第63話 もう、ヤるしかないのかな
宿屋の表に出ると、相手は五人…
五対二で小太りと糸目をボコしたのか…卑怯な奴らだな…と呆れていると、
衛兵さんが、
「どっちだ!」
と騒ぎながら何人も現れた。
『あっ、今回も牢屋に直行か…』
と半ば諦めていたら、衛兵の方が、
「ケンカしていると聞いたのですが、聞けば聖人様が関わっていると…前回の留置の件で隊長から…というか隊長のお父様や、ファーメル様にまできついお叱りを受けましたので、駆けつけたしだいです。」
と報告してくれた。
これは有難い、要らぬ喧嘩をしなくてもいいかもしれない…と思い事情を話すと、衛兵さんは、僕と、五人の冒険者とボロ雑巾の小太りと糸目を見て、
「はい、状況は掴めました。」
と言った後に部下らしき衛兵さんにや住民の方々に、
「この区画の大通りの片側を一時的に封鎖する。
住民の方も離れて下さい。
この決闘を正式に認め、私、衛兵隊、第2班班長、ロートレックが立ち会います!」
と宣言した。
ロートレックさんとやらは『さぁ、存分に』みたいな顔をしているし、トールは宿屋の玄関口から、
「師匠、加勢を!」
と騒いでいる。
『止めろよ…』と思いながらも、トールに、
「トールはこんな面倒事に首突っ込んじゃ駄目です。
試験受けられなくなったらどうすんの!?」
と、加勢を拒否してから、五人の冒険者に、
「どうすんの?こんな大事にして!
可哀想に、関係ない二人もボコボコにして、小太りの目が腫れ上がって糸目になってるし、糸目なんて無だよ無目!
大丈夫か?!小太り、糸目!!」
と呼び掛けると、小太りは、
「ガーランドですが…小太りでいいです。」
と残念そうに言って、見えているのかも怪し糸目は、
「オイラも、ラックスって名前っすけど…ガー君がいいなら糸目で…でも、名乗ってなかったオイラ達も悪いですが、兄貴…小太りと糸目って…」
と悲しそうにしている。
僕は、
「とりあえずその二人を解放してあげてくれますか?」
とお願いすると、高速のゴードン達は「ケケケッ」と笑い、
「なんでお前みたいな偽物の命令を聞かなきゃならない?
決闘?!上等だよ!
衛兵立ち会いなら剣を抜いても、何なら勢い余って腕の一本ぐらいなら切り落としても大丈夫だよな?」
と言っている。
衛兵さんに『マジで?』と視線を飛ばすと、
「聖人様が何人切り伏せようと罪には問われません。」
と答えた。
『たからそれは彼方にも適応されるよね?』
と困っていると、ゴードンとやらは
「五対一でビビったか?Eランクの偽物!仕方ないから三対一にしてやろう。」
と提案するので、思わず、
「ダサいなぁ、そこは一対一でやってやる!お前ら手を出すなって場面じゃないの?」
と言ってしまった。
すると客席からも、「そうだ、そうだ」とか「ダセェぞ!」などとヤジが飛ぶ。
そして結局、
「うるせぇ!おい、もう全員で取り囲んでボコボコにするぞ!!」
と…『結局五対一じゃねぇかよ…』と、僕は自分で自分の首をしめてしまう結果をくやんだ。
五人の冒険者が武器を手に構えをとる隙をついて、小太りと糸目は群衆に紛れてくれた。
『これで心置き無く戦える…別に戦いたい訳ではないが…』
と思いがら五人に向き合うと、ロートレックさんが、
「では、双方名乗りと、勝利した場合に敗者に望む事を!!」
というと、ゴードンは
「けっ、高速のGこと、Dランク冒険者、ロングソード使いのゴードンだ!俺が勝ったら、お前の大層な2つ名を名乗る事を禁止する。
契約魔法使いを呼んでその体に契約を刻んでもらうぜ!」
と騒いでいるが、お願いが二個の気がするのは僕だけだろうか?
あと、ヤツのうしろの方で「槍使いの…」とか戦隊ヒーローの様な名乗りを言い始めているが、覚える気もないから聞き流している。
ただ、キャラカブリの槍使いが二人いるのと、最後のやつが、二刀流ナイフなのだが、「両刀使いのぉ~…」と言った瞬間は、『ボケが渋滞!』とツッコミそうになった。
名乗りの段階で既に疲れているが、僕の番らしいので、
「どうも、何でも屋のケンです。
音速のGには何の思い入れもありませんが、仕方ないからお相手いたします。
負けたら小太り…いやガーランドとラックスに許してもらえるまで謝って、しっかり全快するまでの治療費を払うことを望みます。」
と、僕もしれっと2つのお願いと、小太りと糸目が許さない限り続くという厄介な条件を出してやった。
五人は、
「ふふ、どんな条件でもいいぜ、結局勝つのは俺たちだ。」
と余裕だ…
『ロングソードのゴードンって、有名なのかな?ソドー島のゴードンなら知ってる機関車がいるけど…』
などと思いつつ「じゃあ、それで」と言ってマジックバッグからニョキッとニチャニチャコートの棍棒を出して、
「何時でもどうぞ」
と答えると、ロートレックさんの、
「始め!」
の合図で観客がどよめく。
五人が密集し陣形を組んで僕の出方を伺うので、僕は、一旦距離を置くために後ろ向きに数歩さがると、ゴードン達は、
「怖じ気づいて逃げるのか?」
と僕を馬鹿にするように観客を煽りだしたので、思わずイラッとして、助走をつけたトップスピードのドロップキックを一番ピンのゴードン君に入れてやった。
真っ直ぐ後ろに飛ばされるゴードン君に巻き込まれ、左右に二人ずつ飛ばされたのを見て、
「五人ではストライク取った感じがしないな…」
と、退屈そうに呟いている僕に、左右から襲いかかる名も知らぬ手下達…って、生憎と名前を覚えてないので仕方ない。
まずは、一人目の槍をニチャニチャコートの棍棒、略してニチャ棍で叩き落とし、『ドスン』と腹に一撃入れて沈め、盾持ちは後ろに回り込みストンと、首にチョップを入れて、もう一人の槍使いは一撃目のドロップキックの巻き添えで槍が折れて戦意喪失していたので無視をした。
凄かったのは両刀使いの奴で、ナイフ投げも上手で、避ければ観客に被害が出る事を逆手にとり、僕に接近戦のみの選択肢しか与えない。
しかも奴はナイフの二刀流、スピードは僕より遅いが手数は倍である。
正直ニチャ棍一本では厳しい。
しかし、かといってナタや片手剣を抜くのは違う気がする…ナイフほどの射程で応戦できる物を持ってなかったかを考えながら戦っていると、
「あら、ボーッとしてんじゃないわよ!」
とラッシュをかけてくる。
もうやけくそで、さっき解体場で出すのを止めた角ウサギの死体をマジックバッグから取り出して、ニチャ棍でナイフを食い止めながら、そのウサギをビタンと頭に叩き込んでやった。
ナタではないにしろ、師匠直伝のナタチョップの流れをくむウサチョップを食らった両刀使いを倒し、格好良く、
「さぁ、残ったのはあんただけだぜ!」
と、ゴードンに向かいポーズをビシっと決めると、トールから
「師匠、残ってない、残ってない!」
と、報告が入り、自分の指差す方向をよく見ると、泡を吹いてノビているゴードンとやらがいた。
「勝者、何でも屋ケン」
と、ロートレックさんが勝ち名乗りを上げてくれたが、観客からは、「聖人様ぁ!」とか、「Gさ~ん」なとと思い思いに声をかけられた。
あとは衛兵さんが後始末をしてくれるらしいので、小太りと細目をさがして、
「大丈夫だったか?すまないな…」
と、僕の為に戦ってくれたことに感謝を伝え、
「今度からは、僕の2つ名を守ろうとしては駄目だよ。名前なんて二人の命に比べたら何の意味もないものだから。」
と、格好良く言ったが、安易に「G」の屋号を捨てたいだけである。
しかし、二人は
「俺達の事をそこまで…兄貴っ…Gの兄貴!」
とボコボコの顔のまま抱きつかれ、軽いホラーだった。
二人には、
「アイツらは二人が『許す』っていうまで何百回でも謝るらしいから気が済むまでヨロシク。
あと、早く治癒院か何処かに行きなよ。
料金はアイツら持ちだから…解るよね…」
と伝えると、小太りは、
「任せて下さい、兄貴に逆らった事を後悔させてやります。」
と笑い、糸目も、
「あぁ、体中が痛いっすから治療費がかさみそうっす。」
と言っていたので、意味は伝わったのだろう。
僕は、最期に、
「アイツらが高速のGって名乗れない事を悩んでいたら、代わりに『新快速のゴードン』とでも名乗らせてよ、高速より何か速そうでしょ。
じゃあね。」
と言って治癒院に運ばれる二人を見送った。
あ~、疲れた…もう、今後彼にはソドー島の主要駅を結ぶ機関車の様な名前で静かに頑張って欲しいものだ。
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