第88話 届けられたメッセージ
アルにネタバラシに向かった家臣団が帰ってきた。
案の定、アルはキョドりまくり数日は使い物に成らない状態だったらしい。
フフッ、どうだ驚いただろう… しかし、ミリアローゼお嬢様と結ばれるには、これしか無いのだよ…多分…まぁ、リントさんとエリーさんみたいに駆け落ちってのも有るが、そんなのはお兄ちゃんが許さない!
だって楽しく…いや、心配だからね。
そんな事を思いながら、今は、ケビン文官長に渡されたアルから僕に宛てた分厚い手紙を自分の部屋で読んでいるのだが、感謝三割、抗議三割、残りは恨みと、怒りと、不安と、涙が一割ずつ配合されたような内容だった。
まとめると、
『ケン兄ぃのおかげでミリアローゼお嬢様と婚約出来ました。ありがとう…でも、貴族ってなんなの?年明けには辺境伯様のパーティーに出て、他の貴族の方々に孫娘の婚約者として御披露目されるらしく、よく解らないマナーの勉強が始まりました。
ケン兄ぃ!どうしてくれるのさ!!』
という内容がダラダラと10数枚に渡り書かれていた。途中で筆圧や文字の大きさが乱れていたので、アルの精神状態がうかがえる。
頑張れば弟よ…貴族社会のお勉強の次は、町の経営が待っている…でも、安心して欲しい、そちらもお兄ちゃん…いや、お兄ちゃん達が頑張ってアル驚く様に用意しておくからね。
と、ココの町の方角の空を見ながら、静かに目を閉じて弟の幸せを三秒ほど祈った後に、
「よし、いいもの製作所のメンバーと作戦会議にい~こう!」
と、気持ちを切り替えて家を出た。
集落では、冬が本格化する前に狩ったタックルボア等の肉を使い、カトルの解体を糸目兄のフランクさんがアドバイスしてくれて肉屋でも通用する腕前を目指し、フランクさんはカトルとサーラスに腸詰めや、ベーコンの技術を習うという何とも良い関係がつくられ、この冬で我が家の加工肉などのレベルももうワンランクアップしそうである。
そして、そこにナナちゃんのマチ婆ちゃん譲りのハーブの知識も加わり、何種類かのハーブソーセージもこの冬に作り出す様で、皆で研究を繰り返しているので当分は晩御飯のおかずはソーセージが続きそうだ。
そして僕は、『体のサイズとか細かい所にこだわりたいから』との理由で、集落のいいもの製作所の工房に入り浸るベントさんと、タクトさんとプギーさんの製作所初期メンバーに会いに工房に向かった。
彼らはアリ殺しの皮を使い僕の新しい装備を作ってくれるのだが、アリ殺しの腹の中から出てきたアイアンアントの素材からアントメタルインゴットが追加で手に入った事で、アントメタルに何の魔物素材を混ぜて武器を製作するかを会議していると、試作のソーセージが届いた事に味をしめ、次第に三人は鎧と武器作りよりも、作業終わりの風呂とソーセージ、それに味見と称した様々な酒に関しての実験をメインに繰り返している。
僕のニチャニチャスレーヤーの鎧はカトルに譲り、羨ましそうにしていたギースには僕の相棒のニチャ棍をプレゼントした。
そうなると、サーラスやナナちゃんにシータちゃんにも何かを作りたくなり製作所初期メンバーにお願いしたのだが、彼らがこの10日で作り出したのは、ハーブ系のカクテルレシピぐらいである。
「もう、どこかにバーでも出すつもり?」
と僕が聞くと、
「それいいな!」
と言って他のいいもの製作所メンバーと相談を始めて、バーの建設まで決まるという手際の良さで、これぐらい早く僕の鎧も手掛けてくれたら良いのだが…と、そんな事を言っている僕も、メンバーの手を止めて、
「泡立て器っていうの作ってよ。」
と、おねだりをしているから仕方ない。
作戦会議というおねだりで作ってもらった調理器具を手に、次は中心地に向かう。
この冬、僕は弟の屋敷の料理長マイクさんとパン職人になってくれたアイナさん親子と、神様にお供えする料理をつくるのだ。
勿論メイン食材は、秋に収穫した米である。
ビックリだったのが、畑でも稲がスクスク育った事である。
しかし、田んぼで育てた方がワンランク良い大粒の米が取れたので、田んぼを徐々に増やしつつ畑でも稲を育てて米の生産を上げて、米食を広げるつもりだ。
元の種籾より立派な田んぼの米は来年の種籾に殆どまわして、畑の米を使って、待ちに待った米の飯を食べる予定なのだ。
本当にここまで長かった…よく考えると米は実ったが精米する道具も作らなくてはならなくて、いいもの製作所のメンバー総出で、前世で農家の納屋の片付け等の依頼を受けた時に依頼人の爺さん、婆さんに教えてもらった農具を思い出して、センバコキや木製の臼などを作ってもらい何とか精米した米と、形から入る為にハガマとシャモジも作ってもらったので、やっと本日、前世ぶりとなる銀シャリとの再会となる。
試しに作った米の為、そんなに量は無いので村長や農家の方々に集まってもらい、恒例となった教会前の広場に設置してある炊き出しやお祭り用の釜戸で米のとぎかたや炊き方をレクチャーしながら、皆で炊き上がりを待つ。
これも一人キャンプゴッコで身につけたスキルで、食べれる米を炊く自信はあるが、こんな量を炊いた事が無いので水加減が少し心配ではある。
お釜の蓋の隙間からグツグツと吹きこぼれる白い泡と米の甘い香り…もうこれだけでヨダレが出てくる。
そして、上手に炊き上がったご飯を目を輝かせて見ているのは僕だけではなかった。
神官のノートンさんは、
「おぉ、これが神々から授かったという聖なる穀物ですか…」
と銀シャリに祈りを捧げ、
村長は、
「なんと、洗って火にかけただけで食べれる穀物で、他の場所には無いと…」
と、なにやら農家チームと作戦会議をはじめたので、僕は、
「皆さん、とりあえず試食しませんか?」
と言いつつ、真っ先に味見をしてやった。
少しサッパリした味の米だったが、涙を流すには十分な味わいで、感動している僕に続いて味見をした料理長親子は、
「これは素晴らしい!」
と言ってくれたが、村長達は、
「う~ん、味がしないな…」
との感想だったので、『仕方がないなぁ、この繊細な味わいが解らないお子ちゃま舌は!』と思いつつ、手に塩を振りかけて塩むすびを作ってやると、村長達も、
「おぉ、これはなかなか。」
と満足したようで、農家の方々とモリモリ食べていた。
しかし、こんなもんでは無いのだよ米の実力は…とニヤリと微笑み、僕は、今日のメインとなる料理を料理長と作り始めた。
この夏に料理長のマイクさんに開発をお願いしてあったトマトケチャップをマジックバッグから取り出して、この村の食材だけでつくるオムライスである。
卵鳥の肉と玉ねぎと、炒められたご飯が真っ赤に染まり、バターやトマトの香りが複雑に混ざる料理を作る僕に料理長親子も釘付けで、
「マイクさんのケチャップのおかげで、この常態でも美味しいよ。」
と言って、皆にワンスプーンずつチキンライスの味見をさせた後で、薄い卵でまくタイプと半熟オムレツを乗せる玉子たっぷりオムライスを作り神々に銀シャリ、塩むすびとあわせて教会でお供えして祈りを捧げると、
神々の木造が光り1人ずつ光の玉をつくり好きな料理の上でパンと割れて『これ好き!』みたいなアピールをする。
ノートンさんは涙を流しながら、
「私、神々を身近に感じる事の出来るこの教会に派遣して頂いて良かった。」
と、どの神がどれを選んだか書き留めている。
意外だったのがバーニス様とノックス様の農家に人気の兄弟神様が銀シャリを評価した事だ、票が割れた中で唯一の二票の銀シャリの優勝し、
『流石神様、解ってるぅ』
と祈りながら考えていると、礼拝堂の空中に、
『ご飯も旨いが、おかずになる料理もヨロシク』
と文字が浮かんでいた。
それを見た村人は、
「おまかせ下さい!」
「米という作物を沢山作ります。」
と神様に誓い、料理長親子も、
「米に合う料理…」
と、何かを決意した様に呟いていた。
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