第46話 愛のセクシー・マンドラゴラ
昼寝から目覚めた三人の子供達だが、
兄のカトルは騎士団長と爺やさんに同行されて衛兵詰所へと馬車で向かった。
末っ子のナナちゃんは、騎士団長の奥方が付き添ってくれて、医務室で静養してもらい、長女だったサーラスという何か男性風の名前の五歳ぐらいの犬耳娘は、僕とピーターさんと、買い物ついでに多分知り合いであろうセクシー・マンドラゴラ姉さんに、
「元気にウチの子供に成りました。」と報告に向かったのだった。
途中で服を購入することにしていたのだが、、ピーターさんが騎士団長の奥方から渡された紙を店主に渡すと、服屋の店主は、
「承知致しました。」
と言って手際良く、
カトルと、サーラスと、ナナの正確なサイズに合わせた服を用意してくれた。
テーブルにある奥方様からの紙を見ると、三人の正確なサイズが書かれていて、『いつの間に?』と、驚いてしまったのだが、よく考えると、僕には気がつかない女性ならではの気配りに頭が下がる思いだった。
店主さんは、
「ご指示の通り、お坊っちゃまとお嬢様二名様の普段着と下着類をご予算の大銀貨一枚の範囲で揃えて見ましたのでご覧下さい。」
といいながら、商品をカウンターに並べて、
「成長を見越して、少しゆったりサイズを揃えました。」
と言ってくれたが、イメージが湧かないので、
初めての服屋さんにキョロキョロしているサーラスに、
「着てみてくれるかな?」
と聞くと、サーラスは、
「怖い、いっしょ」
とだけ答えた。
「大丈夫だよ、可愛い服を着て、セクシーマンドラゴラ姉さん達をびっくりさせよう!」
と僕が提案すると、サーラスはキラキラした笑顔で、
「うん。」
と返事をした。
一瞬、前世の娘が子供の時の姿がダブり、目頭が熱くなってしまったが、子供の着替えなど、娘でもアルでもやってきたのでお手のもので、あっという間に可愛いケモミミ町娘が出来上がった。
「ドう?」
と聞くサーラスに、
「うん、最高に可愛いよ。」
というと、ニヘラと笑い、楽しそうにくるくる回りスカートの感覚を楽しんでいた。
しかし、少し考えたサーラスは、
「これ、地下、濡れるのよぉ~」
と、少し困った顔をするので、僕は、
「もう、地下は行かないし、ズボンなら弟…いや、アルお兄ちゃんっていう賢いお兄ちゃんのお下がりが有るから大丈夫だよ。」
というと、サーラスは、
「だいじょぶなら、たいじょぶ」
と、納得してくれた様だが、こちらの言葉を100%理解してくれているのか少し不安ではある。
服屋の店主に、
「ありがとう、凄く気に入りました。」
といって大銀貨を渡して荷物をマジックバッグに入れて、町を歩く。
サーラスちゃんは暫く歩き、「はっ!」とした顔で腰の辺りを叩き、
「仲間、ない!」
と焦っている。
僕もピーターさんも、「仲間?」と首を捻るが、解らない。
すると、サーラスが、スチャっと腰から何かを構える仕草をして初めて、「ナイフか!」とピーターさんと声を合わせた。
マジックバッグから鞘に入った刃の欠けたナイフを腰ひもごと渡すと、可愛い町娘スタイルの腰にキュっと結んで満足そうに歩き出した。
過酷な生活で、ナイフを「仲間」と呼ぶ毎日を想像し、さっきと違った意味で涙が出そうになった。
そんな事をしながらも、あの時の路地裏に入ると、急にサーラスはイキイキしだして、
「こっち、地下、入れるのぉ~」
と案内をしてくれる。
多分、あの二人と出会うまでは、サーラスは町のこの周辺が寝ぐらだったのかもしれない…
彼女は知っている路地裏を楽しそうに、
「こっち、早い」
と、近道も教えてくれる。
そして、到着した『夜の狩場』…二度と来ることは無いと思っていたが、こんなにすぐに来る事になるとは…
僕は、複雑な気持ちでドアを叩くと、
「だぁ~れぇ~?せっかちちゃんは、まだ開店時間じゃないのに…」
と言いつつ開いたドアからヌッと前回よりバッチリメイクで破壊力満点のセクシー・マンドラゴラ姉さんが現れた。
姉さんは僕を見るなり、
「あら久しぶりね…」
と言いつつ、目線を外してサーラスを見つめ、
「えっ、サーラス?!」
と驚くと、サーラスちゃんは、
「せくしーねえ。」
とだけ答える。
すると、セクシー・マンドラゴラ姉さんは玄関から飛び出してサーラスちゃんを高い高いしながら、
「もう、心配したんだから!
秋口から急に居なくって、シンディーも、チュチュも心配で…」
とメイク崩れも気にせず涙を流し、喜ぶ姉さんの声で、残りの二人のオネエ様も現れ、
「えっ、本当にサーラス?」とか、「なんで女の子の服着てるの?可愛いっ」と、騒いでいる。
サーラスが、
「ナナ、大変、サーラス心配、でも、いま、だいじょぶ!」
と頑張って説明しているが、今一つ伝わらないので、僕が、
「あの、サーラスを引き取る事にしまして…」
と話しはじめると、
「とりあえず入んな!」
と、店内に半ば強引に連れ込まれ、
「マン姉ぇ、やっぱり男の子のサーラスにこんな可愛い服を着せるなんて、やっぱりケンちゃんは本物だわよ!」
と、背の高いオネエ様が僕に詰め寄り、一番完成度の高いオネエ様は、
「もしかして、この男前も蝶々好きなのかしら?私ウズいちゃう!!」
とピーターさんに、にじり寄っている。
そして、セクシー・マンドラゴラ姉さんは、
「サーラスは、私が名付けた可愛い子供だよ、引き取るって気軽に言ってるけど、あんたみたいなガキに本当に育てられるのかい?!」
と、店のソファーにデンと腰掛け、腕を組ながら僕を凄んだ。
あまりの迫力に少し怯えつつ、
僕も捨て子な事から、サーラスが、兄弟と呼べる仲間が最近出来た事や、その一番下の子が病気で動けない代わりに食べ物を運び世話をしていた所をたまたま保護した事などを説明した…のだが…
『何故だ、何故こうなった!』
現在僕は、セクシー・マンドラゴラ姉さんに抱きしめられキスの雨を浴びせられている…いや、もう軽く食べられて居るのでは?と感じている。
セクシー・マンドラゴラ姉さんは泣きながら、
「私たち、サーラスを引き取れる様なまともな仕事ではないし、他人に怯えるこの子に毎日、毎日話しかけ、食事を分けてやることしか出来なかったのよぉぉぉぉグスン…だけど、さっきは試す様な事をいっちゃってごめんねぇぇぇ、ズズッ」
と、鼻をすすっている。
まともな仕事ではないのは、表と裏のどちらの仕事を指しているのだろう? と思っていると、セクシー・マンドラゴラ姉さんは、片手でヒョイとサーラスを抱き寄せ、
「本当に良かった…家族が出来たのねサーラス…でも男の子だと思ってたからアタシのもう使わない本名をあげちゃったけど…サーラちゃんに変える?
それなら女の子っぽいよぅ?」
とほっぺたをスリスリさせながら提案するが、
サーラスちゃんは、
「サーラスは、サーラス!せくしーねぇがくれた大事、名前!」
と、頑なにサーラスだという。
するとセクシー・マンドラゴラ姉さんはニッコリ微笑み、
「サーラスっ」と優しく呼び掛けると、サーラスは「あ~いっ」と、楽しそうに返事をした。
そして、セクシー・マンドラゴラ姉さんは両脇に僕とサーラスを抱えたまま、ガタリと立ち上がりトイレあとの様にプルプルっと震えたかと思うと、
「あー、もう、母乳でそう!!」
と叫び、再び僕とサーラスに代わる代わるキスの雨を浴びせだす。
…もう、勘弁して欲しい…
しかし他の二人のオネエさんも、
「良かったね」
と、泣き崩れながら喜んでいると、ピョンとセクシー・マンドラゴラ姉さんの手から逃れたサーラスは、
背の高いオネエさんに、
「しんでぃ、泣く、ダメ」
と、ヨシヨシしてあげると、シンディーと呼ばれたオネエさんは、
「もう、泣かない、もう、泣かないよぅぅぅぅぅ!」
とギャン泣きしてしまい、それを見たもう一人のオネエさんが、
「アタシも子供産みたいぃぃぃぃぃ!」
とピーターさんに抱きつき泣いている。
サーラスはテケテケ移動して、
「チュチュも、泣く、ダメ」
と、今度はピーターさんの手を掴みチュチュさんの頭にちょこんと乗せて、『撫でてやれ』と圧をかけていた。
圧に負けたピーターさんがヨシヨシすると、
チュチュさんは、
「あーん、サーラス、ナイス!」
と叫ぶとサーラスも親指を立てていた。
この流れを見て、サーラスは下水道で暮らしていたが、人として生きて行ける最低限の愛はこの三人から確りと受けていた事が分かり少し嬉かった。
そして、僕には降り注ぐキスの雨のついでに、涙と鼻水も降り注ぎ、魔力切れに注意しながら適度にクリーンを使い、心を無にしてこの状況を耐えて耐えて耐え抜いた。
今はただ帰りたい…
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