第105話 謝罪って大変…

装備が充実し、創薬ギルドでポーション類を購入した後、同じ建物の中にあるスパイスショップに来てみたのだが、スパイス毎に瓶等に保管された棚がならび、乾燥ショウガやコショウなどメジャーな物から、よく知らない物まで、薬湯として煎じて飲むのがメインらしいが、様々な効果の有るスパイス使った料理の文化は元は獣人族発祥らしく、王国の中でも獣人族が多く住む地域と貿易が盛んな町でしかあまり見かける事のない上に、創薬ギルドのスパイスショップ自体が限られた町にしかないらしい。


漢方薬の様な香りの店内を眺めて、『薬膳料理』という単語が頭を過るが、そんな健康に良さそうな物は作った事は勿論、食べた事も無い…前世では、酒とおつまみ、そして脂っこくて旨い物がメインの人生だったので、健康とは無縁な生活で唯一漢方的な物で知っているのは、酒飲みの味方のウコンぐらいである。


『ウチの村の酒飲み達の肝臓の為にウコンが有ったら買って帰るか?』


などとスパイス棚を眺めていたのだが、しかし数が多く、見分けがつかないから、ベテランそうな女性職員さんに、


「酒飲みに効く黄色っぽいスパイス有ります?」


と聞くと女性職員さんは、三種類ほどの乾燥された何かを棚から取り出し、


「この3つが二日酔い等にいいですが…」


と言われ、香りで確かめると、真ん中の物が間違いなくウコンだと確信したのと同時に、


『えっ、ウコンってターメリックだよね…カレーが出来るんじゃね?!』


と閃いた僕は、名前も知らぬ異世界のウコンをベースに様々なスパイスを粉砕した状態で比較的手に入り易く料理向きな銘柄を30種類ばかりと、あと、スパイスの事が書かれた本も合わせて購入したので、今年の米が収穫出来たら、カレーライスが食べられる可能性が出てきたこの喜びで飛び上がりそうな自分を抑えながら、予算の許す限り爆買いした。


店の職員さんに、


「粉砕に二日ほど頂きます。」


と言われたので、お金を渡しながら、


「了解です。」


と言って店を出たのだが、シェリーさんに、


「ケンちゃんどうかした?さっきからニヤニヤとイヤらしい顔で…もしかしてあのおばちゃん職員さんがタイプなのっ!?」


と、少しわざとらしく膨れるシェリーさんに、


「僕の大好物が作れるかも知れないんだ。

前の世界で有った料理で材料が見当たらなかったから諦めていたけど、まさか米の生産の目処が立った今、出逢えるなんて…まるで運命だよ。」


と興奮気味に伝えると、シェリーさんは、


「じゃあ、あの職員さんは?」


と聞くので、僕は、


「タイプじゃないよ。」


と笑いながらシェリーさんと手を繋ぎ歩きはじめる。


シェリーさんは少し照れながら、


「じゃあ、ケンちゃんはどんな娘がタイプ?」


と聞いてきたので、小声で、


「シェリーさんだよ。」


と僕が伝えると「キャっ!」と嬉しそうな声を出して喜んでいる。


『可愛いのぅ~。』とデレデレしていると、シェリーさんは、何かを思いついたように、


「じゃあ、じゃあっ!、その大好物と私どっちが好き?」


と聞かれた瞬間に、


『えっ、カレーライスとシェリーさんか…』


とマジで考えてしまい、


『イケない!こういうのは脳で回答しては駄目だ。

脊髄で答えろ!!』


と、気が付いて、


「…シェリーさんだよ。」


と答えたのだが、コンマ何秒の間がお気に召さなかったシェリーさんが露骨に膨れてしまった。


その後も少し距離を感じるシェリーさんに必死に話しかけたが許されず、その日のベッドでは背中まで向けられてしまった。


楽しい買い物デートの筈が、軽く涙を溜めながら、


「女性…マジ、ムズいって…」


と呟き眠りについた。


翌朝目覚めると、シェリーさんが僕の顔を覗き込んでおり、


「もう一度聞きます。

私と大好物、どちらが好きですか?」


と聞いてきたので、僕は、食い気味に、


「シェリーさんが大好物です。」


と言ってヘルツノガエルの様にガバッとシェリーさんを捕まえる。


さぁ、それからが大変でした…何故か気付けばタイムスリップでもしてしまったのだろうか?…昼過ぎに成ってしまっており、昨日のトゲトゲしていた記憶を失った二人が手を繋ぎギルドに買い取りの結果を聞き出掛けたのだった。


すったもんだが有りましたが、無事に依頼達成と素材の売却それと解体した魔石が返ってきて、シェリーさんと二人でクエストボードを眺めて、次の依頼を探していると、冒険者ギルドにあまり似合わない上品で優しそうなマダムが近づいて来て、


「あの~、少しよろしいでしょうか?

違っていたら申し訳ありませんが、ケン様は新しく出来たセント村のケン様では?…」


と、聞かれたので、少し警戒しながら僕は、


「はい…そう、ですが…」


と答えると、マダムはホッと緊張をとき、


「あぁ、良かった…」


と、胸を撫で下ろす。


『何が、良かったのだろう?』とシェリーさんと顔を見合せるが、シェリーさんも解らない様子で、首を傾げていると、マダムは、


「あっ、これは申し遅れました。

私、このザイッチの町の冒険者ギルドでマスターをしておりますフローレンと申します。」


と頭を下げる。


こんな上品なマダムがギルドマスターな事も驚きだが、何故声をかけられたかという事に、様々な記憶を思い返しながら、


『何かやらかした?』


とドキドキしている僕に、フローレンさんは、


「ケン様、あまり身構えないで大丈夫ですわよ。

ただ、オズワルド伯爵様より、こちらのギルドに来る可能性があるので、見かけたら屋敷へと来てきたいと伝言を頼まれておりましたので…」


と、話してくれた。


何でも、あまりにも挨拶に来ない僕達を心配したニック様がドットの町を探し回った結果、グランバイパー討伐に行ったと解り、最寄りのザイッチの町のオズワルド伯爵様に連絡を入れたらしく、冒険者ギルドに手続きに来たら声をかけて欲しいと頼まれていたらしい。


フローレンさんは、


「買い取りと、討伐完了の手続きの時には間に合いませんでしたので、精算の時は逃すまいと…はぁ~、無事に伝言が出来て良かったですわ。」


と、言って満足そうに笑った後で、


「これで、甥っ子が首をはねられずに済むかもしれませんわね…」


と呟いた、そのあまりのパワーワードに僕は思わず、


「えっ!なんです?」


と聞き返したのだが、フローレンさんは、


「では、馬車を用意しますので、早速参りましょう。」


と、言って僕とシェリーさんは冒険者ギルドの馬車で半強制的に代官屋敷に連れて来られたのだが…かなりデカい代官屋敷の玄関先にズラリと人が並び、僕達を出迎えてくれ、村で会った事のある老紳士のオズワルド様までペコリと頭を下げていた。


僕は慌てて、


「オズワルド様、お顔を上げて下さい。」


とお願いすると、オズワルド様は少し顔を上げて、


「あぁ、聖人様…私を覚えていて下さりありがとございます。

しかし、我が配下の失態は私の失態…誠に申し訳有りません。」


と、再び頭を下げてしまった。


話が見えずにオドオドしていると、縄で縛られた先日の門兵さんが引きずられる様に連れて来られて、ようやく話が見えてきた僕は、


「オズワルド様、謝罪は受け取りましたので、とりあえず門兵さんの縄をほどいてあげて下さい。」


とお願いしてから詳しい話を聞くと、


やはり、滞在報告に来た僕らを追い返した事が判明して貴族の方々の中で色々有ったらしく、オズワルド様は、念話での貴族会議で、「恩を仇で返した。」だの、「聖人様の不興を買ったらどうなるか!」と、散々叩かれたらしく、目の下にクマを突くっおられた。


そして、ギルドマスターのフローレンさんまで、


「バカな弟に似たバカな甥が大変失礼を致しました。」


と頭を下げはじめ、最終的には、


「コラ!あんたの不始末でこうなってるんだよ!」


と、フローレンさんは門兵さんに詰め寄り尻を蹴りあげ、倒れこんだ門兵さんの側の地面を「コツン」と踏むと、地面がズズッと門兵さんの手足に巻き付き拘束し直す。


縄から解放されたのに、すぐに土魔法で地面に縛りつけられた門兵さんを見ながら、


『話が進まねぇなぁ~』


と呆れてしまった。

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