第104話 お休みの日は?
夕暮れ時にようやくザイッチの町に戻り、冒険者ギルドにて討伐完了報告と蛇の死体を引渡し、大量のカエルも買い取りに出してやった。
魔石のみ売らずに戻してもらう手続きをすると、木札を渡され、
「解体と計算に丸二日下さい。」
と言われたので、
『ラッキー!既にギルド宿を取っているので、2泊分の料金が戻って来る。』
と、心の中で小さくガッツポーズをしながら、
「了解で~す。」
と言ってからギンカをギルド裏の厩舎に預けに向いその日はマジックバッグの中のパン職人アイナさんの作ってくれたピザを取り出してシェリーさんと食べて休む事にした。
翌朝、シェリーさんが一緒に寝ているベッドで、
「ねぇ、ケンちゃん…今日は冒険お休みにしない?」
と提案したので、僕は、
『お休みしてまで、このベッドしか無い部屋でナニをするのだろう?』
と、興奮しながらも、
「そ、そうだね。」
と上ずった声で返事をしながら頭の中では、同じケンでも研の方のナオコさんの、『アカマムシぃ~』と『生卵ぉ~』がリフレインしていた。
しかし、シェリーさんは、
「よし、今日は武器屋に行って武器を買いましょう!
ほら、剣が壊れちゃったし、昨日みたいに貸し借りしてたら反撃されちゃうかも知れないからね…私、何を買おうかなぁ~。」
と、嬉しそうに語るシェリーさんに、僕は、
「何が良いだろうねぇ~」
と、白々しく返すのがやっとだった。
しかし、シェリーさんと町ぶらデートが出来ると頭の中をきり変え、期待に胸を膨らませながら町にくりだした…さっき迄は違う場所を膨らませていた事は僕だけの秘密である。
大きな町なので冒険者ギルドに町の地図が売ってあり、それを頼りにまずは商業ギルドに向かい、命を預ける武器の為に、キキを買い戻した時は以来手をつけていなかった特許用の口座のお金を引き出したのだが、馬車や蒸留酒の分け前なども入って、なかなか凄い事に成っていた。
その額、大金貨二枚と少し…不労所得だけで食べていけ…いや、いや、我が家は約30人の大家族と思えば、この金なんてあっという間だ。
ちゃんと武器を揃えて稼がねば!と覚悟を決め、大金貨二枚を自分への投資に回す事に決めた。
武器とポーションは絶対良いものを購入するとして、あとは様々な物が集まるザイッチの町を巡り、村に帰ってから色々な料理にチャレンジしたいな…去年は甘い物が中心だったから少しガツンとした物がいいかな?などと考えながらシェリーさんと歩いていると、道の端に並ぶ屋台から香ばしい香りがして、武器屋を目指しながらも買い食いデートが始まってしまった。
シェリーさんと、「これいい香りだね」とか、「何の肉だろう?」などと食べ歩くのだが、食欲がそそられる香りに反してお味は今一つ…悪くは無いが…と思っている事を隠しながら、屋台の親父さんに、
「いい香りだね、何の香りだい?」
と笑顔で聞くと、商品を誉められた親父さんは、
「ウチの料理の秘密は教えてやれないが、この町には各地からスパイスが集まるから他の町には無い香りと、体にも良い料理が自慢なのさ。
錬金ギルドの中の創薬ギルドが運営しているスパイスとハーブの店に行ってみな、煮込みに合う物や、串焼きに合う物、あとは香りや効能で調合してくれるよ。」
と教えてくれた。
スパイスねぇ…香り関係ならば、ナナちゃんやシータちゃんが喜ぶから買って帰っても良いな…何か良いスパイスの名前が解れば、セント村の商業ギルドか、錬金ギルドでも商品を取り寄せられるかも知れないしね。
などと思いながらも到着した武器屋は隣に大きな工房のある立派なものだった。
樽に入ったセール品から棚に飾られた能力付きの逸品まで所狭しと武器や防具が並び、感じの良い女性の店員さんが、
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?ウチはオーダーメイドも出来ますので、きっとお目当ての商品に出逢えること間違えなしですよ。」
とニコやかに接客をしてくれる。
僕は、
「武器を壊しちゃってね…ちなみにオーダーメイドってどれぐらいで出来るの?」
と聞くと店員さんは、
「刃がある武器は大きさによりますが、大体1週間前後で、珍しい素材や、装飾にこだわれば半月は頂きたいですね。
ハンマーやメイス等は案外早く数日で仕上がりますよ。」
と教えてくれた。
オーダーメイドも良いが、特にこだわりが有る訳では無いので、僕は既製品で構わないな…と思いながらシェリーさんに、
「シェリーさんはどんなのが良いの?」
と聞く僕に、
「握ってしっくりくる兎に角頑丈なヤツ!」
と即答した。
すると、店員の女性は、
「その筋肉の付き方は、多分前衛の拳法使いですか?
ならば、長さも邪魔に成らずに、重さも軽めの方が…」
と、鋭い観察力と馴れた手つきで、シェリーさんに有った商品を見繕う。
『プ、プロの仕事だ…』
と感心する僕にシェリーさんが、
「ねぇ、ケンちゃんはどっちが良いと思う?」
と、デパートで色違いの商品を並べて聞いて来るテンションで、片手メイスと打撃特化のメリケンサックみたいな物を見せてくる。
『えっ、こういう時にはどう言うのが良いんだっけ?
どちらか選んで意見が別れたらアウトなのは知ってる…かと言って、どちらも似合うは、NGと聞いた事がある…解らん…』
と、いきなり高難易度の引っかけクイズを出された僕は、変な汗を流しながら、
「シェリーさんの強みは日々の鍛練で培った技だからそのトゲ付きの殴打武器も良いけど、メイスのリーチと、敵の牙や爪を受け止める事ができる利点も捨てがたいね…2つ共買っちゃう?」
と、逆に質問してみた。
どうだ?、イケるか?!、イケるのか??と息を飲む僕に、
「流石、出来る男性はお目が高い!」
と、店員さんが助け舟を出してくれ、
「そんな時はウチの職人の意欲作、先ほどの2つを合わせた商品、その名も『撲殺天使』という商品はいかがでしょう?
少々お値段ははりますが、持ち手は握り易く、指を一本ずつ入れ無くてもグリップ力と打撃性能が…」
と商品説明を始めた。
シェリーさんは、フムフムと説明を聞いて、試着?した上で、
「どうかな?」
と聞いてくる。
これならばイエスかノーの二択だし、しかも撲殺天使…もうシェリーさんの為に産み出された武器の様な代物をノーという訳が無い。
「うん、良いと思うよ。
あとは、シェリーさん的に重さが大丈夫ならば購入しよう。」
と僕が答えると、シェリーさんは、
「う~ん…」
と少し渋い表情で唸る。
『もう、ムズいぃ~!女性ムズいぃ~!!』
と心の中の僕が床に寝転がりバタバタとグズっていると、店員の女性まで息を飲みシェリーさんの判断を待っている。
するとシェリーさんが、
「この武器は良いけど、持ち運びが…」
と、言った瞬間に、僕は『良かった武器は気に入っていた!』と安心し、店員さんは花が咲いた様な笑顔で、
「それでしたらご安心を革製のホルダーベルトとセットに致します。」
と少し太めの革ベルトを棚から持ってきてシェリーさんに巻き、腰に撲殺天使を取り付けると、店員さんは、
「剣の様に腰から下げるのでは無く、腰裏に固定しますので、激しい動きでも大丈夫かと…」
と駄目押しのセールスをしていた。
しかし、それからが長かった…シェリーさんは鏡の前に立ち前後左右の姿を確認し、軽く出し入れの練習をした後に、撲殺天使を握った状態で、シャドウのパンチを二発ほどくりだして、やっと、
「これにする。」
と決断してくれた。
ロッカの町のアントメタル100%の撲殺天使は、武器耐久力上昇という、兎に角殴る事に特化した、硬さが自慢の片手武器で、小金貨5枚と大銀貨3枚のところ、端数を切って小金貨5枚での購入と成った。
店員さんに、
「こんなに値引きして、良かったんですか?」
と聞くと、彼女はこの工房の娘さんで、この作品は彼が作った物らしく、父親である師匠からはいつも、「お前は奇抜なモンばかり作って!」と言われているらしく、一個でも多く彼の作品が売れて、彼の腕前や発想が素晴らしいと世間に知らせたいらしい。
因みに僕もその彼の作品を購入した。
なんと片刃の片手剣で日本刀程のクオリティではないが、峰打ちも出来る作品に何かキラリと光るセンスを感じたからだ。
店員さんの売り込みでは切る、突く、殴るをコンセプトにした片手剣で、何故か名前が『器用貧乏』という悲しい名前だった。
完成したこの剣を見た師匠の親父さんが、
「何でも出来るが全部がもうひとつの器用貧乏みたいな剣だな。」
と呆れた所からつけたらしい。
僕的には場面に応じて器用に使えれば文句無しだし、この剣もアントメタルで、シェリーさんの撲殺天使と同じ耐久力上昇の武器スキル付きであるから大満足の買い物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます