第119話 討伐の終わりと保護狼
地竜討伐も無事に終わり、フルポーションも予定量より少し多めに仕上がり、これでナビス騎士団も元通りとは言わないが、立て直せる目処が立つだろう。
少し勢い余って狩り過ぎた分の素材で作ったフルポーションをナビス家と、ファーメル家、ファード家で一本ずつ山分けし、ウチのクランも一本頂ける事に成ったので有り難くもらっておくことにした。
村に約一名、フルポーションを必要としている人を知っているので、村に帰ってプレゼントする予定である。
そして我々はドットの町でニック様に報告を済ませて、今後の事を話し合ったのだが、地竜のお肉の配達の為のアイテムボックス持ちの手配に少しかかるとの事で、後日ドットの町に来て解体するのだけが手間なぐらいで、全て大成功のうちに遠征は終了となった…ただ、少し予定と違ったのは、我が家に新たな家族が増えた事ぐらいである。
ファーメル騎士団の運搬部隊の中にいたテイマースキル持ちさんが話をつけてくれた結果、サーラス達が拾った子狼達は、
「肉くれるのなら仲間になる!」
「強い奴に従うのは普通。」
「親は、弱くて負けた…悲しいけど仕方ない…」
等と言う事で、我が家の仲間に成ったのだが、六匹いた子狼の中で、地竜の焼き肉パーティー中に子狼に地竜の肉を面白がって与えた騎士団のメンバーに懐いた奴らが、騎士団のマスコット的な感じで、ドットの町で契約魔法師に契約紋を入れてもらい、人工的にテイム常態にしてもらった後に、ナビス家に一匹とファーメル家のテイマーさんの所に一匹と、アルの所には二匹と、ウチのクラン…というかサーラスにべったりな奴と、何故か僕を気に入ったらしい一匹という配分で引き取られて行ったのだ。
この子狼達は、森狼より少し強い高原狼という種類の魔物で、嗅覚が鋭く、スタミナに優れ、獲物を3日3晩追い続け疲れた所を群れで狩ったり、チャンスを狙い群れで何日も獲物を監視して、隙をつくという頭の良い狩りをする魔物らしい。
六匹の子狼に、兄弟離れ離れで寂しくないか?とテイマースキル持ちさんに通訳してもらうと、
「兄弟違う、同じ群れの子供なだけ」
と言っていた。
高原狼は一度の出産で一匹ずつの出産のようで、一回の出産で数匹の子供を生み家族単位で行動する森狼よりは、肉をくれるリーダーに個人的に従うという性質からか、子狼同士も、
「じゃあ、またな。」
ぐらいのノリで別れの挨拶を終わらせたらしい。
そんな訳で、サーラスの飼い狼はオスの『ガブ』と、僕に懐いたメスの狼はシェリーさんがすでに
「チャコ」
と呼んでいたので、チャコに決定した二匹が我が家に合流する事になったのだが、意図せずケンちゃんとチャコちゃんというコンビが出来上がった事に少し運命を感じてしまった。
今回の遠征で我が何でも屋クランが手に入れたのは、当面の活動資金と、冒険者ギルドポイントで12歳のギースとカトルがCランク冒険になった事と、焼き肉パーティーの時の地竜の肉意外の素材を貰えた事に、番犬がわりの狼が二匹、後はエリー商会宛にマンドラゴラを納品して、ナナちゃん達から可愛らしい感謝の言葉と、サーラスチームが倒して解体した魔物の肉以外の素材である。
ちなみにサーラスチームの倒した魔石はシェリーさんが家の照明用に使えそうな大きさの物以外は吸収済みで、焼き肉パーティーで解体した地竜の魔石も、既に吸収しているので魔力総量ではシェリーさんは世界一かも知れない。
かたや僕は、この遠征で気力の手袋のゲージが、はじめの内に何度か身体強化しても黒っぽいままで、
『黒は300色あるから…』
との関西弁の女性のセリフを信じて、気楽に使っていると知らないうちに青っぽくなってしまっていた。
そして、一番の戦果である我が何でも屋クランのフルポーションはトトリさんの亡くなった旦那さんの冒険者仲間で、卵鳥農家のヒョードルさんの腕を戻す為に使ってもらったのだが、ヒョードルさん夫婦がエラく感謝してくれて、
「どうやって、このご恩を返せば…」
と、悩んでいたので、
「バリバリ仕事して、祝福の家のチビっ子チームをたまにアルバイトで雇ってお駄賃をあげて欲しいです。」
と頼んだのだが、何故か解らないがアル達もいっちょ噛みして、皆が中央に引っ越して少し寂しくなった旧隣村のコステロ地区の土地に大きな卵鳥ファームを作りはじめる事になり、更に訳の解らない感謝をヒョードルさん夫婦からされる事になってしまったが、以前の様にバリバリ働ける様になったヒョードルさんならば、村人をパートさんとして雇ったりしながら頑張ってくれるだろう。
多分、トールからヒョードルさん達の話を聞いていたアルが、ちょいと手を貸してあげたのだろう…弟もなかなか粋な事をするな…
と、まぁ、そんな事をしながら村で過ごしていた数日後に騎士団の通信網でニック様より連絡が入り、
「解体と肉の分配の手筈が整った。
しかし、解体場所の広さや解体出来る職人の数もドットの町では少なく、困っていたのだが、オズワルド伯爵様が、ザイッチの町で解体すれば、運搬も楽だと引き受けてくれたからスマンがザイッチに向かってくれ。」
と、面倒なお使いを頼まれてしまったのだが、カレー用のスパイスが切れているので、ザイッチの町であれば喜んで出発する事にした。
ちなみに、今回のお出かけは僕一人である。
シェリーさんは子供達に南都流の拳法を教える為と、アルから正式に、新人のトール達八人の魔法師にも南都流を教えてほしいと依頼を受けた為にお留守番を希望し、カトル達は、一頭解体するのに2~3日程かかるのをほぼ20頭解体するのに付き合っていたら夏場の草引き依頼や秋口の畑仕事の依頼も対応出来ないという理由で断られた。
だから、急遽、シェリーさんから気力では無い何かしらの成分を十分吸収した後に、同じく嫁のカレーライス号の成分を吸収したギンカ号に引かれて、幌馬車はザイッチの町を目指して走りだした。
村に残した嫁に後ろ髪を引かれる思いの僕と、ギンカと、幌馬車の運転席横で楽しげに尻尾を振りながら座る高原狼のチャコの一人と二頭の旅が始まったのだった。
チャコが仲間になり旅が楽になった事が一つある。
それは、キャンプ地で、ついつい仮眠から熟睡に変わっても、魔物の接近をかなり遠くからでも感知して僕を起こしてくれるのだ…まぁ、お駄賃の肉はねだられるのだが、それでもかなり有難い。
そんな訳で、旅は思った以上に快適に進み、ザイッチの町に到着し、その足で直接オズワルド伯爵様にご挨拶に向かい、
『さぁ、この後すぐに宿屋を探しに行こう。』
と思っていたのだが、オズワルド様が御屋敷の客室を僕の為に用意してくれ、ギンカにも広い厩舎にテイマースキル持ちの厩舎係りを用意してくれていて、チャコにも直に厩舎係りさんが相談してくれた結果、『肉、散歩、フカフカの寝床』の条件で大人しく厩舎で過ごしてくれる約束をしてくれた。
地竜は御屋敷の庭で解体をするらしく、冒険者ギルドの解体担当職員さんと、オズワルド騎士団からの助っ人も合わせて、2頭ずつ解体していく予定であり、既に配達係りのアイテムボックススキル持ちの方々が各地から集まっていた。
地竜を中庭に2頭マジックバッグから取り出せば、僕の仕事は2日後ぐらいまで無く、この時間でザイッチの町をぶらついたり、何なら近場に狩りにだって向かえるのだが、何故かオズワルド騎士団員が二名、護衛として配置されて凄く動き難い事になってしまっている。
ちょっとスパイスショップに行くにしても、護衛付きだし、来る途中で倒した魔物の買い取りを冒険者ギルドにお願いしに行けば、騎士団の護衛が目を引く上に、冒険者ギルドマスターのフローレンさんが、パンツ聖人ハンカチを手に、
「サインを…」
と、恥ずかしそうにお願いされ、
『クソ…ザイッチにもあの劇団が来ていたのか…動き難いな…』
と、例の旅劇団の諜報部隊の雇い主である辺境伯ファミリーを憎みつつ、今回は必要以上に町をブラブラするのは諦め、パンツ聖人の噂が消えるまでこんなに肩身の狭い思いをしなければ成らないのか?…と、うんざりする僕であった。
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