第86話 町の異変と大騒動

一仕事終わらせてドットの町に帰ってきたのだが、何やら町が騒がしい。


衛兵や騎士団員がピリピリしながら町を回り、


「東エリアの井戸水を使うな!」


等と叫んでいる。


東エリアとはガーランドの家のある地域である為に冒険者ギルドに行くのを後回しにしてマリーの酒場へと向かうと、東エリアは区画ごと封鎖されており、教会の治癒師や騎士団の回復師団が走り回っていた。


馬車の運転席からラックスが衛兵さんに、


「何が有ったんッスか?オイラ達この先に用があるんッスけど。」


というと、衛兵さんは、


「昨夜不審者が暴れていると通報が入ったのだが、どうやら不審者が井戸に毒を撒いていたらしく、気がついた時にはこのエリアの住人が…」


と悔しいそうに語る。


すると荷馬車の荷台からガーランドが飛び降りて、


「お袋とユミルは!」


と衛兵さんに詰め寄り、すぐに回答出来ない衛兵さんに痺れをきらせて、「あぁ、もう!!」と、規制線を突っ切り中に入ろうとして、


「落ち着いて!死者は出て無い!!

ただ、入れられた毒が解らないので毒消し薬が作れないから、光魔法使いがポイズンキュアを使って回っているが、数が多くて手こずっている。

お前さんのお袋さんは解らないが、多分酷い下痢と嘔吐で寝ているだけだ、すぐに治癒師が治してくれるから!」


と止められていた。


職人町と、平民の居住区の境目辺りに位置する為に、比較的に人口が多いエリアでの毒物テロ? 凄くキナ臭いが今は理由は関係ない!


『助けなければ!』


と決めて、僕も荷馬車から降りて!


衛兵さんに、


「この現場の責任者は?!」


と聞くと、衛兵さんが何処かに走っていき暫くすると、騎士団長が、


「ケン殿!?」


と、驚きながらも走ってきてくれた。


知り合いがいたことに感謝しつつ、ラックスに、


「ごめん、ラックス、お金は後で返すから町にあるマジックポーションを買い占めてきてくれる?」


とお願いすると、


「任せて欲しいッス!」


と言って荷馬車を創薬ギルド方面に走らせて行く。


僕は、騎士団長から今の状況を詳しく聞くと、井戸水を飲んだ住民が嘔吐や下痢で公衆トイレの前で倒れているのが、今朝発見されたのを皮切りに、次から次へと被害者が確認され、騎士団の派遣に至ったそうだ。


毒素を体外に出すポイズンキュアで回復する者も居るが、数が多くて対処出来ていないらしく、毒の特定どころか、治療に当たっている治癒師まで先ほど症状を発症したので病気の可能性まであり、症状の有る者をテントに隔離はしてみたが、打つ手が無く困り果てているのだとか…


騎士団長に、僕は、


「とりあえず、井戸水を最初に浄化しすので協力を!」


というと、騎士団長が部下に指示をだしてくれたのを確認し、ガーランドに、


「頼む、ガーランド!この地区の井戸を全部案内してくれ。」


と頼みガーランドの案内で井戸を巡る。


騎士団の方が気を利かせてガーランドに、マリーさんとユミルさんは回復して騎士団のテントで静養中との報告をしてくれたので、僕は安心して、


「騎士団長、頼みましたよ。

合図したらちゃんと引っ張り上げて下さいよ。

冷たくて死んじゃうかも知れないから出来るだけ落とさないでね!」


と、お願いして大きな井戸にパンツ一丁で腰に縄をくくりつけた姿で吊り下げられ、ゆっくりと地下の水面まで下ろされる。


「はい!ストップ!!」


と僕が叫ぶと、水面付近で降下が止まり、水面に手を浸けて、現在目の前にある水は勿論水脈で繋がった他の井戸まで効果が届くイメージをしながら、


「クリーン!」


と、異世界の神様が改造してくれた僕だけの魔法を使った。


「上げてくださぁーい」


とお願いすると、僕の体はゆっくりと上昇していく…しかし、水魔法を使う様になり、なんとなく魔力の減り具合が感覚で解る様になったのだが、さっきの一発でかなりの魔力を持ってイカれた感覚がある。


地上に生還すると、鑑定士が井戸水を汲んで鑑定をかけると、


「毒水、飲料水に変わりました。」


と報告してくれた。


騎士団長が、


「よし次の井戸だ!」


と大きな物から順に井戸を巡り、ラックスが届けてくれたマジックポーションに騎士団の備蓄のマジックポーションも出してもらい、水腹でタプタプ状態で上げ下げを繰り返した。


後半、腹のロープに圧迫されて、軽くマジックポーションを井戸の内にゲロってしまったが、ちゃんと毒素と一緒にクリーンしたので…いいよね…たぶん。


そんな事を繰り返し、井戸の浄化が完了し、鑑定士のチェックも入り安全が確認されたのが翌日の午後だった。


あとは、患者の解毒は回復師団や治癒師の方々に任せて、僕は排泄物や吐しゃ物のクリーンに回り、二次被害の予防に努めた。


治癒師の方々に、


「下痢や嘔吐で体の水分が足りなくなるから、沸かしたお湯1リットルに対して砂糖40グラムと塩3グラムを溶かして飲みやすい温度まで冷ましたモノに少しレモンを絞って飲ませてあげてください。」


と、前世の何でも屋の常連さんへの夏場の挨拶がわりに布教していた経口補水液のレシピを伝えて、人、水、土地から完全に『毒』が無くなるまで5日を要した。


しかし、この毒は病気のような性質も有ったのだが、この世界の皆に細菌という知識が有るとは思えず、テロリストが細菌を扱えるとすると、かなり厄介な集団にドットの町が狙われた事になる。


もうクタクタに成りながら、最後の念押しにトイレ周辺の土地にクリーンをありったけぶちこみ、


「よし、世界で一番綺麗なトイレの出来上がりだ!」


と満足しながら気絶するように眠りについた。


騎士団のテントの隅で目覚めた翌朝、この事件に関わりのある人間が騎士団の大きなテントに集められたのだが、騎士団長達と拘束された犯人らしき男性は解るが、何故かセクシー・マンドラゴラ姉さんまでその場に並んでいた。


騎士団長が、


「皆、ご苦労だった。

これだけの大騒ぎの中でも死者が出なかった事を私は誇りに思う。」


と頭を下げたあと、様々な報告を受けたのだが、正直ため息しか出なかった。


セクシー・マンドラゴラ姉さん達が最近留守にしていたのは、ポルト辺境伯様のお抱えの諜報機関からドットの町が狙われる可能性が有ると聞きつけて、情報集めなどを仲間と手分けして行っていたらしいのだ。


因みに言っておくが、他の諜報部員はオネェでは無いらしい。


そして、例の辺境伯家の次男坊が、男爵になった弟に嫌がらせをするのでは?


という所から、「ファーメル家の留守を狙う」という情報まではつかんだのだが、情報を喋った奴は泡を吹いて死んだらしくそれ以上は何も解らないまま、婚約発表の為にニック様達がドットの町を離れている間、警戒をしていたのだが、この有り様で…一流の索敵使いであるチュチュさんが賊を見つけて駆けつけたが返り討ちにあい怪我をして、後から駆けつけたシンディーさんとマン姉ぇがチュチュさんを助けに向かった一瞬の隙をついて毒を井戸に投げ込まれた事も気が付かずに、賊を取り押さえたのは良いが、前回の事もあり下手に尋問をすれば死ぬ可能性が有るので、猿ぐつわをして手も後ろでくくり拘束しるしかなかったらしい。


食事を与える時に舌をかむ恐れも有るので、尋問を受けていない代わりに彼は殆ど水も与えられていない状態なのだそうだ。


セクシー・マンドラゴラ姉さんは、


「私達、『蝶』の失態です。

大変申し訳ありません…」


と頭を下げるのだが、騎士団員の多くは、以前から名前だけ知っていた『蝶』という諜報部員がセクシー・マンドラゴラ姉さんだった事に驚いているようだった。


そして、拘束された男性は、この世の終わりの様な表情で、涙を流している。


『可愛そうに、やった事は悪いけど、事情が有っただろうに…』


と思い男性を眺める僕は、とても見覚えが有る物を彼の首筋に見つけた。


「あっ、奴隷紋だ。」


と思わず声に出すと、騎士団長が、


「そうなのだよケン殿、奴隷紋と首に巻かれた隷属の首輪で、主人の命令には逆らえないし、主人を裏切ると即座に罰が与えられるので、何を命令されて何を裏切りと判断するか解らない以上、下手な質問は勿論、世間話すら出来ないのだよ…」


と、これを外せる神官が町に居ないことに頭を悩ませていたので、


「あの、僕が外すのやってみましょうか?」


と、前回奴隷紋を消せたので、首輪についても何かしらの紋章を消せば外れる筈との考えで提案してみたのだが、騎士団長は半信半疑だが、この部屋の全員が、『いくら聖人様でも…』みたいな目で見ている。


しかも、紋章を刻まれた本人ですら本気にしていない様子だった。


やってやんよ!見て驚くなよ~、

お前を自由にして、洗いざらい吐いてもらうからな!!

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