第118話 水魔法師の可能性

地竜討伐、2日目と3日目は、ナビス騎士団とトール達のチームと、ファード騎士団の一部と僕とシェリーさんのチームで1日二匹を目標に倒した。


そしてこの2日間でファード騎士団の水魔法組は、ラッキーな事に、錬金ギルド職員の護衛に来ていたファーメル騎士団の水魔法師の方がコーチとして以前ファーメル騎士団に教えた太陽光攻撃の練習をしている。


これならは、地竜の横をすり抜け無くても樽に入った水を操作した程度の水の量でも十分効果があるし、光攻撃ならば十分目潰しになる。


地竜の視界を奪う担当で既にビビって腰の引けている水魔法師の新人四人には、安全な位置から太陽光で攻撃して、まずは自信をつけてもらう作戦に切り替えたのだ。


まぁ、アルの


「ケン兄ぃ、とりあえず目潰しぐらいでも討伐に参加したら経験値入るんじゃない?」


提案を採用しただけなのだが…


そして、いいもの製作所のチームは簡易の鍛治釜戸で鉄を加工している。


これは僕の閃きで、


「もう、大型バリスタをメインで、バリスタの矢でブン殴ろうぜ!」


という事で、矢じりを鉄球に変た矢をバリスタの威力でブッ放なしてTKOを取る作戦の為に切り替えたのだ。


欲を言えば視力を奪ってタコ殴り作戦で自信をつけた水魔法師に、最終的には泉の水を操作して直接地竜を倒せる様になって欲しいが、まずは目潰し係りとして頑張って頂きたい。


四日目の朝早くからファード騎士団は水魔法師の虫眼鏡攻撃を使える場所を探して、見晴らしの良い高台を大移動していた。


術者が対象の近場で魔法を発動出来れば、角度や距離をそこまで気にしなくて良いのだが、現在、地竜を軽く濡らす程度しか出来ない水魔法使い達に地竜の足元で魔法を使えというのは酷な話である。


ファード騎士団の皆もあの四人に手柄を立てさせてやりたい様で、必死に作戦用の水を運びながら朝早くから山登りをしている…マジックバッグを使えば簡単なのだが、ここ2日あまり出番のないブラウン騎士団長から、


「ケン殿、今回は我々にお任せ下さい。」


と、言われたので、大人しく見守る事にした。


朝一番はナビス騎士団とトール達のチームが狩りを始める…もう四日目なので、手際も良くなっており、見ていて安心感さえある。


一匹目の討伐に回収を終わらせると、一旦高台に避難し休憩をとってもらい、続いてファード騎士団が配置する…といっても、かなり年期の入った騎士団員に地竜と接近戦をお願いするのは少し気が引けるので、本日は基本全員長距離攻撃のみでの地竜討伐に挑む事になる。


大型バリスタの運用にいつもの倍の人員を配置して、巻き上げスピードをあげ、連射を出来る様にし、

小型バリスタとクロスボウは牽制用で、今回の目玉である水魔法師達は、コーチをしてくれたファーメル騎士団の水魔法師の指示の元、樽の水を支配下に置いて空中に浮かしはじめていた。


ブラウン騎士団長が、


「アル様、開始の合図を…」


というと、地竜の鱗鎧を身に纏ったアルが、地竜の牙を使った剣を今回のターゲットである地竜に向けて、


「この2日間の遅れを取り戻すぞぉ!!」


と叫ぶと、ファード騎士団から、


「応っ!!」


と力強い声が上がり、コーチを務めてくれたファーメル騎士団の水魔法師さんは四人の新兵に、


「昼と太陽の神バーニス様も味方してくれている!このチャンスを逃すな!!」


と激を飛ばすと、四人の新人水魔法師のリーダー的なカレーチキンレース一位だったサムロ君が、


「皆、いくぞ!パンツ聖人式水魔法!一の型」


と叫び、四人の支配下に置かれた水が一つにまとまるのだが、僕は、それどころでは無い、


「ちょっとすいません…」


と、良いながら騎士団の横をすり抜け、コーチをしていた魔法師さんの所まで移動し、


「あの、名前はなに?!」


と問いかけると、ファーメル騎士団の魔法師さんは


「あぁ、ファーメル騎士団の中で、『カバンの聖人式』とか、『賢者流』など色々な案が上がりましたが、ニック様が、古の賢者に間違われるのはケン殿にも悪い、我が町を守ってくれた聖人から授かった物と解らねば…と仰られ、我が騎士団内では正式にパンツ聖人式水魔法、略して『パンツ聖水』として…」


と、長々と熱く語っているが、何故そんな恥ずかしい名前にしたのか!?…パンツもアウトだし、枕詞がパンツからの聖水は尚更アウトだろう!


『また、ニック様だな…あんチクショウめぇ~』


と、最近僕をおちょくる事に楽しみを見出だしたニック様にイラつきながらも、新人水魔法師の活躍を眺めていた。


浮かせた水の維持や形状変化、角度や、高さなどの調整を分担して空中に水のレンズが生まれると、夏の太陽光がレンズを通して集束される。


サムロ君が、


「よし、練習通りにいくぞ!」


と号令をかけて、水レンズの厚みや角度を調整すると、地竜に向かい、レーザーポインターの様な光が音もなく忍寄り、腹がいっぱいなのか、熊魔物や猪魔物の太い骨が転がる寝床でウツラウツラしている地竜の顔に光が集まる。


夏の日差しより暑いその光をまともに直視した地竜はパニック気味に暴れ、巣の周りの木にガンガンぶち当たり尚ものたうち回る。


ブラウン騎士団長が、


「まずい、隣の縄張りに近づき過ぎだ!」


と指示を出すと、小型バリスタとクロスボウチームが地竜に矢を放つ。


すると、小型バリスタの矢は軽く地竜に刺さり、クロスボウの矢は数枚の鱗をはがす程度の成果を上げると、地竜は自分に攻撃を仕掛ける敵の存在に気がつき、片目は視力を失いながらも、もう片方の目は間一髪で瞑ったのか時間が経ち、ボンヤリと見えてきた様で、矢を放った騎士団達の位置をおおよそでつかみ、怒りの咆哮を放つのだが、次の瞬間イキがって吠える地竜の顔面に、


「めしゃっ!」


と音を発ててバリスタパンチがヒットする。


地竜がフラつくのも確認する暇も無く、騎士団のバリスタチームは十字ハンドルをグルグルと回してバリスタ発射準備を続けて、地竜の回復を待たずに第二、第三の鉄球が先端についた槍よりも太いバリスタの矢が、地竜の顔面を容赦なく殴り続ける。


鑑定スキル持ちの騎士団員からの、


「地竜の沈黙を確認!」


の声に、


「おぉ~!!」


という低い歓声が上がり、僕は高台の端まで迂回してから泉の側に降りて、倒された地竜を回収に向かう。


そして現地に到着した僕は、鉄球の矢を回収しながら、


『こんな鉄球をあの速度で食らったら顔の形が変わっちまうな…』


と、無惨にひしゃげて地面に横たわる地竜の顔面を見ながら少し気の毒に成っていた。


しかし、この作戦の手ごたえを感じたファード騎士団は、


「遅れた分取り戻すぞ!!」


と、1日で複数の地竜を狩り、それにあわせて、ナビス騎士団とトール達のチームも、馴れてきたのもあり二回戦へと向かって行った。


翌日の地竜狩りで目標の頭数を討伐されたのだが、加工が間に合わず、狩りは休みにして、本陣では地竜の血液採集と加工が昼夜を問わずに続けられ、完全にキャンプ常態の騎士団達は、血抜きの終了した地竜を解体し、焼き肉パーティーの準備をはじめている。


アルに、


「良いの、勝手に解体して食べちゃって…」


と聞くと、アルは、


「ケン兄ぃ、地竜って滅茶苦茶美味しいんだよ。

それに沢山有るんだし大丈夫だよ…ねぇ、ナビス伯爵様。」


と答えると、ナビス伯爵様も、


「一頭丸々食べたのなら証拠も残りますまい。」


等とニコニコしているので、良いことにした。


他のメンバーは何をしているか見て回ると、いいもの製作所のメンバーは地竜の血抜きを見学し、地竜に打ち込まれた注射針の様な杭から血が流れ出すのを見て、


「この杭みたいなバリスタの矢を作れば、出血で敵を倒せるかもしれないな。」


とか、


「それならばクロスボウの分も作れば、刺しっぱなしにしておくだけで血抜きも出来るぞ。」


などと、怖い発明のアイデアを出していた。


それから、自信を取り戻した新人水魔法師の四人は、休みを利用しコーチから、新たなる技を教えてもらって、鏡で反射させた太陽光を水レンズで収束させて、的にしている丸太に火を点ける事に成功していた。


「やりましたコーチ!パンツ聖水・弐の型で火を点けれました…本当に狙った場所に、水魔法で火が点けれるんですね…」


と興奮するサムロ君達にコーチのファーメル騎士団の水魔法師さんは、


「実は我々もこれを知った時にとても驚いたのだ…しかし、聖人で有るケン殿の言われる通りにするだけで、最弱と言われる水魔法師の可能性が広がったのだ…それと、このパンツ聖人式水魔法は他の貴族家にまだ知られる訳にはいかない…くれぐれも、気を付けるのだぞ!」


と言っていた。


もう、その名前で行くのならば、一生誰にも知られずにいて欲しいものである。


それと、ナビス騎士団なのだが、何故かシェリーさんと手合わせをしているのだが、身体強化無しで撲殺天使でぶん殴られて、


「ありがとうございましたぁぁぁ!!」


と、言っている…揃いも揃ってドMに目覚めたのかも知れないので、遠目から見るだけにしておいた。


そして、我がクランの子供達の様子を見に行くと、犬耳少女のサーラスが、子犬を抱きかかえており、


「ケン兄ぃ、しくじったわ…」


と困り顔で僕に話しかけて来たので、


「どうしたのこの子達…」


と子犬の群れを指差し質問する僕に、ギースとカトルが複数の狼の死体を持ち上げながら、


「本陣を狙ってたから殲滅したら、子連れでした…」


と申し訳無さそうに報告してくれたのだが…どうしようか?この子犬…いや、子狼か…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る