第120話 聖人のお仕事

噂というのは面倒臭い…

初日にスパイスショップや冒険者ギルドに出かけた時に、


「護衛付きで町を歩いてたのは誰だ?」

「あぁ、あれは聖人様よ、ほら今話題の…」


みたいな噂が広まり、教会の方々が、


「聖人ケン様、是非一度ザイッチの教会で、住民達にそのお姿を…」


みたいなお願いに来てしまった。


お世話になっているオズワルド伯爵様まで、


「私からもお願いを致します。」


と言われ、断るに断れずに了承したのだが、知らない所で『パンツ聖人、ザイッチに来る!!』みたいなビラを配られていたらしく、地竜の解体の合間に教会で握手会の様なイベントを組まれ、当日には教会に人が殺到し過ぎて、初日だけでは終わらずに、翌日はザイッチの中央公園で、晒し者になる辱しめを受ける事になる。


それと更に嫌なのが、吟遊詩人さんが公園で、


「さぁ、皆さん、今オズワルド伯爵様の御屋敷で地竜が連日解体されているのをご存知か?」


と客を集め、ナビス伯爵様とのフルポーションの話を歌いはじめるのだ。


『止めてくれよ…』


と思いながらも握手会場の横で、軍事機密のバリスタ等の話は流石に聞いていないらしく、なぜか僕と地竜が一騎打ちをするという盛りに盛った歌詞を歌われ、もう『恥ずか死に』しそうな状態を何時間も味わうい羽目になってしまった。


ちなみにだが、あの吟遊詩人も劇団渡り鳥の別部隊だそうで、止めてくれと頼んでも駄目な事だけは理解出来て、もう、ザイッチの町での町ブラは完璧に諦める事にしたのだった。


屋敷に隠れる様に過ごして、地竜の解体の終了を待つのだが、途中であんなイベントを挟んでしまった為に、御屋敷前に、連日よく解らない参拝者がやって来てしまう…完璧に無視も出来ないので、オズワルド伯爵様の代官屋敷の門の前に出て、来てくれた方と簡単なお話をするのだが、


「先日、夏の暑さに倒れた父が、治癒院にて聖人様が伝えたという命の水で助かる事が出来ました。」


と泣いて感謝されたのだけど、僕自身全く身に覚えが…あっ、あの時の経口補水液の事かな?と思い出して、


「あれは治癒院の方々の役に立てばと教えた物ですので、お父様の役に立ったのならば、幸いです…しかし、御礼は私では無く、治癒院の方々にしてあげて下さいね。

お父様の病状を把握して最適な処置をされたのですから…」


と言って治癒院になすり着けてみたが、上手くいっただろうか?と心配しながら次の方に挨拶し、その隣の方に微笑みかけ、軽く手を振っていると、護衛の二人が、


「聖人様、そろそろ…」


と言ってくれて、再び門から屋敷に入ると、集まっていた住民達は一旦満足して帰って行くという日々を過ごしている…まぁ、握手会より短時間だし、吟遊詩人の精神攻撃も無いのでこれぐらいなら我慢出来るのだが、この日は少し違って、門の前から帰らずに、


「聖人様、アニキを助けてよ!!」


と、必死に叫ぶ声がした。


護衛の二人に、


「ちょっと良いですか?」


と、確認した後に再び門の外に出ると、薄汚れた服装の男の子が必死な顔で、


「お願いだよ、聖人様!」


と騒いでいるのを門兵さんに止められていた。


僕は、門兵さんに、


「話を聞くので、追い返さないであげて下さい。」


と声をかけてから、少年に何があったか聞くと、下町というよりもスラムと言った方が正しいようなエリアで親を無くしたり、捨てられた子供達だけで暮らしてるグループのリーダーが、薬草集め等で仲間を食べさせていたらしいが、へまをして、毒のある虫魔物に刺され、高熱を出したと話してくれた。


子供達は毒消しポーションは買えないが、町の壁の外で採集した毒消し草をすりつぶしてリーダーに何度か飲ませたので、毒は消えているはずなのに、高熱が続いているらしいく、困り果てた時に吟遊詩人の病を治す聖人の歌を聞き、助けを求めてきたらしく、


「アニキが死んじゃう!アニキを助けてよ聖人様っ!!」


と、お願いされて助けない訳にはいかない!と決断した僕は、護衛の二人に、


「僕、行きます!」


とだけ告げて、男の子に案内をたのみ歩きだすと、護衛の二人は門兵さんに、何やら指示を出した後にガチャガチャと鎧の音を響かせながら、走って追いかけて来た。


スラムの少年と、僕だけならば余り注目されなかったが、フル装備の騎士団員二名がガチャガチャと走っていると流石に目立ち、


「あれは?…てか、パンツ聖人じゃね?」


みたいな感じで顔バレして、暇な住民まで引き連れてスラムっぽい区画までやって来てしまった。


市街地の大壁の外の、農業エリアの隅に手作りの小屋が並び、この区画の住民は、農家の手伝いや、冒険者稼業などで、その日暮らしをしながら何とか暮らしているという、何かの理由でここに集まった者達である。


中には酒に溺れて流れついた者もいるが、この少年達は、このスラムで再起をはかり夢半ばで倒れた冒険者の息子や、スラムだということで、捨てられた子供なのだそうだ。


一年ほど前まではリーダーの父親が冒険者として皆を養って何とか暮らしていたらしいのだが、その父親が魔物から受けた怪我が元で亡くなり、その後を11歳になったばかりのリーダーが引き継いだのだが、先日12歳になり薬草採集の依頼も受けれる様になって、溝掃除などより安定して稼げる様になったある日、リーダーは欲を出して少し危険なエリアまで薬草採集に向かい虫魔物の攻撃を受け、何とかここまで戻ったのだが倒れてしまったと、道中で少年から聞いていた。


そして到着した小屋は町の外壁に張り付く形で作られた違法建築で、手作り感満載の小屋に入ると、そこには年齢がバラバラな5人の子供が犇めき奥に少し大きい少年を心配する様に、『アニキ』と呼ばれる少年を看病していたのだが、環境が悪すぎる…

とりあえず話は後にして、先ずは小屋全体にクリーンを使い、それから熱にうなされている少年に、クリーンをかけると、少し落ち着いた様に感じたので、昼間でも暗い小屋の中にから、少年を外に抱き上げて運び、体を確認していると、後を着けて移動して来た住民を護衛の二人が、


「少し離れて!」


などと野次馬整理をしてくれる中で、騎士団の治療班が荷馬車を飛ばして来てくれた。


治療班の方がアニキの少年を診察した結果、傷口が膿んでいたようで、クリーンで膿や毒素が取り除かれたが傷口が開いたままなので、一旦騎士団の治療室に運ぶ事になり、小屋にいた五人と、呼びに来た少年も一緒に連れて帰り、診察をして、とりあえず清潔な服と、しっかりした食事を与えたいと考えたのだが、小屋から出て来て、太陽の下ではっきりと見える痩せ細った子供達を見た瞬間に、村まで連れて帰ると僕は決めたのだった。


オズワルド伯爵の代官屋敷の隣にある騎士団の建物で、アニキの少年が治療を受けている間にマジックバッグからマダム・マチルダシリーズの石鹸を取り出して、僕もパンツ一丁になりながら男子チームを丸洗いして、二名の女の子は女性騎士団員さんに別の場所で丸洗いしてもらったのだが、思わず二度洗いしてしまいたくなる四人の少年は人族が二人と獣人族が二人で全員十歳より下に見えたのだが、栄養が不十分で成長が遅かったのか僕を呼びにきた少年は11歳だったらしい。


ガリガリの四人をピカピカにして、とりあえず僕の着替えのシャツを着せて、全員に診察を受けさせる。


この隙に子供達の服を買いに行きたいのだが、門の周りには、また、見物の人だかりが出来いて、買い物にも出られない有り様である。


見かねた子持ちの騎士団員さんが、知り合いの子供服を扱う古着屋さんに、ひとっ走りしてくれて必要そうな衣類を見繕ってくれたので、何とか子供達が小綺麗な町の子供風に仕上がったのだが、7人全員の診察と治療が終了し、騎士団の皆さんのご好意で食事が提供されると、7人はよほど腹ペコだったのか服が汚れる事も気にせずに、料理をたべている。


それを見た僕は、マジックバッグから大銀貨を数枚取り出して、先ほどお使いをしてくれた騎士団員さんに、着替えの追加を依頼したのだった。

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