第60話 思いもよらない仇討ち
森の奥で熊さん二匹に出会ったのだが、スタコラサッサと逃げれない理由が出来てしまった。
それは片方のブラッドベアが、トール達の親の仇で有る可能性が高い事も有るのだが、問題はその時にヒョードルさんという男性の腕を切り落として、片目を失いながらもその腕を咥えて帰ったという事の方が問題なのだ。
奴は人間の味を知っている…それは同時に集落の人間が全員、ヤツのターゲットになる可能性が有る事を指しているのである。
リントさんが、
「人食いをした魔物が集落の側を縄張りにするのは不味い!
戦って疲れている今がチャンスかも知れない」
と言った後に、
「ミロさん、レオさん行けるかい?」
と聞くと、二人は
「応!」
と言って自慢の斧に手をかけた。
すると、トールが、
「お、俺も殺ります!」
と名乗りでる。
大人達は難色を示すが、僕は仇討ちをしたい気持ちも解るので、
「遠距離攻撃を軸にいつでも逃げれる様にしろ。」
と僕は条件を出して、トールもそれを了承し、
サーラスが、索敵でブラッドベアのどちらかの絶命を判断したと同時に、トールは土魔法で石を投げて注意を引き、大人三人がその隙に配置につき、僕は、死んだ熊を漁夫の利をかまし、マジックバッグに収納した後に参戦する事に成った。
窪地の上で息を潜めながら二匹の戦いを見守ると、隻眼のブラッドベアの一撃が相手の首筋にヒットして、ざっくりと切り裂かれた傷口から血が吹き出し戦いに幕が引かれた。
サーラスが、
「反応が一個無くなったよ。」
と言ったのを合図に、トールの石つぶてが残った片目にクリーンヒットして、隻眼のブラッドベアは連戦になった事への怒りを訴えるように、
「ぐがぁあぁぁぁぁぁ!!!」
と吠える。
リントさんが、
「よし!」
と言って走り出し、ミロおじさんも、
「サーラスはトールと一緒にいろ!」
と言って窪地に滑り降りていく。
レオおじさんは、
「トール、なかなかやるな、だがパワーがまだ足りないな!」
と言いながら小脇に抱えたゲンコツ程の石を叫ぶ熊の顔目掛けて投げつけて、片方の牙をへし折ってしまう。
熊は視界を一時的に失い、飛んでくる石を嫌がり腕を振り回しているが、戦地に立ったミロおじさんが渾身の一撃で、立ち上がり腕を振り回す熊の片膝めがけて、大木を斬り倒すように斧を打ち込む。
ザックリとキレた膝を庇う様にのたうち回り叫ぶ熊を見て、
「兄貴、俺も今行くぜ!」
とかけ降りるレオおじさんと、麻痺毒の矢を放ち動きを鈍らせようとするリントさんを見ながら、倒された熊を回収した僕は、片手剣を握りしめ、大縄飛びの前の小学生の様に飛び込むタイミングを見計らっていた。
しかし、劣勢だった熊は、最初の目に食らった小石のダメージが戻ったのか次の瞬間、正確にミロおじさんの位置を捕えて、腕を振り抜く。
咄嗟の事に焦ったミロおじさんは、身体強化と頑強のスキルをフルで使い、「ふん!」と斧を盾がわりに気合いを入れてその攻撃を受け止めるが、吹っ飛ばされてしまう。
「兄貴!」
とレオおじさんが駆け寄ろうとするが、ミロおじさんは、
「大丈夫だ、敵に集中しろ!!」
と叫ぶ。
多勢に無勢なブラッドベアは、兎に角最初の目に食らった一撃を恨んでいるらしく、攻撃をしてきた方向を睨むと、砕かれた片足を庇おうともせずに、ユルい坂を駆け上がりトールに攻撃を仕掛けようとする。
「しまった。」
と、焦り追いかけるレオおじさんでは追い付けないスピードでトール達に迫るブラッドベアに、リントさんも外した時の事を考えて仲間が散らばる方向に弓が放てないでいる。
かなり距離が有ったはずのトールは、父の仇の殺気にあてられ逃げるという行動を忘れてしまった様につっ立っているし、サーラスも動こうとしない…
「不味い!」
と焦りつつ僕は、窪地の底に転がる岩にマジックバッグの口を押しあててニュルリと収納してから、必死に走りブラッドベアを追いかけた。
アマノ様からもらったステータスのお陰で、足を引きずる熊になど遅れをとる訳もなく、トールとサーラスにターゲットを定めた熊野郎に追い付き、そして、ヤツに向けて飛び上がる。
空中で岩を取り出し、走る熊の上空から岩ごと体当たりを仕掛けたのだ。
岩に抱きつきながら熊に衝突して、したたか顔面を打ち付け鼻血を出しながら僕は、
「今だ、討ち取れぇぇぇぇぇ!!」
と叫ぶ。
岩の下敷きになりもがく熊の姿と、僕の声に「ハッ」っとしたトールの目に光が戻り、凛々しい男の顔へとかわる。
そして、彼は槍を構えブラッドベアの残った目玉に深々とソレを突き立てた。
あまりの痛みに叫ぶブラッドベアだが、トールの力では絶命に至らなかった様で、力の限り暴れて岩諸とも僕をはね飛ばそうとしている。
そこに現れたのが勝利の女神サーラスである。
彼女は平気な顔で、
「トール兄ちゃん、こんなのは、こうして、こう!」
とトールの握る槍に手を掛けて、身体強化を使い深々と槍を押し込み、
「ねっ。」
と微笑むサーラスに、一瞬トールも僕もキョトンとしたが、すぐにビチビチと痙攣する熊に気が付き僕は、
「トール、かき回せぇぇぇぇぇ!」
と叫ぶと、トールは
「はい、師匠っ!」
と答え、槍を力一杯グリングリンと動かしヤツの脳をシェイクして見事に父親の仇を討ち取ったのだ。
心配したリントさんと、ミロおじさんを担いだレオおじさんが合流して、トールに、
「逃げ損ねたサーラスを守ってくれてありがとう。」
とボロボロのミロおじさんが言うと、サーラスは、プウッと膨れて、
「ちがうよ、師匠がトールと一緒に居ろって言ったでしょ!」
とミロおじさんに怒っているのを見たレオおじさんが、
「いや、そういう意味じゃ…」
と、言って困惑していた。
サーラスにはもっとお勉強を頑張って貰わなければ…と決意しつつトールを見ると、刃の付け根辺りが軽くひん曲がった槍を自慢げに握りしめてながらボロボロと涙を流していた。
仇の熊を回収して一旦集落に帰る為に森の小路を歩くと、臆病な鹿魔物が、のんびりと草を頬張る姿が見えて、いつもの森が戻って来たことを実感した。
集落に戻り、一連の流れを話すとトトリさんに滅茶苦茶叱られ、そして、滅茶苦茶感謝もされた。
トトリさん自体よく解らない感情に振り回されている様で、
「トール、良くやった…でも危ない事しちゃ駄目だからねぇぇぇ…」
と泣く母と、一緒に泣く兄妹に、
「師匠達が居てくれたから大丈夫だったよ。」
と言ってくれたが、ドットの町で念のために購入したポーションを僕は一本で、ミロおじさんは二本飲み干して何とか帰って来た等とは言えないので、何とも言えない笑顔を見せるしかなかった。
翌日、トトリさん一家をギンカ号の引く幌馬車に乗せて隣村へ行き、僕は初めてとなる卵鳥農家であるヒョードルさんの家を訪問し、ブラッドベアを討伐した事を報告した。
ヒョードルさんという片腕の男性は、熊の討伐よりも、トールに駆け寄り、
「どこも怪我はしてないか?
危ない事は止めてくれよ、トール君…もしもの事があったら俺はあの世で相棒になんて詫びたら良いか…でも、ありがとう…」
とトールを抱き締めていた。
それを見ながらトトリさんもヒョードルさんの奥さんも涙を流しているが僕の耳に、知らない男性の声で、
「息子を誉めてやって下さい…」
と聞こえたきがした。
これは、あれか?神様な国にいるアマノ様の粋な計らいかな…と、思いながら、心の中で、
『安心して下さい、息子さんは立派に育ってますよ。』
と報告しながらニコニコと、喜ぶ皆を見ていた。
帰りにヒョードルさんが、
「お世話になった師匠さんにも、こんなので悪いけど。」
と言って卵鳥のペアをくれた。
「放し飼いでも良いけど小屋作ってやるとバンバン増えるし、面倒なら潰して食べちゃってよ。」
と気軽に言ってくる。
とりあえずご好意なので二匹を集落に迎え入れる事にして、暫くは旧我が家の馬小屋で仮住まいをお願いし、集落のどこかに運動場付きの小屋を建てることにした。
ただ、鳥が好物のレオおじさんの近くだと毎日美味しそうに眺められてストレスになると悪いから立地は考える必要がありそうだ。
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