第64話 僕だけの秘密

ギルド指定の宿屋で目覚め、まだ買い取り結果が出てないので、町をぶらつき創薬ギルドにやってきた。


トールに炭酸水を飲ましてやろうという魂胆であるが、昨日の小太りと細目の事があり、もしもの時用のポーションを追加で購入しておく事にしたのだ。


命の軽いこの世界で、自分がピンチになることもだが、ピンチの人に会うかも知れない。

クリーンのスキルで病気は何とかなるが、怪我はどうとも出来ないので、マジックバッグという四次元ポケットみたいな便利アイテムが有るから、ポーションみたいなモンは何個あっても邪魔にはならないし、一本小銀貨六枚…約六万円というお高いハイポーションも保険証無しで病院に行く事を思えば安いもんであると割りきり、ポーション類を長旅に備えて購入し、いよいよお待ちかね、


『トール君にレモネード風の炭酸水を飲ませてみようのコーナー!』


と、一人で楽しく弟子の反応を見ていたのだが、トールは、


「師匠、なんだか泡がでます。」


と、先ほどから創薬ギルドの前のジューススタンドで陶器のマグカップを覗きこみ興奮している。


中々飲まないので、僕は先にゴクリと飲んで見せて、喉を走る爽快感を楽しんでいた。


すると、トールも僕を見て、勢いよくゴクリと飲み込み、


「ぶべは!!」と凄い音をたてて、どうやったらそうなるのか解らないが、鼻や口からレモネードを爆発させて、陸の上で溺れたかの様に、


「じじょ~、何べすごれは?」


と涙目で鼻水を垂らしていた。


それを見て僕は、普通にむせてしまいジューススタンドのおばちゃんに、


「汚いねぇ、営業妨害だよ!」


と叱られ、自分達を含めクリーンを使い辺りを綺麗にする羽目になってしまった。


ひと段落してもトールはまだ少し興奮していて、


「師匠、喉の奥でブアッとなりましたよ?!」


と言っている。


そして、マグカップに1/3ほど残ったレモネードを改めて飲んで、


「こんなに美味しいのに殆ど吹き出しちゃいました…」


と寂しそうにしているので、おかわりも買ってあげ、ジューススタンドのおばちゃんに、


「初めて飲んでビックリしたけど、美味しいって言ってます。」


と伝えると、おばちゃんは、


「初めてなら仕方ないねぇ…一杯目殆ど飲めなかったらコレをあげとくれ。」


と、ポーション成分の入った飴玉を一粒トール宛に渡してくれた。


ジューススタンドのおばちゃんに別れを告げて、ダント兄さんの商会に顔を出して、弟子のトールを紹介したのだが、その際にリリー姉さんが、


「ケンちゃん聞いてよ、年末に辺境伯様から大量注文が入ったのよ!」


と、嬉しそうにしていた…儲かっている様でなによりだ。


トールとこれからココの町に行って魔法学校の入学試験が終わるまで帰って来ない事を伝えると、ダント兄さんは何やら手紙を書き始め、


「ケン、これをアルに渡してくれ。」


と、僕に渡してきたのだが、ダント兄さんもアル事が心配なのだろう…かなり分厚い手紙だった。


そんな二人に見送られ、一旦冒険者ギルドに戻り、ギルド前から出ている乗り合い馬車でココの町を目指す訳だが、現在、冒険者ギルドの窓口にて、職員の女性に、


「では、トール様、角ウサギと、森ネズミの常時依頼分が合わせて321ポイントと、森狼の毛皮十枚の納入依頼が50ポイントに、ブラッドベアの肝の納入依頼が二匹分で140ポイントで、余分に倒された森狼等の買い取りポイントが40ポイントですので、

合わせて551ポイントとなり、規定の550ポイントを越えましたので、Dランク昇格です。

しかし、冒険者の道はこれからが本番ですよ。」


と言われている。


「凄いじゃないかトール!FからいきなりDランクだぞ!」


と喜ぶ僕らに精算窓口の職員さんは、


「しかし、いっぺんにあの量を持って来られると、肉屋に卸す価格が値崩れしますので、勘弁してください。」


と、チクリと釘を刺された。


続いて僕の番だが、


「ケン様は、森狼の毛皮分が50ポイントと、ブラッドベアの肝分が140で、その他の買い取りポイントが40ですので…惜しかったですね。

現在の316ポイントと合わせて546ポイント…Dには届きませんでした。

しかし、次回ぐらいでDランクですね。

頑張って。」


と励まされる始末…


何か隣で急にトールが、


「師匠、だ、大丈夫ですよ、鞄にまだ角ウサギ有りましたよね?出しましょう!!」


と、言っているが、もう、馬車の時間が迫っているのだよ…と、悲し目でトール見つめあっていると、精算窓口の職員さんが、


「では、報酬ですが…」


と申し訳無さそうに聞いてくるので、僕は、


「全部トールに渡して下さい。」


と伝えると、トールは焦っていたが、職員さんは淡々と、


「では、あわせて小金貨二枚と、大銀貨七枚、とんで大銅貨四枚ですので、お確かめ下さい。」


と言って渡されていた。


ブラッドベアの依頼の報酬と肝以外の買い取りがデカかったみたいだ。


集落からのトールへの餞別にブラッドベアをもらったのだが、少し貰いすぎたかも知れない…狩りに参加した皆にはココ町で何か良いものを買って帰ってあげよう。


等と思いながら乗り合い馬車の停留所を目指すが、明らかにトールの挙動がおかしい…辺りを警戒しつつ、カバーのついたままの槍を握りしめて歩いているのだ。


『普段持たない大金を持ってるヤツの動きだな…』


と、呆れながら、


「金を持ってるとバレて狙われるから普通にしなきゃ。」


と注意すると、トールは、


「えっ、普通…普通?…普段。」


と、ブツブツ言いながら、余計に挙動不審になってしまったので、見かねた僕が、


「預かろうか?」


と提案すると、


「はい、お願いします。」


と食い気味に自分のお金の入った革袋を差し出してきて、僕は、ソレを預かりマジックバッグに入れて停留所に向かおうとしたのだが、僕は次の瞬間腕を捕まれ、


「金を返してやりな!」


という女性の声に驚きながら振り向くと、ネコ耳のお姉さん冒険者が怖い顔をしていた。


僕は、


「いや、これは」


と、説明をしようとすると、


「言い訳しない。」


と言って腕をひねりあげられ倒された。


流石は獣人族の冒険者、流れるような身体強化で僕を制圧下に置く…

後ろ手に腕を捻られ、床に押さえつけられた僕だが、感想としては、


『悪くない…むしろ…何だろうか…』


と、何とも言えない気持ちを言語化しようとしていると、焦ったトールが、


「違います。大丈夫ですか?師匠!?」


と騒ぐが、ネコ耳短パン生足冒険者のお嬢さんは、


「君は、同年代の子に師匠と呼ばせて言いなりにさせているんだね!」


と言って更に僕の腕をひねり、トールには、


「いいかい、こんなヤツは仲間では無い!君も友達は選ぶんだ!!」


と叱っている。


冒険者ギルド内での騒ぎに暇をもて余した冒険者が、ギルド食堂の方からもワラワラと現れた様で、


「おっ、Gじゃねぇか!今日はその姉ちゃんと決闘か?」


と囃してくる。


騒ぎが大きくなり、多分お姉さんの仲間の方だろうか?


「おい、止めてやれよシェリー」


と、声をかけるが、シェリーと呼ばれたネコ耳姉さんは、


「君は決闘まで…いいかい!力は誰かを守る為に使うものだ!」


とお説教してくるので、僕は、


「お姉さんも現在、人を攻める為に力を使われてますよね?」


と指摘すると、


「口答えをするな!」


と腕をひねりあげた上に片膝を僕の首筋に乗せて、更に僕と床を一つの生命体にでもしたいのか、グッと体重をかけている。


先に言っておくが、僕に、痛め付けられて喜ぶ性癖はない!そして、トールの言葉も僕の言葉も聞かないこのお姉さんにガツンとお説教しない事には気が済まない。


正直これぐらいの力ならば抗えるし、こんな重さに押さえつけられたところで何とも思わない。


それに、力任せの関節技など直ぐに返して…と思った瞬間何とも言えない殺気が背後からして、


「おい!騒ぎを起こすんじゃねぇ!!」


と言うのが早いか、「ゴン!」という衝撃音が早いか解らないが、急に背中のお姉さんがダラリと力を失った。


回りからは、「うわっ、ギルマスだ」との声と、立ち去る足音が聞こえるだけで、床と水平の僕の視線には先ほどまで首の辺りに圧力をかけていたネコ耳短パン生足お姉さんの太もものみが見えているだけだった。


『あっ、太ももの外側には茶色い毛が生えてるけど内側は…』


などと、獣人のお姉さんの何毛というのか解らない毛と肌の境目を観察していたのは僕だけの秘密である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る