第65話 銀の拳との旅
気まずい…実に気まずい…
様々な事が有りまして、現在ネコ耳短パン素足、勘違い厄介お姉さんのシェリーさんが居るBランク冒険者パーティー、『銀の拳』という方々の荷馬車に乗せられている。
事の発端は、トールが大金を不安がっていたので、僕が預かったのを勝手に、
『カツアゲした!』
と思い込んだ勘違い猫娘が暴れたせいで、最終的にはとてもカタギには見えない傷だらけの顔のギルドマスターに連行されて、みっちりと叱られてるうちに乗り合い馬車を逃してしまったのだ。
トールの試験に向かう事を聞いた銀の拳のリーダーのおじいちゃん…というか師匠と呼ばれる達人風の老師が、
「馬鹿弟子がすまん…ワシがトイレに行っておる間に…全く!
少年の試験に間に合わなかったら何とお詫びをして言いか解らん…どうだろう、ワシらもココの町に行く予定だから、乗って行かんか?」
と誘ってくれたので、
「先に出た乗り合い馬車に追い付くまでで構いませんので…」
と提案したのだが、
「行く場所は同じだし、乗り合い馬車はアクシデントで遅れる場合もある。
ついでだから気にするな!」
と、半ば強引に、鉄の拳さんの荷馬車に乗っているのだが、
僕と、トールの目の前には、
「この度は誠に申し訳ありませんでしたニャ~」
と綺麗な土下座をかますシェリーという名前の土下座猫娘が居る。
彼女は、老師から今夜の宿泊地まで土下座で、ついでに語尾に「ニャ」をつけるという何ともアレな罰を与えられている。
僕は、アマノ様のところで見たあの歩いて喋る黒猫を思い出しながら、この哀れな猫娘型土下座装置を眺め、トールと二人で居心地の悪さを感じていた。
銀の拳のメンバーは、基本的に老師の弟子の集まりで、肉弾戦をベースに各自が持つ様々なスキルと合わせて戦う流派の方々で、人間族も獣人族もいるBランク冒険者パーティーなのだが、老師単体ではAランク冒険者の実力があるらしい。
そして、やっとその日の宿泊地に到着し、ようやくシェリーさんは解放されて、
「身体中が痛いよ…」
と延びをしていた。
兄弟子の槍使いのお兄さんが、
「シェリー、語尾にニャンって付いたほうが可愛かったのにもう止めたのか?」
と冷やかすと、
「うるさい!」
とシェリーさんは不機嫌そうに答えていた。
そして、槍使いのお兄さんはトールに、
「どれ、少年、少し俺と槍の稽古をしてみないか?」
とトールを誘って有難い事に基本の型から鍛えはじめてくれている。
すると、老師が、
「シェリー!おぬしはケン殿と一手手合わせをして貰いなさい。」
と言い出すので、僕は、
「拳法とかの心得とか無いですので…」
と、断ろうとすると、シェリーさんまで、
「師匠、こいつなんて弱いから私の一方的な虐めになるよ。
師匠も言ってるよね力を虐めに使うなんてウンコ以下だって…」
と、抗議していた。
言い方にトゲを感じるが、おおむねそうなので仕方ない…と我慢していると、老師は、
「ビチャ」っと多分水魔法で作った水の玉をシェリーさんにぶつけて、
「頭を冷やして考えろ馬鹿弟子が、身体強化を使ったお主が腕をひねりあげて、ケン殿は怪我どころか、ポーション一つ飲んでおらん。
つまり、お主の関節技を耐え抜く体か、関節技を切り抜ける知識がある…違うかな?」
と言った後、僕にニヤリと微笑む老師さんに、愛想笑いするしかなかった。
しかし、シェリーさんは、
「そんな馬鹿な…」
と老師の言葉を疑っていて、残りのメンバーのお兄さんやお姉さんがキャンプ準備の片手間に、シェリーさんに、
「シェリー、ビビってるのか?」
とか、
「ケンさん、昼間おしりの下に敷かれた恨みを晴らしてやんな!」
などと囃されて、面倒臭いが相手をすることになった。
シェリーさんは、
「参ったって言ったら止めてやるけど、泣いても知らないからね。 」
と言って構えをとる。
僕は、『どうしよう、女性に手を上げるだなんて…』と思っていたのだが、老師が、
「ケン殿、可能で有れば全力でお願い致します。
でなければ、シェリーが自分の欠点に気が付けずに肝心な場面で命を失う事もあります。
助けると思って…」
と頭をさげてくるので、もう断れない…
シェリーさんの兄弟子や姉弟子さんの見守る中で、トールが必死になって、
「師匠頑張って。」
と言ってくれるのが逆に恥ずかしい。
そして老師の、
「始め!」
の合図で飛び込んできたシェリーさんは、昼間に様に僕の腕を狙っている様だった。
しかし、身体強化任せなだけで、直線的な捻りの無い動き…ウチのサーラスの方が、まだ強弱をつけた動きをするので、それに比べるとお粗末である。
僕は、逆にシェリーさんの腕を掴み、突進する力を受け流してコロンと投げ飛ばし、その流れでシェリーさんの肘と肩をキメる。
これは前世の何でも屋の常連である合気道の使い手の爺さんに道場の屋根の補修と掃除の報酬の一つとして教えてもらった技である。
『何でも屋だって危ない事があるだろう…』
と習っておいて良かった…
シェリーさんの兄弟子達も老師も興味深げに、「ほう…」と唸り、当のシェリーさんは、
「なによ!次は仕留める!!」
と、転がされた事に怒り、僕を仕留める宣言まで飛び出した。
そこからはシェリーさんの殺意の乗ったパンチやキックが飛んできたので、大人げないとは思いつつ、身体強化を使うシェリーさんのよりも速く動き、出されたパンチに拳を合わせて全ての攻撃に競り勝ち、最後はわざと昼間の様に腕をキメさせた後にステータス補正にものを言わせて普通に立ち上がり、
「よっこいしょ。」
と逆に腕をキメてやった。
シェリーさんが、
「なんだよこれ!!」
とバタバタと危ないぐらいに暴れるのを見て老師が、
「はい、そこまで、シェリーの負けだ。」
と宣言するがシェリーさんは納得していない様子で、
「師匠、まだです、まだ行けます!」
と言っていたが、老師は、
「駄目だ、あれ程関節をキメられたら無暗やたらに暴れるなと言っただろ?
早くポーションを飲んで安静にしておれ、明日にはパンすら口まで持ち上がらなくなってもしらんぞ。」
と言って、
「おーい、イリア、手当てしてやってくれ」
と、姉弟子の方に指示を出した後に、僕のところに来て、
「シェリーの力任せの拳にわざと合わせて、それでは今後通用しないと教えて頂いた風に見えました。
ケン殿、あなた様の流派は?」
と聞かれたが、色々齧っただけで正式な流派はないので、
「我流かな?」
と伝えると、老師は、
「なんと!面白い、ケン殿はご自分の発想力だけであの技までたどり着いたと…」
と感心したあと、次から次へと弟子と組み手をさせられたのだが、兄弟子さんや姉弟子さんは凄い使い手で、一撃は軽いが死角からの攻撃が来たり、ステータス補正がないと厳しい一撃を放つ方までおり、かなり良い修行になった。
しかし、中の数名は個人スキルを使わずにあの強さだったので、Bランク冒険者の強さを感じたと同時に、こんなに大変な目に会うなら数日遅れても予備日もあったので、乗り合い馬車でのんびり行けば良かった…と思いながら今は、まだ寒い時期なのに汗だくになった体を川の水で洗い、着替えてから焚き火で体を暖めている。
すると、シェリーさん側に来て何か気まずそうに、
「ケンちゃん…」
と、モジモジしている。
僕は、
「なんですか?急に『ちゃん』って…」
と、怪しがっていると、シェリーさんは、
「だって、ケンちゃんは私より2つ年下でしょ?」
と、年齢でマウントを取ってくる。
そしてシェリーさんは僕の横にちょこんと座り、急に、
「私って半端者なんだ。」
と語り始めた。
彼女は獣人族でありながらご先祖のどこかに人族がいた為に『水魔法』のスキルを授かったのだそうだ。
しかし、身体強化が使えるということは魔力が使えずに『水魔法』は発動しないスキルとなり、獣人族な中では「基本の身体強化のみでスキル無し」という扱いだったらしく、彼女はそんな奴らに負けない事を自分に誓い生きてきたらしい。
そして、シェリーさんは、
「今日ね私、ケンちゃんに滅茶苦茶にされて気が付いたの、相手を倒すためだけに必死に生きるのでは無くて、私がしっかり一歩ずつ強くならないと駄目だって…心も、技も、体も…」
と言って僕の手を握りしめ、
「だから…」
と言いながら頬を染める。
急な展開にドキドキしてしまうが、シェリーさんは、僕の目を見つめて、
「だから私を殴って!」
と…あまりのお願いに僕は、「ほへっ?」と首を傾げるが、シェリーさんは構わず。
「このままじゃ先に進めないの!
私の目指す場所がどんなものか見せてよ!!」
と言っている。
馬鹿野郎がぁぁぁぁぁ!不覚にもドキドキした僕が馬鹿だった。
気持ち悪いお姉さんだったよぉぉぉぉぉ!
何で殴って欲しいのさ??
ねぇ、Mなの!?
ミロおじさんの時も思ったけど、何で獣人族はすぐ殴らすのよっ!!
と頭を抱える僕に、ニヤニヤしながら兄弟子さん達が集まり、
「ほら、殴ってやんなよ。」
と、僕に囁き、姉弟子さんは、シェリーさんに、
「言えたねぇ、頑張った!」
と彼女を誉めてあげていた。
誰か、たすけてぇぇぇぇぇぇぇ!!
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