士団はドットの町で待機してもらい、スタンピードがそれてドットに目標を変えた場合の為に、助っ人は断った。
まさか、アルが領主になり初めての大戦が、こんな壊滅的なスタンピードの迎撃とは…もしも、意図的に次男坊が差し向けた魔物であれば、産まれて来た事をごめんなさいするぐらいケチョンケチョンにしてやらないと気が済まない!
なぜなら、ウチの何でも屋クランメンバーがクロスボウやバリスタの要員として前線に立つと言って聞かなかったのだ…本当なら炊き出しとかのチームに入っていて欲しかったのだが…誰に似たのやら…まぁ、魔法師チームが一緒にいてくれるから何とかなるだろうし、いざと成れば、僕とシェリーさんが出撃して暴れたら少しは何とかなるだろう…たぶん…でも、スタンピードって何だよ!怖ぇぇぇぇぇよぉ!!
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