第85話 鉱山の町での依頼

今、ラックスの荷馬車で、ドットの町から4日かかるロッカという鉱山の町に来ている。


冒険者ギルドで新たな装備の材料を集めがてら依頼をこなそうとしてクエストボードを確認していたら、『アイアンアント』という蟻の魔物で、巣を作る時に一旦土を食べて、地上に移動してその土を排泄するのだが、その際に土の中の鉄分を吸収して牙や鎧の様な外骨格に溜め込む性質があり、この世界では、鉄鉱脈代わりに使われる有益な魔物であるが、そのアイアンアントを使った鉱山の一つからの討伐依頼でやってきたのだ。


ドットの町の冒険者ギルドの窓口職員さんには、マンドラゴラで大儲けしたのも知られていて、他の冒険者がマンドラゴラで儲けれるのは数年待たないと創薬ギルドのマンドラゴラの在庫が無くならないらしく、


「どうですか?お金は出ませんが、倒した魔物と村からアイアンアント素材で作られた、普通の鋼より丈夫で、他の魔物素材と混ぜ合わせて鍛えると様々な効果を一つだけ付与できるアントメタルインゴットが5本手に入りますよ。

お金はもういいでしょ?困ってる人の為に鉱山に住み着いた魔物を倒してみましょうよ。」


などとごり押しされてしまったのだ。


到着したロッカの町は冒険者など殆ど来ない、鉱山労働者達の娯楽の為の酒場と大きな鍛治屋がインゴットを作る為の施設がメインのような特殊な町である。


鉱山労働者は、普通に生身で地下に潜り各種鉱石を掘り出す者が殆どで、アイアンアンの巣穴からアイアンアントを間引き、代わりに罠で捕らえた小型魔物等を巣に放り込み、またアイアンアントが増えるのを待つという農家型の鉱山労働者もいるのだが、今回の依頼である『アリ殺し』というアリクイとアルマジロが一緒になった様な魔物を倒せる住民は町には居らず、アリ殺しがアイアンアントの女王蟻を食べて巣を壊滅させる前に何とかして欲しいという依頼であった。


出迎えてくれたロッカの町長さんに道案内をしてもらいアイアンアントの巣に向かって町を歩くと、流石は鉱山の町、四方から、


「あら可愛い冒険者さん!」


とか、


「仕事が終わったら遊んで行ってねぇ~」


と、アダルティーな店先からアダルティーな女性が声をかけ、アダルトを超越しているシルバーな女性が店の中からキセルの煙越しに僕達を見ながら、


「とっとと、アリ殺しを始末しておくれ、アイアンアント鉱山の連中が来なくて商売上がったりだよ。」


と、文句を言ってくる。


「客が来ないのは、あの婆さんだからと思うッス…」


と呟きながら後方から荷馬車でついてくるラックスに向かい、婆さんは、


「聞こえてるよ坊や!」


と言っていた。


町長のあとについて歩く僕の横で、ガーランドも、


「うわ、おっかねえ…」


とドン引きしていると、町長さんは、


「ガラの悪い奴や、鉱山で働く比較的軽い借金奴隷なんかが出入りする娼館のマダムですので、あれぐらいでなと務まりません。

あれでも昔はこの町一番のいい女で、私も何度かお世話に…って、私自身、今は何故?と自分に問いかけてしまいますよ、わっはっは。」


と、聞きたくもない町長と婆さんの秘密を聞かされながら、町の裏手の山の中腹の現場に到着した。


仕事自体は比較的簡単な物で、人が入れる洞窟状のアイアンアントの巣穴の入口付近に頭から突っ込んだピザ屋のバイクより少し大きなサイズの『アリ殺し』というアルマジロが、巣を守る為に出てきたアイアンアントを平らげて、腹が膨れたら、巣の通路で反転して丸くなり、腹が減るまで眠り、アリの攻撃は硬い体で受け止めながら、自ら食糧が出て行かない様に蓋になり、アリ殺し自身もアイアンアントを大量に食べて、鋼の成分も取り込んだカチカチの自前の鎧で安全が確保され、飯が向こうからやってくるので、食べて寝るだけのダメニートの様な生活を楽しむ魔物をこの鉱山か、またはこの世界から退場して頂くだけの簡単なお仕事である。


でもその前に、ラックスからのお願いで、


「一度本人と話をさせて欲しいッス」


と言っていたので任せてみた。


ラックスは『ビーストテイマー』という獣系の魔物と対話して仲間に出来るスキル持ちである。


肉屋の息子が獣と話せるって…神様も酷な事をなさる…

ラックスは既に馬車を引く馬魔物をテイムしていてラックスのビーストテイマースキルのレベルでは従魔に出来る枠は一体だけなのだが、テイムしていない魔物ともなんとなく話せるのだそうだ。


なので丸くなっているアリ殺しに近づき、ラックスが、


「よう、調子はどうッスか?」


と話しかけると、アリ殺しがモゾっと反応する。


続いてラックスは、


「だったら、旨い方がよくないッスか?」


と、何かを提案した後に、


「ふん、ふん…だったら仕方がないッスね。」


というのと同時に、交渉決裂と判断したガーランドが走り込みハンマーで、「インパクト!」と叫びながら丸まったままのアルマジロをシバく。


ガーランドは「インパクト」という魔力を武器に乗せて衝撃波を与える特殊な魔力系スキルを持っているのだが、このアリ殺しは、防御に特化した魔物であり、並みの攻撃ではダメージが入らない。


ガーランドは、


「ラックス!効いてそうか?!」


とラックスに問いかけると、


「ダメッス、イラッとしただけッス。」


と答えたので僕が、


「じゃあ、次は僕の番ね。

因みにこの団子君は何て言ってたの、ラックス。」


と聞くと、ラックスは先ほどの会話を教えてくれた。


何でもこのアリ殺しは、彼女を他のオスに取られて、彼女の縄張りにしていた美味しい種類のアリのエリアからも追放され、美味しくは無いが数がいるアイアンアントを食べて過ごすだけの人生を選んだらしく、


「もう、放っておいてくれよ!」


みたいな事を言っていじけているらしい。


なんか気の毒ではあるが、たぶんコイツは彼女の縄張りに転がり込んで食べさせてもらっていた『ヒモマジロ』として生きていたアルマジロ魔物だったそうなので説得するより倒した方が早と僕も判断したので、


「はい、もう殺っちゃうから、皆下がってて。」


と言って、マジックバッグから水の入った樽をだして、ステータス補正のおかげで余りある魔力を水に纏わせ、丸くなったアルマジロの繋ぎめから水を潜り込ませる。


するとアルマジロは息苦しさに、自分の体で作った玉のワレメから顔を出して酸素を求めるが、僕は集中を高め水操作の魔法で尖った顔の先にある鼻の穴から肺を目掛けて水の触手をねじ込み、奴を陸上で溺死させるべく肺に水を送り込み続ける。


ゴボゴボ言いながら完全に体を伸ばしてビッタン、ビッタンと暴れるアルマジロに水を留める為に集中を切らさない様に両手を手を前に出したまま一定の距離を保ちつづけると、敵はピクリとも動かなくなり、巣穴の奥からカサコソと蠢くメタリックな蟻が見えた。


何日もアルマジロに蓋をされて腹ペコなアイアンアントにアルマジロを横取りされない様に、来る途中のキャンプ場で倒した小型の魔物を何匹かマジックバッグから放り投げて、注意を引いた隙にアリ殺しを収納して、


「よし、離脱しよう。」


と二人に伝えて巣穴から退避した。


討伐は案外簡単に済んで、アイアンアントから作ったアントメタルインゴットを5本を町長さんから頂いて、ドットの町の冒険者ギルドに報告すれば終了となる。


町の出口に向かうと、あちこちから、


「遊んで行きなよ。」


とお誘いが来るが、三人とも違う女性の顔がちらついたのか、足早にロッカの町をあとにした。


帰りの荷馬車の中で、今回の取り分の相談をしたのだが、小太りと糸目がまた、


「兄貴の装備の為に来たんだからインゴットもアリ殺しも使って下さい。」


と、言ってくるので、革鎧の為にアルマジロは譲ってもらうとして、アントメタルインゴットは、ガーランドとラックスが二本と、僕が一本で手を打ってもらったのだが、二人は、


「兄貴の装備を整えた残りで構わないのに…」


と言って最後の最後まで拒否するので、僕は、


「いいじゃない、三人でアントメタルの武器で揃えたら。

僕は、革鎧作りがメインだし、なんならアリ殺しのお腹の中にもアイアンアントが沢山有ったら二人と一緒の数のインゴットになるかも知れないから。」


との説得でようやく納得してもらうと、


ガーランドは、


「だったら何を作ってもらうかな?」


とアントメタルインゴットを手に悩み初めて、ラックスも、


「ガー君と一緒にしようかな?」


などと、馬車の運転席から話していた。

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